日米開戦の発端は既に日露戦争終結時にあった
2016/01/04 01:20
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投稿者:美佳子 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ポーツマス条約を言葉通りに取れば、日本がロシアから得たのは南満州鉄道の経営権のみ。満州は清国が主権を有するということが明記されています。これを陸軍の一部が満州で特殊な利権を得たと(わざと?)勘違いし、その利権を守るために満州支配を画策します。条約を文言通りにとって、国際協調を唱えていた伊藤博文は暗殺されてしまいます。実行犯は朝鮮人の安重根でしたが、陸軍関係者がそそのかした疑いあり。
本来権利のないところで軍隊が駐屯し、現地支配をすれば、当然国際的に非難を浴びます。満州支配は特に英米との関係を悪化させます。中国で台頭していた民族主義・反帝国主義も日本にはマイナスに働きます。こうしたことを予見していて、満州支配や中国への戦線拡大に反対を唱えていた要人たちが次々に暗殺(2.26事件はその一端)、左遷などで葬られていき、中国や米国への理解の足らない陸軍が政局を支配していったため、政治家も外務省も引いては昭和天皇まで、明確な反発を避け、日米開戦への道にずるずると引きずり込まれていったことが克明に描かれています。
陸軍側の読みは実にご都合主義で、アメリカが適当なところで妥協して、停戦の運びになるものと考えていたというから呆れるばかりです。当時の日米の国力(生産力)の差は10対1。まともに戦える筈などなかったのに、一度得たと思われた満州利権を守るため、またそのために既になされた多大なる犠牲を無駄にしないために日米開戦に突っ走り、さらなる犠牲をもたらしてしまった、とのことですが、これは株で大損して、それを更なる投資で補填しようと深みに嵌るあほなケースとそっくりですね。
勝つ見込みがないことは真珠湾攻撃作戦の中心を担っていた山本五十六連合艦隊司令長官もはなから分かっていたようです。彼は「それは是非やれといわれれば、はじめ半年や一年の間はずいぶんあばれてごらんに入れる。しかしながら年三年となれば全く確信はもてぬ」と1940年9月に近衛首相に対して発言しています。
また陸軍軍人でありながら石原莞爾は日米の国力差が分かっていました:「負けますな。(略)アメリカは一万円の現金を以て一万円の買い物をするわけですが、日本は百円しかないのに一万円の買い物をしようとするんですから。」(p49)
彼は東条英機と対立して敗れ、閑職に追いやられてしまいました。
「政党の有力者または有能な官僚の一部は、あるいは故意に、あるいは心ならず、軍部に協力を示し、よって権勢の地位につくことに心がけた」と第47代首相で元外交官の芦田均が振り返ってますが(p459)、この状況、現在も同じですよね。
マスメディアもまさに「軍部に協力を示し、よって権勢の地位につくことに心がけた」という態度そのもので、読売新聞戦争責証委員会『検証 戦争責任』が、「関東軍が、満州国に国民の支持を得ようと、新聞を徹底的に利用したのも確かだ。しかし、軍の力がそれほど強くなかった満州事変の時点で、メディアが結束して批判していれば、その後の暴走を押しとどめる可能性はあった」と指摘しています。この反省が現在に活かされているようには思えません。
そういう意味で、(安倍独裁政権の)今、真珠湾攻撃というアチソン国務長官(当時)をして「これ以上の愚策は想像もできなかった」(p58)と言わしめた愚行を振り返る意味は大きいと思います。
集団的自衛権、原発再稼働、TPPなど、指導者が嘘や詭弁で誤魔化し、マスコミは検証もせずにその嘘や詭弁を拡散し、国民がそれを無批判に鵜呑みにし、一定の方向へ誘導される図式は真珠湾攻撃へ至る道と驚くほど似ています。
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投稿者:ツンドク - この投稿者のレビュー一覧を見る
日米開戦に至る過程を当時の軍や政治指導者の言葉を丁寧にたどって追った本です。半藤一利氏や保坂正康氏などの著書である程度の知識はありましたが、知らなかったエピソード(開戦に反対していたと思っていた人がそうでもなかったり、逆だったり)も多々あり、改めて歴史の真実の奥深さを感じました。
それにしても当時の軍のひとりよがりと政治指導者の決断力・指導力の欠如(あとからだから言えることかもしれませんが)には呆れます。ただ、その話と、いま政治的議論になっているTPPや原発の話を結び付けて論じているのは違和感があります。
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日米開戦が起こらず、こんなアホな陸海軍がもし残っていたら、その方が怖いかもしれませんよ、非常に多くの人たちがその当時の政治指導者、官僚、軍人に犬死にさせられたわけですが、そのことで、少なくとも旧陸海軍はなくなったです、官僚さまはそのままいますよ、これを孫﨑さんは何とかできるのですか??
