紙の本
みなさんは、法律とか人権とかデモクラシーとか、なんのためにあるのだと思いますか? 中高生と語り合った5日間の記録。法学部以外の方にも広くおすすめする一冊です。
2018/07/30 11:54
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぴんさん - この投稿者のレビュー一覧を見る
著書『ローマ法案内』(勁草書房)が、「ローマ法案内というよりは優れた木庭案内だ」と評されるほどの独自性溢れる木庭顕先生。そんな木庭先生が桐蔭学園の中高生のために行った授業から生まれたのが、この『誰のために法は生まれた』(朝日出版社)。法学に詳しくない我々への導きとして優れています。古典作品を深く読み解くことで、すべてを貫く原理を取り出す。どんな問題を考える時にも必要な感じと、想像を生み出す5日間。
紙の本
とっつきやすい素材から
2019/05/22 07:26
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ただの人間 - この投稿者のレビュー一覧を見る
映画等が素材になっているので、この著者の本の中では、徒党とその解体というもっとも問題としている状況のイメージをつかみやすいように思われる。アンティゴネーと自衛官合祀事件の驚く程の相似には目を見張った
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映画、喜劇を素材にして、タイトル通り法とは誰のために生まれたのか思考する試み。教養とは、こういうことだよと教えてくれる。自分が無知だということに改めて気づかされる。
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法学部時代を懐しみながら読み進めた。学部入学時に読み、学部卒業時に再読することで自身の学びを振り返ることができるだろう。
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いきなりおさん茂右衛門の人情話を軸に説明が始まりびっくりした。
この辺りは学生時代に専攻した分野だったので。
ただ、当時は法学については全くの門外漢で、人の気持ちについては検討したけれど、デモクラシーへの意識は向かなかった。
今の立場の私には、とても興味深くおもしろい。
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「紀伊國屋じんぶん大賞2019」第2位
◆ https://www.kinokuniya.co.jp/c/company/pressrelease/20181226120002.html
◆ https://hon.booklog.jp/news/kinojinbun-20181226
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20190105 基本的人権とはという教科書的な解説ではなくて、そこにたどり着くために古典を元に考えさせる構成。出来上がった本を読むのも良いが講義に参加しているつもりで考える事。この本をきっかけに考える人が増えて来たら政治も変わって行く予感がする。
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筆者の問題意識は、いまの日本の「法」がその本来の目的を果たしていないということにある。その本来の目的(だれのために法は生まれた)というのは、ワルイ「徒党」を解体して追い詰められた個人を守ること。
今まで「法」をそういう見方で見たことなかったから新鮮だった。どちらかというと社会の秩序を守るためにあるもんだと考えてた。だから法に正しいとか正しくないとかはなくて、その社会によって正しい正しくないは決まるんだと思ってた。
でも本書が呈示するような見方で法をとらえると、正しい法と正しくない法というのがわりと明確に線引きできるような気がする。絶対にブロックせねばならないもの(体、精神の自由)を守れる法は正しい。でもでも、そのブロックせねばならないものというのが時代や文化によってまちまちなんだよな。そうすると正しい法は何なのか、という問題は何を守るのが正しいのか、という問題になってくる。
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諸富徹氏が新聞で、中高生向けに行われた講義をまとめたものの一冊として紹介していて、気をひかれたのだけど、読むかどうかちょっと迷った。というのも、同時にヒット作としてあげられていた「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」を以前読んだとき、すごく苦労したからだ。もちろん、非常に考えさせられる内容で、知的な刺激に満ちていたのだが、それだけに咀嚼するのが大変で、生徒さんたち(かの栄光学園)の賢さに降参という思いだったのだ。またあんなのだったらツライなあと、腰がひけてしまう。
