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Man in the Dark 闇の中の男、男と訳されているものの、Manは一般に人である。作中の老人のみならず、人間全てが纏う闇とは何なのか。作中に限れば戦争や、浮気、喪失感、夜が闇にあげられるだろう。しかしそれは全て突き詰めれば人間にとっての、世界にとっての自然natureである。死者も正者もみな闇の中。
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可能性としての「911が起こらなかったアメリカ」の虚構の物語を作り出していく男と、そこに奇妙に絡んでいく現実の世界。
この本を読む時、読者は物語を作り出していく男の目線に合わせて読み進めていくのだが、そもそもこの男自身が作家による虚構の産物に他ならないため何重ものメタ構造を理解しながら読まねばならず、時として自分が「どの現実」を生きているのか(『今この本を読んでいる私』を含め)が分からなくなっていく。
非常に面白い。
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戦争は誰かの頭の中だけで作られているのか?
それともこの戦いは、時の政府に対する反旗なのか?
自分が抱える闇を消すために自分が殺される物語を作る…
あちら側とこちら側を行ったり来たりしながらの物語は突然だけど、不自然さはあまり感じない
感じたのは小さなつながりの中で育まれる小さな希望
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語り手の老人ブリルを中心にその家族構成が少し複雑なので、多少わかりずらい。更に、ブリルは自分自身にブリックが主人公の物語を語っており、それが全体に含まれている。
ブリックは朝目覚めるとパラレルワールドのような場所にいる。それはFalloutのゲームが始まる前の、核攻撃以前の内戦状態のような世界だ。ブリックは、その悲惨な世界や運命をもたらした当の本人、ブリルを殺す役目を負わされるわけだが、結局果たせずに殺されてしまうのは、まあ妥当なんだろうが、残念と言えば残念。
オースターにはこういう、物語を語ることそれ自体に対して言及する姿勢がある。読者は、ブリックはブリルを殺すだろうと期待する。ところが、あっけなくブリックは殺されて、おそらく本来語るべきブリルの話に戻っていく(これは献辞からみて妥当だろう)。
そして、そもそもブリックの物語は、おそらく死んだタイタスに関係し、それは最近のテロリストとの戦争にも絡んでいるのだと最終的にわかる。もしかしたら、タイタスはオースターの「ガラスの街」で描いたクインに類していて、文学への希望も愛も(カーチャとは戦争に行く前に別れていたという)失って、そこにもしテロリストとの戦争があったらこうなるかもしれないという投影なのかもしれない。
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闇の中、一人の老人が
911の無かったもう一つのアメリカを夢想する。
不可抗力的に大事なものを失い
痛みを抱えた壊れかけた人々が描かれており、
世界の残酷さ儚さ理不尽さに
なんだか苦しい気持ちに。。 ただ、その現実に絶望したり
開き直るような姿を描いてるわけでもない。
特に老人が孫娘に自分の半生を語る場面は
何か感動のようなものを感じた。
この場面だけで個人的には
読んで良かったと思える。
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アメリカの片田舎で、一人の男が闇の中、眠れずに過ごす。2階には男の娘と孫娘がそれぞれの寝室に眠っている。
男は書評家だった。何十年もずっと書き続けてきた。だが今は老いた。妻を失い、自動車事故で脚は動かず、失意の中にある。
娘は若すぎる結婚に失敗して独り身でいる。教職に就きながら、ホーソーンの娘、ローズの伝記を執筆している。
孫娘は映画を学んでいる。だが同棲していた恋人が不幸な死を遂げたことに立ち直れず、学校を休学中だ。男の娘である母を頼ってやってきた。
不幸な3人である。
男は眠れぬまま、1つの物語を思い浮かべる。
主人公はオーエン・ブリック。子供向けのパーティで手品を披露して生計を立てている。
ある夜、ブリックが目を覚ますと、彼は穴の中にいる。そこはもう1つのアメリカ。「911」がなかったアメリカである。しかしそこでは、激しい内戦が起きている。ブリックは投げ込まれたその異世界で、「世界を救う」任務を与えられる。
奇妙な任務にブリックは戸惑う。本当にそんなことで世界は救われるのか? なぜ自分が選ばれたんだ?
