投稿元:
レビューを見る
昔の彼女の本は、ファンタジー要素がどこかしら(一概に子供向けなファンタジー、ではなかったけれども)あったのですが、今回は一切そういうものはありません。
完全に、『現実』だと思いました。現実にしては、トントン拍子すぎるかもしれないかな、とは思うけど。パッと見、珊瑚という女性のサクセスストーリー、な面もあるので、サクセスストーリーとは、すべからくある種の御都合主義があるものかな、とも思います。
サクセスストーリー、と書いたけど、その実全くそんな甘ちゃんなものではないです。
ネグレクト、という虐待に遭った女性が、子供が出来て、結婚したけど結局離婚し、シングルマザーになって、おそらく状況としては自分の母親が若かった頃と同じ家庭環境になり、ああもう無理、私これからどうして生きて行ったらいいの!!?というとこから、物語は始まります。
ネグレクトに遭った人が身の回りにいたことはないので、ちょっと詳細には分からないけど、やっぱり主人公の若い母親(なんと21歳)の珊瑚は、やはりどこか浮世離れしています。
『普通に』育てられてたら、なんとなく成長とともに知っていくはずの、様々な常識が、時々すっぽりと抜け落ちています。
でも、彼女はそれをちゃんと分かっていて、温かい周りの人から、謙虚に学んで、それを感謝する心を知っている。
誰に与えられたわけではないのかもしれないけど、いや、もしかしたら、ほんとにやばかった時にお世話になったスクールカウンセラーの藤村先生のおかげかもしれない、そういう心持ちを身につけられたことは、彼女の美徳であり、だからこそ、周りに彼女は愛される。
そして、それを妬む輩もやはりいるのです。そういうのを書かない作家さんもいます。綺麗なことしか書かない人。でも、そんなうまくいくはずないんですよね。
美知恵の毒々しい手紙は、本当にムカムカしましたが、こんなこと本当は日常茶飯事なんだろうと思います。
成功する人は、称えられるけど、恨まれもする。大抵は恨んでる人間それ自体に、問題がある場合が多いです。羨む、という行為が、元来本質の歪さによって生み出されるものだからです。羨むということは、それが自分にないものだと分かっているからなのです。
美知恵は論外の最低オバサンだと思いますが、珊瑚も別のところで、ある女性に嫉妬心を抱きます。
全く自分とは真逆で、たぶんずっと家族に愛されてきて、夫婦仲もうまくいっていて、孤独な珊瑚を哀れに思って、お店の家賃を下げて差し上げられないか、と貸主の夫に打診してくれた立花夫人です。
彼女は、きっと慈善的な気持ちもあったのでしょう。同情もあったのでしょう。でも、それは、珊瑚にとっては、施し、のように感じられて、なんだかすごく惨めになったと。
そんな自分自身も、情けなく思って、腐れてる珊瑚に、修道女経験のあるくららは言い聞かせます。
立花夫人の優しさの形が、貴方の中の敏感な部分に触れて、今まで押し隠してきた感情が『アレルギー反応』のように出てきたのね、と。
人の優しさを、どのように受け取るかは、プライドが試される一瞬なのだ、とくららさんが言うところで、ハッとさせら���ました。
施しを与えている人が、与えさせてくれてありがとうと思えるくらい、たっぷり喜んでくれる、そんな態度を見ると、それが相手から自分への施しなんではないか、と思えてくると。
ーーーちょっとくらいの『施し』じゃ、わたしの『プライド』はビクともしないのよ。
それは、施されてやってるんだ、だからもっと差し出せ、というのではない。施しを受ける私の心を思いやってくれる、その心に、安心して、と笑ってみせること。それは、それだけ、心が豊かで強く、そして大らかであるということなのです。
当たり前のことでも、卑屈になることでもないのですが、なかなか実際には難しい。
長く生きていると、人に助けられることはとっても多くなります。そういう時、卑屈になるんじゃなく、ありがとうと思えるくらい強く、心豊かでありたいなと思うのです。
珊瑚は、ものすごく夜泣きをするようになった雪を抱えて、途方にくれる場面もあります。ママァと泣き叫ぶ雪の声を、罪悪感でいっぱいになりながら聴いた珊瑚。
これは虐待だ、と珊瑚は言いますが、え、こんなの虐待でもなんでもねぇよ!!と思いますね。こんなの、どこの母親でも一度はやってますって。寝たい時ギャン泣きされりゃ、そりゃちょっと離れたくなるし、憎く思えちゃうのも当たり前です。
