津波が襲った直後一年の記録。何を復興したいのか、を考えさせられる。
2012/06/20 17:52
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:銀の皿 - この投稿者のレビュー一覧を見る
2011年の東日本大震災の後、復興を目指すさまざまな活動が続いている。何が変わったのか。どうなっていくのか。人間だけでなく他のいきものはどうなのか。写真家であり、環境保全活動も行っている著者は、津波の直後から沿岸の生きものの変化を写真とともに記録し続けた。これはその、津波が襲った直後からの一年の記録である。
写真を多用しての説明はとても雄弁である。みなれた風景、生き物たちの姿がこんなにも違ってきていることが一目でわかる。撮影の日付もそれを語っている。見る人は塩害で枯れ始めた木に心を痛め、絶滅を危惧された昆虫が生きていた写真にほっとしたりするだろう。少し生態系に興味がある人はさらに、津波の後にまず何がでてくるのか、具体的な事例をみていろいろと感じることがあるに違いない。
最終章にまとめられている通り、長期で見ていかなければあの津波の影響を断じることは難しい。直後の季節にまだ生き残っていたものも、継続して子孫をつないでいけるかどうかはまだわからないのだ。生きものの姿が戻ったといっても、強い外来種がさらに進出してきたのかもしれない。今年、2年目の春はどんな生き物がいただろう。地道なデータの蓄積を続け、本書の続きを知らせてほしい。
人間の生活のため、他の生きものは後回しにされざるを得ないこともあるだろう。実際にそうして埋め立てられてしまった海岸部などもある。著者も「複雑な思い」で写真を撮り続けたようだ。「復興」という言葉で、私たちは何を目指しているのだろうか。時間を戻すことはできないし、人間も変わっていくから、まったく同じところに戻ることはできない。同じところに戻ったつもりでも問題はなくならないかもしれない。
エピローグ、著者は見上げた星空の変わらぬ姿にしばらく見とれていた、とある。地上には変わり果てた姿があるが、それも宇宙ではちっぽけな変化でしかないのか、とも思う。しかし、そのちっぽけな中に、人間がいるのも確かなのである。
なにができるのか、どう考えていくのか、問題の難しさをつきつけられる。せめて「こうしたところはこうなった」と、記録だけは少しでも残しておくことが最低限の必要とされることだと思う。繰り返しになるが、地道なデータの蓄積を続け、本書の続きを知らせてほしいと願う。
真の復興とは何かを問う、著者渾身の一冊です!
2020/02/07 13:09
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、私たちの教養として、高度な知識を分かり易く説いてくれる人気の「ブルーバックス」シリーズの一冊で、同巻は3月11日の東日本大震災による生態系の変化について徹底的な調査を通して書かれたものです。著者による調査によれば、大震災で引き起こされた巨大な津波は、生き残った動植物の生息地をも激変させたようです。例えば、死滅するカエルの卵、真夏に枯れゆく木々、姿を消した絶滅危惧種のトンボたちなどが同書であげられていますが、この津波による影響がこれまでに大規模になったのは、実は、人間による隙間のない土地利用が原因だったと驚くべき指摘がなされています。そして、今、また復興の名の下で、大規模な土地開発が行われています。本当に復興とはどういうことなのでしょうか。真の復興について説いた著者渾身の一冊です!
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東日本大震災が生態系に与えた影響をいち早く、かつ分かりやすく。(写真が多いのが特に分かりやすい)記した本。著者が意見を表明する時は非常に慎重な表現を選んでおり、自然関係の本にありがちなヒステリックな決め付けがないのも好感をもてる。
自然保護と住民の暮らしのどちらを優先すべきかは非常に難しい問題なのだけど、著者も触れている通り、東日本大震災の後の復旧事業に関しては「復旧」ばかりが優先されて自然保護は後回しにされがちだ。この本を読み、自然保護と住民の暮らしのバランスについて考えを巡らせることも必要だろうと思う。
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冷静で、客観的で、そして視点の面白い「環境書」。扱われている事象が事象であるだけに、手放しで「面白い」とは言いにくい。
しかし3.11はつまり、「自然環境」と「生態系」を巡ってビッグバン的大事件が起こったということは言えるわけだ。その中で生命がどう生き抜き、どう死に絶え、そしてそこに人間がどう関与していくのかという内容が、ある意味で残酷に描かれている。そしてその残酷さが興味をひきつける。
生態系が破壊されたと、単に嘆く本ではない。動植物が戻ってきつつあると、明るくはしゃぐような本でもない。そして「復興」によって希望の持てる未来がやってくるなどという楽観論もない。かといって環境愛護一辺倒でなく、開発悪玉論一辺倒でもなく、バランスのとれたクールさが、読み手に取って(残酷で)気持ち良い。
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私のような人間からすると,ものすごく生物に詳しく,色々な現場を知っている著者だという印象を強く受けた.やはり,実際の自然をよく見ている人の話は,すごいと思う.
