紙の本
近代的時代小説。
2002/06/15 00:03
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投稿者:凛珠 - この投稿者のレビュー一覧を見る
江戸時代というと仇討が持て囃されたと思われがちだが、実際は滅多に起こることでもなければ、喜んで仇討旅に出かける者もおらず、敵を討ち果たしたという例も殆ど無い。殆どは路銀に窮し、志なかばにして果てるのだ。仇討に出かけた(出かけさせられた)者は恐らく、敵を討ち果たして故人の恨みを晴らし武士としての面目を施すというよりも、自分を辛くあてどの無い境遇へ追いやった相手への私的な怨念、早く元の生活に戻る為に敵を討ち果たしたいという思いの方が強かったのではないかと私は思う。
恩讐の彼方にと忠直卿行状記は、私が大好きな作品だ。特に前者は子供の頃に読み(子供向けに書き直したものだが)、ひどく感動したことを覚えている。
忠直卿行状記は以前に映画を観て感動し、原作を読んだ。前者は安易な仇討物語になっていない点が新しいし、後者は権力者の寂寥を描いた点が新鮮だった。菊池寛の時代物は近代人の発想が色濃いということで批判されたこともあるようだ。確かに一理はあるが、文学であるし、何より現代人に共感されぬ作品を書いても仕方が無いのではないか。少なくとも私は菊池寛の時代物が好きである。それは近代的発想があるゆえだ。
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テーマはコレです!と言い切ってしまえる作品が多いので、文学的に多少薄っぺらいきらいもありますが、面白いことは面白いです。
芥川と形が似てますが、もっと温かい雰囲気の作品が多いです。私が好きなのは『恩讐の彼方に』かな。
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背景を主に江戸時代に設定した短編集である。読みやすい。
各作品、主人公の苦悩やそれをどう乗り越え、またはどう解決したかしっかり描かれており、すっきり読める作品である。
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これ超面白かったわ!
前編通して、人間の汚い部分を持った主人公が出てくるけど
それぞれがきちんとその汚い部分に対して悩んでいて
性善説に近いところがあると思った。
世の中、自分の汚いところを自覚していたってなんとも思わない人だっていっぱいいるだろうに
そうではない人間ばかりを描いたところが
あ〜菊池寛いい人!って思いました。
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●恩讐の彼方に●(12/24)
ひたすら善根を積むことに腐心したが、身に重なれる罪は、空よりも高く、積む善根は土地よりも低きを思うと、彼は今更に、半生の悪行の深きを悲しんだ。
彼は、心の底から憎悪を感じ得るような悪僧を欲していた。
●俊寛●
人間はいかなる場合でも、自分を怨まないで、他人を怨む。
灯もない小屋の中に蹲っている俊寛に、身を裂くような寂しさが襲ってくる。が、昼間の激しい労働が産む疲労は、すぐ彼をそうした寂しさから救ってくれ、そして彼に安らかな眠りを与えてくれる。
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一見複雑な歴史背景に包まれて、案外と読みやすくて面白い作品でした。 そしてなかにも芥川と同じテーマだけど、全く違う捕え方で構えた作品で、随分前に芥川のバージョンを読んで微かな記憶まだ残れている今頃から、もう一度その情景を異なる按配で味わって、とても趣の深いことでした。 まあ一言いえば、菊池さんの作品は人情有り、芝居のような鮮やか有り、落ち着くところあり、そして条理正しく細かい所まで用心深いと感じます。 因みに新思潮の匂い処処漂ってますね(笑)
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ある恋の話:
男に失望した夫人が舞台の役者に恋をする。彼女が恋をしたのは役者ではなくて、役者が演じている過去、架空の人物。役者は彼女が彼に恋心を抱いていると思い、彼女に惚れていく。彼女は役者の素性を偶然目撃してしまい、それは現実の男である事をしる。二人の行き違う恋の間にもう1つの人格が挟まれるふしぎな恋の話。
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起承転結がはっきりした、好きなタイプの短編集。ストーリーのおもしろさもさることながら、しっかりした描写が全体を支えていて、アイデアだけではとても書けない作品である。神は細部に宿るとはこのことだ。まあ「サザエさん」にも登場する文豪であるから、今さら私ごときに褒められてもどうということもなかろうが。ときどき読み返したくなる、お気に入りの一冊。
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菊池寛は国語の教科書で顔を見たことある。程度の認識しかなかったんですが。
前回よんだ本に紹介されていた「藤十郎の恋」が面白そうだったので読んでみたらその話も他の話も凄く面白かった。