ただ、当たり前の時に、ちゃんと人に手を伸ばせるかどうかが大事なんだと思います。無理だ、と思ったら、人を手を借りること。ずっと一人でなんでも決めてやってきたつもりの珊瑚でも、子育ては人の手を借りないと絶対無理と悟ります。
ほんとはそれ以外も人の手を借りなきゃ、って時は、彼女の場合いっぱいあったのですが、実感できたのはいいことでした。子供というのは、母親の窓をどんどん開けてくれるものなのですね。
とにかく、梨木さんの本だなぁと思いました。何度読んでも、違う感想が出てくる本。それが良書なんだと思うのですが、最近そういう本を書く人がほんとに減りました。
投稿元:
レビューを見る
よくあるカフェ物のように店を作ろう、そしてすぐ場面転換してお店に来る人との心温まる交流のような感じではなくて、ちゃんとそこに至るまでの現実的なことも意外なほど書かれているなといったふう。
やわらかだけどふわっとしすぎず、締めるところは締められていて、噛み締めて読む物語。
登場人物は梨木さんらしい。裏庭やからくりからくさからずっと続いているような、ぬくもりや寛恕や、時に抉りに来る言葉も。
音読で「ぎゃっ」は、わかりすぎるほどわかってクスリとしてしまいました。
投稿元:
レビューを見る
こういう静かな雰囲気の話がとても好き!
cafeには是非、行ってみたいな~♪
珊瑚の強さに◎
H27.9.28~9.30読了。
投稿元:
レビューを見る
この作品のレビューは、これまでに読んだどの本よりも難しい。珊瑚という女性もしくは母親、あるいは娘をどこまで言葉を尽くしてもその深い魅力を語りきれそうにない。
自分の中の感覚に従って生きる珊瑚の生き方には、ただただ共鳴している。私はそれがうまくはいかないだけだが、気持ちに合わないよりはよい生き方ができている。
食べものにまつわるすべての記述が、本当に素晴らしい。体がほしいと言うものを美味しくいただいた時の、自然にこぼれる笑みや、涙がにじむくらいの幸せを、私も雪ちゃんと同じく知っている。そのことがとてもうれしい。まっとうに生きているなあ、と実感できた。
珊瑚の言うとおり、すべての人と「ラブラブ」でなくていい。私も30歳を超えて、心からそう思えるようになって、人とうまく付き合えない自分に対する自己否定から解放された。
珊瑚という女性もしくは母親、あるいは娘のすべてを描き尽くそうとしたような物語。もちろん人は日々更新されるから、描き尽くすのは無理だとしても…私は珊瑚をもう少し未来まで見ていたい。ぜひ描いてほしい。
レビューをまとめることができないくらい、濃密に凝縮されたひとりの人間が、この物語には棲まう。
投稿元:
レビューを見る
読んだ後にじわじわと自分の心が癒されていく作品というものがある。
私にとってこの一冊はそういう作品だった。
巡り合わせ、今年はずいぶんこの言葉を言ったし、言われたし、その言葉に傷つけられた。
でも、この作品と巡りあったことは、数少ないうれしいことの一つだ。
投稿元:
レビューを見る
世間知らずの主人公の成長物語とも取れるし、はやりの「ご飯もの」とも取れる。色んなテーマを孕んだ物語だと思うけれど、私は、「母と娘」の物語だ、ととった。物語は、適度な緊張感を最後まで保ったまま進むのだけれど、最後の一行を読んだ時、涙腺決壊。
いつか映画化されそう。
投稿元:
レビューを見る
お惣菜が出てくるということで、最近食べ物系の本に惹かれていたので読んでみました。
『西の魔女が死んだ』で好印象だったのですが、この方は多分、短い文章の方が良いんだな。
静かなお話で、少し中弛みした印象が今一歩残念…
投稿元:
レビューを見る
梨木さんの表現が好き。
私達は生きていかなければならない。できれば元気に笑って生きていきたい。
それを支えてくれるのは生命力あふれる旬の食やじっくり淹れた珈琲など。
そんな当たり前のことを気付かせてくれる一冊。
自分も人のために(自分のためにも)美味しいモノを作れる人で良かった。
投稿元:
レビューを見る
追い詰められたシングルマザーが主人公という設定から悲壮感が漂うが、前に進もうとする気持ちでポジティブになれる。しかし、それでも子供と対峙してどうにもならない気持ちを爆発させる様など、本当によく描けていて心に残った。子育てをしていた方ならかなり共感度は高い。梨木香歩さんの素敵な文章を堪能できた。最高や!