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日本はなぜあの真珠湾攻撃を行い、国を破滅させたのかを問う本。詳細な事実探求は著者の得意とするところ。当事者の証言をつなぎ合わせて、原因を探る。戦略無き日本の指導者層、米中をはじめ国際政治軍事情勢・状況への圧倒的な無知・無定見と都合の良い楽観、場当たり的な戦線の拡大、軍の独断専行と中央政府の弱腰・追認、国民とそれに追従するマスコミの好戦的風潮、そして中国全土(満州以外)への戦線拡大や対米開戦は必敗と主張する、幣原・宇垣・石原莞爾(意外であったが、陸軍は満州を守るだけで手一杯であり、戦線の拡大は破滅と主張し続けた)・米内・山本らをことごとく更迭・左遷・配置換えして中央から排除し、戦争へと進んでいった。これらを痛切に反省・研究する必要が有る。が、今の国家指導者層から国民までは70年前を学んでいるのだろうか。
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わりと長かった。
第2次世界大戦。太平洋戦争。日中戦争に至るまでの
日露戦争からの政治や軍部、マスコミの詳細な
動き(歴史)が語られています。多分、物事の見方は
ある一方からに偏っているかもしれませんが
ここまで詳しく語られているものは初めて読んだ
気がします。
第1次世界大戦・対華21カ条・満州事変・三国同盟・満州国設立・連盟脱退・真珠湾
それぞれのポイントで引き返す道はあって、それを
なぜ選択できなかったか。。
今の日本の状況と重なる部分が多くあるような気が
どうしてもします。
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読了。
著者は「戦後史の正体」で有名になった孫埼亨。
分かり易い反米親中思想の持ち主だが、日米開戦に至る実相を日露戦争の戦後処理から丹念に読み解く良書。
当時から無謀な外交施策に対し、アンチテーゼを投げかける人は国民にも国家中枢にもいた。
にも拘らず、斯様な国体を破壊しかねない国策を執るに至ったか。
"世界の指導者で、一定の知的水準を達成するという条件を満たしていない国がどこにあるのでしょうか"
そういう意味では、日本は未だ変わっていないのかもしれない。
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大日本帝国の構造は、天皇を頂点に据えて国務を司る政府と統帥権を有する大本営が対峙する。各々の組織における和平派と主戦派とを挙げ、彼らの行動や発言をつぶさに評価することで日米開戦に至った経緯を検証せんとする。歴史に「もし」はないと言うが、こと近代史に関しては、様々な分岐点での判断の是非をしっかりと吟味し、現在直面している課題の解決に役立てなければならない。個人的には「集団的自衛権」「原発」「TPP」に大いに憂慮しつつ矛先を転ずる力もないが、自分の思考を整理し、述べることはしなければと思うのだ。
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なぜ真珠湾攻撃と言う愚かな道を歩んだか
森島守人著、 陰謀・暗殺・軍刀 岩波新書
なぜだまされることを選択するのか、認知的不協和論
伊丹万作、戦争責任者の問題、騙されていたと言って平気でいられる国民なら、おそらく今後も何度でも騙されるだろう、
天皇陛下、満州事変に始まるこの戦争の歴史、
日露戦争から真珠湾攻撃までの歴史について、
満鉄は日本は満州を統治する機関、後藤新平、初代満鉄総裁
民間の会社の装いの下、満州のポーチをする、インドにおける東印度会社、
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なぜ日本は日米開戦を選択するに至ったのか、日露戦争以降の対満州施策を中心に、当時の「声」をふんだんに収録しながら解説されています。非常に分かりやすく、明解に整理されていて、理解が深まりました。確かに今後これを教訓にしていくべきですね。
