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フェイスとミランダが同一人物であることが早々に明かされ、おっと交換殺人じゃあないんだ…と、予測つかない展開で、どんどん読まされる!でも、オチはこれかあ。あら、あの井戸って、自分ちのじゃなかったのねー。じゃあそもそも全然ナシじゃんか、「死体さえみつからなきゃ殺人事件にならない」ってやつは。ぶー。
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空港のバーで出会った男女が意気投合する。男はテッド。ネット・ビジネスの成功者で大金持ち。女はリリーといい、ウィンズロー大学の文書保管員。ビジネスクラスで隣り合った席に座るうち酒の酔いもあって、テッドは妻のミランダが出入り業者と浮気する現場を見てしまったことを打ち明ける。女はテッドの気持を確かめ、殺したいなら協力すると申し出る。行きずりの相手との単なるゲームと思おうとしたテッドだが、一週間後の再会を楽しみにしている自分に気がついていた。リリーに惹かれていたのだ。
どこかで見たような話だ、と思った。交換殺人を扱ったミステリの代表作で、ヒッチコック監督で映画にもなったパトリシア・ハイスミスの『見知らぬ乗客』である。本作は交換殺人ではないが、冒頭リリーの読んでいるのがハイスミスの『殺意の迷宮』であることといい、ハイスミスを意識しているのはまちがいない。自らの意志で殺人という犯罪を犯す犯人にいつの間にか肩入れしている自分を発見させられる点がハイスミスに似ているのだ。
三部構成で、第一部はテッドとリリー、第二部はリリーとミランダ、第三部はリリーとキンボールというふうに、視点人物が交代する。しかも、章が変わるたびに視点人物が入れ替わる映画でいうカット・バックの手法で進められてゆく。第一部では、テッドの視点でミランダ殺害計画を進める二人が互いに惹かれあうようになる経緯を、リリーの視点では少女時代から現在に至るまでのリリーの犯してきた罪の回想が語られる。事情があるとはいえ、リリーには人を殺した過去があった。それも計画的に、誰にも発見されることなしに。
このまま、二人の計画通りに事が進んでいくのか、と思いきや、第一部の終わりでなんとテッドが殺されてしまう。手を下したのはミランダの浮気相手ブラッドだ。一転、リリーは加害者の側から被害者の側に転落してしまう。被害者の死で利益を得るのは誰か? テッドが死んで一番喜ぶのは莫大な財産を相続することになる妻のミランダだ。帰納的に考えれば、そうなることを予め考えてミランダはブラッドに近づいたのでは、と誰でも気づく。テッドを愛しはじめていたリリーには、尚更そう思えた。
ここからリリーは探偵役となって事件を追うことになる。互いに殺人を考えていたという点で、リリーとミランダはライヴァルである。しかもそれだけではない。二人は同じ大学にいたとき、エリックという男を巡って微妙な関係にあった。大学を出てずいぶん経ってから、リリーはミランダに町でばったり出会い、婚約者のテッドを紹介されている。空港で会ったとき、リリーの方は気づいていたのに、テッドは忘れていたのだ。
宿命のライヴァルによる暗闘が始まる。どちらが相手を出し抜き、勝利を手に入れるか。ブラッドという男をどちらが味方につけ、犯罪を隠蔽、あるいは証明できるか、キンボールという刑事がその間に割り込んでくることによって、緊張が高まる。しかもキンボールはリリーに抗いがたい魅力を感じているようだ。詩人になり損ねた刑事は淫らな五行戯詩(リメリック)を書くのが習慣になっていた。これがうまく使われている。
要は二人の知恵比べだ。相手の先手を取ってどう動き、駒をどこに配置するか、チェスや将棋のような対戦型のゲームを観戦しているような気になる。三部を通して一貫して視点人物であるのはリリー一人だ。実際に人を殺しているのはリリーの方なのに、彼女の視点で語られる過去の物語を通して読者はリリーの側から事態を見るようになる。視点人物の気持ちは分かるが対象人物の気持ちは分からない。これは文芸学の基礎だ。直接的には手を下していないミランダが悪女役をふられているのだ。
まあ、たしかに悪女ではある。力や金を持つ男に近づき、自分のものにすることに生きがいを感じている。それが自分のステータスになるからだ。そして、一度手に入れてしまえば、すぐに対象に飽きて放り出したくなる。しかし、子どもと同じで他人がそれを手に入れると奪い返したくなる。エリックをめぐる三角関係はミランダのそういう性癖に起因している。
