紙の本
美術館の舞台裏 魅せる展覧会を作るには
2016/09/17 12:31
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投稿者:Carmilla - この投稿者のレビュー一覧を見る
丸の内にある落ち着いた雰囲気を持つ美術館である、三菱一号館美術館。同館の館長が書き綴る、日本の美術展と美術館の実態と現状。日本の美術館に対する公的援助が少ないことは、以前から重々承知していた。自前で用意できるコレクションに乏しく、海外にネットワークを張り巡らす新聞社・メディアの力なくしては、日本の美術館で海外芸術の展覧感を開催することは難しいのだ。そのことが、日本の美術館とメディアの関係に悪影響を及ぼし、日本に真っ当な美重点の評論が存在しないことを、筆者は心から憂えている。「寄付」と「寄贈」の違い、美術品を巡るドロドロの世界、美術品と光(太陽光、室内照明問わず)の関係…。「学芸員」の地位が、海外と日本とでは全く違うことに、驚く人も多いだろう。大学の講座で簡単に取得できる日本に対し、高度な試験を突破しないとその座につけない海外。自前で用意できるコレクションがない(少ない)が故に、日本独自で発展した様式が、海外の美術関係者から奇異の目で見られていることは、日本人美術愛好者の一人としては肩身が狭い。そしてここ数年の世界的不況で、海外の美術館も経済的苦境に陥っているのは、美術ファン、美術展覧会好きには気がかりな状況である。美術というのは、このまま「金持ちの道楽」になってしまうのだろうか。
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もう少し突っ込んだ内幕と、図版があればいうことなし
2016/02/23 23:35
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投稿者:おくちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
フランス美術を専門とし、現在は三菱一号館美術館長を務める著者による、美術館の運営にまつわるお話が満載です。具体的な内容は他の方が詳しく紹介されていますのであえて繰り返しませんが、日本の美術館はフランスやイタリアなど大国の美術館に比べて資金力、集客力などまだまだで、著者の苦労されている様子なども垣間見えて興味深かったです。
ただ、どれも割と表面的にさらっと記述されていますので、欲を言えば、もう少し突っ込んだところまで知りたかったです。例えば、日本の美術館展は大手新聞社が強力なスポンサーになっているのは誰でも知っていますが、それでは新聞社は全体の売上の何パーセントくらいを取っているのか?特別展に必ずといって並べられているグッズ類の売上目標はどのくらいか?(話はそれますが、どの特別展でも2500円もする大判のカタログが大量に山積みされています。しかし私はそれを買っている人を見たのは今まで一度しかありません。)
それから、これもちくま新書だからかもしれませんが、図版があればもっとインパクトがあると思います。例えば、ヴェネツィアでティツィアーノの「ウルビーノのヴィーナス」とマネの「オランピア」が並んで展示されていたときの印象を語っておられますが、読者がみなこの2枚の絵をぱっと思い浮かべられるとは限りません。
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言われてみれば気になるものがある。それは美術館の行っている展覧会がどのように企画されて運営されるかということだ。その点で今回の本はぴったりだ。今回の著者は、丸の内にある三菱一号館美術館の初代館長。
よく展覧会のパンフレットに主催者の欄に必ずと言っていいほど載っている業界の名前がある。それは新聞社だ。戦後の海外展で海外の美術館から貸してもらうための交渉をするには海外駐在員や特派員はうってつけの存在だった。何しろ1ドル360円という時代で、誰もが手軽に旅行できる時代ではなかった。そのうえ新聞社にとっても自社の存在をアピールできる。アピールも文化に関心があるというお上品なやりかたで。需要の供給の一致が今日の海外展の基礎になっている。
1980年代以降、放送局が美術展開催の参入するようになったとある。TBSの世界ふしぎ発見を見ているとたまに展覧会の宣伝を兼ねたテーマを取り上げていることがある。その後、「商業化への道をたどる海外展」と著者が述べているように、海外の美術館は資金繰りが苦しくなってきて、日本の海外展を金の生る木にせざるを得なくなったそうだ。茶者がある美術館の名誉館長にチクリといわれた一言が載っている。それは「作品をお金で集める習慣をつけてしまったのは日本人なんだよ」と。その付けが今どっしりと響いてきているようだ。
読んでいてびっくりしたのが美術品の扱い。日本に届いて中を開けてみたら、フレスコ画の表面の顔料がはがれ落ちていた。それに対してナポリの美術館からのもので、付き添ってきたクーリエがはがれた顔料を掌にとってごみ箱に捨てたと書かれている。さらに、「イタリア人はジオットのフレスコ画を雑巾でふいてるんだよ」という著者の恩師の言葉。「あまり細かいことは気にしない傾向が強いのです」とあるように、日本人では考えられないことをする。フランス人も同様の傾向が強いそうだ。
美術館や博物館で働く場合も、商社で海外勤務をする人に求められる「神経の図太さ」が必要だ。可憐な一輪の花では心もとない。
展覧会を企画、運営していくことが大変なのが分かる。今度展覧会を見に行くときは、どんな風に企画して運営しているのか注目してみるか。展覧会の公式ガイドを見るとどこかに何かしらの形で書かれている。
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美術ファンとしては各美術館で様々な企画展が開催される事は行きたい展示が多すぎて選べない!という贅沢な悩みだと思っていたけれど、関係者から見ると美術展の商業化という意味で良いことばかりではないのだと知って驚いた。
海外から作品を集めれば集めるほど輸送費や保険料で莫大な費用がかかり、それを回収するため新聞社やテレビが宣伝しグッズを作り‥いわゆる日本で開催される「企画展」は失敗が許されない、ハイリスクハイリターンの一大ビジネスに(良くも悪くも)なったとのこと。関係者は大変なプレッシャーの中で準備に追われているんだろうな‥
今後美術館に行く時は心して行こうと思いました(笑)
あと個人的には日本の美術品は主に紙のものが多く展示中のダメージが多い事から展示期間が短いという話が印象的だった。もっと会期を延長してくれれば良いのに‥と不満だったけれどそんな理由なら致し方ない。
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高橋明也『美術館の舞台裏 魅せる展覧会を作るには』(ちくま新書、2015年12月)税別780円
三菱一号館美術館館長(初代)の高橋明也(1953-)による、美術館運営および展覧会企画の裏側で働くスタッフの仕事、西洋美術界の力学の紹介。
【構成】
第1章 美術館のルーツを探ってみると
1 明治の西洋美術コレクター、松方幸次郎と大原孫三郎
2 国家の格、コレクションの持つ力
3 美術館の起源は古代ギリシア?ルネッサンス?
