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筆者は「失われた10年」からアベノミクスに至る日本経済の長くて苦しい経験を理解するためには、価格メカニズム(為替レート、長期金利などのシグナル)が正常に作動しなかったからであると言う。であるならば、今後、強力な金融緩和を実施することによって、デフレ克服と円高是正を達成することの意義は、「誤った価格メカニズムを正常な状態に戻すこと」これである。
第2章ではアベノミクス成功の条件を上記の観点から、輸出が重要、つまりはアメリカの経済政策が成功することが、非常に重要なポイントであることを指摘し、後半ではアメリカの政治と経済の複雑なリンケージに話が及ぶ。もちろん、それは日本経済の復活の鍵をも握っている。
第3章は実際に通貨安から回復への道を辿った事例を検討しつつ、日本がどのような政策を採るべきかに実証的な分析が加えられる。1998年危機の際に日本はなぜ徹底的な金融緩和をおこない、円安に誘導して回復への道を辿れなかったのか……という反省を踏まえつつ、日銀は長期国債の買い切りオペを実施し、円安誘導をおこなうべきと結論づける。
そして、第4章。「「デフレの克服」は、経済を普通の状態に戻し、健全な常識に基づいて経済政策がなされるようにするための必要な一歩である」は、まさにその通り。そしてこのことは日本経済の本当の「痛み」が何であるのか、それをどう克服していかなければならないのかの第一歩でもある。
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論点が明確だし,説明もシンプルでわかりやすいです.日本経済,財政状況に関する情報は巷にあふれていますが,今回腑に落ちたということも結構ありました.こういうかんで含めたような しかし嫌味でない説明が どこか当事者意識に欠けているようにも思われる我々一般国民には必要だと思います.技術系の自分にも非常に読みやすかったです.
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不動産バブルの崩壊、阪神・淡路大震災、東日本大震災のような国家危機が起こった場合に決まって「円高」が起こる。
この現象は海外陰謀説等がささやかれたり、私にとっては大きな謎だった。この原因が海外との事例比較などで、日本経済の置かれた特殊な状況からこの謎が解き明かされる。まるで推理小説を読む醍醐味が味わえる。犯人は・・・。
また、日本の経済学者や政府はこのような現象をどう見ていたのか?
本来「価格シグナル」はその国の経済の実態を発信するが、日本では「価格シグナル」は何もかも滅茶苦茶であるという。
①為替レートを見ていれば、輸出のチャンスがつかめない。
②国債金利だけを見ていれば、財政改革のチャンスがつかめない。
③実質金利を見ていれば、投資のチャンスがつかめない。
まさに三重苦であり、それがデフレに繋がっていくプロセスもよく分かる。
アベノミクスで今後強力な金融緩和を実施することによって、デフレ克服と円高是正を達成することの意義は、誤った価格メカニズムを正常な状態に戻すことである。もしかしたら、正常な状態に戻すことは、日本経済にとり、かえって不幸かもしれない。・・・ようするに、手遅れかもしれない。
デフレの克服に成功すれば、長期国債の金利は、日本の財政の正確なバロメータになる。ところがそうなった途端にメルトダウンの危機が・・・
しかし、最後にはもう少し楽観的な政策提言を書いているので、ご安心を。
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通貨政策等、いろいろな立場が乱立しがちではあるものの、この人の解説する背景は初めて触れる視点でもあり興味深かった。時代考証が正確であれば、今までで一番納得のいく議論だったと思う。
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経済危機が起こるとなぜか通貨高になってしまう、特殊な「円」について書かれた本。アベノミクスが成功するための条件などにも触れられている。ポジショントークではなく、本質が書かれている。若干難しかったが、理解もできた。
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日本が経済危機や災害などの困難な状況に陥ったとき、なぜ円が高くなるのかの分析をはじめとして、少々私には難解な部分もあったが、ためになった。
ただ、日本の復活やアベノミクスの成功は、世界及びアメリカの政治や経済の動向に大きく依存しているとういことで、輸出を中心とした他力本願となってしまう。
