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投稿者:earosmith - この投稿者のレビュー一覧を見る
クリスティーといえば毒薬。今までは色々な毒薬があるものだと読み流していましたが、こうしてまとめてみるとなかなか興味深く楽しめました。
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アガサ・クリスティーといえば「ミステリの女王」。その著作は、聖書とシェイクスピア作品の次に世界で最も売れており、実のところ、シェイクスピア作品より多くの言語に翻訳されているのだという。
クリスティーの作品は、難解すぎたり、グロテスクすぎたりしない。多くの殺人事件が描かれるが、エンターテインメントの範疇に収まり、重すぎるしこりを残さない。
さらりと読めて、気持ちよくトリックを味わえる。
そこが多くの人に長く愛される所以だろう。
クリスティー作品には多くの「毒薬」が登場する。実は彼女は看護師・薬剤師として働いた経験を持つ。勤勉で注意深い彼女は、化学と薬学の知識をしっかりと身につけ、見習い期間中に先輩薬剤師の調合の誤りに気付くほどだったという。
後に作家となって書いたミステリでは、非常に正確にさまざまな毒薬の症状を描き出している。銃を使用するのは、作品展開上、やむを得ない場合に限られ、毒物や薬物を用いることを好んだ。作品で使う毒物に関しての調査は徹底していた。法医学関係の蔵書を豊富に揃え、気になることがあれば専門家に手紙を書いて確認することもあった。
本書では、クリスティーが用いた14の毒薬と、その毒薬が登場する作品を紹介する。
著者はサイエンスライターで、もちろん、クリスティーの愛読者でもある。
毒薬の基礎知識、時代背景、実際の事件で使用された例、毒物の作用機序、解毒剤の有無、クリスティー作品中での扱われ方がわかりやすくまとめられている。科学的に適確であり、クリスティーファンにも楽しめる作りになっている。
2つほど、ネタバレしている章があるが、未読の方も心配ご無用。事前に著者による警告があるので、そこだけ飛ばして読むことができる。
クリスティーが作品を発表したのは1920年代~70年代だが、最も精力的に執筆した時代は、30年代~50年代頃だろう。本書を読んでいると、このあたりの時代の薬物の管理が緩かったことが窺える。殺虫剤や殺鼠剤、ときには脱毛剤や医薬品として、多くの薬物はさほど疑われずに入手することが可能であり、また誤った危険な用法もよく見られたのだ。そう思うと、毒性学や薬理学というのは案外と若い学問なのだなと気付かされる。
砒素(『殺人は容易だ』)。シアン化物(『忘られぬ死』)。トリカブト(『パディントン発4時50分』)。タリウム(『蒼ざめた馬』)。ストリキニーネ(『スタイルズ荘の怪事件』)。
毒物の中には、日本でも事件に使用されたことがあるものも多い。
最も新しいのは2005年、女子高校生がタリウムを使用した例だろうか。事件を受けて、『蒼ざめた馬』が再注目を浴びた。
薬物の使用や症状の出方の記述が正確であることから、犯罪者に「凶器」を示唆しているようなものだと糾弾されることもあった。しかし、多くの場合、クリスティーが作品に薬物を使用するのは、事故や事件でその薬物の毒性が広く知られた後だった。彼女が示唆したというよりは、すでに周知の事実だったのだ。犯罪者はクリスティー作品を読んでいようがいまいが、使用していたことだろう。
逆に��中毒症状の描写の正確さから、愛読者が隠れた犯罪に気付いた例もある。前述の『蒼ざめた馬』を読んでいた女性は、知人男性が妻にタリウムを少しずつ飲まされていることに気付き、大事に至る前に食い止めることができたという。
巻末の2つの付表も秀逸。
1つはクリスティー全作品に登場する事件の死因をまとめたもの。そしてもう1つは本書で取り上げた毒物の主だったものの化学構造式(構造が大きいものもあるため、完全なリストは著者ウェブサイトにまとめられている)。
本書を傍らに、クリスティー作品を読み返してみるもよし、これから読む手引きとするもよし。「ミステリの女王」のすごさとともに、著者のクリスティー愛を感じさせる好著である。
*クリスティー作品は料理も楽しいですね。料理やデザートのレシピを再現してみたのが『アガサ・クリスティーの晩餐会―ミステリの女王が愛した料理』
*このタイトルは「ミス・マープルと13の謎」のもじりでしょうかね。
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内容は興味深い。薬理作用について丁寧にまとめられているとは思う。但し翻訳の関係なのか、誤訳・事実誤認が散見されるので、これが修正されればもっと良い本になると思う。きちんとした知識がある人が確認しつつ読むなら良いが、機序など鵜呑みにすると危ないかも。勉強の助けといった感じ?
