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黒人奴隷による自伝です。この作品は特に文学的でもなく、はっきりいって日本語訳も上手ではないと思います。原文に問題があるのか翻訳のせいなのか判りませんが、読んでいて首をひねらざるをえないところもありました。
それでもこの作品に引きつけられる理由は、以下にあると思います。
①この物語が事実に基づき書かれていること
②その事実があまりにも衝撃的であること
③その衝撃的事実を、黒人奴隷が自ら、飾らずありのままに書いていること
この本に描かれている奴隷制の非人道性、残虐さには驚くばかりです。奴隷とされるのは黒人だけではありません。奴隷の所有者である白人男性は、自分と奴隷との間に生まれた実の子(外見上、白人と区別のつかない人もいます)を、奴隷として平気で売るというのです。また、奴隷を家族のように受け入れ愛情をもって接しているように思われた人でさえ、いざ金に困るとその奴隷を平気で商品として競売にかけるというのです。
作品中でリンダは述べています ── 奴隷制は、黒人だけではなく、白人にとっても災いなのだ。それは白人の父親を残酷で好色にし、その息子を乱暴でみだらにし、それは娘を汚染し、妻をみじめにする。〔中略〕しかし、この邪な制度に起因し、蔓延する道徳の破壊に気づいている奴隷所有者はほとんどいない。葉枯れ病にかかった綿花の話はするが、我が子の心を枯らすものについては話すことはない。
奴隷制は法律を根拠とし、当時の人々の常識や習慣にしっかり根付いていたようです。そのため、今にして思えば信じられないような行為を人々は当たり前のことのように行い、あるいは受け入れていたのでしょう。
社会や国家というものは、個々の人間の努力や意志だけではどうにもならない悪(奴隷制、戦争、差別、貧困など)を生み出してしまうのか? それとも、そういった悪は、詰まるところ社会や国家を構成する個々の人間の本質に根ざしたものなのか? そんなあれこれを考えさせるところに、本書の一番の価値があるのだと私は思いました。
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すごい。あの7年間を、こう書けることがすごい。決して淡々とはしていない、けれど、荒ぶりすぎてもいない。(私が感じ取れていないだけかもしれないが。)
2017_021【読了メモ】(170911)ハリエット・アン・ジェイコブス著、堀越ゆき訳『ある奴隷少女に起こった出来事』/新潮文庫
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19世紀半ば。アメリカ南部で奴隷として生まれた女性の回想録。
こわごわ読み始めたけれど、夢中になって一気読み。
人間が人間を家畜と同様に扱う事の恐ろしさがよくわかる。
奴隷制における奴隷の悲惨さは容易に想像できるが、所有する家庭にも品性の下落ををもたらすものであることはちょっと思いがけなかった。(むしろこちらの方が怖かった。)
そんな痛ましい話ではあるが、読後感はさほど悪くない。
奴隷であっても毅然として屈せず、ついには自由を手に入れるという一種の成功譚でもあるからだ。
著者の強さと賢さに感動する。
Amazonの類書に著者の写真が掲載されている。
年は重ねた姿だが、真っすぐにこちらを見る目が知的で美しい。
イラストも悪くはないけど、この写真が表紙だったらもっとインパクトがあったかも。
それにしても、このおぞましい奴隷制度を最近まで継続してきた人間社会、そして容認してきたキリスト教(だけではないけど)の教えとはなんだろうと考えざるを得ない。
人間はどうして自分より惨めな存在を欲するのか?
自分の心の中に答えを探りたい。
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1800年代のノースカロライナ、価値ある所有物としての奴隷。主人からの虐待を逃れるため、より寛大な白人紳士の子を産む。逃亡して屋根裏に7年暮らし、北部に逃れる。
人間を堕落させる構造的なしくみを気づかせてくれる。
自分の子という認識が遺伝子によるものではない、母系性的な認識との並立。
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新年早々に重たいテーマの本を読んでしまった…!