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円の特殊性、危機で円高となる事。
あわせて、アベノミクスの成功の条件1.円安2、実質金利(名目金利-インフレ率)が日本の財政再建のために低下3.諸外国の好景気が必要。
が述べられている。好著。
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「アベノミクス」の成否を語る本は現在数多い。
本書もその一つだが、経済の全体像というよりは、ごく一部のみを強調しているように思えてしかたがない。
確かに「輸出」は日本経済の死命を制する重要なアイテムだが、それがうまくいけば「アベノミクス」は成功するとはちょっと安直すぎはしないだろうか。
「マクロ経済」と「直近の経済データ」をまぜこぜに並べたような構成や、「アメリカFRB」の動向。「ハイエク」などの経済学者の学理などがいきなり飛び出す内容もちょっと戸惑う。
「輸出主導型経済への転換」などは、危機におちいったどの国でも語られることであり、現にアメリカや欧州などは金融をじゃぶじゃぶに緩めて通貨安をはかり、輸出を増やそうとして躍起である。
世界の輸出入は合計すればゼロになるわけだから、日本のみが輸出を増やすことは困難なのではないか。
本書は、経済学的には残念な本であると思う。
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【「円安」こそ、アベノミクス成功の鍵だ!】「デフレ」以上に「円高」こそ長期不況の真の原因だ。危機に際して円高が進むメカニズムを解明し、日本経済復活への方途を呈示!
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いつもの事ながらわかりやすく為替と金融緩和、財政政策のことが解説してある。
著者の主張も適度に入っているところが良い。
自分の資産運用にも役立てたいと思っている。
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ちょくちょく為になる考え方はあったものの、ちょっと難しい…為替を学ぶ本というより、マクロ経済の本に近いかも。
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経済学者が、通過としての円の特異性を述べたもの。近年起きた通貨危機や不況時のデータを基に、バブル崩壊によって円安とならない日本の状況を説明している。通常、各国経済は、危機によって価格シグナルが働き、通貨安によりV字回復するはずであるが、日本のような債権国では危機による投資の海外逃避よりも、危機に対応するための海外投資の国内帰還が大きく、それに対する投機と相まって大幅な円高を招いた。これが危機による痛手をいっそう深め、回復を遅らせたと述べている。通貨の動きの一端を理解できた。
「政府が日銀に国債を買ってもらって、国債金利の上昇を妨げるとともに、代金として受け取った「円」を公共事業に使う(国債のマネタイゼーション)」p20
「2013年1月に、欧州などの一部の国々が、日本に「通貨戦争」という非難を浴びせて以来、「円安」を目標にすることは政治的にタブーになっているし、為替レートを直接に操作する政策が国際社会で黙認される可能性は非常に低くなっている」p23
「多額の経常黒字と対外純資産こそが日本経済の置かれた特殊な状況なのだ」p42
「「正しい価格シグナル」とはどのようなものか。経常赤字国で金融危機が発生した場合、国内の貸し出しがストップして、国内の投資需要も、耐久消費財需要も激減し、不況になる。ここまでは、経常黒字国も、赤字国も同じだ。ところが赤字国では、資本逃避の発生によって為替レートが大幅に自国通貨安になる。それで激減した国内需要の代わりに、海外の需要、すなわち輸出に依存したV字回復が可能になるのだ。これに対して、経常黒字国の場合はまったく違う。ここでも金融危機が起こり、国内需要が崩れると、国内企業は輸出に活路を求めようとする。ところが価格シグナル、つまり為替レートは「ここもダメだ。よそを探せ」という誤ったシグナル、つまり「円高」という情報を国内企業に伝達する。これでは不況が長期化して当然だ」p45
「構造改革とは通貨安である」p219
「政府が目指すべきなのは「輸出マイナス輸入」として定義される「外需」を成長させることではなく、単純に「輸出」を成長させることだと述べてきた」p245
「(輸出の得よりも、輸入の損が大きいとしても)円安は日本経済にとってプラスである。なぜなら、日本は250兆円の対外純資産を持っているからだ。10%の円安で、対外純資産が25兆円増える。単純な数字の上では、これが「円安」の一番のプラス効果である」p246