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人類の歴史を、①地球全体に広がるまで②能力主義による競争から原爆投下まで③AIが人類にとって代わるまで(?)の三つに時代区分し、俯瞰的に語る。一方、その過程をすべて知悉している主人公は、そんなこと分かってるよそれよりあなたと付き合いたいんだよと騒々しい。
ミクロによるマクロな視点と、マクロによるミクロな視点が交差していて面白い。一周目、二周目、三周目。ルールがどんどん代わり、正しさが代わり物事はいつか反転する。それを知っている語り手の終盤の語りが良い、素敵な読後感が得られる小説。
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「私の恋人」というタイトルと前評判の良さでロマンティックな物語を期待しすぎていた。その結果、若干尻切れとんぼな印象を受けた。前評判がなかったら読後に受ける印象が変わっていたかもしれない。(評判云々で感受性が揺さぶれるのもどうかと思う。)
それでも、生まれ変わってもある人格の意識が引き継がれていくこと、その人格が思い続ける恋人の幻想、引き継がれた人格とは別に現世の人格もまた存在し、人格同士で葛藤が起こること、など設定が面白かった。この設定でこれからどう進んでいくかが知りたかったから尻切れとんぼだと思ったのかもしれない。
偶然にも、今日の新聞にスペインの洞窟にネアンデルタール人が残した壁画が見つかったという記事が載っていた。「彼ら」が本当にいて、今も同じ時代を生き、これからも生き続けているのかもしれない、と思ったら愛しいような、切ないような気持ちになった。
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又吉さんの『火花』を破って三島賞の栄冠に輝いただけのことはあって、とても面白かったです。しかしどこまでを書いていいのかが難しい作品でもあります。以下の拙文をお読みいただくよりも、まずはまっさらな状態で本書を読んでいただくのがいいかと。
一言でいうと直木賞を獲った『月の満ち欠け』と同じく生まれ変わりの恋物語なのですが、スケールの大きさが全然違います。あちらはせいぜい10数年間のみが舞台であるのに対し、本作はのスパンは10万年。最初は石器時代のクロマニョン人、二人目は戦時中ナチスに迫害されたユダヤ人、この二人が手にすることができなかった「私の恋人」を、現代日本に生きる主人公の井上由祐が手に入れることができるのか?というのが基本フォーマットとしてありつつ、並行して井上の意識下で10万年にわたる人類の興亡の歴史が重ねられていくといった凝った構成になっています。
コンピュータが人間を凌駕する、というネタ自体は映画『ターミネーター』を例に出すまでもなく割とありきたりで、その部分に関してはマイナスだったのですが、総じて革新的ないい作品だと思いました。いくら『火花』があったとはいえ、芥川賞にノミネートすらされなかったのには疑問が残ります。
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あるとき突如発生した「私」が洞窟で、あるいは収容所で夢想したある一人の女性像。
役割を持ち回るように生をリレーしてやってきた10万年後。
思考だけが存在し、主体も曖昧もこもこな俯瞰した語り口が
のんびりしていて経過する実感もどこか希薄な悠久の時間をイメージさせるのだ。
当の本人が存在する前から続く10万年の片思いはロマンチック通り越して笑っちゃう重さで
空前の「運命の人」感にシュールな可笑しみが。
「私」の超然っぷりや人類史の壮大なスケールを目の当たりにした後で改めて感じる、たった一人の一度きりの人生の無力さ。
しかし懸命に生きることでそれは少しは報われるかも。
そしてときに過去や未来すらも関係がなくなる一瞬があったりもする...。
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「ニムロッド」が面白かったので読んでみました。
物語の始まりはニムロッド同様読者を置き去りにしてずんずん行く感じがあるのですが滞りみたいのはなくそれが作者の追求する姿勢なんだなと思いました。一度後半でそれのすべてとりあえずの答えが出たあとにある「凪…」みたいな状態の文章が分かりやすくてわたしは好きかもしれません。
前半の途中はちょっと状況語りが多く会話やエピソードが欲しくなったりもしましたが後半はそういうのもあり良かったです。わたしは読書初心者の方ですがなかなか難しいですね。