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「津波の影響で生物が危機にひんしているのは,それ以前の人間による自然改変によるもの」という話は非常に考えさせられる.
ただ,現状を克明に伝えたいという気持ちはとても伝わってくるが,全体的にまとまりがなく読みにくかった.
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2011年3月11日に東北を襲った巨大津波は、動植物の生態系も激変させた。著者は復興がままならぬ中でこんなことをやっていていいのだろうかという苦悩を抱えながら写真を撮っていたという。皆が人の被害に気をとられていて物言わぬ生きものたちに目を向ける余裕がなかったときに、記録をきちんと残しておくことは必要なことだと思う。改めて違う観点から今回の災害のことを考えることができたいい本でした。
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山形県を中心に活動されている写真家の永幡嘉之さんによる、東日本大震災の津波被災地の生き物たちの報告。
昨年の大津波では、砂浜や松林が消滅し、内陸にまで海水が到達した地点が数多く見られたが、報道は人間の生活が中心で(当然といえば当然だが)、津波被災地の人間以外の生き物たちの様子についてはほとんど触れられてこなかった。ときに福島第一原発事故の影響で立ち入り禁止区域に指定された地域における、ペットや家畜の惨状を伝え聞くことはあっても、それ以外の被災地における生き物の様子については、あまりに情報が乏しかった。
あれだけの大津波が各地を襲い、産業が壊滅的なダメージを受けたのはもちろんだけれども、では生き物たちはどうなったのか。生態系はどうなったのか。そうした被災地の生態系の現状を、本書は永幡氏の類稀なる観察眼を通して、事細やかに報告していく。
枯れ果てたクロマツ林で生き延びるジョロウグモ、ガレキが散乱する浜辺にひっそりと咲くハマナス、塩分濃度が非常に高くなってしまった内陸の水辺に、それでも生息しているトンボ、その塩分濃度に耐えることができず全滅してしまったカエルの卵。そして、川を遡上した津波によって塩害を受け立ち枯れた川辺の木々。
永幡氏はそうしたあちこちのフィールドを丹念にそして丁寧に調べ上げ、それぞれの被災地でどのような生き物たちが生息していたかということを報告している。そこでは永幡氏自身の手による生き物たちの写真も豊富に紹介されているのだが、その美しさには目を見張るものがある。
私はそもそも昆虫には疎く恥ずかしいのだが、本書を通じてこんなにも豊富で、美しい生き物たちが東北に生息していたのだということを初めて知った。
松島に生き残ったオオアオイトトンボ、野原となった住宅地に生えたセイタカアワダチソウに群がるセイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシ、かつて後背湿地だったところに水たまりができたことで何世代ぶりかに咲いたミズアオイとその水辺を翔ぶショウジョウトンボ。そのほかにも、ムスジイトトンボやホソミオツネントンボのような美しいトンボが被災地では見られたという。
こうした生き物たちを、今後どのように保護していったらよいのか。そして、こうした生き物たちが生きる生態系を、今後どのように守っていけばいいのか。
永幡氏はそのヒントも本書で提示している。
永幡氏の指摘によれば、近代の日本ではかつて砂浜より内陸に広がっていた後背湿地を田畑に作り変えることで、農用地を増やしてきた。とはいえところどころには後背湿地は残されてきて、それが生き物たちの「貴重な」生息地になってきた。そして、「平時」であればそれで問題はなく、あたかも生き物と人間は共存できているかのように見えた。
しかし、昨年の大津波のような事態がおこるとどうか。その「貴重な」生息地が津波によって破壊されてしまえば、回りには田畑しかなく、その地域の生態系は壊滅してしまう。そして生き物たちはその地域から姿を消してしまうことになる。大切なのは、ピンポイ���トで生息地を残すことではなく、広域的に生息地を残すことなのだ。
もし、ある生息地が津波で壊滅してしまっても、そのすぐ近くに別の生息地があれば、そこを拠点に生き物たちは生態系を築くことができる。しかし、ピンポイントの生息地しか残されていないのであれば、地域における生態系の復活は絶望的なことになる。
このような点も含め、本書は津波被害を生き物の視点から捉え直す格好の材料を提供してくれる。「復興」があくまで人間本位に進められようとしている中、人間と同じように震災被害を受けた生き物たちのことを、人間はどのように考えていったらよいのか。
震災以降の東北地方に自然の豊かさを取り戻すためにも、本書は大きな示唆をあたえてくれることだろう。
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参考になったブログをメモとして。
http://musentou2.blog.fc2.com/?m&no=90
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津波による被害の報告という内容以前に,ナチュラリストがどんな視点でフィールドとそこにする生物を見ているのかがよく分かって興味深かった.
読むまでは気付かなかったが,津波による物理的な力だけでなく,水圏の塩分濃度が高くなることによって,生息できない・卵が孵化しないといった影響が出ることが分かった.考えれば当たり前なのだが.
