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2018年3冊目。「奴隷制」当事者の自伝。人間が作り出した愚かな制度や法律に、同じ人間が虐げられ、想像を絶する苦悶に満ちた人生を余儀なくされ…読んでいて辛くなります。同時に、理不尽で非情な環境に身を置きながら、希望を忘れず、思慮深く、強く生きた著者を尊敬します。家族への愛や、信仰の深さから、著者は崇高な魂を失わずに生きることができたのかな。著者の家族を含め、周囲で支援してくれた様々なひとの存在に、人間の温かさを感じます。わたしも、愛を注げる生き方をしたいです。
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アメリカ南部で、奴隷として生まれ育った女性の自伝的ノンフィクションと聞いて、読んでみたいと思った本。
彼女の人生全てを握る白人の主人は、あらゆる陰湿な手を使って、彼女に性的関係を迫る。
どれほど彼女が恐ろしく辛い思いをしたのかと心が痛む。南部の沼地に住む大きな毒蛇ですら、文明社会の白人男性ほど怖くないという言葉も出てくる。
その文明社会、その文化の中では、彼女の主人のような男性が非情で卑劣とされていたわけではなく、むしろ、社会的地位のある紳士として扱われる。そして、彼自身も、自分のことを真に寛大な人物と心から思っていたのでは、と思われるふしがある。力ずくで彼女を思うままにできるところをわざわざ、彼女の子どもや親族の生活の保障やらを挙げては、彼女が自ら彼の物になるように仕向けているわけだから・・・。
その文化の中での常識となると、人間は思考停止に陥り、どんなこともしてしまえる。自分が優位な立場にあると、どこまでも残忍になり得る。そういう恐怖が時を超えて伝わってきます。
反面、知性に富み、強い意志を持った彼女の生き方は、多くの人に勇気を与えるものと思います。
舞台は19世紀だけど、人の世が続く限り消えることのない問題提起を含んだ話と思います。
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アンネの日記を思い出す。実話だけに読んでて胸が苦しくなった。現代人がいかに恵まれた環境にいるかを知る良書だと思う。
あらすじ(背表紙より)
好色な医師フリントの奴隷となった美少女、リンダ。卑劣な虐待に苦しむ彼女は決意した。自由を掴むため、他の白人男性の子を身篭ることを―。奴隷制の真実を知的な文章で綴った本書は、小説と誤認され一度は忘れ去られる。しかし126年後、実話と証明されるやいなや米国でベストセラーに。人間の残虐性に不屈の精神で抗い続け、現代を遙かに凌ぐ“格差”の闇を打ち破った究極の魂の物語。
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奴隷制度の残るアメリカ南部から逃げ出し、人間らしく生きようとした元奴隷女性の自叙伝というか啓蒙文というか。
良かった所:
どれだけ困難に襲われようとも、諦めず何とかしようとする彼女の意志と行動力がすごいと思う。ある程度の自由を得ていた少女時代と、よきキリスト教的な信仰心と、祖母や弟など家族の支えが大きかったのかなぁと。
特に7年もの屋根裏潜伏がすごいし酷い。錐の穴から子供たちが見えるとはいえ、閉所暗所で何もすることがない毎日なんて体壊すか気が狂いそう。あと母親を必要とする年頃の子供たちの傍にいてやれなさ、申し訳なさが縷々書いてあって、こういう所は不変の母性愛だなあと思った。
よく分からなかった所:
「別の白人男性の子供を持てば医師の毒牙を免れる」ってのが何でかもうちょい説明してほしいかなと思う。当時のアメリカ人なら言わずもながなのかもしれないけど、子持ち女はダメなの?子供の父親に遠慮してってのもないみたいだし、何でだろう鬼畜の割に嫌われたくないというか手ぬるいなと。
あと重要人物なのに筆の重げなサンズ氏について。彼もどういうスタンスで彼女と2度も婚外子を持ったのか、金で全部解決する気だったのか、トラブルは面倒じゃなかったのか、彼女をどう思ってたのか謎なのでモヤモヤ。罪だとか恥だとか、子供たちに読まれたくなかったのか、思い出したくもないのかもしれないけど、当然ぎりぎりのドラマがあっただろうにと残念。
総評:「奴隷制度にフォーカスしたノンフィクション」だからこその重みと歪みがあるかなあと思った。自由と尊厳に対しては饒舌だし崇高。今じゃ当たり前すぎてハッとさせられる部分も多い。反面、話の進みと描写は幾分弱いかも。賢く美しく母性にあふれたハリエット個人の、狡さとか弱さにも踏み込んで、もうちょい客観性を持たせたら半生記としてもっと面白くなったのになーと図々しく思わなくもない(本の趣旨が下世話な方にブレちゃうから駄目か?)。
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アメリカ南部の奴隷制度。
知ってはいたけど…ここまでとは。
この本は120年くらい忘れ去られていたという、本人が匿名で書いたため、フィクションと思われたので。
奴隷として生まれた人に字が書けると誰もが想像しないこともあり。
今でも人種差別があり、人は自分の下を作ることで満足している人もいる。
人は平等で自由である!
