紙の本
崩れゆくフランス
2016/02/03 21:10
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:キック - この投稿者のレビュー一覧を見る
宗教・学歴等の分布による地域特性やシャルリデモを精緻に分析し、フランス社会の底流を読み解きます。
ざっくり要約すると、『今までのフランスは「自由・平等・友愛」の下に、多様な社会(世俗主義・キリスト教・イスラム教等)を受け入れ、それぞれが同化し、発展の礎を築いてきた。ところが、中産階級に無宗教が広がり、その精神性の空白をヨーロッパ主義(EU統合の理念)が埋め、さらにその失敗により、今やイスラム教をスケープゴート化したネオ共和主義が広がっている。しかもスケープゴート化したがゆえに、逆に魅力的に映る「イスラム国」が若者を吸収していく構図になっている。シャルリエブド事件によりこの傾向に拍車がかかり、パリ同時多発テロ発生という最悪の事態に繋がったということで、当分、この構図は続くだろう』という絶望的な結びでした。
正直に言いますと、直訳調の難解な和訳に四苦八苦し、読了するのに想定の倍以上の時間を費やした上に、内容は半分も理解できませんでした。ただ本書は、フランス社会の現状を統計等で冷静に分析しており、シャルリエブド襲撃事件の表層のみを追った他の本と違う深い内容となっています。一読の価値はありますので、読み始めた方は、分からない部分は斜め読みしてでも、結論まで読み進めることをお勧めします。フランスの理念(自由・平等・友愛)が浸食・破壊されつつある現状を知ることができます。
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近年なかなかこれだけ大上段の文明ー社会論は観ないね。トインビー的と言おうか。
●家族構成の国による違い→兄弟間が平等→人間も平等。 兄弟間格差→人間は不平等
●分裂するフランス… 中心部 世俗主義 平等主義 周縁部 残存カトリシズム 非平等主義
●イスラムの根底にある平等主義はフランス中心部の相性が良い可能性がある。ただし男女間の取り扱いの際が分裂を生み出すだろう
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翻訳本でもあり、そもそも学者の書いているいちいち論理にこだわっている本なので、実に読みにくいのですが、ようやく読み終えました(途中で他の本を読んでたりもしましたけどね)。
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本書を駆け足で読み、エマニュエル・トッド来日講演を聴きに行った。サブタイトルが原題では「宗教的危機の社会学」であり、文庫化に際してこちらがメインタイトルとなったことから分かるように、トッドはシャルリ・エブド事件やそれに続くイスラム系組織によるテロを主題にしているのではない。現在のフランスが置かれた状況から、普遍的な公式を導き出そうとしている。その答えが「宗教の危機がイデオロギーの危機に転移する」ということだという。
19世紀にパリ盆地においてカトリックのおよそ半分が消滅するという宗教的危機があった時には、フランス革命という人類史に残るイデオロギーの大転換があった。
20世紀初頭には北部ヨーロッパにおいてプロテスタンティズムが危機に陥ると、ドイツやオランダを中心にナショナリズム、ファシズムが勃興した。
そして今、20世紀後半から21世紀にかけてヨーロッパの多くの地域で、カトリックもプロテスタントもその生き残りすら消えてゆこうとしている。この宗教的危機に呼応するかのように、共産主義の崩壊が起きている。
この仮説を、トッドは丁寧な調査と膨大な資料によって裏付けている。
シャルリ事件後のフランスはイスラムに対するヒステリックな反応が目立つのだが、トッドはそれに異を唱える。
フランスにおけるイスラム教徒の割合はわずか5パーセントに過ぎないのにもかかわらず、フランス国民の多くが異常なオブセッションを〜無意識のうちに〜感じている事が問題なのだという。
また社会の不安要因は経済(格差の拡大や貧困)だけではなく、宗教の空白という要素も大きいといい、そのふたつが重なると、特に危険が増すという。
高い失業率が続き、宗教も消滅しつつあるフランス社会は非常に不安定であり、まさに今、大きなイデオロギーの転換が起きる可能性があるということだろう。
フランスをはじめ欧州の今後を注視したい。
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「シャルリ・エブド事件」を軸に、フランス社会、ヨーロッパ社会に対する批判を展開する。
その手法は、各地域の人口動態(デモ参加率、投票行動、信仰、階級等)や家族構造といったデータの分析に基づくものであり、説得的である。
基本は現在のフランス批判であるため、フランスの地理、歴史、政治についての予備知識が無いと、十分に読みこなすのは難しいところがある。
とはいえ、とりあえず通読して、「結論」を示した最終章まで辿り着けば、著者の主張はかなりclearに見えてくる。
