紙の本
本は「もの」なのだ
2017/03/24 08:06
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
雑誌の編集者でもあり装釘家でもあった花森安治は「一冊の本というものは、著者と装釘者と印刷者の共同作品である」と装釘家としての自信の程を滲ませたが、晶文社の作品のほとんどを装幀した平野甲賀氏は「本と読者をつなぐのは、あくまでもその本の中身だと思う。装丁は、ちょっとしたサービス。」と書いたことがある。
平賀氏の言葉は謙遜したものだろうが、それにしてもここにも職人としての自信がみなぎっているように感じる。
本というものがどのようにしてつくられているのかを、ノンフィクション作家の稲泉連氏がドキュメントで追いかけたのが、本書である。
本というものをそれを作り手側から見ると、それが工業製品であることがよくわかる。
紙の本か電子書籍か、出版業界の未来が取り沙汰されるが、この本を読むと、もしかするとそれらはまったく違うものかもしれないと思えてくる。
本という「もの」を愛する限り、紙の本はなくならないのではないか。
この本では活字を作る、製本をする、印刷をする、校閲をする、紙をつくる、装幀をする、海外の本を紹介する、そして子供の本を書く、といった「本をつくる」仕事が取り上げられている。
大手の印刷会社や出版社の人たちや作家もいてひとくくりにするのはおかしいかもしれないが、何故か不思議と皆それぞれが「職人」と呼んでいいような気がする。
職人気質といわれる、仕事に対する姿勢の気質が、どなたも一途なのだ。
こういう人たちがつくる本だからこそ、大事にしたいし、しなければいけない。
投稿元:
レビューを見る
「『本をつくる』という仕事」稲泉連
ノンフィクション。紙の色。
「ぼくは『本』という形あるものが好きだ。」。
僕が本をつくることに関わる仕事に就いたのも、あとがきにあるこの一言に尽きる。
本は、文化を支える媒体であり、研ぎ澄まされた表現であり、人を内省に向かわせる薬であり、暴力装置を監視する武器であり、コミュニケーションの手段であり、そしてひとりひとりの大切な財産だ。
考察すればいくつも、本の持つ魅力や特性が出てくるけれども、正直なところそれは後付けであって、モノとしての本のない生活が考えられないということだけかもしれない。
目的のある読書というのが苦手で、もちろん嫌いなわけではなく自己実現欲求としてあるんだけれども、やはり本との向き合い方は、その世界に没頭できるかどうかで決まってくる。
その没頭感を与えてくれるのが、本という媒体の完成度であり、身体性であると思う。
本書はそうした身体に馴染む本を「つくる」人々に焦点を当てたルポルタージュ。一貫して感じたのは、本に携わる人々がつくっているのは、その中身に表現されている文章や物語を届けるための(文字通り)媒体である、という意識であること。
これは、最終章で取り上げられている児童文学作家の角野栄子さんも例外ではないと思う。
人間は、実際に会って話をして、という対面のコミュニケーション以外にも、文字を介した非対面のコミュニケーションの世界を持っている。
本は、そうした非対面コミュニケーションのなかでも、より影響力のある書き手が、より多くの人々に対して表現する、という手段に特化してきた。
情報通信機器とはまだまだ並存していくと思うし、インターネットが普及すればするほど、本を無意識的に好きだという人々には、その良さが際立ってくる。
そうした「傍にある本」をつくり続けていくために、僕はまだまだ本に関わって生きていきたい。
(4)
投稿元:
レビューを見る
○活字-秀英体を作った人 大日本印刷伊藤正樹さん
○ドイツで学んだ製本マイスター 松岳社青木英一さん
○活版印刷工房 FIRST UNIVERSAL PRESS溪山丈介さん
○校閲者の矜持 元新潮社矢彦孝彦さん
○本の紙 三菱製紙八戸工場日比野良彦さん
○装幀家 日下潤一さん
○翻訳本エージェント タトルモリ玉置真波さん
○絵本作家 角野英子さん
筑摩書房 『ちくま』連載
投稿元:
レビューを見る
出版にかかわる編集者以外の仕事。装丁から印刷、エージェント、洋紙など、コンパクトにまとまっている。新人編集者が読むといいかもしれない。
投稿元:
レビューを見る
おもしろくってケチケチしながら読んだ。
一冊の本ができるまでにこんなにたくさんの人が関わっているって、今となっては時代遅れになりつつあるのかもしれない。そしてはしょられてしまってる工程もあるわけだけど、大切な作業の数々で。
誰かが欲しい、と思った時にそれを形にできる技術がなくなってしまってるという事がないように、って素朴だけどそういう思いは大切にしたいなあ。
投稿元:
レビューを見る
おもしろかった。
本、特に自分は紙の本(電子ではなくて)が大好きな
一人として本を作るためにかかわっている人が
こんなにいることに、純粋に感動しました。
活字を作る人。
製本をする人。
活版印刷の人。
校閲者。
紙を作る人。
本の装幀、デザインをする人。
海外と日本の架け橋になるエージェント
著者。
まだまだ、出版社、編集者、いろいろな作家
本を作るという経済圏とその世界はなくなっては
いけない世界だと思います。
紙の本を選ぶときの感じ、開くときの感じ、読むのを
やめていったん閉じるときの感じ、再開するときに
