紙の本
不平等は改善
2017/10/21 22:18
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投稿者:Freiheit - この投稿者のレビュー一覧を見る
人間の寿命は延びているが、健康においても格差が広がっている。その背景は貧困や社会的格差である。データを挙げて検証している。
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著者は、WHOが提唱するSDH(健康の社会的決定要因)をまとめた中心人物であるが、どのような経緯で、この領域の研究に入るようになったか、そしてその根拠をどのように構築してきて、どのように皆が理解できるようにまとめ上げたかが述べられた本である。そのために世界各地の報告をされているが、裏表紙にイラストで世界地図が描かれているのは理解に役立つ。
「せっかく治療した患者を、なぜ病気の原因となった環境に戻すのか?」という言葉から始まる序章で著者の医学生時代の精神科見学で落胆した様子から始まる。環境的要因が大きいうつ状態の患者さんに投薬するしか術のない精神科医が描かれ、それが病気の社会的原因を探るたびのスタートになったと、精神科を揶揄されているのは辛いところである。精神科医療を一面的な理解しかされていない所がまずは残念ではある。
と言いながらも環境的な要因は根拠が見つけにくいが、統計的な研究の進歩で説得力のあるものとなってきた。ただ弱点はあり、そこを乗り越える理論的支柱も必要だが、本書ではその部分にも論考が及ぶ。少し難しいが。
そのような中で、「健康の社会的勾配」に注目すると、回避できるはずの健康の不平等が見えてきて、それは不正義である。そして健康の不平等は社会の不平等から生じている。また個人の自由意志に基づく選択も(自己責任論に陥りやすい考え)また、共通の社会的決定要因に規定されている。普遍主義的かつニーズ比例的分配政策が有効である。以上を説明できる科学的根拠があることをイデオロギー的にではなく、冷静に述べている所が味噌である。
SDHのよって立つところを網羅して理解する入門書として最適であるが、その理論的基盤を理解していくためにはアマルティア・センやロールズなども理解しておくと更に理解が進むだろう。
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健康格差 マイケル・マーモット著
不公平を正す科学的な議論
2017/10/28付日本経済新聞 朝刊
フランスの経済学者、トマ・ピケティ氏の『21世紀の資本』以来、「格差」を論じる著作が増えてきた。教育格差、雇用格差など各方面で格差問題への取り組みも始まっている。本書が取り扱うのは健康格差だが、著者が世界保健機関(WHO)の「健康の社会的決定要因委員会」委員長を務め、「社会的決定要因と健康格差に関する欧州報告」を取りまとめた責任者だけに発言には重みがある。
健康格差は単なる経済問題ではない。世紀の変わり目にWHOの「マクロ経済学と健康委員会」を率いた米国の経済学者、ジェフリー・サックス氏は、死に至る病気を減らすには世界的に大規模な投資が必要であり、健康の回復はさらなる経済成長につながるという結論に至った。これに対し著者は、結核、エイズ、マラリアなどの疫病対策が成長につながるという主張に理解を示しながらも、健康が強い経済という目的の手段になることには異議を唱えた。「間違いなく、目標として次元が高いのは健康と幸福であるべきだ。私たちが経済的・社会的環境の改善を望むのは、人々の健康と幸福を増進させるためだ」と。
著者が若い頃は、健康格差や不健康の社会的原因についての研究は少なかった。公衆衛生学から健康の社会的決定要因論の研究へと導かれた著者に理解を示したのが、経済学者・哲学者として高名なアマルティア・セン氏だったというのは示唆的だ。「社会階層と健康の関係」「不公平の原因としての権力、資金、資源の不公平」「雇用不安と健康」などの問題を取り上げると、保守派から「イデオロギー的だ」とか「社会民主主義だ」と批判されたという。
著者は、健康の不公平は社会民主主義者にとってだけの懸案事項ではなく、「政治的信条」ではなく「科学的根拠」に基づいた議論を深めるべきだと反論する。
「持続可能な発展」という言葉はいまでは陳腐になったが、本書全体を通じてひしひしと伝わるのは、それが「経済」「社会」「環境」のバランスを意味しており、健康の公平性にとっても不可欠だという著者の主張だろう。健康格差を医療の問題にとどめず、教育、雇用、貿易など各方面との関連を追究した優れた啓蒙書である。
原題=THE HEALTH GAP
(栗林寛幸監訳、日本評論社・2900円)
▼著者はロンドン大の疫学・公衆衛生学教授。2015~16年、世界医師会長。
《評》京都大学教授
根井 雅弘
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健康の社会的決定要因(SDH)、つまり「病気の原因の原因」。医療従事者、公衆衛生関係のみならず広く知られて、政策決定に生かされることを心から望みます。
訳本をたまたま見つけたので購入しましたが、英語でなんて書いてあるのかな?と思うところが度々あったのでいずれ英語でも読もうと思います。
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昨年の11月ごろに購入し、パラパラと読んでいる。WTP批判やマーモットの立場である比例的普遍主義のあたりが興味深い。サンデルにのっかって規範倫理の話をしているところはちょっと。解説はどうも頭に入ってこなかった。翻訳は読めるが、ちょっと気になるところがあるので結局原書もKindleで購入。
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【要約】
健康の社会的勾配は、国家間、国内の集団間、個人間で見られる。所得が上がると健康状態が上がるが、ある程度を超えると相関が薄くなる。健康は個人の責任だけでなく、社会的決定要因が大きい。
【印象的だったところ①】
世代継承にも触れられている。国の所得の不平等が大きいほど、世代間の社会的流動性が低くなり、貧しい親の子は貧しい子が多くなる。
【印象的だったところ②】
貧しい人は今を生きることに集中せざるを得ず、長期的なプランを立てることができない。そのため、長期的に見て健康へ悪影響を与えやすい。
【その他】
著者は世界医師会の元会長。SDHについてグローバルな視点を知りたい方にお勧め。
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☆信州大学附属図書館の所蔵はこちらです☆
https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB2429002X
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貧困の問題だけでなく、あらゆる階層にわたって健康の勾配が存在するという指摘から、社会経済的格差が急に自分ごとに思えて、ショックを感じた。
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【琉球大学附属図書館OPACリンク】
https://opac.lib.u-ryukyu.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB2429002X