紙の本
安全保障×(ただ乗り+無自覚)=リベラルのひねくれ
2023/07/17 21:07
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投稿者:Ottoさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
民主党政権時の原発再稼働から話が始まる、筆者は羹に懲りてあえ物を吹くがごとく原子力基本法の改正で加わった「安全保障」の文字が核武装を意味するのだそうだ(P23)。
本論の目的は「戦後」を認識の上で終わらせることであるという(P31)、では戦後とは「政治、経済、軍事的な対米従属構造(P47)」と、かつ敗戦を認めていない(終戦と言い換えている)状態が永続している、ゆえに永続敗戦だとのこと。そしてこの国の支配層は戦後を終わらせようとせず、永遠に続くものと安住しているとの批判だ。
対米従属でなくなるためには、政治、経済、軍事面で自主独立性を持つことになるが、ロシアによるウクライナ侵攻で国連による集団安全保障が機能しないことが明白になった今、新たな安全保障の仕組みが必要になる。そのためには自主防衛、安保条約の見直し、憲法の戦争放棄条項の改定が必要となるが、この点に反対しているのがこの国の支配層でない人々である。
永続敗戦、米国従属と言いながら安全保障も含めた自主独立(日米同盟の改定も含めた安全保障の枠組みの見直しとそれに伴い必要となる改憲)を邪魔しているのはいったい誰なのかについて踏み込めてない。
筆者は、政治哲学、思想史が専門だが、あとがきでこのような時事的政論というテーマに義務感や切迫感から首を突っ込んだと書いているし、いまや左派系ネット番組にレギュラーで出演し、左派を代表する「アベガー」の一人だ。
安全保障理事会の常任理事国が核をちらつかせながら核を放棄した集団安全保障の枠外にいる国に攻め込むという現実を見て、いよいよ「アベガー」陣営の似非「平和主義」が、かえって戦争を呼び込むことがあるのは、チェンバレンの宥和政策の例を見ても分かるし、もはや現実離れしたものだということが明らかになった。
安倍元総理が暗殺されたことを、良かったと言った大学教授の横で、著者がへらへら笑っているのをYOUTUBEで見たが、平和を唱えながら暴力を容認しているように見える。
本書は、いじめられっ子がひねくれるように長年支持を得られない左派の人達が、相当ひねくれているなと分かる論となっている。
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タイトルにある「永続敗戦」とは、日本国民が戦後、対米従属を続けることで「敗戦」の事実から眼を背けることに成功し、そのことが現代政治を支える基盤となっている構造を指す。わたしも思想的には著者と同様に比較的左寄りであると思うが、たしかに「ネトウヨ」をはじめとする右派の対米従属姿勢についてはかねてから苦苦しく思っており、そのことが現代政治ひいてはアイデンティティの礎となっていたと考えればある程度納得できる。とくに基地問題は、国内にあきらかに他国軍の「占領」地域があるわけで、そのことを右寄りの人が批判しないどころか、その固定化を許している節さえあることは、考えてみればおかしいことこのうえない。最近基地問題がまたクロース・アップされているが、そのことについて詳しく考察している本書をこのタイミングで読むことができたことは、単純に良かったと思う。そのほかの問題についてもいろいろと触れられているが、個人的にはおおむねなるほどと思う。しかし、どうにも全体的に「ためにする批判」の香りがしないでもない。なんでもかんでも二元化できるものでもないであろう。米軍基地や軍用地も、すこしずつであるが返還されているし、長期的目標としてはやはり基地ゼロまではゆかないにせよ、極力そのプレゼンスを減らすことにもしっかりと眼が向けられていることもまた事実なのではないか。一方でアメリカに(時に過剰といえるほどの)従属をしつつ、他方ではアメリカに対して反撥が向けられているというのが日本社会であると認識している。そういう点からいうと、本書が掲げている論に対する評価もまた変わってしまう。私自身は内容におおむね同意であることには疑いはないが、しかしかならずしもそうともいえないと感じる部分が多かったのもまた事実で、そのようなところをもっと掘り下げるべきであったと思う。
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この間なんとなくモヤモヤしていた安倍政権をはじめとする日本全体のアメリカへの接し方の理由がわかった。そしてなぜモヤモヤしているのかということも。
