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生命は、壊される前に自ら壊して更新することによって、時間による劣化(つまり、エントロピーの増大)を免れている。小は細胞内の物質交換や細胞自体の更新から、大は個体そのものの再生産(死と誕生)によって。もしかすると「種」さえもこうした流れの一部なのかもしれない。
それなのに、科学者は生物の正体を解明するためにこの流れを止めようとする。福岡は言う。
「生命を構成している要素が、絶え間のない消長、交換、変化を遂げているはずの細胞。その細胞を殺し、脱水し、かわりにパラフィンを充填し、薄く切って、顕微鏡でのぞく。そのとき見えるものは何だろうか」
「細胞」を「業務」に置換すれば、これはまさしく我々システム屋がやっていることと同じだと気付く。
生きた業務がシステム上に構築できないといって、嘆いてはいけないのである。システムとは、あらかじめそのように運命づけられているのであって、我々には他の手段が与えられていないのだ。
構造化もオブジェクト指向も、結局のところは「細胞を殺し、脱水し、かわりにパラフィンを充填し、薄く切って、顕微鏡でのぞく」ための方法論でしかない。
我々にできることは、できるだけ新鮮な(死んだばかりの)細胞を手に入れて、できるだけ正確に薄く切り、できるだけ仔細に観察して、深く考察することだけなのだから、来年も頑張ってその道に邁進しようと思う。
ところで、アジャイルってどうなんだろう?
2011/12/29 記
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まえがきがとっつきにくかったので、本編どうしたものか、と思いつつ読み進めていったら、いやいや、何のことはない「フクオカ博士節」が炸裂しているではありませんか。今まで「エントロピー」ってあんまりよくわかってなかったのですが、ようやく理解の糸口がつかめた感じ。そう、常に博士の語り口はわかりやすい。エピジェネティックスも興味深かったし、9章の「木をみて森を見ず」は博士の真骨頂では。
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いつも作者の人間味にあふれ、かつ科学者としての矜持を持った話には、楽しみと興味をそそられる。細胞、生物、植物、動物どれも読者の知的好奇心を満たしてくれるのだ。
特に第9章の「木を見て森を見ず」は震災以後の日本人には必読だ。理性的かつ真実を探求する科学的態度がわれわれにも求められている。引用させて頂いたが、234ページの「相関性」と「因果関係」にふれた文だけでも、この本を読むべき価値がある。
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福岡伸一さんの本は、いつも刺激的だ。
「生命とは何か?」という問に対して、リチャード・ドーキンスは「自己複製するもの」と言った。だが、福岡伸一さんは、「動的平衡である」という。これは前著の『動的平衡』でも、また『生物と無生物とのあいだ』でも主張してきたことだ。そして、そこに「自由であれ!」という命令が含まれているのだと本著では語る。同じ楽譜でも奏者によって演奏が変わるように、遺伝子という楽譜が同じでも、多様性が生まれる理由はそこにある。これは、一卵性双生児を見れば明らかであろう。
この宇宙の中では、何者もエントロピー増大の法則に反することはできない。工学的発想に立てば、もともと頑丈に作って無秩序へ抗う方法が取られるだろう。建物や道路や橋などの人工物は、すべてこの考え方によって作られた。だが、どんなに頑丈に作ってもエントロピー増大の法則は徐々にそれを凌駕し、やがて破壊されていく。生命は、この方法とはまったく別の方法を採用した。わざと仕組みをやわらくかく、ゆるく作り、そしてエントロピー増大の法則がその仕組みを破壊するより早く先回りして、自らを敢えて壊す。壊しながら作り直す。この永遠の自転車操業によって、生命は揺らぎながらも恒常性を保ってきた。壊すことにより、蓄積するエントロピーを棄てることができるからだ。そして、多様性こそが動的平衡の強靭さを支えているという。
生命はいつも関係性の中にあるという。ひとつの輪に閉じることなく、流れは絶えず次の渦に受け渡されながら連続すると福岡さんはいう。生命だって関係性の中にある。「自分」にこだわり、閉じこもることが、生命としての可能性を狭めていることに、はたと気付く。
以下、気になった箇所を引用しておきます。
子どもたちの世界は、いつも生き生きとして新鮮で美しく、驚きと感激にみちあふれています。残念なことに、わたしたちの多くは大人になる前に澄みきった洞察力や、美しいもの、畏敬すべきものへの直観力をにぶらせ、あるときはまったく失ってしまいます。もしもわたしが、すべての子どもの成長を見守る善良な妖精に話しかける力をもっているとしたら、世界中の子どもに、生涯消えることのない『センス・オブ・ワンダー=神秘さは不思議さに目をみはる感性』を授けてほしいと頼むでしょう。(p.70、レイチェル・カーソン『センス・オブ・ワンダー』の引用より)
がんという病には、生命とは何かという問いが余すところなく内包されている。(p.238)
動的平衡は、プラスとマイナスの振れ幅をできるだけ最小にしながら分解と合成を同時に行い、自らを作り替えていく。しかし、長い間、エントロピー増大の法則と追いかけっこしているうちに少しずつ分子レベルで損傷が蓄積していき、やがてエントロピー増大に追い抜かれてしまう。(p.244)
自分のあり方は関係性に依存する。それゆえにこそ、生命は柔軟で可変的であり、また適応的なのだ。つまり細胞はいつも隣人祭りを心がけている-。(p.250)
意外に聞こえるかもしれませんが、私たちの世界は原理的にはまったく自由なのです。それは選���とることも、そのままにしておくことも可能です。その自由さのありように意味があるのだと、私は思うのです。(p.253)
