紙の本
「よくそんなにしらばっくれていられるものだと思う。」
2012/02/11 01:20
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投稿者:拾得 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「リーマンショック」が起こったのは2008年。その後、そんなに昔のことではないはずなのに、いつのまにか「それがどのような問題であったのか」が忘れかけられている感がある。こうした傾向に対して警鐘をならすと(というより文句をいう?)同時に、「どのような問題であったのか」という議論そのものが不十分だったのではないか、と真正面から迫るのが本書である。
ロナルド・ドーアは、齢80歳をこえた社会学者である。日本研究者として著名で、かのライシャワーもその自伝で、次世代を担うジャパノロジストの有望株と紹介していた。地に足のついた調査を持ち味とし、「イギリスの工場・日本の工場」など、読み応えのある著作が数多い。戦後すぐの滞日時には、寿限無もおぼえるなど好奇心も旺盛でもある。90年代以降は、経済システムについての著作が増えている(が、日本では未訳)。21世紀に入り日本語書き下ろしの新書を刊行しており、本書はその3冊目にあたる。
リーマンショック以降の経済危機において、さまざまな議論や解説がおこなわれた(ように思う)。しかし実際には、多くの人は目前の課題におわれて、いったいそれは何だったのか、というのはよくわからないままだったのではないだろうか。私自身も、本書で描かれているような「金融の世界」は、正直ほとんど理解できていなかった。いかに高度な金融工学の技術にもとづこうとも、「何かが起こる確率」をゼロにできるわけではないから、・・・というしごくまっとうな説明もそれなりに納得はしたが、今ひとつ腑に落ちない。この間、何が起こっていたのか、がよくわからない。だいたい、破綻した会社にいた人々が、なぜそんなに桁違いの報酬がもらえるのか(がもらえたのか)、というところからよくわからない。一方、「現状を憂う」論調も数多かった。ただし、たいていは自分の言いたいことを言っているだけで、その批判が批判される側に届くようなものは意外に少なく、著者の自己満足をこえてはいないのではないだろうか。
本書は金融のメカニズムを解説する教科書ではない。書名の通り、金融というものが、いかにして化け物のような存在になったのか、ということを解説している。文字通り、金融のあり方に対して「批判的な」本ではあるが、それは自己満足的な批判ではない。もっと執拗だ。過去の経済学者から現在進行形の「関係者」の言動をも、執拗にいや縦横に追っている。いったい何がどう議論され、どのように誘導されているのか、をも明らかにしようと試みている。「失われた十年」という表現はレトリックとしてよく使われたが、その中で「実際に何が失われたのか」ということを丁寧に拾っているのである。
本書での指摘がどこまでの妥当性をもつのか、は私の力量では判断できない。金融のもつ問題性が断続的にさまざまな論者により指摘されてきたことを思い起こさせるのに十分であることは理解できる。そして、「なんとかしなければならない」という議論が、閉じられていきつつあるのかがわかるだろう。「どのような問題であったのか」さえ、よく知らされないままに、議論に幕が引かれようとしているのである。
本レビューのタイトルとして掲げたのは、「本文」の最後の言葉である。「ドーア節」健在を感じさせる。その一方、サブタイトルにあるような「21世紀の憂鬱」を、黙々と日本社会と世界を見守り続けた著者は感じているのであろう。
紙の本
日本経済への警笛の書かもしれません!
2018/11/12 09:20
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、標題にもありますように、金融が実態経済を乗っ取っている現状について丁寧に解説し、日本経済に警笛を鳴らす書です。過去30年間、西欧諸国の資本主義の発展には一つの特徴があったと著者はいいます。それは、金融業が実態経済を支配していくという、いわば「経済の金融化」とも言われるものです。この状態において、一旦、金融業が危機に陥れば、社会全体が破綻してしまうという危険があります。本書、そうした「経済の金融化」について丁寧に解説した書です。
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株式保有の積極的推進が政策として本格的に始まったのは、1980年代の英米におけるサッチャー、レーガン両政権時であった。もう反資本主義思想に対抗するためという考えからではなかった。何しろ、1990年には資本主義の完全勝利に終わってしまうのだから。
日本でも証券文化の奨励が激しくなって、総理大臣までもが、貯蓄から投資へとスローガンを繰り返すようになったのはここ10年である。
実質的な政策形成を導く議論の中には、課題の国際性が明らかなのに、G20の海上ではなく、主として各国内の閉鎖的な雰囲気の中で行われ、相互に影響を及ぼすものが存在する。グローバルな金融うシステムを変えるには、G20の合意による勧告もある程度公職力があるが、それよりも重要な普及のメカニズムは、各国政府の措置が他国の措置モデルとされることだろう。
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* リーマンが倒産した時の社債残高は1550億ドルだったが、社債を持たずにリーマンの倒産に賭けられていたCDS契約残高は2.5倍の4000億ドル。国際決済銀行の調べによると2006年の世界合計GNP総額は約66兆ドルであるが、その年のデリヴァティヴ契約残高はその8倍も516兆ドル!
