紙の本
現実と仮想空間との融合が実に巧み。
2022/05/29 00:08
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投稿者:ナミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
現実と仮想空間との融合が実に巧み。初めは仮想空間内部での異常事態だが、それは徐々にエスカレートして現実と交差し、やがては時間や場所までが交差していく。そして30年後にタイムスリップしたらしい中国のエース・パイロットとの激しい格闘戦へと誘導されていく経過は幻覚に誘い込まれてる感覚。そしてその緊張感を高めているのが日中戦争という最悪の日中関係という大胆な設定。決してあり得ないとは言い切れない昨今の状況ゆえに尚更緊張感は増してくる。ただ、多くの興味深い事件が謎のまま積み残されたのが残念。続編でそれらの課題を明らかにして欲しかった。
小説の分野としてはSF空戦ものとなるのかな。あと、評価は初めは5点と考えたが結末の曖昧さというか積み残し課題の多さから、残念な思いも含めて4点に格下げ。ゴメンです。
<蛇足>
本作の初出は2006年9月なので、著者がくも膜下出血で亡くなる2008年2月10日の約1年半前である。もし生きていたなら、父母が殺されメモリースティックが奪われた事件と妹・絵理が行方不明となった事件の真相。絵理の行方を追って中国に深く潜入した奈良岡勝則の結末など、積み残された事柄の結末を是非書いてほしかった。あと些末ながら、
藤代紗貴子&藤代真琴一尉姉妹との恋愛感情の結末も知りたいですね。
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航空自衛隊の腕利きイーグルドライバーが、極秘シミュレーターの影響で未来世界の空中戦に巻き込まれる。
現代航空戦+SF???
このテの作品で過去に行くモノは多くあれど、未来へのタイムスリップって珍しくないか?
やっぱ、未来の兵器をリアリティを持たせて描くのはムズカシイのでしょうね。
その点、この作品はそのあたりが巧みだ。
主人公が「行きっぱなし」ではなく「行ったり来たり」するところが、ちょっと斬新か。
作者の高野裕美子さん、数年前に急逝されたのですね。
じつにもったいない。
惜しまれます。
10年ぐらい前に買ったまんま読んでない「マリン・スノー」もあったりするのですが・・・。
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読みだしてから、単行本の際に既に読んでいたことに気がつきながらも最後まで再読。当時も確かにホットな地域ではあった尖閣が今ではホットスポットであり、先を見越した作品であったことは確かではあるが、今であれば、近未来としては本作の様な小競り合いだけで終わらない、もっと悲惨な未来が描かれたであろうことは想像に難くない。ホットな話題としては話は面白いものの、残念ながら少々、消化不良であり、結末も歯切れが悪く、多く張られた伏線としての家族の惨殺とか、美人姉妹との恋の行方など、話として収斂しないまま、尻切れトンボ的に話が終わってしまう。ひょっとして続編などを考えられていたのかもしれないが、残念ながら物語の行方は分からない。寡聞にして知らなかったのだが、作者が急逝していたということは残念である。
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舞台が尖閣諸島と、時節柄まさにホットな場所です。
普通の、戦記ものかとおもいきや、
SFチックな設定もあり、ちょっと面食らいます。
まぁ、ファンタジー要素は少ないので、
まだ許せますが、それでも、ちょっと違和感。
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本書が書かれたのが2006年、既に中国経済の成功は彼の国に軍備増強による軍事大国化を実現させつつあった。作者は、ホット・スクランブルというシュミレーターとタイムマシンを合わせたような架空の装置を生み出し、2036年に誘う。そこは、中国と日本が領有権を係争している東シナ海、まさに命をかけた国家間の小競り合いから戦争へ火が燃え広がる直前のタイミングにタイムスリップしてしまう主人公の辰巳一尉。テーマに対してアプローチがあまりにフィクションすぎて、ストーリーの収まりがよくないが、本書のテーマが中国の「一帯一路」と称する国際法規完全無視の覇権主義なだけにやむを得ない選択だったように思える。現実世界では中国の覇権主義が経済及び軍事の面での成長を背景に現実味を帯びてきた。初刊から10年を経た2016年1月、南シナ海では関係各国からの批判を物ともせずスプラトリー諸島の埋め立てと実効支配をすすめ、いくつもの島に飛行場を建設しており、遂に航空機が着陸した。国力を背景に傍若無人に振る舞う中国により、本書に作者が予言した未来が出来しないことを願うばかりである。