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<目次>
はじめに 「新素材」が歴史を動かす
第1章 人類史を駆動した黄金の輝き~金
第2章 一万年を生きた材料~陶磁器
第3章 動物が生み出した最高傑作~コラーゲン
第4章 文明を作った材料の王~鉄
第5章 文化を伝播するメディアの王者~紙(セルロース)
第6章 多彩な顔を持つ千両役者~炭酸カルシウム
第7章 帝国を紡ぎだした材料~絹(フィブロイン)
第8章 世界を縮めた物質~ゴム(ポリイソプレン)
第9章 イノベーションを加速させる材料~磁石
第10章 「軽い金属」の奇跡~アルミニウム
第11章 変幻自在の万能材料~プラスチック
第12章 無機世界の旗頭~シリコン
終章 AIが左右する「材料科学」競争のゆくえ
<内容>
佐藤健一郎の科学史のシリーズ。これは「材料化学」の世界。「素材」をクローズアップしたもの。周期律表の秘密(縦系列は性質が似ている)とか、地球には鉄よりもアルミのほうが多く存在している(それも倍近く)とか、雑学的な話も面白い。こうした物質が世界史を動かしていたことは、とても興味深いものだ。
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「炭素文明論」の続編。「WEBでも考えるひと」の連載を加筆修正したもの。12の材料を取り上げている。以下メモは鉄と絹。ほかにメディアの王・セルロース、球技と車を産んだゴム、材料科学の暗い未来・プラスチック、炭素の脳を上回るケイ素などが面白かった。
○鉄
材料としての鉄は決して扱いやすいわけではない。錆びやすく(金銀銅鉛につぐ16元素中8番目)、融点が1535度と高くて加工しにくい(融点950度の青銅のほうが先に発達)。ではなにが優れているかといえば、その量。地球表面に存在する元素の割合比(クラーク数)で酸素、ケイ素、アルミニウムに次ぐ4位。アルミニウムは酸素と強力に結びつき分離が難しい。しかも地球の核にまで範囲を広げれば重量比三割に及ぶ(鉄は重いのでほとんどが地中に沈んでわずかが表面に残った)。ではなぜ鉄はこんなに多いのか。これは核物理学で説明できる。引用しておく
■p68
我々の身体や、数々の物質を構成している、炭素や酸素、そして鉄などの元素はどこから来たのか。答えは星の中だ。太陽のような恒星の内部は1000万度以上の高温状態になっており、この強烈な熱のために原子核同士が融合して新たな元素ができる。我らが太陽では、最も小さな元素である水素同士が融合して、二番めに小さなヘリウムができている真っ最中だ。
もっと古く巨大な星では、重い元素同士が融合して、さらに重い元素が作られる。ただし、どこまでも重くなるわけではない。ある程度を超えると原子核が不安定化するので、ここで元素合成が止まるというラインが存在する。そのラインこそ、鉄に他ならない。陽子二六個、中性子三〇個が集まってできた鉄の原子核は、全ての原子核の中で最も安定なものの一つであり、これ以上小さくても大きくても不安定に向かう。これこそが、鉄が大量に存在している理由だ。
では、現在ある鉄よりも重い元素はどうやってできたのか。これは、巨大な恒星が最期の時を迎え、大爆発する「超新星爆発」の際にできたものーという説が、長く信じられてきた。しかし近年の研究では、中性子星と呼ばれる重い星が衝突合体する際に創り出され、放出されるという説が有力になっている。地球上にある金や銀、我々の体内にある亜鉛やヨウ素などの重元素たちは、みなこうしてできた「星のかけら」たちなのだ。しかしこれら重い元素たちも、いずれは分裂して鉄に落ち着いて行く。
現在の宇宙は、誕生してから約一三八億年といわれる。現段階では、全宇宙の元素の93パーセント以上が水素であり、二番目に多いヘリウムと合わせれば99.87パーセントを占める。しかし、これから数百億年という悠久の時の流れを経ていくにつれ、徐々に鉄の割合が増えていく。