主人公の心理的葛藤を描く作品が多い。
1.恩を返す話
元々いけ好かないと思っていた同僚の武士、佐原惣八郎に戦で命を助けられ、その恩を返そうとひたすら思い続ける(屈折した感情で)神山甚兵衛の一生。
2.忠直卿行状記
徳川家康の孫、忠直が大きすぎる権力を持った故の孤独と屈折。
会社で浮いちゃう社長の令息とかこんな感じの悪循環なんだろうな。
3.恩讐の彼方に
主人の妾に手を出したために主人ともめ、殺して逃げてしまった男の償いの一生。
どうかなー実際のところ犯罪被害者はこう上手くいかない気もするけど、こうなったら良いかもなぁという感じもする。
4.藤十郎の恋
傾城買を演じさせたら随一の役者、坂田藤十郎だが、同じ演目を演じる藤十郎に飽きはじめた大衆、そして自分自身にあせりを感じ、今まで演じたことの無い演目、「人妻との禁じられた恋に落ちる男」を演じることになるが、女の経験はあっても元来生真面目な藤十郎は人妻に手を出したことは無い。
どうしたものかと思案しているときに貞淑と名高いお梶と再会する。
演技に煮詰まった藤十郎はお梶に対してさも恋しているような演技をしつつ、戸惑いつつも恥らうお梶を冷徹に観察し芸の肥やしにする…
イヤらしい表現は一切ないのですが、藤十郎が鎌首もたげて獲物を見据える蛇のようでなかなか色っぽい。
最終的には悲劇となるけど。
話、設定がすごく面白かった。
歌舞伎に詳しい人が読んだらもっと面白いかもしれない。
5.ある恋の話
若い頃に嫌な男と夫婦になり、すっかり男に嫌気のさした美しい未亡人。
男との再婚だなんてこりごりだとおもって暮らしていたが、たまたま舞台を見た歌舞伎役者染之助の演技にすっかり惚れこんでしまう。
ただしそれは、あくまで演じる人物に惚れたのであって、歌舞伎役者自身に惚れたのではないのだと語る未亡人。
…対象が歌舞伎って言う芸術だから良いようなものの…
なんだか「三次元の男に興味が持てなくって二次元のキャラに傾倒する女子」の先駆を見ているような気分になるんですが。
どうだろう。
6.極楽
品行方正に生きてきた老女が望みどおりに極楽に行く話。
でも、この話は極楽全否定だと思う。
折角真面目に生きてきたのにこれじゃぁちょっと嫌だなぁ。
結局のところ、人は経験しないもの、手に入らないものに憧れて欲しがるっていうこと?
7.形
猩々緋の服折に唐間纓金の兜姿で恐れられる中村新兵衛。
戦場で我子のように可愛がっていた青年にその鎧兜を貸すと…
凄く短い話。人は形によって良い意味でも悪い意味でも影響されるってこと?
8.蘭学事始
杉田玄白と前野良沢の話。
玄白は良沢が苦手。どうも自分を軽んじているような気がする。
台詞部分が江戸時代みたい��台詞の書き方のところがあったので。
意味が理解できず。
よって話の意味も理解できていません。
9.入れ札
国定忠治と舎弟たちの話。
代官を斬り殺し追われる身となった忠治とその舎弟たち十数名。
多くの人数で逃げるには目立つしかとって自分を慕ってついてきた舎弟から数名を選んで他には暇を出すのもはばかられる。
悩んだ忠治は入れ札(忠治についていく精鋭を各自推薦するやり方。自薦は駄目)で3名だけ連れて行くことにする。
その舎弟の中で「稲荷の九郎助」はもっとも古い舎弟であるものの、最近は軍師としての能力のある「喜蔵」、腕力のある巨漢「嘉助」、忠治に信任の厚い「浅太郎」、この年下の弟分が選ばれるのは九郎助の沽券にかかわることで心底気に食わないが、かといって自分を推薦してくれる者がいるかというとそれも難しい。
そこで、本来は恥ずべき行為だが、自らの名前を入れ札に書き込み…
見栄とプライドの拮抗がよく表現されていて面白い。
調子の良い弥助の行動もありえる話でよく出来てる。
プライドを守りたいがために行った行為で逆にプライドをズタズタにされる。
後々まで後悔する様な嘘はいかんなぁ。自省したくなる。
10.俊寛
平清盛に謀反を起こした3人が島流しにされたが、他2人は罪を許され都へと戻る。
一人残された俊寛は絶望から自殺も考えるがやがて過去の生活も恨みも忘れ、島で生きる術を見つけていき…
史実とは全く異なる話だけど。
それはそれで幸せなことだととても思うので。
よく出来た話だと思います。
全体的に、「外面を良く見せたい、プライドを守りたい、かといって他者を害するようなことは良心が許さない」というような葛藤を描くモノが多いような気がする。
(「恩を返す話」「恩讐」「蘭学」「入れ札」「俊寛」)
現代読んでも全く遜色がない良く出来た心理描写で短くても凄く面白かった。
やっぱり。教科書に載るような人の作品は凄いっすね。
菊池寛のこと全然知らなかったので面白かった。
作品とは関係ないけど。
ウィキペディアで調べたら菊池寛は小森のおばちゃまを愛人にしていたそうで。
愛人にしたくせに「(すぐに体を許すだなんて)君には女のたしなみが無い」とか忠告するのはどうだろう。
作品のイメージと違って(繊細で内省的な感じ)ずいぶん横柄で身勝手な言い様だなぁとも思いました。
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近代文学演習の課題図書。
演習の時はひたすらつまらないと思ってたけど、たた単に読む物として楽しむ分にはなかなかいい本なんじゃないかと思う。