わけもわからぬまま、異世界で、昔あこがれていた高校時代の同級生に誘惑され、一方で激しい暴行を受ける。
入れ子構造のようなパラレルワールドである。SFめいた様相も見せつつ、闇の中を手探りで進むように物語は進む。
だが劇中劇は唐突にぶつりと断たれる。実際の戦場を想起させるような、乱暴な不条理によって。
男は毎日、失意の孫娘と映画を見ている。孫娘は時折、鋭い批評眼を覗かせる。男は小津の「東京物語」が気に入っている。未亡人が幕切れ近くで手にする懐中時計は、彼女の心情を語る「命なき事物」である。
男と孫娘は、眠れぬ男の寝室で語り合う。男や娘、孫娘の人生について。さまざまな人に起こった悲劇について。世界の残酷さについて。密やかに流れる静かな時間。確かにある親密なぬくもり。2人の姿は一幅の静物画を見ているようでもある。
2008年の作品である。
全編に911後の「喪失感」は漂う。しかし、911がなかったとして、そこに暴力はなかったのかといえばそうではない。国家規模の大きな枠でも、個人対個人の小さな枠でも。
911後にアメリカの分断化は確かに顕在化したけれども、たとえ911が起こらなくても、いずれは対立は明らかになっていたのではないか。老人の妄想には作者自身の確信が滲む。
暴力も悪もすべての人の中にある。
しかし、闇の中で苦しむ誰かの背をそっと撫でさするような優しさやぬくもりもまた、すべての人の中にある。
「このけったいな世界が転がっていくなか(As the weird world rolls on)」は、詩人としては大成しなかったローズ・ホーソーンの詩の一節である。
この奇妙な世界を生きていく、いびつな存在である私たち。
世は悲劇や理不尽に満ちているが、くすりと笑える瞬間や美しいきらめきもまたどこにでもある。
時折、眠れぬ夜を過ごす。しかし、いつだって夜はいずれ明ける。
生きている限り、世界が回り続ける限り、私たちはそうして歩み続ける。
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希代のストーリー・テラーがひとつ階段を上った。
9.11が起きず、内線状態に陥ったアメリカを老人作家が夢想するという展開は、オースター得意の「小説内小説」だし、その作家は妻を亡くし、そこに同居する孫娘は夫を殺されているという設定は、彼の作品に頻繁に登場する「再生」の物語を予感させる。
しかしながら、従来の作品の「小説内小説」、「再生」とは今回はひと味違う。力強さが感じられないのだ。どこか弱々しく、足取りも重い。かと言って、再生の希望が決して小さくなったわけではない。
そこでふと思い当たるのは、前著『写字室の旅』だ。
オースターは、前著はこの『闇の中の男』につながっている、と言っていた。そして、前著に関するワタシの解釈は、オースター自身が自分を見つめなおすための実験ではなかったか、というものだった。
この実験の結果、弱々しく、足取りも重くなったのだとすると、それは年齢を重ね、9.11を経験したオースター自身がひとつ階段を上り、別の境地にたどり着いたと解釈できるのではないか。内省を経たオースターが、自身がもっともしっくりる強さと速さが、従来より少し弱く遅い『闇の中の男』なのだ。
そう解釈すると、これまでの作品との差異、そして『写字室の旅』の持つ意味がきれいに説明できる。
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2014年に表紙のデザインに一目惚れして買った本を積読していて今更読了。話は入子構造となっており、それがだんだんと微睡のように混ざっていく形。ツインタワービルの件がどれだけ絶望させて疲弊させたのかが伝わる暗くて疲れてて老いを感じさせてハァ〜となるような文体だった。大人の老いと慢性的な絶望と疲れは年々ひどくなっているので、部屋の隅に置いて熟成させたのが、かえってよかったかもしれない。緩慢な文章をしっとり呑んでいたので、最後にタイタス青年の悲劇でガツンッて頭を殴られたように終わるのがよかった。