しかし、読んで良かった。
約120年前にアメリカで書かれた実話です。
アメリカ南部で奴隷として生まれたリンダ(本名はハリエット・アン・ジェイコブス)は早くに両親と死別し、12歳で好色なドクター・フリントの奴隷となった。
奴隷をレイプし妊娠させては出産後に母子ともに売ってしまう外道な男はリンダにもその魔の手を伸ばす。
ドクターから逃れるためリンダは他の白人男性の子を身ごもることを決意。
そこから長く、辛い戦いが始まる。
しかし、彼女は孤独では無かった。
奴隷制が暴く人間の堕落と、彼女を支援する人たちの崇高な精神が描かれている。
出版当時は元奴隷がこんな文章を書けるはずがないとフィクションとして見なされていた。
しかし、出版から126年後、実話と証明されるやいなや全米でベストセラーに。
人間の残虐性に不屈の精神で抗い続け、現代を遥かに凌ぐ格差の闇を打ち破った究極の魂の物語。
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極めて高い知性を持つ作者は奴隷である。自由を求め、平等を求めて想像を絶する苦闘をする。近代国家でありながら奴隷制を持つ国は、他にあったろうか?人を家畜とみなす恥づべき制度だ。先住民虐殺にせよ奴隷制にせよ、米国が銃を手放せない真の理由はここにある。
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昨夏途中で投げ出してしまっていた本。似たような描写・感情の反復が多く飽きてしまった。重いテーマであることは分かっているのだけど。
この本に貼る大きなテーマは、人種差別、奴隷制度、そして女性蔑視も含まれるだろうか。
女性蔑視はともかくとして、モンゴロイド一色の日本で人種差別と言われてもピンとこない(民族という意味ではアイヌ、在日外国人問題はあれど、目立たない)し、奴隷制度もあくまで制度として存在したのは1000年以上前のことで、やはり身近なものとして捉えるのは難しい。性別による差別でさえ、これは私が男だからかも知れないが、それが制度化ないし構造化され、それが当たり前の世界に進んでいる以上、なかなかピンとこなかったりする。
以上のことから、この本はあくまで歴史資料であり、読み物としてはこちらの教養不足とはいえつまらないものである、というのが正直な読後感だった。もちろん、生産であり許せないことだと言うことはできるけど、身の周りとどこか細い糸でも良いから地続きでいないと、自分の中に落とし込めないのはいかんともしがたい。
ただ、たとえば主人公のためにある北部の人が彼女を善意で買ったように、奴隷制度が存在する構造の中にいる以上、それはごく当たり前のことだったのだろう。訳者が「奴隷少女が自分らしく生きるために感じなければならなかった心情が、現代の日本の少女にとってかけ離れたものであるとは私には思えない。少女たちには、奴隷制ならぬ現代グローバル資本主義的で、稚拙で雑多な情報に翻弄された現実が立ちはだかっている。」というように、見るひとが見れば、あるいは未来から見れば「奴隷」という言葉に相当するおぞましいことが今の日本で行われているのかもしれない。自分はもしかしたら加害者なのかもしれない。ドクター・フリントなのかもしれない。
そして、フリントのような人間が正しいといわれるような、現代から見れば非道な考え方が未来のスタンダードになる可能性だってある。この物語が対岸の火事としか捉えられないままであれば、そうした未来に歯止めをかけることも、疑問に思うことすらもできないのだ。
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アメリカの国営放送(VOA)が英語学習者向けに編集しているサイト「VOA Learning English」の中の1コーナー「America's Presidents」が非常におもしろくて、1代目から順番に楽しんで読んでいます。(でもまだ8代目あたりですが)
で、3代目のトマス・ジェファーソンの回で衝撃を受ける事実が。
トマス・ジェファーソンと言えば、ラシュモア山に顔が刻まれている4人の大統領の一人で、「全ての人間は平等に造られている」と謳う独立宣言を起草し、今でもかなり人気のある、あのトマス・ジェファーソン。「奴隷制度には反対」を表明していたらしいですが、そんな彼が、黒人奴隷と長く性的な関係を持ち、子供も複数いたと書いてあるではありませんか。
・・・( ゚Д゚)はぁ?!