しおりをたどって開くときの感じ、読み終えて本を
閉じるときの感じ。
それぞれの感じは、やっぱり幸せな感覚を持ちます。
投稿元:
レビューを見る
校閲がいないとミスが出るかも。色々な書体で表現したい。もちろん紙がなければ本はできない…。装丁、印刷、製本など本の製作を支えるプロを訪ね、仕事に対する姿勢や思いを聞く。PR誌『ちくま』連載をもとに単行本化。
第1章「活字は本の声である」
第2章「ドイツで学んだ製本の技」
第3章「六畳の活版印刷屋」
第4章「校閲はゲラで語る」
第5章「すべての本は紙だった」
第6章「装幀は細部に宿る」
第7章「海外の本の架け橋」
第8章「子供の本を大人が書く」
どれも素敵なお話し。
投稿元:
レビューを見る
本という製品に関わる人々を取材したノンフィクション。
1つの本が出来上がるまでには様々な工程があり、各プロセスには職人の手が入っている。例えば、フォントひとつでも、形状、太さ等に拘りがある。また校閲、海外エージェントとの関係など、あまり知られていない重要な仕事もある。活字、製本、印刷、紙の質、装丁など、それぞれの工程に関わる人達、技術の改善など、これを読むと本作りの裾野の広さを感じる。
投稿元:
レビューを見る
現代において、本は書き手によってのみ作り出されるものではない。本には様々な人々が関わっている。そんな本をめぐる人々について著者の興味の赴くままに話を聞いてきた記録集。
書体をつくる人、製本の会社、印刷の会社、製紙の会社、装填家、校閲者、翻訳作品のエージェント、そして作者…さまざまな人が出てくる。
本とはどういうものか、そんなことを考えつつこれからも触れていきたいと思う。
投稿元:
レビューを見る
校閲のドラマを観たが、ホンマかいなと、思った。しかし、新潮社での、校閲の仕事ぶりを読むと、こりゃ誇張はあっても年間8億もの金をつぎ込むのは、ただごとではない。そう感じた。
投稿元:
レビューを見る
今、読むべき本かも。
作る側を知らなくちゃ
p64〜
40 天、背、小口、地
42 背に丸みを出す
46 一度でも天皇陛下の出版物を製本した会社には、宮内庁御用達の看板が与えられた
52 ドイツのベルてるまん、世界的に有名な総合メディア企業
ベルテルスマン読書サークル
53ヨーロッパの出版事業の裾野の広さ
→ドイツ語、フランス語、…数カ国語
投稿元:
レビューを見る
活字、製本、活版、校閲、製紙、装幀、版権仲介、児童文学。最後の章の角野さん以外はまったく知らない人たちの仕事。でもこれらの仕事がなければ本は成立しない(しなかった)。特に新潮社の校閲のレベルの高さには驚き。
投稿元:
レビューを見る
「たとえお金をかけなくても、宝石みたいな本はつくり手たちが必死に手間と時間をかけて工夫すれば、つくれるはずなんや。それを見て「こんな本をつくりたい」と思う人がいる限り本は残っていくやろ。そのためにはやっぱり紙の本が美しくなければあかんのですよ」
(P.186)
投稿元:
レビューを見る
紙の本・電子書籍 みなさんの好みはどちらですか?
どちらもメリット・デメリットをいくつもあげられますが、私は紙の本が好みです。
その理由は、めくる時の紙の質感が好きであるから、紙の本の装丁は本の内容と結びついている気がするから・・・。あげだしたらきりがありません。
この本を通して、私は更に紙の本の魅力を感じることが出来ました。なぜなら、この本を通して1冊の紙の本を作りあげるプロたちの技と心意気に強く魅せられたからです。紙の質感・文字のフォント・装丁(以下略)そして著者…1つ1つのプロが本気で向き合って1冊の紙の本は出来上がっているのです。普段なかなか気付けないプロたちの仕事ぶりに心を止めることで、電子書籍派のあなたも、紙の本を手に取りたくなるでしょう。
投稿元:
レビューを見る
本をつくる人々をテーマとした本
こちらの本、本好きとしてすごく面白かったです(*^^*)
第一章は大日本印刷「秀英体開発室」に勤める伊藤正樹さんの話し
二万三〇〇〇字に及ぶ文字の全ての基本として試作される漢字十二文字
国 東 愛永 袋 霊 酬 今 力 鷹 三 鬱
書道の世界にある「永字八法」という言葉
「永」の字には点、横画、縦画、ハネ、左払い、右払いといった漢字の基本パーツが含まれている
他の字も同じように書体を制作する際の基本形となる字
第二章 製本マイスターさんのおはなし
第三章 活版印刷屋さんのおはなし
活字を拾う職人さんの凄さ
第四章、新潮社の校閲部に定年まで勤めた矢彦孝彦さんのおはなし
五味康祐、池波正太郎、松本清張、井上ひさし、司馬遼太郎など作家たちの原稿の直し方
第五章 すべての本は紙だった
三菱製紙 洋紙事業部 中村禎男さん
『読者の方々はその本の中身を買っているわけで、書店で紙を買っているという意識はないでしょう。でも、彼らはみんな僕らがつくった紙を見ているんです』←単純にそうだよね!と感嘆!
1980年代初頭、10年以上の歳月をかけて
数十年という寿命しかなかった『酸性紙』から
300年から500年という品質が保証された『中性紙』への転換を行った
現在の紙の寿命は全然意識していなかった。改めてきくと凄い!
第六章 装幀家さんのおはなし
第七章 海外の本の架け橋
『タトル・モリ エイジェンシー』とそこで働いているエージェントのおはなし
第八章 『魔女の宅急便』の著者
童話作家、絵本作家 角野栄子さんのおはなし