紙の本
組織の壁に立ち向かう孤独の魂、あの横山秀夫の完全復活だ
2012/12/24 21:49
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よっちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
『半落ち』 『クライマーズ・ハイ』のエッセンスをさらに濃厚に味付けしたフランス料理のフルコースは腹にずしんとこたえます。
昭和64年にD県警で起きた少女誘拐殺人事件は「64ロクヨン」と呼ばれている。身代金2千万円が奪われ、少女が死体で発見された事件は未解決のまま、14年が過ぎた。
三上警視は刑事部・捜査2課の次席であったが、思いもよらぬ異動で、警務部広報官に追いやられた。鬱々とした毎日を送っている。一方、一人娘が行方不明になり、妻が精神的に追い詰められており、家庭は崩壊寸前にある。
捜査を担当するたたき上げの集団こそが県警の生命であるとプライドを持つ刑事部(荒木田部長)。管理組織の中枢で警察庁に近い警務部(赤間部長)。現場対管理、両者のいがみ合いは宿命的なところがあるようだ。もともと刑事魂を誇りに生きてきた三上だが、上司にあたる今の赤間・警務部長は本庁の顔色を見るだけのキャリア組で、広報には無理解ときている。記者クラブとは持ちつ持たれつで向き合いながらも、警務部と刑事部の板ばさみになれば、記者たちとは喧嘩腰もあれば屈辱にも耐える、とにかく身を切られるような葛藤の毎日である。
交通事故の加害者を匿名にした問題、留置場内での自殺に看守の監視ミスがあった問題など、警察の隠蔽体質を糾弾する記者クラブとこれに誠実に対処しようとする三上とのせめぎ合いが濃密に描かれ、その凄まじい迫力に圧倒される。元新聞記者である著者の面目躍如である。わたしは民間企業で広報が長かったことから新聞記者とはいろいろな付き合いもしたし、数多く記者会見の設営も経験している。広報担当と新聞記者とが四つに渡り合う場面をこれほどの臨場感で描写した小説にはこれまでお目にかかったことがない。
そしてどうやら「64」には抜き差しならぬ捜査段階でのミスがあったらしい。その隠蔽が歴代刑事部長のトラウマとして引き継がれてきたようだ………と三上は感づいたが何があったかはわからない。事実が暴露されれば、D県警刑事部が壊滅するのは明らかである。もしや、警務部は警察庁の意を受け、刑事部壊滅のシナリオを進めているのではないか………と刑事部上層は疑心暗鬼に陥る。こうした中、「未解決64」捜査に発破をかけるため警察庁長官が被害者遺族宅を緊急訪問することになった。赤間部長から無理難題を押し付けられ、広報の責任は大きい。ところがこれをきっかけに、刑事部と警務部との抗争はD県警の屋台骨を揺るがすまでに激烈になり、広報室は刑事部からの情報がシャットアウトされ、広報室と記者クラブの信頼関係も完全に崩壊した。そして「64」を模倣したかのような新たな誘拐事件が発生する。
三重・四重の対立構図があり、どこに真実があるのかが不明、広報官としての軸足が定まらない苦悩。正義はどこにあるのかとの迷い。刑事部からも警務部からも見放され、記者クラブからも追放された三上である。しかも娘からの連絡は途絶えたまま、妻との会話はない。三上は絶叫する。わたしの胸は張り裂けそうになった。
サラリーマンにとってまさに絶体絶命の崖っぷちに立たされた男の苦悩をわがことのように感じ、さぁどうすると、共にもだえる。
横山秀夫の描くドラマの背景に共通してあるのは個人の前に立ちふさがる冷酷な組織の論理である。そこで著者は主人公に徹底したストレスをかける。にもかかわらず、並々ならぬ苦闘の中で、自分の意志を貫いていく。いや、意地かもしれない。やせ我慢の矜持か。この男たちの熱い戦い描くのである。
わたしにとって、そういう男たちに共感できる世代であったことがうれしい。
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投稿者:テラちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
そういえば昭和64年は、天皇の崩御があって、1週間しかないのだと、読んでいるうちに気が付いた。そのタイトルからは想像しにくいのだが、この1週間の間に起きた誘拐事件を扱いながら、警察内部の問題点も洗い出し、興味深い書となった。佐々木譲、今野敏両氏とともに警察小説の三羽烏と称される横山氏だが、実力では一番だと思うし新聞記者を主人公に、日航機墜落事件に材を獲取った「クライマーズ・ハイ」など、警察もの以外でも良質の作品を書いている。また、納得がいかないと出版しないし、審査員の落ち度を批判して直木賞に決別するなど、元新聞記者として、物書きとしての矜持を保っている点では、とりわけ立派だと思っている。
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投稿者:aki - この投稿者のレビュー一覧を見る
昭和最後の年の事件で興味があったが,今の時代と捜査の内容が違っており,何故この時期なのかが理解できなかった。
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いやぁ~、久しぶりに横山節に浸りました~。誘拐がテーマとは聞いていたんですが…それが、こんななる!?ってくらいの横山ワールド!!やっぱり大好きです。
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すっごく面白かったです!