4 ルネッサンス期、注文主と売れっ子芸術家との緊迫関係
5 パブリックスペースとしての美術館
6 日本の美術館のルーツ
第2章 美術館の仕事、あれやこれや大変です!
1 日本独自の海外美術展の作り方
2 そもそも学芸員(キュレーター)の仕事って?
3 マネジメント力の重要性
4 お国柄が出ます
5 作品キャプションが教える展示品のもう一つの表情
6 ほかにも学芸員の仕事はたくさん
第3章 はたして展覧会作りの裏側は?
1 展覧会づくりのの王道路線と貫いた『ラ・トゥール』展
2 学芸員はプロデューサー的手腕を発揮する
3 学芸員は映画監督、演出家的手腕を発揮する
4 展覧会もプロモーションが命です
5 展覧会の収支バランスとは?
6 動員数は次なるステージへの推進力
第4章 美術作品を守るため、細心の注意を払います
1 美術館の壁の色、おぼえていますか?
2 膨大な輸送費、保険費
3 作品はどんなふうに保存・修復されているの?
4 運搬の付き添いも楽じゃない
第5章 美術作品はつねにリスクにさらされている?
1 カタログ・レゾネの信憑性
2 日本美術、グレーゾーンへの執着
3 善意の贋作
4 ルノワールのお値段、決定権はここにあり
5 有名贋作事件
6 盗難事件、まさか日常茶飯事?
第6章 どうなる?未来の美術館
1 美術館情報最前線
2 美術品の値段はこうして決まる
3 ルーヴル美術館のロゴ使用料だけで600億円?
4 ファッションブランドが美術館を変える?
5 ルールが変わる。現代美術はフレキシブル
6 美術館、展覧会でつながる作家たち
7 日本の美術展に最も欠けているのは批評性
8 ファッションブランドにマンガ
9 美術鑑賞の原点に立ち返る
2015年1月、イギリスのナショナル・ギャラリーを題材にしたその名も『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』という映画が上映された。3時間におよぶ大作で観るのも疲れてしまったが、そこで描かれていた美術館の仕事、使命は本書のテーマはかなり重なる。
映画のように「来場した鑑賞者や子供にいかに絵画を楽しんでもらうのか」といった啓発活動までは触れられていないが、企画展の企画・立案・運営といった実務が中心となっている。
絵画の買い付け、企画展の海外美術館からのレンタル契約、作品の輸送、展示のレイアウ��、キャプション付けなど、名のある企画展を実行するには綿密な計画と段取りが必要となる。そういった実務の面で、日本ならではの事情を欧米の大美術館と比較しながら、語られる。
著者が館長を務める三菱一号館美術館は、東京丸の内にあって非常にアクセスしやすい立地もさることながら、印象派のロートレックやヴァロットンという少し変わったコレクションを擁している。特に「ヴァロットン 冷たい炎の画家」という2014年の企画展は、視点が非常に面白く、同館の企画のユニークさが前面に出ていたと感じる。
客の入りや収支を横目で見ながら、鑑賞者に発見してもらえるような価値のある作品を展示するという仕事の難しさと面白さが著者の言葉から見て取れる。
第4章で取り上げられている「作品の真贋」についてのテーマは、全体の中では主要テーマではないかもしれない。が、自分でフェルメールの模倣をしてナチス・ドイツにそれをつかませ、大金をせしめたハン・ファン・メーヘレン事件など痛快きわまりないエピソードで面白い。
印象派を中心とした企画展に数度足を運んだ経験のある人にはかなり面白い内容だと思うけれど、図版等の掲載はないので「フェルメールってどんな画家だっけ?」という人が読むと、いまいち面白くないのでは、という印象。
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日本の美術館・美術展の成り立ちから、美術館運営の裏側、今後の美術館の展望までを書いた本。作者の高橋氏は丸の内にある三菱1号館美術館の館長であり、彼がこれまで経験したエピソードも交えて描いており、非常に面白かった。
この本は年に1回か2回、興味のある展覧会が開催されている時だけ美術館に行く、私のようなビギナーが最も楽しく読めるのではないかと思う。
この本を読んで、自分が知っている画家・アーティストのみならず、未知の展覧会にも足を運んでみようと思うようになった。
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まさに「舞台裏」。ここまで明らかにしていいのか!?あとがきで明らかにされた著者の決断に感謝したい。本書の位置づけは難しいが、美術展ファンならば、きっと最高に楽しめるはずだ。
〈以下、備忘録〉
・お金で美術品を借りる習慣を世界で作ったのは日本の新聞・放送局
・デパートの催事場での展示開催は日本独自
・デベロッパー系の美術館の存在も日本独自
・フランスのコンセルバトワール試験は弁護士より難しい。合格率2,3%。
・イギリスでは学芸員はkeeper。アメリカがcurator。
・ルーブル、オルセー級の館長は大統領の任命。
・個人所蔵の名前を明かさないのは、税金対策が絡んでいる。
・壁の色と照明
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<目次>
第1章 美術館のルーツを探ってみると…
第2章 美術館の仕事、あれやこれやで大変です!