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やあ、またお会いしましたね。
私の名を覚えているかね?
プワゾン、君にはそう名乗ったね、あたりだ。
今日はより深い毒の話をしようじゃないか。
比喩的な意味ではなく、本物の、毒の話だ。
この本ではかの有名なアガサ・クリスティーのミステリーで使われた14の毒薬について語られている。
砒素、トリカブト、タリウム、現代社会でも使われる、素晴らしい、いやいや恐ろしい毒物の世界を堪能できるに違いない。
自分は薬学にも精通していないし、医学も学んでいないだって?
大丈夫、必要なのは好奇心、これらがどんな影響を人体に及ぼし、どう物語で使われているか興味を持つだけでいいんだ。
決して自らためそう、なんて思っちゃあいけないよ、こういうものはひっそりと楽しみ、愛でるものさ。
かつては簡単に変えたもの、タリウムやトリカブトのように医療用として使われたもの、壁紙に使われたもの......時代の移り変わり、科学の進歩を感じさせる毒も多い。
ある毒は、また別の毒に対する解毒剤にもなる。
毒をもって毒を制す、なんて不思議な世界じゃないか!
そんなの怖くて仕方ない、だって?
君の眼の前に私が差し出している、タピオカ、アプリコット、リンゴにだって毒はあるのだよ。
ふふふ、そんなに真っ青な顔をしなさんな、食べ過ぎには注意が必要だが、そんな一切れで死に至るもんじゃない。
アガサ・クリスティーの物語で使われる毒のほとんどは現実に存在するものだ。
そして、物語で起きる事件は、現実の事件からインスパイアされたものもあるようだ。
死因が特定できなかったり、疑わしい人物がいても証拠が挙がらなかったり、まさに事実は小説より奇なり、だね。
毒はどうしてこうも人々を惹きつけるのだろうね。
静かで、美しく、確実だからではないかと私は思うのだよ。
そして毒は必ずしも悪ではないんだ。
毒を毒たらしめているのは......おや、話が長くなったようだ......。
ゆっくりおやすみ、赤い頬が美しい人よ。
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作品中で用いられた14の毒薬を取り上げ、それぞれの特徴や、実際に使用された現実の犯罪など数々のエピソードを紹介。
著者:キャサリン・ハーカップ サイエンス・コミュニケーター。ヨーク大学で化学専攻。
2015原著
2016.9.15日本発行 図書館
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アガサ・クリスティーの作品に登場する毒薬について実際の事件も交えながら取り上げた本。
アガサ・クリスティーが薬剤師であったことを初めて知った。
取り上げられている作品はほとんど読んだことが無いため、これをきっかけに読んでみようと思う。
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ポワロと私 を読み終えた流れで、さらにアガサ・クリスティーの作品の評論的なものが読みたい、と、どこかの書評で知ったこの本をチョイス。
気軽に読み始めたのですが、ちょっとびっくりしました…本気の「14種類の毒について解説する」本だったのです…
どんな分子構造か、何から採れるか、もし体内に入ったらどうなるか…など詳細に書かれ、ドキドキしました…
アガサの毒の記述の正確さや、毒の発見や使われ方の歴史(物によっては薬として使われていたとか)、実際の殺人事件なども紹介。とても興味深く…はい、おもしろかったのです…
最近読んでいた別の本で、徳川幕府も砒素が蔓延していたようで、和歌山カレー事件のことも思い出し…ゾッ。
誤って毒を摂取してしまう可能性と危険性も教えられました。もともとそそっかしく、何でも口にしがちなので、注意しなくては。
巻末の化学式(というのか?)とアガサの作品の殺害方法一覧も、今後の本選びの参考になりました。
たくさん再読したくなり、大変!