と思って、リンクが張ってあった記事から記事へと読み進めるうち、彼の正妻とその奴隷の女性は異母姉妹(つまり、父親はその奴隷の所有者)だったということも分かりました。遺族の反発などもあり、彼のこうした側面はずっと謎のひとつだったようですが、比較的最近(1980年代?)、その奴隷女性の子孫とされる人たちのDNA鑑定などを経て、今ではほぼ事実と認められ、ジュラシック・パークのサム・ニール主演でTVドラマも作られたらしい。
ま、まじすか! と、さらに関連記事をむさぼるように読んだのですが、その中で、アメリカの奴隷制を知る貴重な資料として、この本が紹介されてました。というわけで、読んでみることにしました。(・・・長い前置きでスイマセン)
ジェファーソンの奥さんと、ジェファーソンの子供を産んだ奴隷とが異母姉妹だった、という事実、聞いた時は、胃がひっくりかえりそうになりましたが、この本を読めば、それが当時は非常にありふれた出来事だったと分かります。
白人紳士が黒人奴隷との間に子供を持つことは全然恥ずかしいことではなかった一方で、子供を買い取って自由にしてやることは、南部の経済基盤を脅かすとして、とても軽蔑される行為だった、と書いてあって、ビックリしました。なんだ、その都合の良い道徳観は!
著者は、当時の感覚からすれば、もしかしたらラッキーな方だったのかもしれないなと思います。狭いコミュニティに住んでいたおかげで、体面を気にする所有者から力ずくで乱暴されることはなかったのだから。(当時はレイプなんていくらでもあっただろうと思うし、彼女の所有者であるドクターも、本気で「自分は寛大だ」と思っていただろうと想像する)
ジェファーソン記念館の公式サイトにアップロードされているビデオは「ここを訪れる人は、ジェファーソンが良い奴隷所有者だったかと知りたがるが、なかなか説明が難しい。制度的に、善い奴隷所有者でいるのは不可能」と言っていました。
この本を読むと、著者一人の生涯だけでなく、この制度そのものがいかに恐ろしく、抜け道がなく、奴隷たちをあらゆる方向から苦しめてきたかが構造的に分かります。
良い奴隷所有者なんてものはこの世に存在しないという事実、少なくとも、私はこの本を読むまでは分かっていませんでした。
ちなみに、この本を訳された方はプロの翻訳者ではないせいか、あとがきが��ょっと変わっていて印象的でした。非常に熱い思いからこの本を訳したようで、思いが過熱しすぎて、あとがきのところどころが「ちょっと、何言ってるのか、よく分からない」状態になっていて、少し笑いました。
こういう変わった経歴の人が訳す本には、プロとはまた違った気合が入っていて良いなぁ、と思いました。
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リンダが、たとえ黒人であっても、もし現代に生まれ、普通に育ち、普通に教育を受けていれば、どのような人生を送ったか…。どのような女性に育ったか…。
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子供の頃からアメリカの奴隷制度についての書籍、映画、テレビ番組等を見てきましたが、またとても悲惨な証言に巡り合ってしまいました。奴隷制度はホロコーストに並ぶ人類史上最悪の犯罪だと思いますが、ドイツが常に反省を表しているのに比べ、アメリカの振り返りは見たことも聞いたこともありません。日本も戦時中にアジア諸国に対してやはりとてつもない罪を犯し、未だに事実認定すらせず逃げ回っていますが、アメリカとニッポンは似た者同士のお粗末な国という思いです。この本がアメリカでベストセラーになったという点がわずかな救いです。
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「事実は小説より奇なり」ということは、往々にしてあることを痛感させてくれる一冊。
同じことが『アンネの日記』にも言えるのでしょうが、ジェイコブズの場合は、ある少女に起こった出来事を事実として記すだけでなく、読者に伝えようとしています。その点において、小説を読んでいるかのように思えるときがあり、結果として文学性を獲得しています。訳者あとがきにおいて、本書を『ジェーン・エア』などの古典文学と並ぶ位置づけにしているのも頷けます。