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数年前位から自分で始めた企画ですが、年度が改まって8月の終戦記念日を迎えるまでに、先の戦争について解説された本を読もうを思っています。
この本は、以前に読んで私にとっては「目からウロコ」であった、「戦後史の正体」を書かれた孫崎氏によって書かれたものです。日米開戦=真珠湾攻撃になぜ踏み切ることになったのかについて解説されています。
私がこの本から得た結論は、株式市場がいくら好調のように見えても、ある程度を超えたところから上昇することが宿命となって無理をするために、いずれバブルが弾けなければならない、という自然法則に従ったためと思いました。どこかで弾ける運命にあったのだと思いました。
本の中では、夏目漱石の文章を使って上手に説明しています。牛(米国)と競争する蛙(日本)と同じことで、お腹がさけるよ(p150)
本の中では、遠い原因としては、日本軍の日露戦争の勝利によって締結したポーツマス条約違反、直接的な原因としては、日中戦争の発端となった「盧溝橋事件」辺りになるのでしょうか。この分厚い本ですが、終戦の日までに読むことができて良かったです。
最後に書かれていますが、根本的な原因として、今にも通じるものらしいですが、「おかしいと思ったことを、圧力を受けて発言できない社会になっていたこと」が、真の要因のようです。心に残るフレーズでした。
以下は気になったポイントです。
・いまなぜこの本を書こうという気持ちになったのは、今の日本が、日露戦争から真珠湾降べきに至る「いつか来た道」を歩んでいると考えるから(p4)
・具体的には、原発再稼働、TPP参加(外国企業の利益を確保する)、消費税増税、集団的自衛権、特定秘密保護法、これらは日本の生き方を根本的に変えるもの(p5)
・歴史とは、「なぜその選択をしたのか」「他に選択の余地はなかったのか」を問う学問である(p20)
・日本では最高裁の判決が最上位だが、TPPのISD条項は、この法律を裁くもの(p27)
・ドイツは米国への挑発にのらない、三国同盟の一つ、日本が米国に攻撃すれば、自動的にドイツと戦争ができると米国は考えた(p56)
・海軍省は内閣に従属して軍政・人事を担当するが、軍令部は天皇に直属し、その統帥を輔翼する立場から、海軍全体の作戦指揮を統括する。ひとたび戦争計画が作成されたら、必要な装備と人員を揃えるのが海軍大臣の任務である(p72)
・日米戦争が決定的になるのは、1941年7月2日御前会議において、正式に認可された日本軍の南部仏印(仏領インドシナ:ベトナム、ラオス、カンボジア)進駐が、7月28日に実行されてから(p89)
・陸軍は、ロシアとの戦争は考えていたが、米国と戦うことは全く考えていなかった(p106)
・天皇の命令を出す最高司令部が大本営、その決定には首相など政府が参画しない、決定は御前会議だが、基本的にはその前の連絡会議(大本営と政府の主要メンバーの協議体)で行われる(p107)
・日本は真珠湾攻撃と当時に、マレー、香港、グアム、フィリピン、ウェイク島、ミッドウェイ島を、2日間で攻撃した(p144)
・米国は日露戦争の勃発時に世界の主要国と戦争する「カラープラン」を作成、ドイツは黒、フランスは金、英国はレッド、日本はオレンジ、日本は米国を仮想敵国ナンバー2とする国防方針を、1907年に作成(p172)
・日米開戦への道を決定的引き金となったのは、日露戦争後の中国問題、ポーツマス条約で獲得したのは、南満州鉄道だけ。満州権益は列強各国と共有するという選択をすべきだった、伊藤博文はその方針であった(p177)
・1930年のロンドン海軍軍縮会議では、主力艦建造禁止の更に5年延長、ワシントン条約で除外された補助艦(巡洋艦、駆逐艦、潜水艦)の保有量が決められた、参加国は、米英仏伊および日本だが、フランス・イタリアは途中で脱退(p237)
・大阪毎日は、東京紙の「東京日々新聞(三菱財閥)」を買収したので、朝日と異なって、政府擁護、軍部擁護の姿勢が強い(p277)
