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とても読みやすく、面白かった。紙の本が好きだと言いながらも、紙のことをまだまだ知らないものだと思った。本書をただの美談ではなく、繰り返し読んでいたいと思った。
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この本を通じて、自然災害の恐ろしさと自分の手元にある本がどのような過程を得てあるのかを知ることができた。
紙がどこからきてるかなんて考えたことなかったけど、多くの人の努力によって作られてるんだな。
最近は本を読むことが習慣になり、出版業界が明るくなってほしいと思う。
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東日本大震災で被災した1企業の様を記した本である。東電関連の著書は多々ありTVや映画で放映もされ、私も多少は知り得ている。
が、今回、日本製紙石巻工場の話は初めて知った。被災者の生の声、世間には届いていない事実等もっともっと伝えていかなければならない。風化させてはいけない。誰もがいつ被災者になるか分からないのだから。
この本を1人でも多くの方が手に取り、紙をめくり、その感触を忘れずに、そして震災の事を思い出して何かを感じてくれます様に…
そしてそして、やはり私は紙の本が好き!
「本はやっぱりめくらなくちゃね…。」
これからは紙質や色味等にも関心を持って本に接していこう…
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【感想】
普段紙の本にお世話になっているが、その紙質を気にしたことはない。ましてや、その紙がどこで作られているかまで考えを巡らせたことは無かった。
私は電子書籍でも紙の本でもどちらでも構わない派だが、紙には紙の良さがあることは間違いない。ページを物理的にめくる感覚、新刊ならではの香り、もうこんなに読んでしまったのかという達成感など、触感と見た目が織りなす相乗効果が作品をより際立たせ、その世界観により一層のめりこませてくれる。
そうした紙の本が、東日本大震災により消滅の危機にあっていた。日本製紙石巻工場が津波により壊滅的な被害を受けたためだ。
本書はその工場の復興プロジェクトを綴ったノンフィクションである。同時に、日本製紙の従業員たちにスポットライトを当てたヒューマンドラマでもある。社長、東京本部、工場長、総務課、電気課、設備課、さらには日本製紙石巻野球部員といった多種多様な人々が、工場長倉田の掲げた「半年復興」を目標に全力で前に進んでいく。
この「半年復興」の中身であるが、端的に言えば壮絶なデスマーチだ。そもそも震災で周辺地域が壊滅している以上、どう考えてもインフラが間に合わない。各マシンや工場内の電気系統、タービンといったピンポイントの故障ならまだしも、石巻の沿岸地域全体が瓦礫に埋もれた今、それを動かすための電気や道路、水道といった基礎インフラの復旧から着手せねばならない。紙を元通り刷ることなんてそのいくつも後だし、期限に無理があるのではと思ってしまう(実際倉田以外はそう感じていた)のだが、なんとこれをやり遂げてしまう。
例えば、海水に浸かった7000台弱のモーター。塩にやられているためそのままでは使えないが、かといって代替品を用意できるほどの猶予はない。これを復活させるために、なんと巨大な釜の中で煮て塩を除去し、絶縁処理をして再利用することを試みる。電気部品を釜茹でするなんて無茶苦茶すぎると思えるのだが、これが功を奏して見事期限内の通電までこぎつける。一度覚悟を決めた人間たちの成せる技か、と感心してしまった。
本書は石巻工場の従業員だけでなく、その周辺で働いていた人、また被災して不自由を余儀なくされている町の人々の様子も描いている。震災は石巻に深刻な打撃を与えたが、暗いことばかりではなかった。住人と従業員誰しもが、日本製紙の復活=石巻の復興の第一歩と信じ、一丸となって前に進み続ける。絶望の中でも希望を忘れない石巻の人の力強さにとても勇気をもらえる、そんな一冊だった。
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【まとめ】
1 出版業界の危機
日本製紙はこの国の出版用紙の約4割を担っている。『多崎つくる』をはじめとした、多くの単行本の本文用紙は、東日本大震災で壊滅的な被害にあいながらも、奇跡的な復興を遂げた石巻工場の8号抄紙機、通称「8マシン」で作られている。
日本製紙抄造一課の係長、佐藤憲昭はこう言った。
「8号が止まる時は、この国の出版が倒れるときです」