私も私らしく生きなくてはいけないと改めて。
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どうコメントして良いかわからない。
実際の奴隷であった方の半生がリアルに綴られている。
人種差別だけでなく、差別は常に行われている。
区別でなく差別が。
心の弱さ、体の弱さ、生まれた地域、全てが差別になりうるし、自分が差別される側になる可能性はいつだってある。
自由に生きる。というのはとても難しい。
自分は差別に対して何もできないかもしれない。
ただその事実を理解しようとすることはできる。
この本に出会えてよかった。
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新潮文庫の夏の100冊の冊子を観て購入。一気に読み進む。アメリカ南部の奴隷制の真実が綴られている。
映画「それでも夜が明ける」を観た時も奴隷制の真実を知り衝撃だった。
リンダという女性の心情が文章から痛いほど想像できる。堀越ゆきさんの翻訳も素晴らしい。日本語で読むことができ感謝。今の時代だからこそ読む価値あり!佐藤優さんの解説付き。
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黒人奴隷による自伝です。この作品は特に文学的でもなく、はっきりいって日本語訳も上手ではないと思います。原文に問題があるのか翻訳のせいなのか判りませんが、読んでいて首をひねらざるをえないところもありました。
それでもこの作品に引きつけられる理由は、以下にあると思います。
①この物語が事実に基づき書かれていること
②その事実があまりにも衝撃的であること
③その衝撃的事実を、黒人奴隷が自ら、飾らずありのままに書いていること
この本に描かれている奴隷制の非人道性、残虐さには驚くばかりです。奴隷とされるのは黒人だけではありません。奴隷の所有者である白人男性は、自分と奴隷との間に生まれた実の子(外見上、白人と区別のつかない人もいます)を、奴隷として平気で売るというのです。また、奴隷を家族のように受け入れ愛情をもって接しているように思われた人でさえ、いざ金に困るとその奴隷を平気で商品として競売にかけるというのです。
作品中でリンダは述べています ── 奴隷制は、黒人だけではなく、白人にとっても災いなのだ。それは白人の父親を残酷で好色にし、その息子を乱暴でみだらにし、それは娘を汚染し、妻をみじめにする。〔中略〕しかし、この邪な制度に起因し、蔓延する道徳の破壊に気づいている奴隷所有者はほとんどいない。葉枯れ病にかかった綿花の話はするが、我が子の心を枯らすものについては話すことはない。
奴隷制は法律を根拠とし、当時の人々の常識や習慣にしっかり根付いていたようです。そのため、今にして思えば信じられないような行為を人々は当たり前のことのように行い、あるいは受け入れていたのでしょう。
社会や国家というものは、個々の人間の努力や意志だけではどうにもならない悪(奴隷制、戦争、差別、貧困など)を生み出してしまうのか? それとも、そういった悪は、詰まるところ社会や国家を構成する個々の人間の本質に根ざしたものなのか? そんなあれこれを考えさせるところに、本書の一番の価値があるのだと私は思いました。
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すごい。あの7年間を、こう書けることがすごい。決して淡々とはしていない、けれど、荒ぶりすぎてもいない。(私が感じ取れていないだけかもしれないが。)
2017_021【読了メモ】(170911)ハリエット・アン・ジェイコブス著、堀越ゆき訳『ある奴隷少女に起こった出来事』/新潮文庫
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19世紀半ば。アメリカ南部で奴隷として生まれた女性の回想録。
こわごわ読み始めたけれど、夢中になって一気読み。
人間が人間を家畜と同様に扱う事の恐ろしさがよくわかる。
奴隷制における奴隷の悲惨さは容易に想像できるが、所有する家庭にも品性の下落ををもたらすものであることはちょっと思いがけなかった。(むしろこちらの方が怖かった。)
そんな痛ましい話ではあるが、読後感はさほど悪くない。
奴隷であっても毅然として屈せず、ついには自由を手に入れるという一種の成功譚でもあるからだ。
著者の強さと賢さに感動する。
Amazonの類書に著者の写真が掲載されている。
年は重ねた姿だが、真っすぐにこちらを見る目が知的で美しい。
イラストも悪くはないけど、この写真が表紙だったらもっとインパクトがあったかも。
それにしても、このおぞましい奴隷制度を最近まで継続してきた人間社会、そして容認してきたキリスト教(だけではないけど)の教えとはなんだろうと考えざるを得ない。
人間はどうして自分より惨めな存在を欲するのか?