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娘を迎えに駅まで行った時、ちょっと早く着いたので駅前の図書館に立ち寄る。予約本もなく図書館に行くのはほんと久しぶりだ。
あまり長居しないように気を使いつつ、書架をうろついたところ、ポール・オースターを発見。「この人の本、昔図書館に通っていた頃よく読んだなぁ」と懐かしくなり借りた。
2001年9月の同時多発テロが起きない世界、そこでは代わりにアメリカ内戦が起きているー という内容の作中作(主人公の妄想)と現実が交互に描かれ絡み合っていく。
日本語版の発売は2014年で、この本は今回初読。
相変わらず幻想的で暗い。暗闇の中で懐中電灯で照らしながら読んでいる気分になる。
とは言え、柴田元幸さんの訳ということもあり読みやすい。ただ、僕の場合、引っ掛からなすぎてするっと行きすぎて、「何書いてあったっけ?」となってしまい何ページか戻って確認する、ということがよくあるのだが…笑
アメリカが911で背負った苦しさを描いているが、エンディングでは傷つきながらも乗り越えていく強さと希望が感じられ、気づいたら夜が明け朝になってたかのような読後感。
けったいな世界は転がっていく!
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最後に希望を感じた図書だった。眠れない老人が頭の中で物語を作り出す。眠れない老人は娘、孫娘と一緒に暮らしており、3人とも身近な人を亡くしている。その3人の物語と並行して、老人が頭の中で作られる物語も進んでいく。老人が作る物語は、9月11日、アメリカ貿易センターのテロが起こらなかった世界へ迷い込んだ男の話だった。つらい現実もあるけど、それでも世界は転がっていく…
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ポールオースター得意の物語in物語。
物語の終わりは突如。
現実との絡みがないわけではないが、あまりピンとこない。
孫に語る自分のこと。
孫に聞く孫のこと。
自分の想いを打ち明けられる家族って素敵だよね。
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『闇の中の男の、終わりなきパラレルワールド』
妻を失った祖父と、恋人を戦争で亡くした孫娘の、眠れない夜を、回想と創作世界とが交錯しながら描かれる、なんとも不思議な作品。創作世界の主人公が現実の世界に戻るために現実世界の作者を殺しにくる、なんて設定からしてさすがオースター!
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ポール・オースターの美徳でもあり弱点でもあるだろう、どこからか滲み出てくるコミカルなタッチに惹かれてこのほら話(いい意味で、です)を読むことができた。彼の歴史改変の手腕は実に軽やかで、「もしこうだったらよかった」と実存まで賭けて妄想を巡らせるスティーヴ・エリクソン的なスタイルではなくむしろ「こんなことも思いついちゃいました」とレゴブロックを組むように奇想を盛り込んでいく作風を感じる。その分ポップで読みやすく、またあとに尾を引くものがないとも言えるのでこれは好みの問題だろう。この陽気さは一筋縄ではいかない!
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軽い本を読んでいると軽い本が読みたくなるし、ポール・オースターはじっくりと落ち着いて読みたいので、まあ、その時期になったということですね
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『写字室の旅』との対応は、現実と虚構の混合、交錯か。
何が現実で、何が虚構か。
あり得たかも知れない現実。私たちは絶え間ない分岐のたった一つの枝にいるに過ぎない。
圧倒的な悲しさによって呑み込まれた虚無。
物語があるだけに、その断絶は堪える。
他人は結局のところ、分からないのに、解釈し続けてしまう自分がいる。
戦争にロマンやドラマはない。
その点でオースターにしては珍しく、本作はアクチュアルだったな。