3.11で被��した石巻工場は、一階部分がすべて泥水の中に埋まり、その上に周辺地域から流入してきた瓦礫が2メートルは積もっていた。電気が通っていない建屋内は真っ暗で、何が流入しているのか、そしていつになれば復旧できるか、まるで予測がつかなかった。
2 紙の本
紙の本の最たる魅力は、何といってもその手触りにある。針葉樹から作られるNBKP(針葉樹化学パルプ)、広葉樹から作られるLBKP(広葉樹化学パルプ)、そして丸太をすりつぶして作られるGP(グラウンドウッドパルプ、古紙から作られるDIP(古紙パルプ)は、それぞれ繊維の柔らかさが異なっている。その原料の組み合わせにより、用途に合わせた紙が製造されている。雑誌には雑誌の、辞書には辞書の、文芸の書籍には文芸の書籍の印刷用紙が使われ、作品の世界観を作り出していく。
そして、我々はめくることによって、読書を体験していき、本にはその痕跡が残るのである。
石巻工場は間違いなく日本製紙の心臓部であり、出版用紙の供給責任を大きく負っている。しかし紙の市場が、電子化と少子化などの影響で年々縮んでいることは間違いない。特に出版用紙については、この傾向が顕著であり、今後も石巻工場が必要とされるかは保証の限りではない。再生させるのか、それとも閉鎖するのか。その決断が日本製紙の命運を左右する。
3 復興への決断
3月下旬。課長たちが社宅の一室で対策会議を開いていた。
工場長の倉田は、課長たちを前にして、社員のモチベーションを保つために復興に区切りをつけることを提案する。
完全な復興ではなく、たった一台動かす。それに「半年」という期限を設けた。無謀という他ない工期設定だ。
倉田はこう続ける。
「1年半、2年じゃ遅すぎる。工場を復興させるぞというモチベーションはもってせいぜい半年。客も今は同情で待ってくれるだろうが、あちらも商売だ。いつまでも待ってくれるはずがない。たった一台。一台動かせばいい」
これは会社の存亡をかけたデッドラインであり、同時に、明るい話題のない被災地で、彼らがすがりつくことのできる、唯一具体的な希望だった。
「N6マシンさえ無事なら、あの工場には希望が残されている」。社長の芳賀はそう考えていた。
N6抄紙機は、幅が9450ミリメートル、抄造スピードが毎分1800メートル、一日の生産量が1000トンを超える世界最大級の超大型設備であり、日本製紙が約630億円かけて導入した最新鋭マシンである。このマシンの完成によって石巻工場は、世界有数の競争力を持つ基幹工場の地位をゆるぎないものにした。N6一台の生産量は、小さな製紙工場の生産量を凌駕するほどの驚異的なものだった。この最新鋭の機械で造る紙の品質を担保するのは、無名の技術者たちの技である。紙にこだわる出版社に絶大な信頼を寄せられる職人たちのノウハウの集積もまた、目に見えない工場の財産だ。この工場には、日本製紙の基幹工場としてのプライドがあった。
芳賀は現地入りし、工場の被災状況を確認する。N6の建屋の一階は泥に浸かっていたものの、マシン自体は無事だった。
「これから日本製紙が全力をあげて石巻工場を立て直す!」そう芳賀は宣言した。
4 まずは8号
N6��復旧に向け動き出した現場だったが、出版社は8号マシンの紙を待っていた。日本製紙の他工場、更には王子製紙などの他社にも協力を仰ぎ、出版用紙を最優先で作ることを決断する。
文庫本はヒットすればあっと言う間に何百万部になる世界だ。そうなったら、どんなことがあっても紙を切らすことができない。それは製紙会社と出版社との信頼関係の上に成り立っている。そして出版社との約束を守るのは、やっぱり石巻にしかできない。
石巻の従業員には、自分たちが出版を支えているという自負があったのだ。
5 復興のリレー
抄紙機を動かすための最優先事項は、ボイラーとタービンだ。そしてボイラーを立ち上げるためには、電気設備を復旧させる必要がある。
工場の外壁に沿うようにして強り流らされた6万6000ボルトの特別高圧ケーブルは、ラックごとなぎ倒されて、流されてしまっていた。ケーブルは被災地のいたるところで必要とされ、入手困難な状況だった。本社は海外にまで手配を広げケーブルの確保に励む。また、工事のための足場を組むのも、業者に無理を言い突貫工事で行っていった。
問題は、塩水に浸かった7000弱のモーターだった。とても代替品を用意できるほどの猶予はない。これを復活させるために、巨大な釜の中に入れて煮出し塩を除去した。錆などの問題はあったが、応急処置としては効果抜群である。
こうした粘り強い地道な努力によって、震災発生後4ヶ月という驚くような速さで、6号ボイラーに電気が通る。電気の復旧作業と並行して瓦礫の撤去が全力で進められ、半年復興まであと一ヶ月のところで、ようやく6号ボイラーに火が入れられた。