・英国は当初は中国への直接統治を目指したが、中国が力をつけるにつれて、中国の自治を認めて、通商で利益を図る方針に変更した(p333)
・1939年9月1日、ドイツはポーランド侵攻、3日にイギリス、フランスは宣戦布告、1940年にドイツの快進撃は続いた、ノルウェイ、デンマーク、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクを制覇、6月にはフランスのパリを無血占領した(p368)
・日支事変から2年目の1939年7月26日、米国は日米通常条約(1911年締結)の破棄を通告した、最恵国待遇があるので日本だけに輸出禁止はできなかったが、条約破棄により、経済制裁を課すことが可能になり、1941年の石油全面禁輸につながる(p396)
・ポーツマス条約においては、1)遼東半島以外から、日本およびロシアは軍隊撤退、2)満州全域は中国に返還、3)満州市場には列国に共通の政策を採用する、とあるので、日本軍が満州を権益とするのは、条約違反であり米国の反発は根拠がある(p405)
・戦中は、ほとんどの文学者は戦争協力者になっていた、軍部に協力することで徴兵されず、軍需工場に徴用されず、配給物質の「紙」も協力することで作家活動が続けられた(p445)
・伊藤博文の暗殺の影響は、1)翌年、韓国併合、2)満州について清国の主権尊重、英米と協調することの重要性を主張していたがその主張者を失った(p475)
・年々70-80万人の人口増加に苦しんでいる日本としては、産業立国によって国民経済生活の調整をする以外に施策はない、とされていた(p485)
・昭和天皇が、軍部や右翼に暗殺される危機を感じていたとすれば、戦前史の見方は大きく変わる。昭和天皇独白録によれば、主戦論を抑えたならば、国内世論は沸騰し、クーデターが起きただろう、と述べている(p486、488)
・現代では、暗殺という手段の代わりに、ポストから外す、発言の場を奪う、人物破壊(世間的な評判、人物像に致命的な打撃を与える)がある(p491)
・真珠湾攻撃に突き進んだのは軍部の強引さであ���が、特定の勢力の横暴を許したのは国民側にある(p497)
・日米開戦はおかしいという考え方を持っていた人は、軍部にも、外務省にも、政治家にも、新聞社にも、ほぼすべての分野に存在したが、それが圧力を受けて発言できない社会になっていたのが、真珠湾への道の最大の要因である(p498)
2015年8月16日作成
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なぜ、大日本帝国は真珠湾攻撃を行い、日米開戦という道を選択したのか? 日米開戦に至る国内の政治及び軍事関係の歴史を検証している。
本書の冒頭で明らかにしているように、日本の開戦、対米直接戦争を一番望んでいたのは、ヨーロッパ戦線で苦境に陥り、しかも、米国の参戦を誰よりも望んでいた英国チャーチル。そして、米国民からの戦争参加承認を望んでいた、米国大統領ルーズベルトである。
本書は日本国内の政治状況について細かく記述してはいるが、話のキモは冒頭いきなり宣言されている。
日本が日本国民にとって愚かな選択と言われる対米直接戦争に突入したのは、米英の開戦を待ち望む様々な要求に耐えきれなくなったことが、最大の原因であると思う。
著者は、本書を書いた理由に、現在の社会が、開戦前夜と同じような状況に進みつつある。今の平和な日本を壊す必要は何もないのにと書いているが、その平和な日本を創り出したのは、愚かな選択と言われる対米直接開戦とその結果である敗戦だったのではないか。
奇しくも今日は、明治節。
昭和初期生まれの母は、明治節の歌を歌っている。その話を聞くに、おそらく当時の日本国は現代の北朝鮮と同様の、現人神、天皇が支配する前近代国家だったのではなかろうか?
とすれば、太平洋戦争は、本当に日本にとって最悪の選択だったのだろうか?
もし、対米直接戦争が行われなかったとしたら、現代の日本はどのような世界になっていたのだろうか?
そして、もし、今の首相の選択も誰かの強い意向を反映したものであるとすれば....
