紙の本
透明な悲しみの本
2016/07/09 09:15
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投稿者:szk - この投稿者のレビュー一覧を見る
あなたがふたり。どっちのあなた?と読みながら考えていると、感情が「みさき」にリンクしはじめる。そしてなんだか悲しくなってくる。不快や軽蔑や侮蔑などそういう負のオーラをまとった悲しみではなくて、とても透明で純粋でただただ「悲しい」という気持ち。確かに死に往くあなたは、みさきが抗えないほどの大きな存在で実力や経験があって、先を読む能力も多少はあるのかもしれないけれど、その小さな沼からみさきが這い出そうと無意識にも頑張っている姿に不愉快な感じは抱かなかった。みさきはいつまでもねんねじゃない。見縊ってはいけない。
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夫に頼り切って生きてきたみさきは、ある頃から夫の変化に気付き浮気を疑うが、真相はもっと残酷だった。
みさきのために、夫が長らく音信不通だった双子の弟を探し出し連れて来たことで、事態は混乱していく。
死に直面した本人と周囲の人々と、それぞれの心境とその変化のさまがリアルだ。
ただ、解説にあるように、ラストの解説がいく通りもあるように感じて難しい。
みさきの愛は最後はどこにあったのか。
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結末が気になって仕方ないのに、読み進めたくないような、不安をかき立てられる、そんな雰囲気。
夫に対する親愛の「あなた」と、その一卵性双生児の弟に対する、全くの他人として呼びかけに思われる「あなた」。
一瞬、叙述的なトリックを仕掛けられるのかとの疑惑も、丁寧な描写はむしろ逆で、こんなにも「あなた」が区別されるかと思うほど。
結末は人によってかなり印象が変わると思うけど、自分的には「みさきの魅力はなんなのか?」という疑問だ。「あなた」たちを動かす原動力は何であるのか?
始終不安をかき立てられる文面を追い、いたる結末がややもすると不満だ。
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「あなたはあなたが連れてきた。嵐の日だった」。そんな一文ではじまります。この文中の「あなた」は「あなた」と思いきや、「あなた」と「あなた」は別のひと。主な登場人物は「あなた」と「あなた」と「私」の3人で、最初から最後まで「私」の一人称で語られるという、この発想の面白さ。
「私」は高校生のときに事故で両親を亡くし、その葬儀の日に「あなた」と出会う。「あなた」は、途方に暮れる通りすがりの「私」を放っておけなかったのか、それとも恋に落ちたのか。高校を卒業後すぐに「私」は「あなた」と結婚。それから数年が経ち、「あなた」は突然自分の双子の弟を連れてくる。それが冒頭のもうひとりの「あなた」。夫である「あなた」は病に冒されている。死期を悟った「あなた」は、音信不通だった自分と瓜二つの弟を探し出し、自分の後釜としてに弟を「私」に当てがおうとしているらしい。世間知らずの「私」が幸せでいられるようにと。しかし、「あなた」と「あなた」は顔が同じでも、性格がまるでちがう。几帳面な「あなた」とガサツ極まりない「あなた」。
凄い話です。解説を除けば200頁に満たない厚さなので、すぐに読めるかと思ったら、「あなた」がどちらの「あなた」なのかにまず頭をめぐらさなければならないから、想定以上に時間がかかる。
「私」は「あなた」しか愛せないと「あなた」は思い込んでいる。顔さえ同じであれば「私」は「あなた」を愛せるにちがいない。「私」の幸せを思ってこそのこととはいえ、なんと傲慢なのか。「あなた」が疎ましくて仕方ない「私」が最後に至る先は。好きな話ではないけれど、心を捉えて離しません。
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あなたがいっぱい。死生観、恋愛、夫婦、親子、兄弟、食事、…盛り込み要素もいっぱい。わたしには少し重い読後感。