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前作の「生物と無生物の間」では思いませんでしたが、本書では科学者としてでなく、作家として読ませていると強く感じました(私だけかもしれませんが)。読む手が止まりませんでした。
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遺伝がDNAの配列だけで決まるのではないという考え方(エピジェネティックスというらしい)は自分にとって未知で興味深い。この分野で新しい発見があれば福岡さんが解説したものを読みたいと思う。
全体的には動的平衡に関するこの著者の主張が繰り返されている部分が多く、強調したい部分が明確になってきたが、その一方でこのテーマは手垢がついてきた感じがする。
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これまでの著作に比べてテーマの統一感に欠ける内容だった気がする。
生命は刻一刻と古いものが剥がれ落ち、新しいものに置き換わる。絶えず循環しながら動的にバランスを取っている。そこに本質があり、神秘がある。というスタンスは相変わらず。
今作で一歩踏み込んだのは、遺伝の枠に収まることのない生命の柔軟性。遺伝子を通じて以外にも形質は伝搬・継承されうるし、遺伝子で規定されているからといってそれが全てではない。自然淘汰では説明しきれない形質的変化は存在するし、必ずしも子孫を残すことを目的としない生き方もあるだろうということ。
そんな不思議な不思議な生命を説いてくれている一冊。
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平安末期 梁塵秘抄 遊びをせんとや生まれけむ 戯れせんとやうまれけむ
とうもろこしには必須アミノ酸のリジンが十分に含まれていない
タンパク質は人の消化管で20のアミノ酸に分解される。そのうち9種は必須アミノ酸 体内では合成不可
鶏卵 ひとにとってアミノ酸バランスの良い食材
筋肉内のタンパク質のアミノ酸の35%を占めるのが、バリン、ロイシン、イソロイシン BCAA
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福岡先生の動的平衡の続きとなる書物です。
一作目は本当に面白くて、あっという間に読み終わってしまいました。その期待をこめて2を読みましたが、期待が大きすぎたのか、一作目ほど感動は感じませんでしたが、面白い本だと思います。。。。一作目があまりにも面白すぎたのかな?
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なんて詩的な科学者なんでしょう・・・。
書いてあることいちいち説得力あるし、あまり報道されない新しい研究成果(報道されることといったら、トマトで痩せるとかそんなんばっかり。プンスカ!)も盛り込まれていて、飽きない1冊でした。
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『動的平衡』からこの作品を読んでみると感動は少ない。
ただ著者は分子生物学者というばりばりの理系学者であるにも関わらず、科学の限界を認めているところがすばらしいと思う。
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地球上で最も多く存在している生物はトウモロコシで6億トン。人類は3.5億トン。地球外の生物から見れば、地球を支配している生物はトウモロコシという黄色い植物で、人間がそのお世話をしている…
前回同様知らない話を沢山仕入れることができた。純粋に面白さからいえば前回のほうが少し上かな。今回は、内容が少しだけアカデミックになってます。
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新書大賞、サントリー学芸賞をダブル受賞した「生物と無生物のあいだ」(講談社現代新書)で打ちのめされて以来の福岡伸一ファン。最新刊の本書もどきどきわくわくしながら読みました。素人には難しい生物学の世界を、分かりやすく、時に詩的なまでに美しい表現で伝えてくれる福岡先生の手並みは鮮やか。内容も刺激に満ち溢れています。たとえば。「日本人の消化管内には、海藻の成分を分解できる腸内細菌が存在するが、欧米人の腸内にそんな菌はいない(中略)よく海外旅行に出て、お腹の調子が変になるということがある。それは必ずしも現地の食べ物の衛生状態が悪いということではないだろう。むしろ、その場所の食材と自分の腸内細菌との相性が悪いのだ」。このほか、「長い時間を一緒に過ごす女性たちは、同じときに月経になる傾向がある」など実に興味深い話がてんこ盛り。これらは「サイエンス」や「ネイチャー」など権威ある専門誌に掲載されたもので、「トンデモ」話ではありません。「動的平衡」に続いて、今回も実にスリリングな読書体験でした。
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綺麗な文章。生物学をここまでわかりやすく、そしてロマンチックに語られたら、科学雑誌ニュートンも真っ青だろうと思っています、個人的に。
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生物の、ちょっとした知識とか、概念とか、そういったものを、著者が生物学にあまり詳しくない人たちにも分かるようにかみ砕いて、著者の考えを交えながら説明する本。
『動的平衡』というタイトルなので、生物の、パーツが入れ替わり、全体として新しさを保ちながら全体として平衡を保ち続ける、という話が大きなトピックとしてあった。
生物多様性は多様な変化に対応するための装備というか、クッションのようなものだという話、ちょっとなるほどと思った。