結論から言うと、確かにこれも難しいが、それ以上におもしろかった!何と言っても導入がうまい。溝口健二監督「近松物語」をみんなで観てから、それを取っ掛かりにしていろいろ考えていくというスタイルで、木庭先生と生徒のやり取りで講義は進んでいく。生徒さん(桐蔭学園)が賢いのは言うまでもないけど、いたって自然な感じの受け答えをしていて、そこがとても良かった。
「近松物語」を私は知らなかったが、木庭先生の解説一つ一つに「なるほどなあ」と感心してしまった。「グルになって力を行使する側に、個人はいかに立ち向かうか」というテーマがここで提示されている。力の理不尽な行使によって、最も傷つけられ虐げられるのは(若い)女性と子どもであり、そこを描いた作品を読み解くことによって「法」「政治」を考えていこうとするのだ。
四回目までの講義は、そうした作品をまず観たり読んだりしてから行われる。第二回のイタリア映画「自転車泥棒」は、昔観たとき、主人公親子があまりにもかわいそうで「二度と観たくない」と思ったほどだったが、指摘されてみると、確かにこれも「近松物語」と通じるものをはらんでいる。
第三回第四回は、なんとローマ喜劇とギリシャ悲劇の台本を読んでから、というもの。ここは正直難しくて、読むのに時間がかかった。前置きなしに「法」「政治」という言葉か使われるので、意味するところをなかなかつかめない。しかし、こここそがこの一連の講義の主眼。本質的なことを鋭くとらえていく生徒さんたちの若く柔軟な頭脳がうらやましい。
第四回はギリシャ悲劇が題材だが、ここでの講義には、うーんと唸る箇所が随所にあった。「デモクラシーはギリシャで生まれた」という受験的知識がどれほど空疎なものだったか、ほとんど愕然としてしまった。権力の横暴を許さないためにあるはずの民主主義が、かえって個人を抑圧するという逆説は、民主主義が制度疲労をおこしてきた現代の問題だと思っていたが、すでにギリシャの人たちはその病理に自覚的だったというのだ。この問題をどうクリアしていくか、それこそが民主主義の要諦であると。
「まずかけがえのないもの(主に身体と精神)を侵害されている人を、暴力からブロックする。これはアプリオリなもので、どちらが正しいかを決める必要はない」
遙か昔、こうした知見にたどり着いていた人たちがいたとは。一体自分は何を学んできたのかとわが身を振り返ってしまう。「多数決で決めたから」「選挙に勝ったから」正当であるという粗雑な論理がまかり通ることに、無力感を感じずにはいられないが、「そ���でもやっぱりおかしいよ」と言い続けなければと思う。
第五回は、実際の最高裁の判例。現在のあり方が、「最も弱いもの、虐げられたものを守る」という法の精神からいかに遠いか、情けないほどよくわかる。
全体を通して、対話形式なので読みやすいが、決して中高生向けにかみ砕いた内容なんかじゃない。生徒の一人が、講義の感想として「教養になるかなぐらいの気持ちで参加したけど、教養どころじゃなくて、自分の価値観とか、ぜんぜん、すごい変わる授業だった」と言っていた。本気の学者の迫力は通じるということだろう。
むむ、と思った箇所の覚書。
・政治は集団のゴタゴタした利益交換を払拭するためのものだったはずなのに、利益志向に固執して他のことをまったく考えなくなっている。敵味方思考は究極の集団思考だ。その集団への帰属原理のうち、最も強力なのは血と土、血縁とテリトリーだ。
集団を排除する正しい政治的決定に対してさえ例えば人権のためにノーを突きつけるのがデモクラシー。そのノーを突きつけるとき、土地に貼りついて連帯し、有力者の子分が入り込んできてかき回すのを排除するために、メンバーを血縁とテリトリーで閉鎖する。団結して自由を守るためだ。しかしこれが政治を駆り立てて、敵味方思考を経て、むしろ民衆が戦争に向かわせる。利益志向と並ぶデモクラシーの病理だ。
・デモクラシーの精神というのは、単に厳密な議論で物事を決定するというだけでは足りない。その前に厳密に調査してデータを取ったり、データの信憑性を吟味したりとか、二重三重に厳密にする。だからここから歴史学や哲学が生まれる。
デモクラシー万歳で安住するようなのはデモクラシーではないということです。デモクラシー自身について徹底的な病理分析の手を緩めない。これがデモクラシー。
・ポイントがいくつかある。第一に連帯が大事だということになります。しかし第二に、やたらと肩を組んで、その辺の飲み屋さんで演歌かなにか唄っちゃう、とかいうのは、連帯でもなんでもない。なにせ、グルと正反対でないといけないのだから。大事なことは完璧に一人ひとりが削ぎ落とされて、孤立して、一人になっている、ということだ。ほとんど追い詰められていると言ってもいい。だけど人間は、よくよく見てみると、それぞれは孤独な一人だ。そうなって初めて本当の連帯が可能になる。