■引用終わり
鉄の優れた面として他の金属と合金にすることでさらに優れた性質を発揮すること、磁石になりうることが挙げられる。合金で重要なのは鋼鉄。0,02ー2%の炭素を含んだ鉄のこと。古来より鉄鉱石を強熱で精錬し、海綿状の鉄を加工して刃物がつくられた。BC1500頃現れたヒッタイトが優れていたのは、この精錬の技術。大量の木材を必要としたため、森林を狩り尽くしてBC1190頃衰退した。一説には森林を求めて東進しタター���とよばれるようになり、製鉄技術が4,5世紀頃日本に伝わり「たたら製鉄」と呼ばれた。2015年にタタルスタン共和国が島根県に追跡調査に訪れた。
○絹
その手触り、丈夫さにおいて人気が高い。1万年前から人類にとって馴染み深い素材のひとつだ。
しかし絹の主成分フィブロインはタンパク質だ。タンパク質は本来腐敗しやすい。しかしフィブロインを構成するアミノ酸鎖がβシート、βターンと呼ばれる折りたたたみ方を多く含んでいるた、ほどけにくく細菌が出す消化酵素の攻撃に強いことが知られている。フィブロインは蚕の体内ではどろどろの液状だが、口から吐き出されるときに細く引き伸ばされ、、βシートなどに富んだ構造になる。さらに束になった絹糸は鋼鉄よりも切れにくい。
■117
蚕が吐き出したばかりの糸は、フィブロインのまわりをセリシンというタンパク質が覆っている。これは、糸伺士を貼り合わせ、繭の形を保つはたらきがある。繭から糸を巻き取る菰によく煮るのは、このセリシンを煮溶かして繭をほぐれやすくする作業だ。セリシンが除かれると、繊維の内部には無数の空隙が生じる。ここに湿気が入り込むために、絹は吸湿性に優れる。また、含まれた空気が熱を遮断するために保温性もよい。絹がしっかりと美しく染め上がるのは、内部の空間に染料が入り込むためだ。また、絹の繊維はフィブロインが三角形状の束になっており、これが光を屈折・反射させるために、美しい光沢を示す。単純なアミノ酸の組み合わせながら、絹糸は恐ろしくよくできた構造物なのだ。
■
昭和初期全畑面積の4分の1を桑畑が占めていた。
■P112
農家の屋内には、人間が寝るスペースさえ削って蚕棚が作られ、蚕が桑の葉をむさほり食う音が響き渡っていた。このため、養蚕は日本の民家の造りにも大きな影響を与えている。たとえば世界遺産となっている飛騨の合掌造りの独特の形状は、積雪に耐えつつ、蚕棚をなるべく多く設置できる三階·四階建てとして工夫されたものだ。
蚕は卵から解ってから繭を作るまで三〇日ほどかかるが、その間温度や湿度を管理しながら大事に育てられた。何しろ繭は高値で買い取られ、農家にとって貴重な収入源となる。「おかいこさま」と呼ぶほどに、彼らが蚕を慈しんで育てたのも当然のことであった。
蚕の幼虫の成長は、五齢に分けらる。。卵から孵ったばかりの幼虫は黒く、まばらな毛に覆れているが、やがて白い芋虫状に変わる。五齢期に入ると、約一週間大量の桑の葉を食べ、体重にして解化時の一万倍にも成長する。やがて体が金色に透き通ると、適当な隙間を求めて這い回り始める。よい場所を見つけると、幼虫は頭を8の字に振りながら、糸を吐いて繭を作る。一匹の蚕が吐き出す糸の長さは、最高一五〇○メートルにも及ぶ。
得られた繭は、工場で選別され、良質なものだけを湯で煮る。中の蛹を殺して、せっかくの繭を破って出てくるのを防ぐためと、糸同士を貼り付けている膠質を煮溶かしてほぐれやすくするためだ。繭の表面をほうきのような器具で軽くこすると、糸の端口が出てくる。これを巻き取っていくことで、生糸が生まれる。
生糸は、灰汁などのアルカリ分と共に煮ることで、真っ白く手触りのよい、我々の知る絹糸へと化ける。実に手間のかか���工程ではあるが、得られる絹糸の持つ艶と風合いは、他のどんな繊維の及ぶところではない。
■