翻ってリリーはといえば、子どもの頃自分の猫を攻撃した猫を殺して以来、相手に生きる価値がないと思えば、それを殺すことを躊躇しない。この世界に存在しない方がいい相手だから、殺しても良心は痛まない。しかも、完璧な計画を立ててから実行するので、疑われることもない。一種のサイコパスであることはまちがいない。ただし、ふだんは化粧っ気もなく、地味な文書保管の仕事をしており、自分に関わらなければ殺人のスイッチは入らない。
タイプはちがうものの頭もきれて実行力もある美女二人の戦いを描いた犯罪小説。視点人物の立場が加害者、被害者の間を二転三転する構成が効果的で一気に読ませる。バーでギタリストが弾くのがストーンズの「ムーンライト・マイル」だったり、運転中に聴いているのがマイルスの「オン・グリーン・ドルフィン・ストリート」や「枯葉」だったり、音楽のチョイスもいい。原題は<The Kind Worth Killing>(殺すに値する種類の人々)。邦題とちがって、原題には犯人像が仄めかされている。こちらをとるという手はなかったのだろうか。
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第一部から第二部に移行したときの驚きというのは、多くの読者が語っているとおり、やはり私も驚いた。
その感覚はあの作品を読んだときと似た感じか。
そう「アレックス」だ。
しかし、本書は本当の意味でのミステリではないだろう。
サスペンスの形式をとった犯罪小説だ。
男2人+女2人が主な登場人物だ。
彼ら4人の裏切りにつぐ裏切りにハラハラさせられっぱなしだった。
正直、ある意味どうでもいい人間関係を、ここまで引きつけさせる作者の力量を感じた。
しかし、2018年の必読書などと言われると、それはないかも!と否定したくなるのは確かだ。
もっと他にも読むべき作品はありそうな気がする。
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シニカルでブラックで意外性に富んでいる──久々に良質のサスペンスを堪能した。
物語は、テッド、リリー、ミランダ、そしてもうひとりの視点から語られていく。三部構成で、それぞれの終盤に意外な出来事を用意して、様相の異なる次章へと場面を変える。
原題は「殺されてしかるべき者」。殺人の正当性を力強く主張するリリーは曲者で反社会的人格者なのだが、その歪みっぷりが逆に魅力的。隠れた素顔が明らかになる過去を経て、追い込まれる窮地にもひるまず、独特の嗅覚を持つ刑事との一騎打ちへと流れていくストーリーは先が読めず目が離せない。
「Aと思わせて実はBだった」というお約束の展開は、ストーリーが進むほどバリエーションが少なくなるが、それでもこの作者は斜め方向から切り込み、少しずつ読者の予想を裏切ってくる。通常は「起承転結」で落ち着くが、本作品は「起承転」で「結」がない。それでもステキに着地しているのだから、見事な構成というしかない。早く次作が読みたいなー。
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サイコパスな登場人物にも不思議と嫌悪感もなく、ページを追うごとに事件がどうなるのかハラハラしてくる。
視点が変わるごとに、どこで物語が終わるのか、特に後半は結末まで一気に読んだ。
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登場人物それぞれの語りでの進行なのですが、一人称視点ならではの立場の入れ替わりや認識の盲点を突いた展開はまさに予想外でした。
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リリー、テッド、ミランダ、ブラッド、キンボール。この4人がメインの登場人物。本作は犯罪小説なので、彼、彼女らがどのように犯罪(殺人事件)を実行するかが語られる。生々しくも淡々と犯罪の一部始終が描写される。それなりにページ数がある作品であるが、優秀なページターナーであるがゆえ、引き込まれ度は高い。そういえば、所謂犯罪小説は初めて読んだような気がする。登場人物のモノローグがメインの書き方や突拍子もない伏線のはりかたといい、読者を魅了する仕掛けが満載で、まったく中弛みがないまま最後まで読みきった。そうそう、空港やバーで美人に声をかけられたら注意しよう。殺されるかもしれないから。
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評判の一冊。だけれど苦手なやつ。
丁寧に書いてあって小さなことも蔑ろにしない、という印象。
一番書きたい感想はネタバラシになるので取りやめ。
