紙の本
愛がなければ信じることはできない
2012/04/12 08:18
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
この国の、それは日本のことだが、人々は、この国を信じ、愛しているのだろうか。
これだけの政治的裏切りを蒙りながら、ほとんど声をあがることもなく、黙々と歩いているのはどうしてだろうか、と思わないでもない。あるいは、大きな天災と人災のあと悲痛な声をあげている人々のそれが政治家たちに届かないのは何故だろう。
かつてマルコポーロが「黄金の国」と称したことは、もしかするとこの国の「拝金主義」を皮肉ったものではないかと、遠い眼差しで歴史の一齣をみる思いがする。
この国は、日本というこの国は、一体何をまちがったのだろうか。
本書は、先日日本に帰化して話題となった日本文学研究者ドナルド・キーンさんと作家の瀬戸内寂聴さんの対談集である。
ともに1922年生まれというから、今年90歳を迎える二人であるが、その語り口の軽妙でしかもこの国への愛の深さに頭が下がる。
特に瀬戸内さんは東日本大震災以後、こういう対談集を何篇か刊行している。
おそらく、震災時には腰を痛めて病院のベッドから起きれなかった日々だったことから推察すると、書くという体力がいる仕事よりもこういう対談の方が無理がきくということかもしれない。
それほどまでして、瀬戸内さんは悲しみに苦しむ被災者の人たちの側に立ちつづけようとしている。
一方のドナルド・キーンさんだが、震災時の福島原発の爆発のあと、多くの外国人がこの国を去ったというのに、単にその国を訪問するだけでなく、帰化して「日本人」となったのだから、瀬戸内さんがいうように、「何ともいえない嬉しさ」に日本中が沸いた。
この対談の中でも、現代の日本人が忘れている思いをたくみに表出している。
キーンさんと瀬戸内さんにあって、私たちに欠けているもの。
それこそ、この国、日本という国を愛する心だろう。
本書のタイトルは「日本を、信じる」だが、本当は「日本を、愛する」とすべきだっただろう。
信じる気持ちは、愛があって成り立つものだ。愛もないのに、信じることはできない。
この対談集は東日本大震災で悲しい思いに沈んでいる被災者を勇気づけ、「拝金主義」に走る人々に反省を促し、迷走を続ける政治家たちに自分たちの足元を照らすに違いない。
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あらためて、日本の良さはこんなところにあるんですよ、という正論というか、なにか自慢話っぽい臭いも。
源氏物語のエロスと三島由紀夫の死の前の話は面白い。仏教と文学がところどころに出てきます。どうせならそこにもっと切り込めばよかったのに。
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東日本大震災の震災後に、キーン氏が帰化したあとのキーン氏と寂聴さんの対談です。日本や東北の良さを改めて気づかせてくれます。二人とも90歳を迎えるそうですが、これを読んでいて長生きするのも、そう悪くはないと思えました。
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(2012.06.04読了)(2012.06.04拝借)
2011年3月11日の東日本大震災を機に、日本への帰化を決意して、日本永住を決めたドナルド・キーンさんと、平泉の中尊寺で得度して尼さんになった瀬戸内さんの対談です。
東北や日本人や「源氏物語」について語っています。
お二人とも90歳だそうです。ボケる人は、82歳ぐらいまでにボケるのだそうで、90歳を過ぎている人は、ボケないまま亡くなるのだそうです。従って、お二人はボケることのないまま亡くなることができるそうです。
【目次】
まえがき 瀬戸内寂聴
第一章 大震災からの日々
第二章 「日本」の良さは、こんなにも
第三章 同じ時代を生きてきた
第四章 「老」「死」と向き合う
あとがき ドナルド・キーン
●西行の生涯(42頁)
瀬戸内:私は西行の生涯を小説『白道』に書いた時、芭蕉がたどった道を歩きました。
●「清潔」(47頁)
キーン:日本人について書かれた一番古いものは『魏志倭人伝』です。その中で、日本人の特徴が二つ挙げられています。一つは「清潔」であること。もい一つが「礼儀正しさ」。驚くべきことには、これは今も変わっていないのです。
●桜(62頁)
キーン:桜はどうしてこれほど日本人に愛されているのでしょうか。もちろん美しいからですが、それだけではなく、束の間の美、三日だけの美しさ、だからです。
●残された人(92頁)
瀬戸内:残された人には残されただけの理由があるんですよ。生きて、誰かの役に立つために残ったんじゃないでしょうか。亡くなった方たちは、ちっとも悪いことなんかしていない。みな善良な人たちです。その人たちが苦しみを引き受けてくれたんだから、そのことに感謝しながら、残された人は生き続けなきゃいけないと思うんですよ。
(「天罰」などと言わないでほしい。)
●そこへ行く(96頁)
瀬戸内:大地は、そこで起こったことを全部記憶しているものです。その大地の声が体に伝わってくるんですよ。足の下から。だから、そこへ行かなきゃいけない。
●三大事件(100頁)