また,著者が本書の中で,「人間の開発(農業関係も含む)によって生息地がちりぢりになったことで,(そうでなければ移入によって回復したであろう)生態系の回復する見込みが低くなった」という点を何度も強調していた.津波自体は自然災害であるものの,人間活動が生態系の頑強性・脆弱性に大きな影響を及ぼしうることが示唆される.こういう問題は津波以外でもありそうで,人間活動が直接の引き金になっていないからOKとは単純には言えないのだと思った.
全体を通して,著者が観察にきちんと生態学的な考察を加えているのが好感が持てた.ニッチが空いたところに繁殖力の強い外来種が入ってしまうとか,移入によって生態系が保たれるとか,生態学の実践を図らずも読む事ができた.
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2011年3月11日の東日本大震災で発生した大津波により被害を受けた、東北太平洋沿岸部の生態系の変化を報告している。断片化した砂浜が喪失し、後背湿地が海水をかぶって塩水となり、失われた生き物が多数いることがわかった。また、復興を重要視するあまり、環境アセスメントが省略されていることもわかった。非常時だからこそ、冷静な視点と合理的な判断が必要だと感じた。
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津波の影響というとどうしても人間社会に対するものに目が行き、それは仕方が無いというよりは当然である。
しかし「ボランティアの方たちに後ろめたさを感じ」ながらも、自然環境への影響をきちんと調べた本書は傾聴に値する。立派な仕事だ。
自然が戻ってるように見えても、生態系はすでに変わっている。局地的な絶滅が起こったのだ。
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東北の自然は豊かと言われるが実は残っていたのは「わずか」であり細々と生き残り孤立していた
津波の塩害でとどめを刺され、避難できる淡水が近くになかったならば生き残ることは難しい
「油」は流れ去ったが「塩」は水に溶けいつまでも残った
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読み進めるにつれて、著者が被災地に配慮してあえてオブラートに包んでいる“本当の意図”がいろいろな行間から滲み出てくるような気がしてならなかった。
東北地方の海岸線には、防風や防砂、そして景観維持目的でクロマツが多く植えられていた。緑が濃いその景観は、一見、豊かな自然が残されているように見える。しかし、本当の自然界-東北地方に本来生息すべき動植物の眼から見た場合、クロマツだけが勢力を広げ繁殖するのは「人間の作為」によるしかありえず、ある意味自然に反した姿だ。
「多くの動植物の絶滅が心配される状況は、津波だけによって引き起こされたものではなかった。『この程度なら大丈夫』という小さな開発が重ねられた結果、池や湿地の孤立が極端に進んでいたからこそ、津波による生態系への影響は深刻なものになったのだ。」(本書P33)
つまり、東北の自然や生態系の破壊は2011年3月11日の巨大津波によって激変的にもたらされたのではない。護岸壁、道路、水路などのコンクリート化といった“完全破壊”のほか、湿地の水田化や砂浜へのクロマツ植樹などの、一見自然が残ってるように見える“ニセ自然”も含めた、人間の手による自然環境の変化(=破壊)が手を変え品を変え進められてきた結果で、津波は単なる1つの契機に過ぎないと言えないだろうか?
もちろん、著者は人間の生活実態を無視してまで動植物を守ろうとする、よくペット愛好者とかで見られる生類憐みの令的な生き物偏愛主義者ではない。著者が生息地に入って写真を撮る行為すらも、一種の生息環境の破壊行為にほかならないはずだし。
しかし、人間が自分の生活を維持するために犯している「生態系の破壊行為」という事実を直視せずに、津波による破壊の事実に驚いてるだけでは、もし津波が起きていなかったとしても、遅かれ早かれ人間の手によって生物たちの生きる場が失われてしまうという恐れから目を反らす「楽観論者」に陥ってしまう。
「いま、…津波跡地に大規模な公園や施設、植樹による森つくりなど、新しいものを作る計画が次々と耳に入ってくる。だが、新しいものを作ることでもたらされる「物質的豊かさ」と、生まれ育った場所の自然の風景に懐かしさを感じる「精神的な豊かさ」とは、必ずしも共存するとは限らない。…復旧あるいは復興の名のもとに進む開発によって、土地の個性ともいうべき地域の自然環境が失われ、画一的な公園に変わりゆくとすれば、地域で暮らしてきた人々の生活から失われる「精神的な豊かさ」もまた大きい。」(本書P206)
これを読んでも、著者は人間の生活を脇に置いて生態系を守れとは言ってないのがわかる。著者が求めるのは豊かな生態系と、それによってもたらされる人間生活の豊かさだ。
この本に収録されたトンボ、カエル、ハマナス…の写真は本当に私の心を豊かにしてくれた。
(2013/1/27)
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東北を襲った巨大津波は生き残った動植物の生息地も激変させた。震災直後から生きものたちの消息を追って奔走した著者が問う「真の復興とは」。