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おもしろかった。ラストはなんとなく予想できたんだけど、そこに至るまで、いくつか仕掛けがあり、楽しんで読める。こういう犯罪ものって、なぜか犯人が逃げおおせるよう応援してしまうようになっていて、そこが人間心理の不思議なところだ。
映画化の話もあるようだが、確かに向いているかもしれない。ある一つのサプライズは映像化に工夫がいりそうだけど。
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本編421頁の文庫本に千円以上支払うのは冒険で、まして海外小説となると尚更だが、この巧妙に構築された物語にはそれだけの価値はあった。三部構成から成り、導入部である第一部は随分もたついた印象も受けたが、第二部から物語は急加速し、視点と時系列を絶妙にずらしながら進む。紹介文に嘘偽りなく、正に【追う者と追われる者】の心理的攻防戦が始まる。全く共感出来ない主人公だが、何とか逃げ果せてくれ…!と応援したくなるのはある種ダークヒーロー的爽快さを感じるからか。余談だが、食べ物の描写が多くて味覚的にも楽しめる作品だった。
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初読。特に記憶に残らない。
「その女アレックス」の下位互換的な。
刑事がせっかくキレ者っぽく出てきたのに、結局犯人が美人だから下心のストーキングを続けたら偶然刺されて捕まえられましたってところが繋がってなく残念だった。
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交換殺人の話かと思ったらそうではなく、自分のプライドを傷つけた、あるいは自分に不快な思いをさせた、そんな存在を次々と亡き者にしていくサイコパスの話だった。
潔癖過ぎる故に他人の夫婦事情にまで首を突っ込むのかと思ったら、なるほど、そういう繋がりだったかと、そこは面白かった。
ただ登場する人物たち、殺す者も殺される者も、皆が皆自分のことしか考えていないので感情移入も共感もせず、最終的にこのサイコパスが破滅しようが上手く逃げ切りようがどうでも良かったのだが、どんな結末を迎えるのかなということは気になって読み進めた。
最終的にはよくある皮肉めいたオチなのだが、このような結末をサイコパスは全く考えていなかったのだろうか。いかに田舎とはいえ、このようなことが起こり得ることは一つの可能性として考えるべきで、『死体を完全に隠す』ためには、もっと上手いやり方があるんじゃないかと思ったりもする。
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人のスキャンダルは、みんな好きでしょう?
って感じで、ついつい読み進めてしまう。
どんどん転がっていくリリーだけど、
もうひとりの欲のある刑事も参加してきて…。
かなり読みやすかったです。
心の描写で文字が詰まっていても、ダレない。
原文?翻訳の巧さなのでしょう。
リリー以外は欲に動かされてる。
魅力的なキャラだし、ダークヒーローになったらいいかも。
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評判がいい理由がわかる。読者を騙す、驚かすことに特化して、エンタメ性にも長けた作品だ。今年の海外作品でおすすめといわれたら、薦めるべきミステリである。
映画的な犯罪小説。サスペンス。気軽に翻訳もの読みたい方はぜひとも。
空港のバーで離陸までの時間をつぶしていたテッドは、見知らぬ美女リリーに出会う。彼は酔った勢いで、妻のミランダの浮気を知ったことを話し「妻を殺したい」と言ってしまう。リリーはミランダは殺されて当然だと断言し、協力を申し出る。だがふたりの殺人計画が具体化され決行の日が近づいたとき、予想外の事件が起こり……。男女4人のモノローグで、殺す者と殺される者、追う者と追われる者の策略と攻防を描く傑作ミステリ!
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題名からして最高。
三部構成で、その章ごとに登場人物の視点で物語られる。
その展開にずるずると引き込まれる。
やはり魅力的(?)なリリーが、なんとも言えない。
原題は“The Kind Worth Killing”(「殺されてしかるべき者」)。
その信念と行動たるや…。
物語の導入部や、途中の複線。そして、最後の結末。
やはり、「あの人」が鍵を握る人になるとは。
描かれない物語のその後が、どうなったのか想像する。
個人的には、原題の“The Kind Worth Killing”(「殺されてしかるべき者」)よりも、この『そしてミランダを殺す』の方が、すごくピッタリきた。
だって「そして」だから。