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紙の本
演劇の力
2016/07/22 15:51
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Carmilla - この投稿者のレビュー一覧を見る
今年4月、80歳で亡くなった蜷川幸雄が遺した自伝・演劇にまつわるインタビュー、演出した舞台公演のプログラム案内で構成される大著。舞台稽古の時、彼は演者を厳しくしごき、時には面前で罵倒することもいとわなかったが、同時にその演出スタイルは、海外演劇界から高く評価されていた。その独特なキャラクターは、生来の人見知りで、友だちといるよりも一人の世界にふけることを楽しんだこと、母親が無類の観劇好きで、時には授業中であるにもかかわらず、観劇のために我が子を早退させるという生育環境によって生み出されたものである。
日本の演劇界でその名を知らぬ存在だが、その影でさまざまな挫折を味わってきた。芸大入学を希望するも不合格、それならばと俳優に進路を変更するも、その道では大役にありつけない。演出家に転向したらしたで、劇団の内紛に巻き込まれる始末。舞台芸術で名前を知られるようになっても、それが収入に結びつかないもどかしさは、本人以外にはわからない。
そんな彼がインタビューで見せる素顔は、情熱的で暖かい。半世紀にわたる盟友・清水邦夫への感謝の言葉。唐十郎を尊敬する態度。そして若手俳優に対する期待。彼の言葉を見ていると、この人は本当に演劇が、人間が好きなんだということがわかる。 「戯曲分析の方法」という概念を、私はこの本で初めて知った。この本を見て、舞台や戯曲に興味を持ってくれる人が、一人でも増えることを願う。
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