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“あぁ”
読み終わると同時に出てくる言葉。
18世紀の不穏な社会情勢下でのロンドンとパリ、二人の青年と一人の女性、その周辺の人々が二つの都にまたがって繰り広げる、壮大なドラマは、CGのない全盛期のハリウッド映画のよう。
フランス革命へ飲み込まれていくさま、一つの時代の終わりに際し、もがくようにして生きる人たちと集まり勢いを増す人たちが渦を巻く。
19世紀イギリスの名作家ディケンズが晩年に描いた、暗く悲しく力強い物語。
映像的で細やかな情景描写
修辞法、比喩を効果的に用いた演出
登場する者たちの、魂からから溢れ出る言葉が、よむほどに襲いかかる。
フランス革命、血の粛清で荒れるパリの夜の街をひとり彷徨うカートンがつぶやく、また、断頭台に向かう名も知らぬお針子にキスをして、カートンがささやく、
“我は復活なり、生命なり”
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▼ディケンズって読んだことなかったんです。ご縁がなくて。ミュージカル映画になった「オリバー!」は、何故か少年時代に何度も観たんですけれど。ディケンズって1812-1870なんですよね。イギリス人。「二都物語」は1859。大まか1838-1861くらいに、ベストセラー作家だった。フランスで言うとフローベールと同時代。バルザックが、ふたりより10年くらい早いか。
▼つまりは、小説が「まあ、2023年現在の人が翻訳で読んでも、かろうじてエンタメだとも言えそうな感じになった」という状況の、まあ大まかに言うと第一集団、と言っていいと思います。しかもなんでだか、(まあ理由ははっきりしてるとも言えるけれど) 英、仏、米、露、なんですよね。
(ディケンズ1812-1870。
ブロンテ姉妹1816-1855。
コナン・ドイル1859-1930。
バルザック1799-1850。
ユーゴ―1802-1885。
フローベール1821-1880。
ドストエフスキー1821-1881。
トルストイ1828-1910。
オルコット1832-1888。
マーク・トウェイン1835-1910。
ちなみに夏目漱石1867-1916。)
▼二都物語は、1789年くらいからのフランス革命が背景になっている、まあ歴史小説です。書いたのはイギリス人。書かれたのが1859なんで、70年前の出来事。
2023年の日本で、1953年‥‥「朝鮮戦争の終戦」を背景に、日本人と韓国人が出る小説を書いた、みたいな感じでしょうか。
▼備忘的に言うと、
・ルーシー(女)ヒロイン。フランスの、医師の娘だった。けど、革命前の圧政の時代に父が冤罪で投獄され、ルーシーは縁を頼ってロンドンで育った。
・ダーニー(男)ロンドンで暮らす。フランスの亡命貴族。亡命貴族だけどちゃんとしてて(笑)、仏語を教えたりしてちゃんと自活してる。ルーシーに惚れて結婚する。
・カートン(男)ロンドンの法曹界で下っ端仕事をしている、一応インテリな若者。ひねくれた人生観と、ルーシーへの純愛と、ダーニーへの友情を持っている。
まあこの三人の、ドリカム状態三角関係がいちばんの主題です(ほんとうか?)。
▼時代で言うと、
・フランス革命の前
ルーシーが、フランスに行って、冤罪の父を救う。救って一緒にロンドンに逃げる。めでたしめでたし。王政の圧、残酷さが背景に描かれる。
・時は流れて。ザ・フランス革命の年
(ルーシーはダーニーと結婚している。ロンドンで幸せに暮らしている)
フランスでは革命が起こる。正義、ではなくて、カオスが描かれる。つるし上げ、テロ、糾弾。貴族とかはとにかく一律、ギロチン送りだ!・・・。さて、ダーニーは元貴族。元の領地?で家来とか?が、「革命騒ぎでえらいこっちゃで、ダーニーさんに〇〇を証言してもらわないと、俺が処刑されちゃうよ」みたいなことがあって、お坊ちゃんのダーニーは、カオスのパリにやってくる。
当然逮捕されて、裁判にかけられて、まあともあれ死罪確定。ギロチンですね。さらに言うと、衝撃の因縁が暴かれる。
【ルーシーの父(フランス人の父)が、革命前に、冤罪で投獄���れて苦しんだ原因は、ダーニーの血族(貴族)にあった】
というものです。金田一耕助的な過去の衝撃です。
というわけで死刑を待つダーニー。妻ルーシーも(子供も)パリに来て、獄の外で泣いている。なんだけど、直前に親友のカートンが、やっぱりロンドンからパリにやってくる。それでもって、このカートン君が、「獄を訪れる。そして、親友を眠らせて入れ替わる」という荒業を行って、カートンがギロチンで死ぬ。ダーニーは、妻ルーシーのもとへ無事帰還。
(カートンの動機は、大まかルーシーへの無償の純愛)
・・・というのがお話です。
▼なかなかに、ケレンに満ちてドラマチックで、(文体は19世紀前半だなあ、みたいなこてこて感が強くて古典臭満載ですが)けっこう流れを掴めるとエンタメです。さすが、です。