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「入れ札」。無記名投票で多く推薦された子分だけが、親分のお供として連れて行って貰える。自分可愛さについ己の名前を書いてしまい、場に出してしまってから襲う後悔の念。頼む、やっぱり自分は選ばれないでくれ、と。
何十年も前に書かれたけれども、やっぱり現代になっても変わらないものですね。
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青空文庫で読み終えた。
(恩讐の彼方に感想)
菊地貫に対する私の印象といえば、以下のようなものだった。
芥川龍之助の親しい友人であり、文学史からみても、どちらも新思潮派に属している。
だが性格は真逆だ。菊地は明るい男だったとかなんとか。
恩讐の彼方に。男が強盗稼業をしていることに罪悪感を感じているところが描かれる部分があった。あれを読んで、私は羅生門を思い出した。
共通するテーマは、エゴ。
羅生門の主人公は自分が生き延びるために良心からくる罪悪感を無視して、老婆の衣服を剥ぎ取り、荒んだ都の闇夜へと消えていく。
だが恩讐の彼方にでは、男は良心を守るために仏門に入り、エゴを捨てる。トンネル開通を目指して穴を掘る。
復讐にきたじつのすけすら、そのひたむきな姿に心打たれ、怨みというエゴをを忘れて男と抱き合う。
つまり羅生門では、人間結局エゴで動くんだよとネガティブなとらえかたをしている一方で、恩讐の彼方にでは、ひたむきな信仰や良心はエゴに勝るとポジティブなとらえかたをしている。
同じ人間のエゴというテーマを扱っていながら、作家が違うと物語が全くちがうラストを迎えているのが、面白いなと思った。
私は恩讐の彼方にのラストについて勝手に想像していた。それはこうだ。男は穴掘りに精を出すが、復讐に来たじつのすけにあっさり殺されてしまう。いくら昔の罪をけそうとして信仰にはげんだところで人の恨みも、過去の罪も消すことは出来ない。本当は、自分の信仰もまた、人の命を救いたいという良心から出てきたものではなかった。罪悪感から逃げ出したい、苦しみから解放されたいというエゴから生まれ出たものでしかなかったのだと悟る。
…予想は外れたが、とても気持ちいい読後感の残る本だった。
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恩讐の彼方に、って、名前だけは聞いたことがあっても、読んだことは無かったので。
富士山に登りに行く道中用に買った。耶馬溪は、思ったより自宅に近いところ。いつか行ってみたい。
この本を読んだ少し後に、十三人の刺客を見て、忠直卿行状記を思い出した。
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昔やっていた塾のバイトで、これまで本を全く読んでこなかった生徒にお薦めの本を聞かれることがあった。初めは芥川龍之介の「蜘蛛の糸」、「杜子春」あたりを薦めていたが、今ならこの本を薦める。文章や内容が簡単だからだ。人それぞれの好みはあるだろうが、この本をスタートにして芥川→夏目漱石という大まかな流れ(文学史的には逆流)で読んでいくと、文学に親しみ易くなるのではないだろうか。
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最近変な夢をよく見るので困ります。先日は舞台鑑賞で、「屋上の狂人」を観てゐる夢。屋根に上る男は柄本明さんでした。
また、村田英雄さんが「父帰る」を熱唱してゐる夢。名曲です。しかし起床すると疲れが出ます。
私の夢にまで進出する菊池寛、改めて作品集を読む。
表題作ほか、菊池寛の代表作が十篇収められてゐます。
どちらかといふと、実業家とかプロモーターとしての印象が強いのですが、短篇小説の名手であつたことが改めて分ります。
自分の好きな傾向の作品としては、収録順にいふとまづ「恩を返す話」。26年間も恩を返すことを考へてきた甚兵衛。ここまで来ると滑稽感が否めません。
「恩讐の彼方に」。隧道を切り拓いたことで一番救はれたのは、市九郎本人であつた。
「藤十郎の恋」。まことに緊張感のある作品。お梶は私好みの女性であります。
「極楽」。永久に極楽にゐることは退屈か。丹波哲郎さんなら否定するでせうが。
「蘭学事始」。人間くさい杉田玄白には感情移入します。
「俊寛」。アッと驚く意外な幕切れ。これも菊池寛流の人間賛歌ですかな。
「入れ札」。「エレキの若大将」なる映画で、大学ラグビー部の主将を投票で決めるくだりがあります。青大将(田中邦衛)は自分に一票を投ずるのですが、結果はその一票のみ。仲間が「僕は君に一票投じたよ」と嘘を言ふのを、青大将は怒りのあまり「あれは俺が自分で入れたんだ」とバラしてしまふ...この小説を読んで思ひ出しました。
菊池寛の代表作がこの一冊で大体分かる、といふお値打ちな本書。入手も容易であります。
喰はず嫌ひをせずに(してもいいけど)読んでみませう。
...とても眠い。これにてご無礼します。また変な夢を見さうで不安...
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