第3章 はたして展覧会づくりの裏側は?
第4章 美術作品を守るため、細心の注意を払います
第5章 美術作品はつねにリスクにさらされている?
第6章 どうなる?未来の美術館
<内容>
元国立西洋美術館在籍、現在丸の内の三菱一号館美術館館長による美術館の仕事や美術界のことを語った本。話の主は西洋美術(主に絵画)なのですが、ご本人の専門のマネのことやヨーロッパの美術館(パリの話が多いかな?)のことも語られます。近年の大家の作品展よりも視点を代えたテーマ展、マンガやファッションなどの現代アートなど、未来の美術館や展覧会の話が面白かった。むろん、画廊やオークションの話、美術館の裏話も「なるほど」と読めました。
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ジョルジュラトゥールやヴァロットン KATAGAMI、著者のキュレーションの展示を見てきて、不思議と強く印象に残っているので、それを反芻しながら読んだ。やっぱりそうかと思うことも多いけれど、ヘェ〜となることも。
オルセー展へいくのが楽しみ。2017 4.7
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展覧会を開く苦労、工夫などが分かりやすく書いてあった。
学芸員さんの仕事内容への理解が深まりました。
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三菱一号館美術館館長による、まさにタイトル通りの本。
文章はバランス悪いところもあり、一章一章短いから読みやすいんだけど、もうちょっと深いところまで書いて欲しいなという点もあるけど、興味深かった。
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三菱一号美術館の館長の著作。
美術や美術館事情に詳しい人には物足りないかもしれないが、
私のように「そんなに詳しくないけど興味はある。時々美術館にも行く」という人にオススメ。
一通りのことが簡潔に分かりやすく書いてある。
いちいち「へぇ~、そうなんだ~」と思いながら楽しく
読んだ。
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丸の内にある落ち着いた雰囲気を持つ美術館である、三菱一号館美術館。同館の館長が書き綴る、日本の美術展と美術館の実態と現状。日本の美術館に対する公的援助が少ないことは、以前から重々承知していた。自前で用意できるコレクションに乏しく、海外にネットワークを張り巡らす新聞社・メディアの力なくしては、日本の美術館で海外芸術の展覧感を開催することは難しいのだ。そのことが、日本の美術館とメディアの関係に悪影響を及ぼし、日本に真っ当な美重点の評論が存在しないことを、筆者は心から憂えている。「寄付」と「寄贈」の違い、美術品を巡るドロドロの世界、美術品と光(太陽光、室内照明問わず)の関係…。「学芸員」の地位が、海外と日本とでは全く違うことに、驚く人も多いだろう。大学の講座で簡単に取得できる日本に対し、高度な試験を突破しないとその座につけない海外。自前で用意できるコレクションがない(少ない)が故に、日本独自で発展した様式が、海外の美術関係者から奇異の目で見られていることは、日本人美術愛好者の一人としては肩身が狭い。そしてここ数年の世界的不況で、海外の美術館も経済的苦境に陥っているのは、美術ファン、美術展覧会好きには気がかりな状況である。美術というのは、このまま「金持ちの道楽」になってしまうのだろうか。
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普段見ている美術展の裏側を見れる楽しい一冊。知らない世界を知ることが出来る。へぇーそうなんだー、と言わされてしまう。丁寧な文体と、読み進めやすい話題の推移で、おすすめの一冊。
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美術館はよく訪れるけれども、裏事情は全く知らなかったので勉強になった。一つの展覧会を手掛けるのには、こんなにも色々な方々が携わって成り立ってるのだなあと思うと、感慨深いものがあった。これからは一つ一つの展覧会をもっともっと大切に見て回りたい。