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天災に備えるための歴史的な記録がこんなにも、それも日本各地にあったのか。磯田さんの執念に敬服する。大変に読みやすい。
・クローチェ:すべての真の歴史は現代史である
・「捨て足軽」西洋への自爆攻撃を組織的に準備した最古の事例は、佐賀藩・福岡藩の可能性がある。
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歴史学者の磯田道史氏が朝日新聞に連載した、「磯田道史の備える歴史学」(2013年4月~2014年9月)をまとめたもの。2015年の日本エッセイスト・クラブ賞受賞作。
著者は、東日本大震災後、理系の研究者が地震や津波の実態を明らかにした数多くの本が出版されたとしながら、本書の狙いを、「本書は、地震や津波ではなく、人間を主人公として書かれた防災史の書物である。防災の知恵を先人に学ぶとともに、災害とつきあい、災害によって変化していく人間の歴史を読みとっていただけたなら、幸いである」と語っている。
本書では、豊臣秀吉を襲った1586年の天正地震と1596年の伏見地震(これらの地震がなければ、徳川家康の天下にはならなかったと言われる)、1707年の宝永地震とそれが招いた大津波及び富士山の宝永噴火、1828年のシーボルト台風(これにより、佐賀藩は軍事大国となり幕末史にも影響を与えたと言われる)ほか、様々な地震、津波、台風と土砂崩れ・高潮などの災害について、古文書を丁寧に読み解いて、その様子やそこから得られるものを示している。
また、著者は、災害史に興味を持った大きな理由として、著者の実母が1946年に徳島県で昭和南海地震・津波に遭い、九死に一生を得たことと語っており、そのときの実母の経験とそこから得られる知恵についても、詳しく述べている。
そして最後に、東日本大震災の教訓として、津波被災地の古い神社の多くでは、津波は神社の石段を上った鳥居までは来たものの、神社の社屋は被害を免れたことを紹介し、歴史や先人の知恵に学ぶことの大切さを強調している。
英国の歴史家E.H.カーは、名著『歴史とは何か』の中で「歴史とは現在と過去との対話である」と述べ、現在を生きる人間がどのように捉えるかによって、過去の事実のもつ意味は変わってくると言っているが、災害がその時代にどのような影響を及ぼしたのか、及びその災害から現在の我々は何を学べるのかについて知る上で、有益な書と思う。
(2015年12月了)
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ご存じ「武士の家計簿」の著者が朝日新聞に連載したエッセイを新書にまとめたもの。2015年の日本エッセイスト・クラブ賞受賞作。
以下内容の面白いエッセンスです。
豊臣政権を揺るがした天正地震(1586年)と伏見地震(1596年)の2度におよぶ大地震が豊臣政権崩壊の引き金になったという。
特に後者の地震後、秀吉が伏見城の再建と、朝鮮再出兵を疲弊に苦しむ諸国の大名に命じたことが、豊臣から徳川へ人心が移り始めるきっかけとなり、政治の潮目が変わった。
伏見地震の直後、秀吉は小屋に蟄居していたので、徳川家康と家臣は防御が手薄な秀吉を急襲する計画を謀議した資料が国立公文書館の中で見つけた時は、著者は鳥肌がたったという。ただ家康は明智光秀の末路を見ていたので、実行はしなかった。
1828年のシーボルト台風の被害から立ち直るために、佐賀藩では西洋文明を重視する改革派が登場し、以後軍事大国となり幕末史にも影響を与えたと言われる。
余談だが、シーボルト台風に先立ち、1808年にイギリスの軍艦が侵入する事件が起き、佐賀藩は長崎湾を守りきれなかった。この後佐賀藩では西洋帆船との戦いを念頭に置くようになった。とてもかなわぬ西洋軍艦と戦うために、この時に考え出されたのが「捨て足軽」という自爆部隊である。
西洋の圧倒的な軍事力への対抗手段として、非西洋は、しばしば「自爆攻撃」という無茶をやってきた。太平洋戦争での日本の特攻隊がそうであり、イスラム過激派の自爆攻撃がそれである。それらの西洋への自爆攻撃を組織的に準備した最古の歴史的事例がここにあるという。
以上のような面白い話が満載であるが、やはり3.11の東日本大震災のような被害を最小限に食い止めたいと願う著者が、歴史の教訓を今日に当てはめようとする熱意がひしひしと伝わってくる良書であり、一読をお勧めします。
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かなり読み応えのある作品。歴史で災害を扱うことは大事だ。この地域にそんな災害があり、被害があったのかと、知らなかった話も出て来る。歴史的事実を災害発生の影響という面からながめる見方は非常に興味深い。そして、これから起こる災害の被害を最小限に食い止めたいという作者の気持ちがひしひしと伝わる。
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日本の災害史を学ぶことで未来の予防をする試み。最新の地震発生率も大事だけれど、履歴から学ぶことが更に大事ということでしょう。
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多くの人が命を落とした、歴史上の災害。史料をもとに、一人一人のドラマとして掘り下げているため、時間の壁を越えて胸に迫ってくる。
近代以前に、「後世のために災害の記録を残そう」と考えた人達が多数いたことに感銘を受けた。