投稿元:
レビューを見る
シングルマザーの珊瑚、21歳。生きていくにも、働くにも、子供を預けることもできない・・・というところで、〔赤ちゃん、お預かりします〕と張り紙をしていた老婆くららと出会うところから、話がスタート。
結婚をしなくとも、家族を持たずとも、生きていくために・なにかするために、人と関わりを持つことで自然とその人たちがパートナーのようになっていく、いい関係が築けていくところは素敵。
ただし、主人公の珊瑚はやっぱりちょっとぼんやりしているところもあり、たまにいらっとさせられる。美知恵の言うことも、もっとも。
それでも、母と子を中心としてまっすぐ進んでいく姿は見ていて気持ちがいい。最後に雪ちゃんが言った言葉が、じんわりハートに染みいるいい本。
投稿元:
レビューを見る
「食べることで人は復興する」
解説のタイトルが、まさにこの小説のすべてを表現していると感じた。
1歳にも満たない赤ちゃん(雪)を一人で育てるシングルマザーの珊瑚が、年配のくららと出会ったことから、道を切り開き、自らの惣菜カフェをオープンさせる。
助けてくれる人も多い中で、批判的な人もいて、そういう人の存在が単なるいい話に終わらない、現実的な面も持ち合わせていたところだと思う。
今まで苦手な食べ物はあっても、アレルギーに困ったことはなく、30を過ぎて初めて食事を制限することなって、自由に好きなように食べられること(健康かどうかはさておき・・・)の喜び、楽しさを身に沁みて感じている時期だからこそ、調理の工夫によって、心にも体にもやさしい食事がたくさん登場するこの小説に揺さぶられたのかもしれない。
2015.07.19読了
投稿元:
レビューを見る
シングルマザーの珊瑚が、託児サービスを行うくららと出会い、多くの人と関わり合いながら雪を育て、お店をオープンさせて生きていく話。
食、母子、修道院、プライド...色んな事がテーマとして繋がっている。
どの登場人物も心の奥に多かれ少なかれ暗い部分を持っていて、それでも懸命に生きている。
更に、雪が1つ1つ色んな事を覚えてできるようになる様が前向きな印象を与えてくれる。
皆、客観的に自分や物事を見ており、その結果それぞれの心の暗い部分を掘り起こし、読者にも考えさせてくれる。
投稿元:
レビューを見る
21歳のシングルマザーが温かな周囲の人々に支えられて夢のようなレストランを作るという、メディア化しそうなおとぎ話。
しかし、おとぎ話と言い切るには企業するにあたっての公的資金の仕組みを詳しく説明するなどなかなかにしょっぱいところも。
有機農業バンザイはこの手のストーリーのいつもの通りだが、それにあたってのコストやそれに見合った価格、など普通の作家さんよりは現実的だ。雑草についての発言は梨木さんにしては意外だと思った。
病気や虫の温床だからきちんとした除草は本当に大事なんだけれど、人によっては自然農法、それで強い野菜が作れるのよ!と勘違いしてる人がいて、あのー虫や病気にかかれば植物は強くなりますけれどー、それはー体にー毒をー作るからですーと言いたいけれど、こういう人は聞く耳持たない。
この小説では有機農業を商業観点からきちんと見ているところがよい。
確かにとんとん拍子に店はうまくいく、これに対して読者はそんな甘いもんじゃとクレームつけたくなるかもしれない。