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国体・日米安保・戦後・・・・・
日本という国が戦後ずっと引きずっている状態について、著者の感性に基づき、縷々書かれた居たものです。
「永続敗戦論」という名称・概念は著者がつけたものですが、その根拠については、日本はもとより、マルクスなどの思考方法も援用されていました。
第1章「戦後」の終わり
第1節「私らは侮辱のなかに生きている」
第2節「戦後」の終わり
第3節 永続敗戦
第2章「戦後の終わり」を告げるもの
第1節 領土問題の本質
第2節 北朝鮮問題に見る永続敗戦
第3章 戦後の「国体」としての永続敗戦
第1節 アメリカの影
第2節 何が勝利してきたのか
エピローグ
となっていました。
人間社会において、起きてしまった事実について、きちんと総括・反省した上で、また、未来に向かって突き進まなければならないことは自明のことであります。
色んな人の意見に真摯に耳を傾ける態度はいつの時代でも必要なことです。
国家・社会としては、多様な意見を言ってもらえる条件をキチンと整えるためにも、正確な政策の意思形成過程の情報公開は欠かせません。
そして、権力に対峙するメディアの存在も必要です。
そういう風通しのいい社会が醸成されるよう一般国民もいつも高い意識で国政をチェックしなければならないのです。
著者も一人の人間として最低限出来ることとしてこの本を著したとエピローグで述べていました。
一人一人が賢者になることしか日本の未来はないのではないのでしょうか・・・・・・
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「敗戦を否定したいという気持ち」を補助線に持ってくることで、これまで「理解しがたい」と思っていたネトウヨ系な方々の心理が幾分なりともわかるようになった。また、北方領土問題や竹島・尖閣諸島の問題も、米国というファクターを介することですっきりできた。今となっては、著者の原発事故に対する認識には注文をつけたくなるところもあるが、それを措いても価値がある一冊。
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3.11以降からなんとなく時代の流れに馴染めないままパラレルワールドに入ってしまったような感じがあったが、本書によってその尻尾を捕まえた気がした。
福島原発事故によって新しい事態が出来したわけではなく、「永続敗戦」レジームという地金が露わになったのだ。
日本は、アメリカの属国である一方で、戦後の「平和と繁栄」の物語のもとに周辺国に対して謝罪をし、戦後処理をせずに敗戦の否認をし続けてきた。
福島原発事故、領土問題(尖閣諸島、北方領土、竹島)、国体という、それぞれデカすぎるテーマを真正面からまともに論じ、日本の現在地を明らかにしている。
左右・親米反米どちらでもなく、国家なるものは本質的に道徳的ではあり得ないという前提や、情緒的な部分を差し引いて政治の理論ではこうなるという話が面白い。
こんな風に語ることができるんだ、語っていいんだ、ということ、歴史を知らなければいけないということを感じました。
また戻って読みたい課題図書。
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堅い文章だが、幅広い文献と確かな論理性で納得の一冊。
武器としての資本論、のようにもう少し噛み砕いてくれるとわかりやすいんだけど…と言うのは少し恥ずかしい。
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著者は今の日本に蔓延るあらゆる歪みを軽快な語り口で喝破する。
今起こっていること、その見取り図を提供する稀有な著作だ。
安倍から続く現政権のグロテスクさをまんま見せつけられて吐きそうになるが、これに対峙しないと我々は進めない
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現代でも戦前の国体と同じ構造が継続しており、その構造が「永続敗戦」である。このことを主題としているため、現在の権力構造(特に自民党を中心とした権力)に対して否定的な部分が多い。
ただ、論の説得力はかなりあり、現在のコロナ禍への対応をオーバーラップさせてもピッタリ当てはまることからも、現状分析については間違っていないと感じられる。
「永続敗戦」をどう抜け出し、どのような社会をつくっていくか、構想する知力の必要性を痛感した。