震災から半年後の9月14日。8号マシンの初稼働の日がやってきた。抄紙機には何箇所か、オペレーターの操作によってシートを渡さなければならない箇所がある。グースネック(ガチョウの首)と呼ばれる、エアーの出る細長いアームが現れて、紙をリールに抑え込んで巻きつけていく。それを補助するように、オペレーターたちが、ホースのついた細長いノズルを紙に向けて、エアーを吹き付け、薄く繊細な紙の向きを調整しつつガイドしていくのだ。これにはタイミングと経験が必要とされ、オペレーターたちの力量が大きく左右する。これらの作業を経て、最後のリールに巻きつくまでを「通紙」、あるいは「紙をつなぐ」という。これは熟練のオペレーターであっても、一度ではなかなか通らないものだ。
しかしこの日の8号は違った。今までにないスムーズさで紙が通り、どんなに速くても1時間かかるところを、28分の新記録で成し遂げたのだ。
憲昭は作業着の袖で涙をぬぐうと、やがてありったけの大きな声で叫んだ。「バンザーイ!」「バンザーイ!」「バンザーイ!」彼の声に合わせて、大きく手が上がる。倉田も、福島も、オペレーターたちもみな、目を赤くしていた。
この日、東日本大震災から半年。倉田の当初の目標通り、石巻工場は息を吹き返したのだった。
その後N6号抄紙機も、震災から一年という節目の時期に、無事操業を開始した。
日本製紙石巻工場は、家族や知人、同僚たちを亡くし、家や思い出を流された従業員たちが、意地で立ち上げた工場だ。だが、読者は誰が紙を���っているかを知らない。紙には生産者のサインはない。彼らにとって品質こそが、何より雄弁なサインであり、彼らの存在証明なのである。
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今こうして読んでいる書籍の「紙」がどこで作られているのか。本書を読んではじめて意識へのぼるに至った。
そして東日本大震災で、あの時、世界屈指の規模を誇る製紙工場が甚大な被害を受けた事を、震災から6年を経て(読了当時)ようやく認識する事が出来た。
読書を趣味とする者の端くれとして、それらの事に目を向けさせてくれただけでもこの本を読んで良かったな、と深く思う。
震災の記録資料という観点でも非常に胸を抉るものであるが、何と言っても工場で働く方々の思いをこそ軽んじてはならない。
あまりにも身近にあるが為に普段思いを致すことのないモノたちにも、それぞれに様々な形で携わる人、作る人・運ぶ人・売る人…etc.が居るのだという当たり前のことを改めて考えさせられた。
私が言うのもおこがましいが、とくべつ紙や本に興味が無い人にも是非手に取って読み継がれて欲しいノンフィクション。
1刷
2022.2.5
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震災当時勤めていた会社が製造業で、同じ様に瓦礫や車が倉庫内に突き刺さり、ご遺体などもあった。まさに共感する場面が続いて、泣きながら読んだ。日本製紙の人々に感動した。
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震災の記憶は少しづつ風化してゆく。人間として普通に生活していくためには、忘却も必要なことではあるが、時には、しっかりと向き合い思い出すことも必要である。そんな時に、この本はしっかりと思い出させてくれる良書です。
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3.11で崩れかけた出版業界を人知れず救っていた日本製紙石巻工場、その再生のお話。フィクションであってほしいと願わずにいられない紛れもない現実に立ち向かった社員たちのノンフィクション。確かに本書を読むまでは普段当たり前に読んでいる本の著者や出版社、編集者までは遡っても、その紙がどこで、誰が、どのように、何を材料に作っているかまでは考えたことがなかった。この事実を知るだけでもこの本を読む価値はある。感情ごちゃ混ぜで色々と思うところはあっても、1人の読者という立ち位置から言えるのは「ありがとう」の言葉だけだ。
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何よりも、「この出来事を本にして、世の中に知らせるのだ」という意志を感じた。
冒頭70ページの東日本大震災の当事者からの目線だけでも圧巻だった。
そこから、キレイだけでない話、人間の絶望と希望、紙製品への誇り、プラントへの愛。
様々な要素がテンポよく混ざり合って駆け抜けていく、レベルの高いノンフィクションであった。