あと、印象に残ったのが三つ。
1 という物語を、イギリスの、ロンドンの銀行員のオジサンが大まかずーっと見守ります。この人の、ビジネスマンでありつつ、人間味がある、という距離感の在り方が、実にイングランド的というか、資本主義的で滋味深い。英国紳士感。
2 と言う物語を全般、脇役で彩る、パリの貧民街の飲食店の夫婦がいる。「レミゼラブル」に出てくるずるがしこいテナルディエ夫婦みたいな。猥雑で、強烈で、下品で、強い。このふたりが、革命の暴動の先頭に立つ。そして、アンシャンレジームの、絶対王政の時代に悲しい暴虐を受けた過去を持っている。恨みはたっぷりなんです。つまり、革命のカオスと暴力を正当化する極の存在。
3 パリ、という町が革命の時期(1790年前後とか)には「恐ろしく不潔で汚かった」ということ。これはなんだかもう、すごい匂いたつような描写・・・。一方でロンドンは、そうでもない。
(その後、1840年代とかに、ナポレオン三世が、ロンドンで亡命暮らしをしていて。ロンドンが好きだった。パリに入って皇帝になって、「不潔でどうしようもないパリを、ロンドンみたいにしたい」という思いで、大まか1850年代、1860年代くらいにパリ大改造をした。そこで今の美都パリが作られたってことだそうで)
▼今年は、「ルイ14世から、第2次大戦終わりくらいまでのヨーロッパあるいは世界の歴史を、パリ、あるいはフランス・・・という切り口あるいはその周辺でできるだけ楽しむ。知る。」というお題で読書をしていまして。
「まんが世界の歴史13 第1次世界大戦とロシアの革命」
「太陽王ルイ14世」
「異邦人」
「アルセーヌ・ルパンのシリーズ」
「ナポレオン フーシェ タレーラン」
「イギリスの歴史が2時間でわかる本」
「贖罪」
そして、「二都物語」もその流れで、読もう!と決意したもの。
恐らく来年までかかって、
「怪帝 ナポレオン三世」
とか
第一次世界大戦についての本とか、
ショパンについての本とか、
ナチスの本とか、読みたいなあと。
最終的には「パリは燃えているか?」でゴールしたいなあ。
わくわく。
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「犬と鬼」で「ドファルジュ夫人」というワードが気になったので検索して読んでみた。
何となく「虐げられていながら何もできない哀しみと悔しさを、憎い貴族の名を編み物に織り込むことで覚えておき、革命の後、貴族がギロチンにかけられたら編み物を解いて留飲を下げる…」ような、昏く静かに冷たい女性を想像していたら大違いだった。
文字通り「末代まで恨む」復讐の化身として一かけらの同情心も抱くことなく、淡々と冷酷かつ執拗に仇敵を追い詰める怪物。何もかもを奪われ、愛情も未来も幸福も夢見ることなく、報復だけを使命として生きる... 「かつて海辺を裸足で歩いた」可愛らしさと美しさの輝きを留めた暗黒の魂。
アレックス・カーが「疎外された者の成れの果て」としてドファルジュ夫人を例えに出したのだとしたら、日本を覆う絶望の片鱗が少し窺えた気がする。
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すごい小説です。語彙量、筆力、描写力が圧倒的です。全てのエピソード、シーンが印象的です。
フランス革命の場面などには、残酷な描写がありますが、それが絵画的で美しいです。そしてそれゆえに冷たい恐ろしさを感じます。父娘の再会シーンや、カートンの告白シーンは感動的で、ロマンチックでもあります。ですがあまりにも描写がすごすぎて可笑しさもこみ上げてきます。そしてそれが過ぎるとまた感動がよみがえってくる感じです。
お気に入りの登場人物は、ジェリーです。愉快なキャラクターです。活躍の場面があるのですが、それゆえに悪事がばれてしまい、ロリーに叱られる場面はとても面白いです。また「へぇつくばる」かかあをバカにしていたのに、最終的には自分が「へぇつくばるよ」と言っているのが面白い。
序盤のエピソードが、終盤に絡んでくる展開も素晴らしいですが、やはり描写がすごいです。物事のそれ自体の周辺をぐるぐると描写しているうちに、その本質が徐々に浮かび上がってきます。直接そのものを描写するより、重層的に感じられて、エピソードやシーンがより印象的でした。すごい小説です。
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原文は知らずだが、装飾の多い文章で読みにくい。急な場面展開でわかりにくい。訳者あとがきによると「ひとつのイメージから別のイメージをどんどんつなげて息の長い文章を綴る饒舌体」が特徴のようだ。ドラマチックな話ではあるが、すごく感動するまでには至らず。
初ディケンズ。これはそれまでの大きな特徴であったユーモアが抑え気味になった後期の作品だそうだ。ならば前期の作品も読まないとディケンズは語れない。