紙の本
かげろうの日記遺文
2023/07/14 21:42
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投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
藤原兼家の正妻時姫と紫苑の上(右大将道綱母)、そして町の小路の女「冴野」の三人の女を描いている。冴野については紫苑の上が『蜻蛉日記』に残した少しの記述しかなく、そこから作者が想像を膨らませている。作者は母親と幼くして別れており、そこからきている女性への思慕が作品に反映されている。
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平安三美人の一人・道綱母と彼女を嫉妬地獄に突き落とした<町の小路の女>がW主人公の室生御大版『蜻蛉日記』小説バージョン。
妾妻ふたりは絶妙な距離感で張り合ったり共感したり同情したりと、はっきりいってよきライバルというふうに描かれているため、どろどろした愛憎ドラマ的ないやらしさは無い。
どちらかといえば時姫のほうが表面的には正妻としての格を保っているが、その実根性悪の冷酷な女として設定されている。
兼家はすがすがしいほどのゴーマン男だが、なぜか憎めない・・・
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「嘆きつつ独り寝る夜の明くる間はいかに久しきものとかは知る」(右大将道綱母)
平安時代、右大将道綱母の記した『蜻蛉日記』を題材に、夫・兼家の女性遍歴に苦しむ女性たちを描いた外伝です。
当時の女性の実名は後世には知られていないため、犀星は右大将道綱母に「紫苑の上」という名を与え、また、『蜻蛉日記』で兼家の遍歴相手の一人でわずかにしか描かれなかった「町の小路の女」を主役級として、「冴野」という名を与えて、それぞれの愛情の葛藤を平安文学さながらの巧みな言語表現にて物語を紡いでいきます。
正妻・時姫のもとには3人の子供。美しいが文学の才が邪魔をして心身ともに兼家に全てを開かない紫苑の上。第3の女で身分は低いが兼家を全て受け入れてくれる冴野。そして、ふらふらと女たちに癒しを求め歩く兼家。それぞれの昼ドラのような愛情葛藤劇が格調高く進行していくのが面白かった。
最初は当然ながら?「紫苑の上」が中心に描かれていて、題名も題名だけにてっきり主役かと思っていたら、途中から「冴野」に比重が移り出し、それからまた、「紫苑の上」に戻ったりと視点の変更も違和感なく進んでいくので、それぞれの心情の移ろいを高次の視点から眺めているような気分になります。犀星自身の解説によれば、「冴野」の人物設計は自分の生母への思慕と、自らを助けてくれた女性たちの思いを込めたとのこと。
それにしても、兼家の遍歴の心根はわかるようなわからないような・・・。(笑)最終章は、これまでのリアル恋愛物路線?とは一転、平安文学のような展開でこれにはびっくりしました。(笑)
まるで平安時代の文学にどっぷり浸っているかのような味わいの現代文学作品です。
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作者の、美しい女性への執着が結晶していて、描写されている時代にもかかわらず読みにくさを全く感じなかった。
ファントムな結末も好み。