そして、本書は末尾に伊藤博文、阿倍守太郎外務省政務局長の暗殺、佐分利貞男駐支那公使の変死などの死についての憶測で締めくくる。
もし...
歴史にifはないのだけれど、そんな世界を想像した。
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以前、著者である孫崎氏の「戦後史の正体」を、日本近現代史の新たな視点で興味深く読んだことから、戦後70年という節目に、2015年の夏休み図書として購入。
まとまった読書時間がなかなか取れず、かつ500ページ以上の分量だったため、読了したのが翌年の初夏になってしまった。
孫崎氏は本書のまえがきにて、現代の安倍政権とジャーナリズムのあり方が、先の太平洋戦争開戦時の状況と酷似しているとし、元外務官僚だった立場で現代社会に警鐘を鳴らすことから論考が展開される。
日米開戦への道のりと開戦に至った原因を著者なりの視点でまとめ、それを読者に対して問題提起する論調はいつものスタイルともいえるが、本書の特徴は、著者の論点や考えのみが述べられているのではなく、当時を生きた多くの関係者の著書や手記等のを可能な限り引用し、歴史の解釈や当時の状況の描写に関しての客観性を試みている点であるといえる。
関係者においても、軍人や政治家・官僚だけでなく、ジャーナリズムや文学界からも引用されていることが、客観性をより高めていると感じる。
また、著者自身は歴史家という立場ではないからか、歴史を論ずる際のタブーとされる"IF"をあえて用いているが、これは著者自身の考えや歴史的解釈を強調したいからなのであろう。自分としても違和感なく著者の想いを理解しながら読み進めることができたので、このようなアプローチも悪くはないと感じた。
本書では太平洋戦争(特に開戦の端緒となった真珠湾攻撃)の遠因は日露戦争の勝利にあるとして、そこまで遡って述べられているが、ひとつの事象を長期的視点に立ち、かつ複眼的(国内-海外、戦争賛成派-反対派、国家-民衆 等)に分析し論説されている点は評価したい。
戦争は戦略・戦術のみならず、政治・経済・外交に加え、時には宗教や思想、国家レベルの謀略等も絡み、限られた紙面の書籍にて多面的に論説するのは極めて難しい分野であるといえるが、孫崎氏のように(反論や批判があると分かったうえで)独自の視点やアプローチによって、現代社会と対比しながら切り込んでいくスタイルは、読者にも多面的に考えさせるという点でも貴重なのではないだろうか。
孫崎氏の歴史観は賛否あるものの、その時代を生きた人物の生の声を拾い上げていくアプローチは、日々に忙殺されて関連した時代の本を読む時間が取れない身としては有り難いと感じた。
引用を多用することでオリジナリティに欠けるという批評もあるとは思うが、こうしたアプローチはインターネット分野では一般的になった"キュレーション的手法"ということができ、情報が氾濫する現代社会では歴史分野においても有用であるといえる。
「戦後史の正体」と同様、著者独自の視点とアプローチで興味深く読み進められたが、分量が多いからか、論調が全体的に散文的で、かつあとがきに「最終章を書いていながら、まだ筆を置けません。」と述べてあるように、著者自身も不完全燃焼で締められていることから、今後への期待を込めて評価は4とした。
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資料のピックアップに恣意的なものを感じるけど、日米開戦に向かって、軍・政・官それぞれの考えが紹介される。もちろんいろんな意見があったわけで、当然ながら誰もアメリカに勝てるとは考えていなかった。
それでも開戦した。残念ながら形式として国民の総意で。それだけ日本は、民主国家としては不出来だった。天皇主権の国だったし、いつの世でもそうだけど、国民より体制維持が優先されちゃうんだな。とは言え、フランスのやり方も好きになれないよ。
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日露戦争での勝利に始まる真珠湾戦争へ至る道
なぜ真珠湾攻撃という愚かな道を歩んだのか
真珠湾攻撃を始めたかったのは
原発の再稼働、TPPへの参加、増税、集団的自衛権、特定秘密保護法
日本の生き方を根本的変える動き