しかし、店を作り運営していくにあたり、いやそれ以前にも主人公は何度も己の甘さを叱責されたり、恥じたりする事柄に直面する。
結果だけ言えば店は繁盛するが、それにあたって、少なくとも資金面について主人公はかなりシビアに行動している。
強いて挙げれば、母親運の悪さを補うかのように、すばらしい人々と知り合える運がおとぎ話らしいといえばそうだ。
特にシッターになる元シスターのくららさんなど、ほとんど天使かゴッドマザーのフェアリーだ。
でも小説なんだからいいじゃん、素敵な登場人物がいた方がいいじゃん、と私は思う。
だいたい、元夫のくずさが半端ない、親しか救いがないというくらいのくずぶりが凄まじいので、くららさんみたいな人がいて釣り合いがとれているよ…。
そしてその結果だけ見て、わざわざ攻撃してくる女もいる。
なんだかな、朝ドラを思い出す。
朝ドラの主人公はまっすぐで努力家で大体最後には成功する。
それを見てなぜか「ああいういい子ぶりっこ腹がたつ! 皆にちやほやされて! 私はそういうずるさをオミトオシなんだから」と感想を送りつける視聴者…
それくらいあの手紙には破壊力があった。
自分が行きたかったおしゃれなカフェを経営していたのが、自分の価値観からいうとあざけっていい立場のだらしないシンママ、いい子ぶりっこしていてまじめな私を差し置いてみんな彼女をかわいがる、そんないい気になっている彼女に堂々と私はあなたを嫌いですと言える私ってステキ…というナルシズムと嫉妬が混じった手紙。
妙にそこが客観的でひょっとして筆者もこの手の手紙もらったのかと思うほどリアルでした。
このとき、主人公は彼女が歩み寄りの手紙をくれたのだと勘違いしていて無防備だったので、ショックを受ける。
普通ならここでもうひとつかふたつ展開がありそうだけれど、作者はこの先の作者が描かない彼女の宿題としてとっておく。
これはあくまで珊瑚の自立と再生の物語であり、勧善懲悪の物語ではないからだろう。
読後感はいいが、それだけではな��と思う物語。
投稿元:
レビューを見る
梨木香歩さんの作品はどれも好き
ファンタジーではなくリアルな内容
ネグレクトを受けた少女が母になる
くららがよすぎて☆五つにならなかったかな
読後感がいい!
《 食べること 雪と珊瑚と ちィあわちぇに 》
投稿元:
レビューを見る
梨木香歩の雪と珊瑚とを読みました。
珊瑚は21歳で泰司と結婚し雪を産みましたが、泰司は珊瑚のところを去っていってしまいます。
乳飲み子をかかえて途方に暮れる珊瑚でしたが、「赤ちゃん、お預かりします」の張り紙を出していたくららと出会い、雪と一緒に生きていくことを決意します。
おなじアパートに住む友人の那美、アルバイト先のパン屋の桜井夫妻、パン屋のアルバイト同僚由岐、有機栽培農業をしているくららの甥貴行とその同僚時生、喫茶店店主の外村、といった人たちが珊瑚を支援してくれたおかげで珊瑚は惣菜カフェを開くことが出来たのでした。
次々と協力者が現われるところは物語としてできすぎじゃないかな、とも思いましたが、物語はおもしろく読みました。
「温かい食べ物は人に活力を与える」というコンセプトで書かれた物語で、たくさんの料理が紹介されていて読んでいて幸せになります。