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『100年の名作』に相応しい短篇が並ぶアンソロジーの第2巻。収録作家は中勘助、岡本綺堂、梶井基次郎、夢野久作、尾崎翠、上林暁など。
岡本綺堂、梶井基次郎、尾崎翠、上林暁の短篇は代表作かそれに近い定番。逆に夢野久作、島崎藤村、林芙美子はおっ、と思わせるセレクトで、バランスのいいアンソロジーになっている……というか、非常に『新潮社』らしいアンソロジーだよなぁ、と思う。
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中勘助『島守』A
島での孤独だが清々しい生活。危篤の報せも受けて。
岡本綺堂『利根の渡』B
盲人、針で復讐。
梶井基次郎『Kの昇天』S
間違いない。
島崎藤村『食堂』B-
黒島伝治『渦巻ける烏の群』B
シベリア出兵。つれないガーリャ。少佐。
加能作次郎『幸福の持参者』B-
蟋蟀いいねぇ。→うるさい!
夢野久作『瓶詰地獄』S
間違いない。
水上瀧太郎『遺産』A
地震が隣家の金貸しとの境界である塀を崩す。
そこから生じた友情。
それが町内会の集団圧力により、粉微塵となってしまう。いやーな話だが。
龍胆寺雄『機関車に巣喰う』S
これがこの本の中の大発見!
こんなにみずみずしくコケティッシュな文章があったとは。
「十三歳の花嫁!
花どころか蕾にもなってやアしない。――」
林芙美子『風琴と魚の町』B
尾崎翠『地下室アントンの一夜』S
間違いない。
上林暁『薔薇盗人』B
人情物。
堀辰雄『麦藁帽子』S
間違いない。
大佛次郎『詩人』A
スペクタクル。
広津和郎『訓練されたる人情』B
孕んでばっかの玉千代。
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1924年から1933年までの小説が15点.昭和のはじめ頃の世相が感じられるものが多かったが、大佛次郎の「詩人」は古さが見えないものだ.島崎藤村の「食堂」も雰囲気良く楽しめた.
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1924年から1933年にかけて書かれた日本文学から15篇を収録。個人的に面白かった順に。
梶井基次郎「Kの昇天」
既読の作品。梶井基次郎の病的なほどに繊細な感覚が冴えかえっている、私的に最も愛すべき短篇のひとつ。月へ昇ってゆく魂、というモチーフにしろ、細かな文章表現にしろ、ただただ美しい。
尾崎翠「地下室アントンの一夜」
とっつきにくそうな不思議な出だしに面食らいつつも、すぐその世界に引き込まれた。軽やかに跳ねるような語り口で、読んでいて楽しかった。収録された同時代の短篇たちからも、いい意味で逸脱している。
中勘助「島守」
島での穏やかな暮らしが、これでもかというほどの美しい表現の数々で描かれる。島の生活を彩る自然、動物、食物……そういったもののイメージが頭の中にありありと思い浮かんだ。
堀辰雄「麦藁帽子」
幼い日の切ない恋愛を巡る物語。恋い慕う人に対しても母親に対しても、中々正直になれない少年時代の複雑な心情を、成長した今の自分が振り返る、という形式がよかった。
黒島伝治「渦巻ける烏の群」
シベリア出兵を描いた小説を初めて読んだが、シベリアの厳しい環境が描かれているのに加えて、物語性にも富んでいて面白かった。タイトルの意味にも唸らされた。
龍胆寺雄「機関車に巣喰う」
設定そのものは突飛なのだけれど、それを自然と受け入れられてしまうのは、主人公の力強い語りがあってのもの。機関車で暮らす若い男女のやり取りが微笑ましかった。
夢野久作「瓶詰地獄」
こちらも既読。島に漂着した兄妹の享楽的な生活が、次第に罪深き地獄へと化していく様子が、海辺に流れ着いた瓶詰の三つの手紙によって語られる。一級品のミステリである。
水上瀧太郎「遺産」
悪意の集積というものの恐ろしさがよく判る一篇。心を閉ざした隣人の内実が、高く築かれた塀によって表されており、これもタイトルのつけ方が上手い。
加能作次郎「幸福の持参者」
ある夫婦に幸福をもたらした蟋蟀が、徐々に邪魔な存在になっていくのが物悲しかった。あっさりとした結末によって、その物悲しさにも拍車がかかった。