脱キリスト教化、不平等主義的価値観の蔓延、ユーロの隆盛、高齢化社会、中産階級による支配、宗教的なものに対する無理解や恐怖等が結びつき、(形而上的な)「イスラム教」がスケープゴートとして標的にされている現実を示す。
この混迷から抜け出すためには、社会にイスラム教を受容し、真に共和主義的であったフランスを回復することが必要としている。
漫然と「イスラム批判」をするだけではいつまでも先に進まないということがよく分かる良書。
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ヴェーバー的というか、人類学的な差異によって政治的指向性を説明するのが面白い。ただフランスの各地方の特徴などはよく知らないのでどの程度説得力があるのかはわからなかった。
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陳腐なシャルリ事件解説書かと思ったらかなり硬派なフランス社会論だった。フランス一般の捉え方に異を唱えるタイプの本なので最初の一冊には向いていない。ただ、読む価値はある。
そもそもライシテの歴史を踏まえた「俺たちが政教分離を守っているのだからお前らも守れ」という主張が正しいのかを検証し、またデモ参加者の地域が都市部に偏っていることを論証する。(フランスでは都市と地方の格差が深刻である)
とはいえ、新書の紙幅上仕方ないが、反EUなど従来の主張を繰り返して紙幅を費やし、かつアプリオリにされている部分が多く論証が足りておらず、また主として人口統計に依存した切り口では物足りない部分が多いため、全体としてざっくりとし過ぎている印象が強い。
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あの下品なシャルリ・エブド紙の風刺がついに不幸な事件を招いた。あれは風刺というより凌辱で、いくら言論や表現の自由をうたっても、やはり他者の尊厳は守らなければいけない。イスラムを蹂躙し、移民に困窮するフランスの実情を知りたくて手にしたものの、あまりに崇高な文についていけなかった。
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フランスで起こったシャルリ襲撃事件に対するデモ行為への鋭く本質的な考察。
フランスの宗教並びに家族制度からも、デモの本質を捉えている。
第1章は、フランスにおける地域間の差。相続制度の違いから、平等主義が浸透しやすいパリ中心部と不平等主義が浸透しやすい周辺部がある。権威的なカトリックと髪の前では平等を謳うプロテスタント。自ずとパリではカトリックから離れていく。また周辺部でも生き残っていたが、次第に宗教実践は薄れていく。その結果、宗教的空白が生まれ、そこにスケープゴートの必要性が生まれる。標的になったのはIslām。
第2章は、デモに参加した人が実際誰なのかという分析。それは、労働者階級ではなく、管理職等の中産階級。特に、周辺部が熱心に参加していた。それらの人々には平等主義はない。それらが反イスラムにむかった。
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緊急出版であり、急いで訳したためか生硬で読みづらい。作者が日本の無宗教に触れているが、無宗教というカタチの日本教は今後グローバリズムや新自由主義の荒波の中で心の空白を埋めることができるだろうか。
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ゾンビカトリシズムとデモ。
ユダヤ迫害の軽視。
平等に価値を置く地域との対立。
戦争を仕掛けた偏執的なシャルリエブド。
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フランスとイスラムの邂逅に関する分析
読みにくく、なかなかアタマに入らなかった。評判はよいようなのだが、、、
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自分の読解力の不足もあるがそれは置いておいて、楽しめたかどうか、新たなものを得られたかどうかで評価した。
データや図も多いのだけれど、図の点の大きさがなにを示すのか、要素Aと要素Bの相関を書いているのだが図には表現されていない、など、改善の余地が大きいと思った。
端的に言うと、図がなにを言わんとするのかがわからない。
文章も冗長というかまわりくどいというか、読みづらかった。
主に言いたいことはわかったのだけれど、読んだ時間の割に得たものは少なかった。
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E.トッド氏の文春新書関連で一番この本が面白いと思った(前著は感情的な主張でややシラけた)。「第1章 宗教的危機」は何度か読み返した。
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フランスひいては世界のいまの動きをひも解いているようにも見えるが、85ページまで読んで疲れた。フランスと欧州の歴史・社会・地理・宗教に関する知識の乏しい私には、トッド氏の詳細な説明があまり理解できない。読む努力に対して得られるものが少ないと感じ、中断。