ニムロッドの方の「仮想通貨」という実際には存在しないモノというのが読後わたしはずっと気になっていて、他者、集団、相対的なもの絶対的なもの、など色々とその思想の源流にあるものも書かれていたような気がします。いのちがループするという考えは独特で、ニムロッドとも繋がっているかもしれない。いまいろんなことが変わりつつある時代なんだ、というのは皆が感じていることで、その不安や希望の象徴ともいえるような「彼ら」の存在。それから、先端を選び続けるということ…などなど、あらたな概念が頻出してくるので考えるの好き哲学好きには刺激的でした。
しかし多分どちらも、二回以上読まないと理解出来ないと思う。
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久しぶりにこんな面白い小説に出会った……!と途中から心臓をバクバクさせながら読み進めて最後は泣いてしまったんだけれど、ここを覗いたら意外と賛否が分かれてて驚き……。
近年の物理の世界では時間というものは存在しないという説がそれなりに認められつつあるらしい。そう言われてみると、映画などの他のコンテンツでもいわゆるパラレルワールドなど時間の流れや空間を越境する話の流行を感じる。
この小説も10万年という時と3人の「私」を行ったり来たりする途方もなく大きなスケールの物語。でもシンプルな文章で展開されていくので非常に設定を飲み込みやすい。そしてストーリーテリングはもちろん、登場人物たちの思想、それがいわば一つの「哲学」然としていて読んでいて面白いし、「私の恋人」の複雑な人物像も理解しやすい。
何より、この物語はもちろんSF、一方で確実にラブストーリー。己の運命に翻弄されながらも「私の恋人」の為に3人目の「私」井上由祐はその運命を必死にすり合わせていく。そして最後は彼女が部屋のドアを叩く。号泣でしょ……。
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「時間」と「空間」について著者独特の世界観が広がっている。「私の恋人」という甘やかなタイトルからは想像もつかないへんてこりんな世界であった。大好き!
前世や来世の記憶を持つ主人公が、前々世の頃から思い描いていた理想の恋人と出会って狂おしいまでに心を揺さぶられる話。井上由祐もたいがいな人だけれど、高橋陽平もなかなかの人物で、実はこの人が主人公だよね?と思った。
うーん、面白い。二人の今後が気になってしょうがない。でもきっともう答えはそれまでに描かれていたのだと思う。
「来世から本気出そう」というセリフにグッときた。
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原子人の私は遠くの未来までをかなりの制度で予見し、それを壁画として残した。戦争中のドイツでユダヤ人だった私は、収容所の独房でひとりめの私の予見した未来を生きながら餓死させられた。そして三人目である日本人の井上由祐は前二人が超えられなかった34歳の壁を越えて、35歳になっていた。そして彼は、私たちの思い描いた理想の恋人にとても近い人物に出会う。
純粋な少女、苛烈な女、そして堕ちた女となる、私たちの、理想の恋人。
10万年の夢想は、彼女に出会って、はじめて片思いになる。
やさしい文章で、三人の時間、そして三人共有の時間を行ったり来たりしながら進む物語は、その構成も面白い。
自分たちの(正確には一人目の)思い描いた理想の女性を好きになる、というのが人間らしい。まだ出会ってもいなくて、出会っても最初はその人と気づかず、話をしていくうち思い描いた女性と同じだ!!これは絶対に(とくに二人目の妄執にも近い、信仰にまで発展してそうな)恋人にしなくては!!という思考の流れが、正直引いてしまう笑その人本人よりも、設定から好きを引っ張り込んでくるなんて、、、それって恋っていうの?恋に恋しているのと同じじゃない?そこにお年頃の欲望も絡み合って猛烈なアプローチを向けるのが何だかなあ、なんて思った。
でもとても面白かったので、他の作品も読みたい。
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三島由紀夫賞受賞作。
10万年に渡る時空を揺蕩うロードムービー。クロマニョン人も、ナチスも、AIも、高田馬場もすべて同一線上でなんの矛盾もなく並んでいる。
好きだー!
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前世の記憶も、朧げになりつつも前々世の記憶をも持ったまま生きている35歳の男の話。
題材がおもしろい。そして相変わらず読みづらくもあり、それもまたおもしろくは、あった。