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近松の古典やギリシャ・ローマの古典、そして実際の判例を取り上げて、中学・高校生と一緒に法とは何か、自由とは何かを考える。徒党(グル)と個人。この対立で徒党を解体して徹底的に個人に肩入れすることが「本来」の法であるという。「占有」という概念が出てくる。二人の人が一つの物にかかわって争っている時に、高い質で持っている方を勝ちとする。その人に占有があるという。それを破る者を失格とする。法の体系の核にこの「占有」という原理がある。最後まで読んでいくと、日本の社会にはこの占有という原理が弱いことが分かる。最高裁の判例でも「占有保持請求本訴ならびに建物収去土地明渡請求反訴事件」で占有をしている方が負けている。現実はなかなか難しい。でもそんな政治システムを形作るのも人間だから、吟味された古典を読んで深く考える人になろうということで終わっている。
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普段あまり意識することはないけれど,現代社会は法がなければ成り立ちません。本書では古典文学を切り口として法の生まれる理由を探ります。中高生への授業を元に書かれているので,初めて法について触れる方も入門書として読んでみてはいかがでしょうか。
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法はグルになっている集団を解体し、個人を助けるためのものである。しかし、個人主義は個人の利益至上主義につながり、それは結局利益を目的として徒党を組むことにつながってしまう。その徒党に抑圧し食い物にされる個人がいる。ここにジレンマがあるし、そのジレンマに自覚的でなくてはならない。
というのが概ねの理解。
映画や古典をこのように解読するというのも初めての経験で、とても面白く読めた。
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著者、朝日賞受賞!
じんぶん大賞1位!
朝日賞、そして紀伊國屋書店が運営・選出する人文賞を受賞!追いつめられた、たった一人を守るものとは?
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評価高いようですが、期待した程では無かったです。
1.この本を一言で表すと?
古典を題材にして、中高生と法を語り合いながら法を理解していく講義内容をまとめた本。
2.よかった点を3~5つ
・法はどちらの側にある?(p62)
→法律と言うのはグルになった集団を解体するっていうのが大事っていうことがわかった。
・占有原理(p119)
→占有と所有は違うと言うことがわかった。占有の質は何となく理解できたが、そのような考え自体あまり意識してこなかった。
・自衛隊らによる合祀手続の取消等請求事件(p340)
→判決の内容に驚き。現代の社会情勢の下で同じ裁判があれば違った判決が出るのではないだろうか?
・占有保持請求本訴並びに建物収去土地明渡請求反訴事件(p306)
→悪いことをしてもしても結局土地を登記したものが勝つと言う判例があることに驚いた。
・新鮮な知性に最高級のもの与えるべきであるというのが私の年来の考え(p396)
→全くその通りだと思う。私も子供に最高級のもの与えようと思う。
2.参考にならなかった所(つっこみ所)
・カシーナ、ルデンス、アンティゴネー、フィロクテーテス、は何がいいたいのか、法とどんな関係があるか分かりにくい。
・憲法9条とホッブス(p371)
→国際社会には警察も裁判所も無いので、国同士の争いに占有の概念を持ち出すのは無理があると思う。
・抑止力理論で双方とも破滅しそうになるか、一方が他方を征服する時、われわれは必ずそんな状態を精緻なシステムによって克服するだろうと言う理論です。(p376)
→曖昧な表現でよくわからない。精緻なシステムとは?
4.議論したいこと
・本書の中で言論の自由を絶対的なもの(p382)としているが、著者はヘイトスピーチをどのように考えているのか?
5.全体の感想・その他
・法を学ぶためのとっかかりの本としてはよいと思うが、法律論の全体像を掴むにはこれだけでは足りないと感じた。
・中高生向きの講義の内容をもとにしているので読みやすいと感じた。
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読書会にて。引き合いにだされる映画などの筋書きが難しくて本質的な議論に入ることが出来ず・・・。面白いのか面白くないのかを理解するまでに至らなかった。数年後チャレンジの本。