紙の本
チトー死後、この地域はむちゃくちゃになった
2019/01/28 17:42
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投稿者:ふみちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
私はいつも旧ユーゴスラビア問題というと、クロアチア、スロベニア、ボスニアヘルツェゴビナは善で、セルビアは悪だと前提で考えていた。おそらく、CNNからしかはいってこないニュース映像とNATO軍(実質的にはアメリカ軍?)によるセルビア空爆がイメージとしてあるからだろう。もちらん、そんなに簡単に善と悪とが区別されるわけではなく、簡単にクロアチアは善でセルビアは悪などと区別できるものではない。セルビアに長く住む作者にとってのセルビア人はみんないい人ばかりで、悪人なんていない。悪いのは米帝だということになってしまう。西側報道に汚染さてしまうと何が善で何が悪なのかがわからなくなってしまう
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セルビア(旧ユーゴスラビア)に長く住んでいる日本人の翻訳家・詩人。
読んでいるわたし自身のセルビア(ユーゴスラビア)へのイメージがそうさせているのかもしれないが、全体的にグレーな印象。日が差しても、白やオレンジじゃなくてグレー。
征服されてきた歴史、戦いで傷ついてきた歴史についての記述が何度も出てくる。著者はそうしたユーゴスラビアの歴史や文化の背景を身の内に取り込んで、なにかわたしたちのようなずっと日本で暮らしているものとは違った空気やことばを持っているような気がする。
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ウィキの情報によれば、山崎佳代子は1956年、静岡県生まれ。1979年北大卒業後、ユーゴスラビア・サラエボ大学に留学、サラエボ大学で博士号を取得。1982-1986年、ベオグラード大学大学院に在学し、その後、同大学の教授となる。ベオグラードで結婚。詩人・翻訳家・作家、また、セルビア文芸協会会員。
1996年、中原中也賞候補。本書で、2015年読売文学賞の紀行賞受賞。2019年紫式部文学賞を受賞。
本書は、2001年から2012年までにかけての、筆者・山崎佳代子の断続的な日誌。
ベオグラードは、セルビア共和国の首都である。
きちんとした歴史的な知識が自分にあるわけではないが、バルカン半島・旧ユーゴスラビアは、民族問題、内紛・内戦の歴史を持っている。旧ユーゴスラビア社会主義連邦共和国を構成していた6つの共和国は、それぞれ独立している。スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロ、北マケドニアである。分離・独立の過程で、多くの紛争や内戦が起こり、その様子の一部が本書でも記述されている。
山崎佳代子が留学先として旧ユーゴスラビアを選んだのは偶然の要素が大きいだろうし、その後、40年以上もこの国に住み続けることになることは予想されていたかどうか。しかし、移住先の国で、学者として詩人として翻訳家として確固たる地位を築かれたことに敬意を表したい。
上記したように、本書は読売文学賞の紀行賞を受賞している。一読、本書の内容は紀行文ではない。数十年にわたって、旧ユーゴスラビアに定住され、現地で確固たる地位を築かれている方の日誌である。そう思って、最初は紀行文であると考えられていたことに違和感を持った。
しかし、静岡に生まれ、北大に進学し、旧ユーゴスラビアに留学しながら博士号取得、教授を職を得て、現地で結婚し子供を設ける。これら山崎佳代子さんの人生の全体像を眺めてみると、確かに、それ自体が紀行文ではあるな、と思い直したところである。