要求に応じる代議士官僚とただ見つめる国民
本質が論議されず
詭弁や嘘で重要政策が進められる
本質論を説くと邪魔で排除される経緯
歴史こそが人間の行動の実験室
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本作のテーマは「日米開戦」「真珠湾攻撃」。
若者から面倒臭っ、古臭っ、みたいな反応がありそうです。ただし、氏のテーマ設定の背景は深遠です。『日本は今、「あのとき」と同じ歴史的曲がり角にいます』、と冒頭で述べます。
・・・
今、TPP、原発はじめエネルギー問題、消費税増税、国の借金等問題がありながら、正論が叩き潰され、言論が密かに封殺されるような現代社会。
今なら無謀な戦いだと理解できる約80年前にも、正論が覆され、自己の保身から統治責任を放棄した政治家や軍人たち、そして現状をあおったマスコミや論壇があった、という話です。
現代を危機と捉えるものの問題には直接触れず、逆に80年前の状況を渉猟し、多くの歴史上の人物に当時を語らせることにより、どのようにして日本が破滅の道へたどったかを示します。正確には、1941年の真珠湾攻撃から遡り、満州事変、さらには日露戦争辺りまで事象の連関を探ります。
当然ながら、これは反面教師的効果を狙っています。
・・・
まず、日本は流れを読めなかった。
俗に、第二次世界大戦は、欧米に「追い込まれた」上で日本は突入したと言われることがあります。一部には正しいと思います。自国が不平等条約で酷い目に遭い、過剰適応の末、同様の事を韓国や中国でも展開しようとしたのかもしれません。また兄貴分たる欧米のやり方を踏襲しただけということなのかもしれません。
ところが辛亥革命以降、民族自決の萌芽は顕在化しつつあったわけです。中国を狙う米国すら、その民族意識や反発・またそれと対峙するコストについては勘案できていた節があるようです。日本にはそこまで読む力はなかったようです。で、石橋湛山など、こうした流れを読める言論人は世間から排斥されてしまったわけです。
現代で正論を言う人が排斥されていることはないでしょうか?
・・・
次にお偉方の監督責任です。
五・一五事件や二・二六事件は一般に若手将校の先走りと解されていると思います。ひいては満州国設立の差し金たる関東軍の横暴です。で、そういう暴挙に対して、偉い人たちは何をやっていたのかって思いませんか。
結論から言えば、傍観・責任放棄です。ただいるだけ。半藤一利氏の著作からの引用でこうあります。
『二・二六事件はひと言でいえば「恐怖の梃子」ですよ。(略)何かといえば陸軍の上に立つ人は「わたしはいいが、部下の方がどうでるか」と脅すんです。(『日米開戦の正体』P.489)』
今であればどうでしょう? 「いや部下のマネジメントこそあなたの仕事でしょう? できないんだったらとっとと辞めてください」って言いたくありませんか? もちろんこの場合は文字通り拳銃を持った部下であり、御しがたいところはあろうかと思います。内心で部下の横暴を応援していた向きも多かったと思います。ただ、政治家・軍人にはあまりにマネジメントに適さない人が多かったと思えてなりません。
現状の政界・財界はどうでしょうか。
・・・
これ以外にも、テロ(武力)をもと��した言論封殺は興味深かったです。辛くも生き延びた幣原喜重郎氏や、どう見ても陰謀の下に殺害されたとしか思えない佐分利中国公使の話など。
また、我が身を守るために世間と迎合した文学人(斎藤茂吉、山岡荘八、川端康成等多数)の責任問題など、有名人・芸能人の立場の厳しさを突き付けられた気がします。もちろん、メディアや有名人の発言をあるがまま嬉々として吸収してしまう民度の低さは言わずもがなです。
・・・
ということで孫崎氏による戦前戦中史についての作品でした。
多くの軍人・政治家・外交官の発言から、当時の空気を再構成しています。感じ取れるのは、近視眼的(よく言えば?戦略より戦術)、上層部の責任放棄、長いものに巻かれろ主義、異論を許さない不寛容、でしょうか。
今、こうした国民性に変化が無いとすれば、やはり同類同規模の悲劇が再発する恐れがあるのかもしれません。
本作、戦中史に興味がある方、外交史に興味のある方、政治に興味のある方、現代日本はおかしいんじゃないかと感じる方、等々にはお勧めできる作品かと思います。