瀬戸内:私の生きてきた時代の三大事件を選ぶなら、一つが日本の敗戦。二つ目がソ連がロシアになったこと。そして―三つ目は、アメリカのオバマ大統領就任です。アメリカで黒人の大統領が誕生するなんて想像できませんでした。三つとも、あり得ないと思っていたことばかりです。
●大事な出来事(102頁)
キーン:自分の生涯で一番大事な出来事を一つ選ぶなら、それはアメリカ海軍の日本語学校に入ったことです。
☆瀬戸内さんの本(既読)
「美は乱調にあり」瀬戸内晴美著、角川文庫、1969.08.20
「諧調は偽りなり(上)」瀬戸内晴美著、文芸春秋、1984.03.01
「諧調は偽りなり(下)」瀬戸内晴美著、文芸春秋、1984.03.01
「源氏物語の女性たち」瀬戸内寂聴著、NHKライブラリー、1997.11.20
「いよよ華やぐ」瀬戸内寂聴著、日本経済新聞・朝刊、1997.12.01-1998.12.13
「釈迦と女とこの世の苦」瀬戸内寂聴著、NHK人間講座、2000.04.01
「藤壺」瀬戸内寂聴著、講談社2004.11.24
(2012年6月4日・記)
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2012.7.1読了。
寂聴さんもキーン氏も好きなので手にとった。甘いと言われればそうなのかもしれないけど、心は軽くなったし生きることに感謝もできた一冊。
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御年90歳同士の対談。
日本の将来を思う様子が、言葉の端々から伝わってくる。
しかし、それはありがちな諌言だらけではなく、
代々の日本のよさを認めつつ、それでもこれから
変えていくべきもの、残していくものが
柔らかな口調で、そして時にはユーモラスに語られている。
震災後に行われた対談であるが、決してこのままこの国は
廃れていくのではないという、お二人の思いが伝わり、
読んでいるうちに元気がもらえる。
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友達よりドナルド・キーンさんの講演会に誘われたにも関わらず、キーンさんどんな方なのか全く知らなかったので、京都のジュンク堂で購入。
瀬戸内寂聴さんと、今年日本に帰化された日本文学者ドナルド・キーンさんの対談集。
お二人ともなんと90歳、知識が豊富で蘊蓄に富む対談で、特に仏教の無情観には今回の大震災だけでなく、日常の様々に照らし合わせて考えるところがあった。
でも、文字が大きくうっすい本なので、ものすごくさらっと読めて物足りなかったかも。
ちょっと、日本人のこと美化してる?って気もするけど、もう日本あかんで終わったで、って言うより「日本を、信じる」ってええ言葉やなって思いました。
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ドナルド・キーン氏と瀬戸内寂聴さんの対談の本。
お二人とも1922年生まれってところで、
「え?親父と同い年?」と超個人的にしみじみしちゃった。
ってことは、親父が死んでからそろそろ20年くらいか?とか(苦笑)
82歳位までに惚けなかった人は死ぬまで惚けないらしい
という話になるほど〜と、妙にうなずけたりして。。。
お二人とも、まだまだすごいお元気で羨ましい限りです。
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ドナルド・キーン氏が日本に帰化したニュースは震災後ということもあって話題になりました。
でも、震災があったから決意したとかいうことではなく、本書を読むと震災の前からその意思をお持ちになっていてそれを貫いたのだということがわかりました。
二人合わせて180歳の対談は内容も日本の歴史を感じさせてくれます。
太平洋戦争や東日本大震災、福島原発事故という未曾有の体験をいくつもされながらも、それでも「日本の復興の力を信じる」と言い切る知と経験の大御所たちに大いに勇気をいただきました。
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ドナルドキーン氏の著作を読んでいた中で、この本は対談形式なおかつ文字も大きめなので、サクッと読めました。日本の文化や精神をどう捉えているのかーわかりやすい言葉で書かれ、改めて日本の良さを実感しました。
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キーンさんがどう考えて日本人になったのか、何となく分かった。外から言われて日本の良さがわかるんだよなあ、日本人て。
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2018.5.5
ドナルド、キーンさんを知ったのは讀賣新聞の日曜の連小説だった。なんとかクロニカルが毎週面白く楽しみにしていた。
東日本大震災の1年後のこの対談。
縁って不思議。
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同じ1922年生まれで、共に文化勲章受章のお2人の対談集です。瀬戸内寂聴(~2021.11.9)&ドナルド・キーン(~2019.2.24)「日本を信じる」、2012.3発行。大地震・津波・原発事故の後の対談です。日本人の特徴は「清潔」「礼儀正しさ」の美徳と何が起きても立ち上がって前に進むたくましさ。