自分の心の中に答えを探りたい。
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1800年代のノースカロライナ、価値ある所有物としての奴隷。主人からの虐待を逃れるため、より寛大な白人紳士の子を産む。逃亡して屋根裏に7年暮らし、北部に逃れる。
人間を堕落させる構造的なしくみを気づかせてくれる。
自分の子という認識が遺伝子によるものではない、母系性的な認識との並立。
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新年早々に重たいテーマの本を読んでしまった…!
しかし、読んで良かった。
約120年前にアメリカで書かれた実話です。
アメリカ南部で奴隷として生まれたリンダ(本名はハリエット・アン・ジェイコブス)は早くに両親と死別し、12歳で好色なドクター・フリントの奴隷となった。
奴隷をレイプし妊娠させては出産後に母子ともに売ってしまう外道な男はリンダにもその魔の手を伸ばす。
ドクターから逃れるためリンダは他の白人男性の子を身ごもることを決意。
そこから長く、辛い戦いが始まる。
しかし、彼女は孤独では無かった。
奴隷制が暴く人間の堕落と、彼女を支援する人たちの崇高な精神が描かれている。
出版当時は元奴隷がこんな文章を書けるはずがないとフィクションとして見なされていた。
しかし、出版から126年後、実話と証明されるやいなや全米でベストセラーに。
人間の残虐性に不屈の精神で抗い続け、現代を遥かに凌ぐ格差の闇を打ち破った究極の魂の物語。
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極めて高い知性を持つ作者は奴隷である。自由を求め、平等を求めて想像を絶する苦闘をする。近代国家でありながら奴隷制を持つ国は、他にあったろうか?人を家畜とみなす恥づべき制度だ。先住民虐殺にせよ奴隷制にせよ、米国が銃を手放せない真の理由はここにある。
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昨夏途中で投げ出してしまっていた本。似たような描写・感情の反復が多く飽きてしまった。重いテーマであることは分かっているのだけど。
この本に貼る大きなテーマは、人種差別、奴隷制度、そして女性蔑視も含まれるだろうか。
女性蔑視はともかくとして、モンゴロイド一色の日本で人種差別と言われてもピンとこない(民族という意味ではアイヌ、在日外国人問題はあれど、目立たない)し、奴隷制度もあくまで制度として存在したのは1000年以上前のことで、やはり身近なものとして捉えるのは難しい。性別による差別でさえ、これは私が男だからかも知れないが、それが制度化ないし構造化され、それが当たり前の世界に進んでいる以上、なかなかピンとこなかったりする。
以上のことから、この本はあくまで歴史資料であり、読み物としてはこちらの教養不足とはいえつまらないものである、というのが正直な読後感だった。もちろん、生産であり許せないことだと言うことはできるけど、身の周りとどこか細い糸でも良いから地続きでいないと、自分の中に落とし込めないのはいかんともしがたい。
ただ、たとえば主人公のためにある北部の人が彼女を善意で買ったように、奴隷制度が存在する構造の中にいる以上、それはごく当たり前のことだったのだろう。訳者が「奴隷少女が自分らしく生きるために感じなければならなかった心情が、現代の日本の少女にとってかけ離れたものであるとは私には思えない。少女たちには、奴隷制ならぬ現代グローバル資本主義的で、稚拙で雑多な情報に翻弄された現実が立ちはだかっている。」というように、見るひとが見れば、あるいは未来から見れば「奴隷」という言葉に相当するおぞましいことが今の日本で行われているのかもしれない。自分はもしかしたら加害者なのかもしれない。ドクター・フリントなのかもしれない。