上林暁「薔薇盗人」
主人公の置かれた状況が、素朴な語り口と合っていた。最後の、息子のために草履を作る父親の姿が救いになった。
林芙美子「風琴と魚の町」
こちらは反対に悲しい結末ではあったが、主人公の持つ子供の目線ならではの無邪気さによって、却って明るく感じる一篇。
岡本綺堂「利根の渡」
仇討というテーマは少々凡庸にも思えたものの、随所随所の表現や怪談地味たオチにはゾッとした。
広津和郎「訓練されたる人情」
玉千代のキャラクターが快活で、清々しかった。ただ、時代性なのか何なのか、少し現実味がないように思えた。
大佛次郎「詩人」
話自体は何でもない内容のような感じがしたが、出来事の前後を敢えて入れ替えて語る、という手法はドラマチックでよかった。
島崎藤村「食堂」
変化する時代の流れに取り残される母親の哀しみには共感できた。でも震災後の世間を描く、というのに注力しすぎな気も。
全体的に震災や貧困を扱った作品が多かったように思うが、その中でも自分の中のテーマ、或いはモチーフを徹底的に追求しているものもあって、文学の幅広さが感じられて面白かった。
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とにかく文字が大きいのが嬉しい(笑) どの作品も初読みでしたが、前巻にくらべると言い回しとか読みやすくなっていて(それが文学の成長なのかどうか解りませんが)、現代に近づいてるんだな、等と変な感想を持ったりしました。ともあれ、良かったです。
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1924~1933年 関東大震災の復興、大正から昭和に、戦争の足音
(わたくしの生まれる直前の時代・・・)
口語体文学が発展途上にあって、こんなにも完成した短編が書かれていたとは驚きだ。
創作ながらに、しっかりとその時代、時代を捉えて生き生きと人間を再現させているので、面白いことこの上ない。
中勘助『島守』
『銀の匙』だけではない。
岡本綺堂『利根の渡』
梶井基次郎『Kの昇天』
元祖、幻想短編か。
島崎藤村『食堂』
震災復興には「食だ!」というフレーズが新鮮。
黒島伝治『渦巻ける烏の群』
これぞ埋もれたプロレタリア文学。
加納作次郎『幸福の持参者』
普通のことがいいなあ。
夢野久作『瓶詰地獄』
水上瀧太郎『遺産』
龍胆寺雄『機関車に巣喰う』
林芙美子『風琴と魚の町』
尾崎翠『地下室アントンの一夜』
シュールレアリスムで驚いた。戦前は昭和の初めだもの。
上林暁『薔薇盗人』
堀辰雄『麦藁帽子』
ちょっとプルーストの『失われた時を求めて』の一部を彷彿させた。
大佛次郎『詩人』
広津和郎『訓練されたる人情』
上林暁の『薔薇盗人』を読みたくて、図書館検索に引っかかった本。
新潮文庫で池内紀・川本三郎・松田哲夫編にて年代別に1~10巻がある。
全巻読みたい、興味がわいてきた。
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どの短編も良かった。夢野久作の「瓶詰地獄」はやっぱり好き。ほかの作品も笑えるやらしんみりするやらでやはり名作揃いだと思った。表題作の加能作次郎「幸福の持参者」や林芙美子「風琴と魚の町」が特に気に入ったのでもっとこの作者たちの作品を読みたいと思った。
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学生時代に国語国文学科だったので、近代の作家さんは広く読んだつもりだったけど、このシリーズには知らない作家さんの作品や、有名な作家さんの作品でも知られざる名作が結構収録されていて、こんな小説があったのか、と嬉しい驚き。
巻末の「読みどころ」も読書欲を掻き立てられるし、脚注がそのページの端にあるのも、いちいち注を探してページをめくらずにすんで読みやすい。
手練れの読み手にも、日本文学初心者さんにもおすすめできるシリーズだと思う。
加能作次郎『幸福の持参者』、水上瀧太郎『遺産』、大佛次郎『詩人』が印象的だった。
ハッピーエンドでない作品からも、関東大震災や、大戦の気配の中でも生活していく人間のいじらしさを強く感じた。