紙の本
街角にふと
2017/04/05 09:28
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投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
みすず書房といえば、フランクルの『夜と霧』を思い浮かべる人も多いと思う。
良きにつけ悪しきにつけ、少し固めの出版社という印象はある。
またその装幀は白を基調して、本としての美しさには定評がある。
歴史をさかのぼれば、終戦間もない昭和21年3月に創業された、戦後の出版社である。
この本はそんな出版社の社屋を写した写真集ということになるが、ここに記録された本郷3丁目には昭和23年秋に移転している。
設計したのは芦原義信。最初は平屋立ての建物だった。
その後、何度かの増築を行い、2階も作られていく。
しかし、写真で見るかぎりでは、どこから見ても古色蒼然としたアパートにしか見えない。
失礼な言い方にはなるが、こんなところでベストセラーや話題作が生み出されていたのかと、うっとりとする。
屋内に入れば、さらに魔界が広がる。
編集部の机、あるいは倉庫、いたるところに本や資料が氾濫している。
雑然という言葉がかわいく感じるほどである。
そんな場所で人が集い、議論する。
躍動というのはこういうことをいうのだろうか。
カメラは記録するための道具でありながら、ここに納められた写真は記憶の情感ともいえる。
時代というより、人がまずあった。
そう思わせる写真ばかりだ。
ひとつの出版社の社屋の写真でありながら、どこまでもドラマティックであり、感情がわきあがる気分である。
その社屋も平成8年解体された。
解体現場には8月の空が広がっていた。
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7年余り、学術書専門書をよく扱っていたので、
みすず書房さんのご本は時折目にしていました。
装丁が統一されていて、それはすっきりとしていて美しく、裏表紙から見ても「あ、みすず書房さんのご本だな」って分かりました。
そのご本の数々が、言っちゃぁなんですがこのかなり年季の入った仕舞屋のような建物で生み出されてたなんて、衝撃でした(私が働いていた当時は既に新社屋だったでしょうが、既刊本はこの当時のものもあったのではないかと)。
実際に私の読書の傾向と、みすず書房さんが今後も交わるかは分かりませんが、いつまでも良書を作っていて欲しいなと思います。
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白く上品ですっきりとした装丁。みすず書房の本といえばまずそのようなイメージが浮かびます。
神谷美恵子さんの著書をはじめ、特に大学時代に手にした本の多くがみすず書房の本だったと記憶しています。あの本達はここで作られていたのか…と感慨深く読みました。
雑然とした部屋から伝わる作り手の熱量(と酒量)、積み重ねられた本達の放つ社史の重み、潮田さんは丁寧に切りとっています。これだけの資料がどうやってあんなに小さな社屋に納められていたんでしょうか。建物のぎゅうぎゅうきしむ音が聞こえそうなほどぎっしりの本。そして古びたドアをおさえているのもまた本(日本紳士録、という気になるタイトル)、というのも面白いです。
各章のエッセイも興味深く、特に岡本敏子さんとの運命的なエピソードが印象に残りました。
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写真家の著者、潮田登久子さんが1995年から撮りためた、本と本の置かれている環境を主題にした写真をまとめた中の1冊。
「みすず書房の旧社屋」(本書)の他「先生のアトリエ」「本の主題」の3つの主題にまとめ、「本の景色/BIBLIOTHECAシリーズ」として発刊した。
モノクロの写真が、多くを語る。
写真集の合間にはみすず書房を愛する人たちの寄稿による構成。静かな中にぬくもりを感じ、大事に丁寧に時間を忘れて、眺めていたくなる。
旧社屋の匂いとか、紙のほこりとか、たばこの煙とか、人の笑いとか息遣いとか。
時計の針の音とか。。。"情愛"が伝わって実感して、重みを感じる。
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岡本敏子さんとの不思議なご縁、ご主人 島尾伸三さんの遠い記憶、編集者達の手記が、潮田さんの写真にリズムよく挟まれていました。
ワープロのある机や紙だらけの職場はIT化の現代ではもうありえません。
時代の一瞬を、几帳面なほどクールに撮られた潮田さん。
潮田さんの感想やあとがきが一切ないのがとても良かった。
その分写真の輝きが発散されていました。
とても良い本です。
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出版社の旧社屋の写真集&当時の関係者によるエッセイなのだけれど、まだ建っていたころに見てみたかったと思わせる味のある建物。とても昭和的です。
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久しぶりに宝物にしたいような素晴らしい本に出会った。
みすず書房と言えば、古書店で背表紙を眺めるのが1番楽しい出版社。
清々しくて高尚な白の背表紙に美しい書体のタイトルが並ぶ。今、ハマっているメイ・サートンの書籍も、あの背表紙の中から何気なくつまんだのがきっかけだったし、学生時代から多くの良書と引き合わせてくれたのも、この出版社。手にとり、読んでいると、こちらの気分まで清々しくなる。
その清らかなイメージの「みすず書房」の旧社屋がテーマの本なのだけれども、旧社屋はなんと本郷に構えるボロアパート風。そこに夜な夜な集り、酒盛りをする作家さんたち関係者、まるでトキワ荘。かなり本を手に取った時のイメージと異なる。
社屋の屋内は書籍や古い木棚でいっぱいいっぱい。洋の東西を問わず揃えられた資料棚、ネズミに背をかじられたロシア語の本。ロシアの本は背の接着に膠(にかわ)を使うらしく、それをかじりとられてしまうとある。また、お便所の床にはニューヨークタイムズが敷かれている。洒落ているのだか、不粋なのかよくわからない(笑)。
ただ、そこかしこに知恵や文化が転がっていて、木の温もりのある匂いとあいまって、建物全体が香り高い。
詳細はコチラから↓
みすず書房旧社屋と東京都水道歴史館、東京の思い出 / 『みすず書房旧社屋』を読む
https://jtaniguchi.com/%e3%81%bf%e3%81%99%e3%81%9a%e6%9b%b8%e6%88%bf%e6%97%a7%e7%a4%be%e5%b1%8b-%e6%9d%b1%e4%ba%ac%e9%83%bd%e6%b0%b4%e9%81%93%e6%ad%b4%e5%8f%b2%e9%a4%a8/