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メモパットのインスタライブで知った本。b7バルキーという紙。b7は紙を作った人が好きなギターコードでバルキーは嵩高の意味だと言っていた。本当かどうかは知らんけど。紙についての説明も見逃せないノンフィクション。東日本大震災の悲惨さ。製紙工場存続の危機。出版業界との信頼関係。この人たちがいたから紙の本がつながったんだなあ。この作者の別のノンフィクションも読みたくなった。
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ノンフィクションの迫力に圧倒されたというのが、正直な読後感。筆者の綿密な取材とその筆力によるのが大だろうが。
3.11で被災し、従業員たちの死に物狂いの働きによって再生した日本製紙石巻工場の物語。
日本の製紙業の盛衰は自分たちの工場にかかっているのだとの誇りを持って、是が非でも立ち直らせようとする男たちの熱い思いが行間から伝わる。
津波の被害により泥水の中に埋もれ瓦礫の堆積した工場、誰もが復興に不安な気持ちでいるときに、工場長が、復興を宣言する。
「そこで、期限を切る。半年。期限は半年だ」と。
期限を切って社運を託された彼らが、必死になって立て直す様は、感涙もの。
彼らが何故、これほど必死になって石巻工場を立て直すのだろうか、との答えとして著者は、我々の手元にやってくる本のため、と記す。
工場長が明かす。「とにかく良い本、良い紙をと、お互い一生懸命でした」。
取材で、各出版社によって文庫の色の違いも示される。
「講談社が若干黄色、角川が赤くて、新潮社がめっちゃ赤。普段はざっくり白というイメージしかないかもしれないけど、出版社は文庫の色に『これが俺たちの色だ』っていう強い誇りを持っているんです」
思わず各文庫を取り出して比べてしまった。
その他、本の装丁や彼らの仕事に対するこだわり、出版不況の現状等が数々綴られている。
我々が当たり前のように手にする本が、彼らの巧まざる努力で造られていることを、ノンフィクションライター=佐々涼子氏によって明らかにされた。
製紙工場の人たちの仕事のおかげで、読書が楽しめることに改めて感謝したい。
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東日本大震災で壊滅的打撃を受けた製紙工場が、みんなの努力で奇跡的復活を果たすまでのノンフィクション。書き方のスタイルがオーソドックスなので、安心して読めました。誰かスーパーヒーローが手品みたいなことをして一気に復活するわけではなく、みんなが歯を食いしばりながらひとつひとつ復活までの道のりを歩んでいったんだなのがよくわかりました。池上彰が解説を書いているんですが、かっこつけすぎて鼻につきました。この解説は余計です。あと、この本を読んだのをきっかけに、本棚の奥から村上春樹の『多崎つくる』をひっぱりだしてきました。そのうち、再読しようと思います。【2023年9月16日読了】
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2023.12.31。イベントの待ち時間が予想できたため、外出に持参して読み始めた。
東日本大地震で被災した、日本製紙石巻工場の話だ。
当時、この工場の情報は耳にしていたのだろうか?覚えてない。
まずこの本を読んで、いかにこの石巻の製紙工場が"自分にとって"大事か、思い知らされた。この工場がつくった紙でつくられた本の作品名がいくつか挙げられているが、どれも読んだことあるもの。本の紙って、もっとオートメーション的に、どこでも誰でも作れるようなものだと思ってた。思えば、ファッション雑誌、月刊漫画誌、文庫本、単行本、色んな本の紙を触ってきて、それぞれ違うなとなんとなく知ってはいたはずなのに、考えもしなかった。
そして、震災当時のリアルな話。どこから助けを呼ぶ声がしているかもわからない、どこかの瓦礫の中、あちこちから声がするのに、瓦礫や危険な汚濁水で助けに行けない。目の前で人が波に攫われていく。助けられなかった、見殺しにした。
せっかく無事だった民家やコンビニを襲って、物をとっていくひとたち。生きるためにやってるんじゃない人たち。
根も歯もない噂話、罵倒。明るくいようとすると、なんでこんな状況で笑うんだと責める人たち。
震災なんてなければ、そんなもの見ることもすることもなかったはずの人たち。
自分を見失ったら生きていけない。そんな中でもしかしたら、日本製紙石巻工場の復興目標は、従業員に道筋を持たせてくれたのかもな、と思った。
2024.1.1になってすぐ、石川県を中心に震災が。
とにかく早く逃げて、津波からは逃げて生きてほしい。大津波警報を聞きながら、ひたすら願った。