* 国際為替市場での一日の取引総額は3.2兆ドルで実需である世界貿易総額320億ドルの100倍!
* 米国における総企業利益に占める金融界のシェアは1950年代は10%若であったが80年代以降急激に上昇し2002年には41%となり、リーマンショック後の2008年は流石に15%に低下したものの2010年第一四半期には再び36%に上昇。
* P.クルーグマンに言わせれば「ここ数年間、金融業はアメリカの総生産の8%を占めた。一世代前は5%だった。その増加分の3%は、結局何も役にも立たない、無駄・詐欺に費やされた3%だろう。金額に換算すれば、その3%は、実に年間4000億ドルに上る」となる。
リーマン・ショック、円高問題、欧州債務危機、財政規律優先主義、消費税問題、小さな政府問題などなど世の中の様々な問題はいずれも解決するの難問であるということは判るのだが、必要以上に「金融界」「投資家」なるものの声が大きすぎ、政策を歪めているような気がするのは決して幻想ではないし、本書で紹介される上記のような数字を見ると彼らの意見または「脅し」もそれなりの意味を持つことが判るであろう。
世界を危機に陥れた金融界は税金の投入により復活し、いつの間にかまた莫大な利益を背景に各種政策に声を大にして介入しだし始めている様子だ。その力の源泉を「社会の金融化」という観点から分析しているのが本書だ。再び金融界の暴走とバブルの崩壊を起こさない為の国際的な金融改革は出来るのであろうか?それが上手く行かなければ、ますます「社会公正の実現」は困難になるであろう。
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モラルのない金融業界が世界をダメにするのではないか?
現在のデタラメさがよく分かる。小泉・竹中路線は結局ダメなのではないか?
書評で紹介されていたのでAmazonから購入;2012/02/09から読み始め;途中で他の本も読みながら2/15に読了
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ここ20年間ほどで急速に進展し、リーマン・ショック後は折に触れて問題視されている「経済の金融化」。その様々な現象と留意すべき点が丁寧に記述され、論点が良く整理されている。そして読む者に際限のない問いを投げかけてくる。
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本書はイタリア語の雑誌論文やペーパーバック出版物をもとに著述したせいであるかもしれないが、とにかく読みにくく、わかりにくいと感じた。ところどころに興味あるデータはあるものの、主張の全体像が良く見えない。あまり評価できないと感じた。
ただ、世界経済の実態のなかで金融部門の比率が近年著しく伸びているのは間違いがないところであると思う。この実態の詳細な分析が待たれるが、残念ながら本書ではよくわからないと感じた。
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理解度が足りないことを認めつつ、筆者の論調に共感できなかったので星二つ。リーマンショックのような大きな局面後にありがちな反作用的原点回帰型の論調が余り好みではありませんでした。実体経済を超える金融メカニズムのリスク解説などはフムフムとなりますが、だから“以前”の日本のいいところを思い出してみようというのは違う気がする。ただし、比較文化論を得意とする著者だけあって、1945年以後の世界、という長いスパンで経済史を俯瞰しているところは面白いし興味深かった。向こう4・50年というスパンでみれば、世界経済の中心が米国から中国になるという結論はなるほど自明なので、数年スパンでみれば、まだアメリカというスタンスが大半だと思うが、この自明の結論を常に頭の片隅に常におくことが、舵を切るタイミングを誤らず、大局を見据えるためにはすごく大切だというのも同意。でも実際には10年以上先をみこしての日本の経済戦略を聞くことはあまりない気がする。アメリカに負けを認められる“ゴルビー”がいるかがポイントというのも興味深い。お勉強になりました。
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日本を長年研究してきた英国人研究者による本。
世界経済の中で金融の影響力が強くなってきた傾向を「金融化」というキーワードでとらえ、グローバル化と並ぶ世界の潮流としてとらえるべきと訴える。
高度な金融商品が混乱する市場、株主の発言力が強くなり短期的な利益重視にはしる企業、資本や人材の金融への集中、など多くの現象を筆者は問題視する、金融化の流れを変える適切な規制が必要であると主張する。
難しいテーマを扱っているものの、非常にわかりやすい。
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かなり面白かった。新書じゃなくて、ちゃんとハードカバーの分量で読みたい内容だな。
今まで漠然と自分でも感じていたことが言葉になっていて、ちょっと目を開かされる思い。「金融」の功罪といいますか、ここ20年くらいの「金融」の社会の中での位置づけの変化といいますか(というか、どうやって社会を浸食していったか、みたいな)。