濃厚、濃密、重厚、凝縮・・・といった感じでした。
上司との関係とか
自分の仕事とはなんぞやとか
夫婦の在り方とか
家族の問題とか
もちろん根底にある未解決誘拐事件も
二渡さんの謎の暗躍も
みんなみんなぎゅっとつまっています。
待ってたかいがありました。
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横山秀夫の本当に久し振りの作品で本当に満足しました。
本からも臭いそうな程の人間臭さが横山作品の醍醐味ですよね。
自分に似ている娘を持った父親としては、もうひとつの問題も解決させてあげたかった。
出来ればまた次が読みたい。
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昭和64年の未解決誘拐事件に絡んだ刑事部と警務部の確執の中で、広報官の三上は・・・
コレ間違いなく今年の一番だわ。
序盤から、組織の中でのそれぞれの正義、矜持がぶつかり合っていく濃密なストーリーにグイグイ引き込まれたし、そしてラストは心に沁みた。
こういうの待ってたって感じ。
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これがとにかく超おもしろかった!今年読んだ中では「地の底のヤマ」と並ぶが、人に勧めるならこちら。
刑事部から警務部へ異動した三上。情報をもらえぬ広報官という立場で、地元新聞の記者と渡り合う日々。そんな中、警察庁長官がロクヨン事件の被害者宅を訪問することに。誘拐犯人を見つけられず、少女が殺された64事件。何か裏がありそうだと訝る三上だが、ぶら下がり会見を行えるよう、とりあえず通常業務に取り掛かる。途中、当時犯人の電話を録音しそびれ、その上隠匿したという64事件の闇に出くわす。さらには、長官視察の際に、署長を東京からのキャリアに差し替えるという発表があるという。
刑事に戻りたいという心と広報官であるという自負に、三上は押しつぶされそうになる。何より、三上家は娘あゆみが家出をしたままで、不安定な妻を抱えている。様々な要素が絡まりあい、再び64事件になぞらえた誘拐事件が発生するー。
記者との対立シーンでは、ぐっと熱くなるものがある。
一息で読んでしまう勢いと、男たちの熱い心、上層部の汚さ…一緒にハラハラし、手に汗握り、楽しめる作品。
横山作品では文句なく一番。
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1/3くらいまでは話がジリジリと余り進まない感じを受けたが、途中から怒涛の展開。
一つの事件は解決したものの、その先に待ち受けているものが更に大きそう、そしてもう一つの事件は未解決……という、今まで読んだ横山作品では一番「スッキリしない終わり方」かも知れない。
でも、これはこれで一区切りついているので、気持ち的には気持ち悪くはなかった。
なので、それ程切望してるわけではないけれど、今後、「その先に待ち受けているもの」と「もう一つの事件」の話を書いてくれたら嬉しい。D県警の話なので、期待してもいいのかな。
これまで読んだ二渡目線の話では、彼自身が様々な事に悩み、惑い、疑心暗鬼に陥り、だったものが、今回の三上目線からだと、二渡がとても腹の読めない不気味な人物になっていて、こういうところが私が横山作品の好きな理由の一つだな、と改めて思った。
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〈内容〉昭和64年に起きたD県警史上最悪の誘拐殺害事件を巡り、刑事部と警務部が全面戦争に突入。広報・三上は己の真を問われる。究極の警察小説!
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横山秀夫さんの7年ぶりの新作!
D県警シリーズの最新作。
このシリーズは警察の管理部門に当たる人が主人公になるのだが、
今回の作品では、警察の広報官である三上が主人公。
過去におきた誘拐殺人事件をめぐっての 『刑事部と警務部の対立』 や、マスメディアとの 『匿名問題』 など見どころはたくさんある。
記者との立ち回りとか、1人ひとりの人間がすごい魅力があって
この人のお話はやっぱりおもしろいなーと、思いました。
泣くもんか!と思って読んだのですが、やっぱり感動して泣いてしまった。
ページ数は多いですが、展開の熱さにすぐ読めると思います。
重厚な人間ドラマを見てみたい人、本で感動したい人はオススメです!
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面白いことには面白いが、何か物足りない感じ。
去年のこのミス1位のジェノサイドには劣るような気がする。
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数年おきにとんでもない爆弾を抱え続けるD県警w。
シリーズ4作目(というか4.5作目?)ですよね?。(文庫「陰の季節」「動機」「顔」)。エース・二渡警視の同期・三上広報官が主人公。
謎は重層をなす。分かった!と思った自分を恥じる瞬間が何度もあるはず。横山秀夫に特筆すべきは、被害・加害者たる市民の姿がほとんど登場しないこと。私の知るリアルな警察官はこれほど内向きでなく、ふたことめには市民を口にした。
逆に、自衛隊か警察かというほどの官僚機構の孤独や苦悩、自分と社会の利益を天秤に乗せるよう迫られる行政官の心情を書かせたら、誰よりおもしろい。人間は機械ではないのだ。ただちょっと法に縛られている。個人でどうしようもない慣習に縛られているだけ。
登場人物を図にしつつ、一気に読了するよう勧めます。組織の力学が通底にあり、そこを理解しないとおもしろさが薄れる。人物関係図があればいいのだけど。ミステリーだけに難しい注文。
何のため誰のための仕事か。自らの胸に問うたことがあるはず。
因みに。描かれているマスコミ像はやや古いかも。大手メディア報道よりネットの名も知らぬ人の情報のほうが確度が信頼される時代。書かれているような勘違いの正義感を振る舞う記者はいない(だろう)し、情報の受け手の利益を考えるマスコミであってほしいです。その警察発表を載せる正義がどこにあるか。それは常に問われなければならない。
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刑事部と警務部の板挟みにされる広報官。昭和64年の未解決事件に隠された事実と並行して展開する娘の失踪がどうなっていくのかグイグイ引きつけられて即読了。三上報道官の正義感と人間味溢れる描写は魅力。
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第2の誘拐事件からのスピード感ハンパない!流石!
でも前半はちょっと中だるみするし、登場人物多い上に対立関係ごちゃごちゃしてるから、ページ頭に相関図入れてほしかったな。
あゆみちゃんもだけど、日吉も解決して終わってほしかった。