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正直、期待していたものと違った。災害が日本史に与えた影響ということだったので、もっと大きな視点から、歴史的事件や歴史の転換点に与えた影響を分析しているのかと思ったら、筆者のそれまでの研究・調査やそれを通じて集めた資料を五月雨式に紹介しているだけの感を、終始ぬぐうことが出来なかった。巻末で、朝日新聞に連載されていたものを加筆修正したということがわかって、まあ納得はしたけれど。
郷土の天災記録から学ぶというスタンスはとても良いことだと思う。ただ、紹介されているものがいかんせんローカルなので、地図や地形図がなく、文章だけで説明されてもこれまた期待はずれ。
そして、確かに古文書や歴史的史料から学べることは多いのだけども、筆者は歴史学者にすぎず、地震学者や火山学者ではないのであって、それらの専門家が科学的に慎重な姿勢を崩さずにいることを、古文書から断定的に判断するのもいかがなものかと思った。とにかくいろいろ残念だった。
私個人的に一番ショックだったのは、先祖の跡を絶やさず、孝を重んじるために、自分が生き延び、あるいは老親を助けようとして幼児を犠牲にする例が2件も紹介されていたこと。今の価値観とは全然違う…。このような、私たちが今の価値観で昔の災害記録や災害の歴史を学んでしまった時の齟齬について、もっと厚く詳しく解説してくれた方がよかったのではないのかな。確かにそこにつながる一文は書かれていたから…「家族の生活や生い立ち、価値観は避難に影響する」(P155)
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歴史学って面白いと思いました。
面白いといっては少しはばかるような内容ではありますが。
史学ってこういうことのためにするものだと
思える内容でした。
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日本で生活する以上、地震、津波、高潮、土砂崩れ等の災害リスクに備える必要があることを歴史が証明している。
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古来から日本人は天災による被害にあい、その記憶と記録を残してきた。残念ながら、のど元過ぎれば熱さ忘れるのが人の性だけれども、本書のように後世に記憶と記録を伝えたい。
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歴史への理解が浅く、こういう天災史という切り口があるのかと衝撃を受けた一冊でした。1章の伏見の地震についてはそれだけで1つの小説になりそうな位の内容でした。歴史に影響をを与えた地震などの天災はまだまだあると思うので、是非掘り起こして第二、第三のストーリー語ってほしいです。
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『武士の家計簿』で有名な著者であるが、歴史学者のライフワークとして防災史を研究していることに驚いた。しかし、本書を読むと得心できるが、著者の母という身近な人の出身が徳島県牟岐で、そこは津波常襲地かつ母が津波から難を逃れた被災者だったのだ。地震、津波、富士山噴火、土砂崩れなど古文書に残る災害の記録を集積し防災に役立てる著者の研究は、災害のメカニズムを解く理系分野の研究と並行に行なわれることで、より良い防災につながるものと思う。
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九月一日を前に読了。
防災については、いくら学んでももういいということはない。
本書では、噴火、台風、土砂災害、高潮、津波など、過去の大災害の記録から、現代に生かせる教訓を導いている。
自分の命は、自分で守ること。
避難しはじめたら、何があってもものを取りに戻らないこと。
事前に家族で避難のしかたや場所について確認しておくこと。
よく言われることだけれど、これが大事だと再確認できた。
松は10メートルを超える津波では根元から抜け、流木となって被害を及ぼすことは知らなかった。
溜池は大地震で決壊して被害を与えることがあるということも。
土地で災害を語り継いでいるところもあり、磯田さんはその記録を精力的に集めたようだ。
ここに家を建ててはいけないという形で伝わっていたり、神社の鳥居の高さで水についた高さを示したり。
翻ってわが身を見れば、今住む土地のことを知らない。
恐ろしいことだと思う。
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第1章 秀吉と二つの地震。
第2章 宝永地震が招いた津波と富士山噴火。
第3章 土砂崩れ・高潮と日本人。
第4章 災害が変えた幕末史。
第5章 津波から生きのびる知恵。
第6章 東日本大震災の教訓。
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歴史家の立場で、著者や専門家に発見された歴史学から裏付けされた地震などの前兆・天災による罹災状況を著述し、防災知識として昇華したエッセイ。
読者一人ひとりに語りかけ、被災しても、必ず生存して欲しいという著者の願いが詰まっている。
地震、高潮、津波、富士山噴火など中身が、充実し、防災のための知識として、この作品を、1冊目としていいのではと断言してもいいと思う。