この本の中で参考文献として紹介されている本とか、こういう内容の論調も複数出ているみたいなので、読んで行ってみたいと思う。
【ノート】。
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著者のロナルド・ドーアさんは知日派の社会学者とのこと。
かなり日本型経営への思い入れが強く感じられました。
したがって、論旨にはかなり共感できる部分が多いです。
2000年代中盤、リーマンショックまでの景気拡大時には、金融マーケットで超高額な報酬を得た面々が、金融バブル崩壊とともにその穴を埋めることなく逃げてしまいました。
その時、多くの一般人が怒ったはずですが、金融を巡る事情は何も変わっていないように思います。
当時私もバブルを実感していました。
といっても決して、80年代後半のような贅沢を味わったわけではありません。
なんか、当時の金融商品は(一部ですが)風船ふくらまして売っているような気がしていました。
金融商品を扱う仕事を少しやっていて、金融の動きに触れる機会が多かったから感じたことです。
経営の頭で当時の経済を見たら、どっかで崩壊するのは火を見るより明らかでした。
その辺の問題点はだいぶ言い尽くされていると思いますが、この本がトレースする視点には感心させられる部分が多かったです。
たとえば、金融が暴走する要因としてプリンシパル・エージェント理論に触れていました。
こいつは私が大学生の時に論文に取り組んで挫折したやつです。
要はプリンシパル(=投資家、株主)がエージェント(=経営者)の関係においては、エージェントが自分の利益を優先してしまう問題があり、これをインセンティブによりコントロールすることです。
実態はインセンティブ(=報酬)の与え方を失敗して企業を食いつぶすことになってしまっています。
こんなリアルな問題になるんだったら、大学生の時にもっと真剣に勉強しておけばよかったと思いました。
(まあ、勉強したところで、「世界経済を救った」なんてことにはならないでしょうけど...)
後半は反省の色のない金融のプレーヤーに規制を課す動きを紹介されていますが、この辺は理解しきれず、どういう方向性になっているのかよくわかりませんでした。
何はともあれ、Wikipediaに「社会学のみならず、経済学、人類学、歴史学、比較産業研究の各分野に貢献した」と紹介されているとおり、学際的な知識とものの見方はとても勉強になりました。
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ここ3~4カ月、経済学者・エコノミスト・経済評論家・経済思想家などの金融経済化した現代社会の問題点への警鐘を読み比べてきましたが、本書はその中でも「濃さ(Density)」ではピカイチであり、またその視点の鋭さと半端ない批評の姿勢について脱帽するばかりである。
記述が難しいのは、単に論理が日本人と外国人とで違うことだけではなく、引用文献が半端なく多いのと、説明が簡潔にして要を得ているためだと思われます。実を言うと最初手に取った時にかなり抵抗感が強く、他にいろいろ寄り道した後で、再度読み直す事になり、余計に本書の奥深さ、問題意識の高さが浮き彫りになったように思います。
全編を貫くのは新自由主義をベースにして金融資本主義が膨張し、金融が実体経済を凌駕し、制御不能な状況に陥ってもなおその規制への活路が見出せないことについての、著者の憤りです。
それにしても、非ネイティブの方が日本語で書いたとは思えないSolidな論考です。
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日経新聞で匿名の(大新聞が書評欄に匿名のレビューを載せて恥じないとはどういう神経なのだろう?!)書評氏が「古い日本型経営への郷愁が強すぎ」などと嫌味を言っていたが、なるほど、バブル期には日本型経営を礼賛し、失われた20年で打って変わって米経済礼賛一色に変節した日経には耳の痛い話がテンコ盛りの本書ではある。
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暴走する金融化現象を批判した本。1・3-実体経済の付加価値の配分における株式会社の捉え方が面白かった。現在の日本においては、株式会社の捉え方として「ステークホルダー論」ではなく「株主価値論」が一般的だ。コーポレートガバナンスも「株主価値論」を全面に押し出したものである。しかし、本当に会社は株主の所有物なのか?金融化が進む経済がそうさせたのではないのか?という疑問を持たせてくれたのが良かった。
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むっちゃ面白かった。金融セクターが世界を不安定化させながら大したペナルティもなく膨張し続けるのを許すならば、繰り返されるバブル崩壊と激しい格差拡大は止まりませんよ、という話。最近の小難しい金融界の動向を政治経済史的に堅実に論証していて、ほんとに1925年生まれ?と思ってしまった。すごい。
最近会計や経理の初歩を学ぶ機会があったが、そこで習った標準的教科書の内容はすでにこうした戦後の「金融化」を反映した内容だったんだと気付かされた。「会社は株主のもの」と習ったが、その思想は全然普遍的なものではなく、本書で説明されているような特殊な歴史によって形成されたものだったという。