「幻のローカル線」が第三セクター方式で開通するまでの軌跡を追った著者渾身の作品です!
2020/03/23 11:48
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、開業までもうすぐのところまで来ていながら、国鉄時代の末期という社会変化もあって建設が中断された幻のローカル新線の追った著者渾身の一冊です。同書には、陰陽連絡新線の夢と現実をのせた「智頭線」、白き湖底の町を走る「北越北線」、建設と廃線の谷間にあった「三陸縦貫線」、断層のある村の「樽見線」、落日と流刑の港町を走る「宿毛線」、本州と四国を結ぶ「瀬戸大橋線」、青函トンネルに繋がる「三陸鉄道」の7路線が収録されています。これらはすべて国鉄としては建設断念されましたが、その後第三セクター方式で開通したものばかりです。著者は関係者へのインタビューと実際の乗車によって、開業までの経緯とその風景を生き生きと描いています。
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投稿者:7013 - この投稿者のレビュー一覧を見る
国鉄再建法案の国会提出を機に、状況が一変した智頭線、北越北線、三陸縦貫線、樽見線、宿毛線、瀬戸大橋建設、青函トンネルの苦悩の物語が記されている。地元住民の願いとは裏腹に、4000人キロという数字に僅差で届かなかった路線たちは、完成しているが口を開けたまま10年が経つようなトンネルがあるなかではたしてどのようにして再建の道をたどるのだろうか・・・
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『線路のない時刻表』は、1986(昭和61)年に新潮社から刊行され評判をとり、その三年後には新潮文庫化されました。
国鉄末期に、赤字ローカル線を大量に廃止することが決まつたのですが、一方では開通する当てのないローカル新線の建設工事は進められてゐたのです。
国鉄として開業しないことが明白な路線を作り続ける...子供が考へてもをかしな話であります。
予算は一点集中ではなく全国に総花的に割り当てられたので、結局開通する路線はなく、用地の買収も終り路盤もほとんど完成しながら開通せずにそのまま朽ち果て、大いなる税金の無駄遣ひとなることが予想されてゐました。
ま、さういふローカル線を今さら作ること自体が無駄な事業だと思ふ人もゐるでせうが、それを言ひ出したら話が進まぬので脇へ置くことにしませう。
我らが宮脇氏は、さういふ事情とは別に鉄道メイニアとして開業を待ち続けたのに、その見通しが立たぬのは精神衛生上悪いといふことで、未成線の路盤なんかを歩くことで実際に乗つた気にならうと勘考しました。
本書に収められたのは、収録順に挙げると、智頭線・北越北線・三陸縦貫線・樽見線・宿毛線・瀬戸大橋・青函トンネルの七編であります。
地元の自治体などに取材しますが、当時の状況としては開通の可能性が低い路線が多かつたので、どうしても俯き加減の話になりがちです。怒り、虚しさ、諦め...さういふ状況でも淡淡と仕事をする人たちを描いてゐます。
宮脇氏はせめてもの思ひで、「宮脇俊三作 国鉄非監修」の想定時刻表を自作し掲載したのでした。情報が少ない中で、中中良く出来てゐるのではないかと。
ところが、巻末の「『三陸鉄道』奮戦す」にもあるやうに、三陸縦貫線を第三セクター方式で引継いだ三陸鉄道が発足し、世間の耳目を集めます。
以降、廃線予定の路線を、地元自治体や企業を中心とした第三セクターが引き受け運営するケースが相次いだのであります。わが地元の「愛知環状鉄道」もその一つ。
結局、本書で登場した路線のうち「瀬戸大橋」「青函トンネル」はJRグループがそのまま引継ぎ、その他の5路線はすべて新たな会社が開通させるといふ喜ばしい結果となつたのであります。
さうなると、宮脇氏は当然乗りに行き、「その後」をリポートすることになります。それが本書『全線開通版・線路のない時刻表』なのです。
全線開通版は、1998(平成10)年に講談社文庫から出てゐるのですが、このたび何と講談社学術文庫から復刊したのであります。学術文庫...学術か? 平均単価の高い学術文庫から出すことで、価格を吊上げやうとの魂胆か。
各章の最後に、開通後のルポが追加されてゐますが、いかんせん分量が少なく(各3-4ページくらゐ)物足りないですな。いはば本書の最大の「売り」の部分なのに。
しかし当時宮脇氏は既に晩年に相当する時期であつたことを勘案すれば、よくぞ書いてくれたとも申せませう。
学術文庫3月新刊。みんな読みませう。
http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-164.html
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完成間際で工事が止まってしまった路線の寂しさが、宮脇さん独特の淡々としたタッチで書かれており、読み応えがある。後に第三セクターなどで開通した路線ばかりなので、その後の顚末も書かれているのもよい。瀬戸大橋線と津軽海峡線の開通前の話もあり。その他には、宮脇さんが勝手に作った時刻表も秀逸。ダイヤグラムの線まで引いて考えたとのこと。すごいなあ。時刻表の中の特急や急行の名前にくすりとさせられることも。ああ、こんな旅してみたいなあ…と思わされる一冊。
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開通前の路線を行くというコンセプトの本。
智頭線(智頭急行)、北越本線(北越急行)、三陸縦貫線
(三陸鉄道)、樽見線(樽見鉄道)、宿毛線(土佐くろしお鉄道)、瀬戸大橋線、青函トンネルのことが事細かと書かれています。
「国鉄非監修」の自作時刻表や自作の年譜も面白かったです。戒名にも鉄道の名前が記されていました。
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著者の本(と言っても文庫本)を殆ど読んだと思っていたのだが、読メで他ユーザの感想を見て本書の存在を知る。奥付を見ると2014年3月1刷り。そのため三陸鉄道が東日本大震災の被害を被った記述があった。著者が存命ならどう感じたろう。津波により壊滅的な被害を受けた三鉄。そして、国内外の支援を受けて復旧、いや南北リアス線が縦貫する復興を遂げた姿に目を潤ませたのではなかろうか。他の路線も国鉄再建法を乗り越え、路線が開通した鉄道が幸いだったか、この時代に読むと何とも言えない。
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宮脇作品と言えば、名著と言われる最初の2作品に加え、僕が好きなのは海外紀行が多い。ほぼ全部読んだつもりでいたけど、これは未読だった。今さらながらだが氏らしい視点が良く表れている作品だと思う。それぞれの場所で氏が感じたように想いを持って仕事をしていた人たちがいたからこそ、ここで取り上げられた各線が、後に第三セクターとして開通できたのだろうけれど。これは1980年代半ば頃の話だけど、それから30ウン年経って、こう言う視線は行政には全く無くなってしまった気もするな…。かつての方がまだそれでも地に足が付いていたのか、と再確認。実は僕は全集の方で読んでるので正確にはこの全線開通版は未読なのだが、加筆部分はボリュームも少ないようでどうも評価が低い。そこの減点は無し、ってことで。