そして、フリントのような人間が正しいといわれるような、現代から見れば非道な考え方が未来のスタンダードになる可能性だってある。この物語が対岸の火事としか捉えられないままであれば、そうした未来に歯止めをかけることも、疑問に思うことすらもできないのだ。
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アメリカの国営放送(VOA)が英語学習者向けに編集しているサイト「VOA Learning English」の中の1コーナー「America's Presidents」が非常におもしろくて、1代目から順番に楽しんで読んでいます。(でもまだ8代目あたりですが)
で、3代目のトマス・ジェファーソンの回で衝撃を受ける事実が。
トマス・ジェファーソンと言えば、ラシュモア山に顔が刻まれている4人の大統領の一人で、「全ての人間は平等に造られている」と謳う独立宣言を起草し、今でもかなり人気のある、あのトマス・ジェファーソン。「奴隷制度には反対」を表明していたらしいですが、そんな彼が、黒人奴隷と長く性的な関係を持ち、子供も複数いたと書いてあるではありませんか。
・・・( ゚Д゚)はぁ?!
と思って、リンクが張ってあった記事から記事へと読み進めるうち、彼の正妻とその奴隷の女性は異母姉妹(つまり、父親はその奴隷の所有者)だったということも分かりました。遺族の反発などもあり、彼のこうした側面はずっと謎のひとつだったようですが、比較的最近(1980年代?)、その奴隷女性の子孫とされる人たちのDNA鑑定などを経て、今ではほぼ事実と認められ、ジュラシック・パークのサム・ニール主演でTVドラマも作られたらしい。
ま、まじすか! と、さらに関連記事をむさぼるように読んだのですが、その中で、アメリカの奴隷制を知る貴重な資料として、この本が紹介されてました。というわけで、読んでみることにしました。(・・・長い前置きでスイマセン)
ジェファーソンの奥さんと、ジェファーソンの子供を産んだ奴隷とが異母姉妹だった、という事実、聞いた時は、胃がひっくりかえりそうになりましたが、この本を読めば、それが当時は非常にありふれた出来事だったと分かります。
白人紳士が黒人奴隷との間に子供を持つことは全然恥ずかしいことではなかった一方で、子供を買い取って自由にしてやることは、南部の経済基盤を脅かすとして、とても軽蔑される行為だった、と書いてあって、ビックリしました。なんだ、その都合の良い道徳観は!
著者は、当時の感覚からすれば、もしかしたらラッキーな方だったのかもしれないなと思います。狭いコミュニティに住んでいたおかげで、体面を気にする所有者から力ずくで乱暴されることはなかったのだから。(当時はレイプなんていくらでもあっただろうと思うし、彼女の所有者であるドクターも、本気で「自分は寛大だ」と思っていただろうと想像する)
ジェファーソン記念館の公式サイトにアップロードされているビデオは「ここを訪れる人は、ジェファーソンが良い奴隷所有者だったかと知りたがるが、なかなか説明が難しい。制度的に、善い奴隷所有者でいるのは不可能」と言っていました。
この本を読むと、著者一人の生涯だけでなく、この制度そのものがいかに恐ろしく、抜け道がなく、奴隷たちをあらゆる方向から苦しめてきたかが構造的に分かります。
良い奴隷所有者なんてものはこの世に存在しないという事実、少なくとも、私はこの本を読むまでは分かっていませんでした。
ちなみに、この本を訳された方はプロの翻訳者ではないせいか、あとがきが��ょっと変わっていて印象的でした。非常に熱い思いからこの本を訳したようで、思いが過熱しすぎて、あとがきのところどころが「ちょっと、何言ってるのか、よく分からない」状態になっていて、少し笑いました。
こういう変わった経歴の人が訳す本には、プロとはまた違った気合が入っていて良いなぁ、と思いました。