本書の訳文はすばらしく、その読みやすさに感じ入ったのですが・・・。あとがきを読むと、現代の読者には通じにくい箇所などを割愛したりと、意図的に読みやすくしているとのこと。判断の分かれる訳業ということで★★★★。
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奴隷として産まれた女の子の波瀾万丈な人生。
あまりにも荒唐無稽に思われて、最初の出版後130年近くも事実だと思われていなかったのだという。書き残したこの話は、いくつもの偶然によりこうして未来で発掘され、読み継がれているのだそうだ。
あとがきに、女性サラリーマンの訳者が仕事で移動中、米国Kindleで名作古典ランキングに入っているのを発見し、夢中で読んだことをきっかけに訳したとあるのだが、ないよ!日本語訳の電子書籍版!本業じゃない方の訳なのに読みやすいし、紙も売れてるみたいだしもったいない。さらに未来に残したいとは思わんのかー!
偶然どこかでレビューを目にしたのかなんだったのかで購入したのだけど、出会えてほんとうによかった。
想いを未来に遺す、言葉と本はほんとうに素晴らしい。
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『アンクルトムの小屋』から映画『それでも夜は明ける』まで、米国の奴隷制度に関する話にはいくつか触れたことはあったが、白人の主人に対して最も弱い位置にいる奴隷少女の一人だった著者が語る半生には、初めて知る事実も多く、衝撃が大きかった。
そして歴史のことでかつ外国でのことと看過できないのは、専業の翻訳家ではない訳者がなぜこの本と出会ったのかを語るあとがきにも現れている。自分も少女だった頃にこの本と出会ったら、かなり影響を受けたかもしれない。それだけ現代にもつながる歴史が詰まった、重要な本であった。
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長らく創作だと思われていたのも納得の、現実に起こり得るとは想像もつかない壮絶な回想です。
まず共感をしようにも現在の日本に生きる身には理解しにくい社会背景があります。本職の手によるものではない文章は説明不足に感じられる部分も多く、つまりこれはどういうことなのかと首を捻ってしまうことも頻繁に出てきて、著者が祖母に支えられながら良心や信仰を持ち続けられる強さを持った少女であったことだけは分かるものの、どうも寄り添いきれない。数々の出来事に、しょうがないとどこか突き放した視点で読み進め、神に背く行いでも当時はそうせざるを得なかったとする少女の懺悔に、それほど追いつめられていたのだから自分を責める必要はないと、それこそ別の世界の出来事のように感じてしまったくらいです。けれど、ふとその章を読み終えて現実の世界に戻ったときに、少女が選んだ行動を「仕方ない」と思ってしまった自分に愕然としました。現実には「仕方ない」で片付けられる行いだろうか。「追いつめられたから」で肯定していいことなのか。信仰心の篤い少女が正常な精神状態で選べる道ではありません。それまでは過酷では済まないような状況にも賢さと強さで凜と立ち続けていたように見えた少女像が崩れ、自分も少女と共にまともな判断力を失った状態だったとわかった瞬間、これは現実にあった出来事なのだと痛感し、視点が変わっていきました。
潜伏生活、脱出、家族の再会。所有者や社会を恨む間もなく、非現実的な希望を抱くこともなく、ただただ逃れ、家族を守り、生きることだけを考えてきた彼女に、人間の根源の姿をみたように思います。一時は創作の物語だとされ、埋もれていたこの作品が、回想だと証明され、現代に残るに至った意義について、考えずにはいられません。
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翻訳者のトークイベントのの取材で、問題作と聞いて読んでみた。
これはさぁ、もっと沢山の人に読まれるべき作品だね。