紙の本
生を授かった時から、死に向かって生きる。
2020/11/14 14:42
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投稿者:びずん - この投稿者のレビュー一覧を見る
言葉にすると未来がないとか暗いイメージを持つけれど、至極当たり前のこと。例えば身近な人や憧れの人の死に直面した時に、そういうことを考える機会を与えられると思う。そして死と向き会ったことのある人は、生を全うしようとする。じゃあ死んだ後はどうなるのか。少なからず生きている人の中に残って、色をつけたり寄り添ったりするのだと思う。勇気が必要だ。小春とお父さんの関係がとても良かった。
紙の本
R-18文学賞出身の作家さんは、不思議と相性がいいのです。
2018/11/11 22:00
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投稿者:たけぞう - この投稿者のレビュー一覧を見る
R-18文学賞は、開催されてから日が浅いため
受賞者も少ないです。たまたまかもしれませんが、そう考えると
R-18文学賞出身の作家さんとはご縁があるようです。
これまで出会ったのは、豊島ミホさん、山内マリコさん、窪美澄さん。
赤裸々な心理描写や、痛いほどのコンプレックスを
あらわにする作品に当たることが多く、惹きつけられてしまいます。
彩瀬まるさんは、東日本大震災の時のことをまとめた
「3.11被災鉄道からの脱出」や、「あのひとは蜘蛛を潰せない」の
書評で気になっていました。
新刊情報を見つけて借りてみたのですが、R-18文学賞出身と
知ってびっくりしました。
なんというか、タイトルに雰囲気がにじみ出ていたのでしょうね。
五篇の短篇集です。
人物設定を使い回しているので、連作的な部分もあるのですが、
強く意識しているわけではなさそうです。
物語の世界が統一されているので、こういう使い方もいいなと
感じました。
骨を彩るなので、物語のポイント的に骨の描写があります。
ちょっと無理やり感があるのですが、物語全体の雰囲気は
いい味を出していると思います。
妻に早逝された津村。娘の小春と二人暮らしです。
数年ぶりに妻の夢を見ます。
襖を引くと、和室に妻の朝子がいて、押し入れから冬服の
詰まった段ボールを取り出しています。
衣替えです。
ただいまと声を掛けると、妻は、黒目がちの目を輝かせて
おかえりなさいと笑います。手伝おうかと言う津村に、
だいじょうぶと答えるような、どこにでもある日常。
ふと違和感にかられ、妻の右手を取ります。
飾り気のないしっとりとした小振りの手には、しかし、小指が
一本欠けていたのでした。
朝、小春に夢のことを話すと、お母さん、パパと相川さんの
仲を妬いて出てきたんじゃないのと返事が返ってきます。
タイトルは「指のたより」。
津村の深層心理を夢にのせて描く作品です。
他には、高校時代の女子の世界や、家族の中のバランスの
ゆらぎなど、女性の心理面に重きを置いた作品が中心です。
しっとりと読んでいく作品集でした。
紙の本
感情の機微がすごく丹念に捉えられている
2015/03/26 11:17
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投稿者:september - この投稿者のレビュー一覧を見る
女による女のためのR-18文学賞の出身者は外れないな。今までに読んだことのないタイプの風景。感情の機微がすごく丹念に捉えられている。でも彩瀬まるさんの評価はもう1冊読んでから。
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読んでいて素直に好きだな、と思える作品。彩瀬まるさんは選ぶ言葉が繊細なのに強い。毒っ気がないから読んでいて素直になれる。
最初一話完結式の、一話一話に出てきた脇役たちを次々と主人公にしていくよくある連作短編かな、と思いがっかりしました。それは一章めがとてもよかったから。この親子の物語をもっと読みたいって思ったから。
妻を早くに亡くし、男手一つで幼い娘を育て上げ、娘は中学生になった。新たな恋の兆しもある。その相手は弁当屋の女で少し病のにおいのする女。ずいぶん長い間見ることがなかった妻の夢をたびたびみることになり、出てくる夢々のなかで妻の指の骨は欠けてた。欠け続けていった。
第二章ではその弁当屋の女がかたりてとなり、第三章では弁当屋の女の旧友、第四章では弁当屋の女の旧友がふらりと旅に出た土地で出会った若い女の子とネット上で話をする男の目線になる。
第三章あたりで、いい話なんだけどもう第一章の親子たちは出てこないのね、と思っていたら第四章のネットの男の上司として復帰! ラストは娘の小春目線で話が進んで行く。よかった。まとまりかたが良かったし、骨というエッセンスの散らばし方が見事だった。骨をこんなに儚く美しく描写するなんて、小春ちゃんの気持ちわかるな。かわいそうがらないでほしいのに、当たり前なことに妬み、普通になれない自分への腹立ちもどかしさ。
とてもいい小説でした。
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骨に刻まれる記憶がある、という。
時に黒いしみとなったそれを嫌い憎み目をふさぎ、時に骨を飴に置き換えその甘さにうっとりする。誰にも触れて欲しくないその記憶を、それでも誰かに覚えていて欲しいと願う、そこにあるのは矛盾。
傷となったその記憶をなかったことにして生きていくことはできないけど、傷を丸ごと包み込んでそっと頭を撫ぜてくれる誰かの温かい手があれば、きっと生きていける。生きていることを受け入れることができる。
この一冊が、骨の傷の痛みに苦しんでいる誰かの頭を撫ぜてくれる手になればいいな、と思う。
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瀧井さんの帯の言葉、彩瀬さんはほんもの、に強くうなずく。
じんわりとしみこんで、一冊読み終えたとき、一周めぐった物語に、ため息が出る。ぽっかりした気持ちに寄り添ってくれる、大事にしたいお話だと思った。
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とても良かったです。
彩瀬さんの作品は『あのひとは~』で凄く良いな、と思っていたので、新作が読めるのを楽しみにしていました。
作中の登場人物たちが緩やかな繋がりを見せながら綴られる5編の連作短編。
物語の中で象徴的に描かれる「骨」が非常に印象的。
繊細に紡がれていく言葉の連なりの静寂を破る、ピリッとした僅かな痛みを伴う苦味の魅せ方が巧いなぁと。
彩瀬さんの言葉選びのセンスの良さと描写の美しさがとても好みです。
銀杏の葉が落葉するあのシーンには思わず感嘆の溜息が出てしまった。
今後も注目していきたい作家さんです。
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とってもいい本だった。
特に、ハライソのラストがよかった。
p164
こういう相手が彼氏だったら、本当にいいよね・・・。
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http://tacbook.hatenablog.com/entry/2013/12/23/224736
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大きな波はないけれど、心のちょっとざらついた部分にちくちく刺さる小説でした。
何かが欠けている人達を描いた、短編連作。
それって、人として当たり前のことなのかもしれないけれど、赦して受け容れるのは苦しいもの。
普段仕舞いこんでいる感情を揺さぶられました。
特に何も解決しないけれど、優しく頭を撫でてもらったような読後感でした。
表紙にも使われているイチョウの描写が眩しくて、ナイスな演出でした。
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一人ひとりがそれぞれの思いを抱えていきている。
静かにあったかいものがたり。
私も骨がとけているかもしれない。
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5編からなる連作短編集。
次々に主役が変わってゆく形。
一番良かったのは『ばらばら』しっかり者でいつも友達の輪の中心にいるような玲子。
でも幼いころから抱えて来たものは大きかった。
両親の離婚、母の再婚、様々な名字を経て玲子の中に渦巻く思いが痛々しい。
私とは全く違う環境なのにまるで玲子と同じ境遇のような気持ちになるほど表現がリアルで驚いた。
中学生にしてクラスメイトで宗教の敬虔な信者である葵に出会い、心の成長を見せる小春の話『やわらかい骨』も良かった。
自分とは違う他者を認めることの正しさや難しさを想う。
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とても好き。自分や周りの人の欠陥・喪失をあたたかく見守り寄り添いたくなります。最後の描写にふわっと涙が出てきて、幸せな気持ちで本を閉じました。
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前から読みたい読みたいと思っていた彩瀬まるさんの単行本。
リレー方式の短編集。何かをなくした人たちの、かつていた風景と今の風景を交えながらゆっくりすすむ時間。千代紙やお祈り、クラシックが彩瀬まるさんらしいなと思いながら、どんどんとまらずに読んだ。
哀れまれること、相手に理解を押し付けること、夢に見ること。亡くして残された人たちの悲しさは、人それぞれ。
見せてあげたかった景色を、最後に親子が共有出来た場面はわけもわからず涙があふれた。
もう一緒には見れないとしても、見せてあげたい。そんな景色をこれから先たくさん見ていけたら良いな。
すごく大事に、またいつかゆっくり読みかえしたい。
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自分に葛藤して生きている人達を描いた連作短編。むちゃ良かった…読み終わるのが勿体ないくらい。美しい文章と繊細な心理描写。ラストの秀逸な展開が素晴らしい。連作としての繋がりも上手いし読み応えがある一冊だった。今年の最後にこの作品に出会えて良かった。