絹は東西交易で貨幣のように流通し(シルクロード)、多くの国家から貨幣を流出させて文明の新陳代謝に関わってきた。日本で養蚕事業が脚光を浴びるのは明治時代。太平天国の乱1851−64による清の養蚕業への打撃、イタリア・フランスでの蚕の病気流行、などで日本の生糸輸出が伸びる。1872年フランスから技術者を呼び渋沢栄一が活躍して、繭の一大集積地だった富岡に製糸場をつくる。これが日本の基幹産業となり1922年総輸出額の48%を生糸が占める。蚕がもたらしのは材料産業としての側面だけではない。技術的な功績(動物学者外山亀太郎がはじめた交雑)、工場労働運動のきっかけ(女工哀歌)、蚕の生態変化(幼虫は自力で木の幹に掴まれず、成虫は空を飛べない)。その後ナイロン、ポリエステルなどに取って代わられて今に至る。富岡製糸場は2014年世界遺産登録され、桑畑の地図記号も2013年に廃止された。
一方現在テクノロジーとの融合が進んでいる。代表的なのはスパイダーシルク。
やはりタンパク質の糸を出すクモの糸の繊維の強度は防弾チョッキの三倍ともいわれる。しかしクモは作る糸が少なく、共食いもあって大量養殖が難しい。そこで蚕にクモの遺伝子を組み込み、絹糸の代わりにクモの糸を作らせる研究が進んでいる。これがスパイダーシルク。2016年中国でカーボンナノチューブやグラフェンを水に分散させて桑の葉に噴霧し、これを蚕に食べさせる実権を行った。結果できた絹糸が高い強度を示し高温処理すると電気を通すようになったとも。
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簡単過ぎず、難し過ぎず。
前著『炭素文明論』は「世界史×科学」の分野があることを指し示してくれた。日常に潜むSTEMに嫌気がさした時、自分が『炭素文明論』を読んだという事実を思い出すと幾分か心が落ち着く。
本書も例外ではなく、大当たり!
世界史上に見られる新素材12種を順番に追い、解説にも簡単と難解の落差が見られない。(つまり全編通して分かりやすい) メモ代わりにしたいところだが、ここに全12種は収まりきらんのでいつもながら数点ピックアップ…
金:貨幣から今やスマホにまで搭載されており、その輝きは「太陽の色に似ている」とは…思わず溜息が漏れた。
相対的に白金(プラチナ)が歴史上持て囃されなかった理由も明らかになる。(20世紀になってようやくカルティエが、貴金属として白金をジュエリーに採用したんだとか)
鉄:世界史の授業でもお馴染みのキングオブ金属。(ヒッタイト…取り敢えず懐かしい笑) 地球上に沢山存在するゆえに民衆も簡単に手にすることが出来たという鉄。それを更に強化した鋼や錆びなくしたステンレスに変えた叡智に改めて感服する。それで人類が繁栄すると早くに分かっていたら、何百年も錬金術に勤しむ必要なんてなかったろうに。(浅い見解…)
炭酸カルシウム:「千両役者」とは、これいかに⁉︎ なるほど、チョークにセメント…、果ては真珠まで⁉︎ セメントと同じ素材を使ったらそりゃ丈夫な貝殻が出来るよね…中身の真珠もそれとは、本当に何にでも化ける。。鮮やかに飛び六方を踏む役者を見送った後みたいに、章が終わっても呆然としていた。
シリコン:別名「ケイ素」。炭素とは兄弟元素…周期表の並びもテキトーではなかったか笑(思えば常識) 炭素と違って生物とは結びつけない分、材料として役に立ってくれている。シリコンバレー誕生秘話も何だか熱量を感じて面白かった。
メタマテリアル(超越物質):初耳…上手く活用できれば「透明マント」の開発も夢ではないらしい。
当時の段階では作り出せない未来の材料・製品を夢見た過去の人達みたいに、自分達も「メタマテリアル」の先にある透明マントを羨望しているのかも。
佐藤氏による「世界史×科学」は、今日もこうして一読者の中に夢ある反応を生み出したのでした。(つづく。つづける!)
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素材が拓く歴史があり、歴史を通じて接し方が変わる。
◯金:近年、無用の価値だけでなく、有用な価値も発見。
・細長く延ばすことができ、伝導性に優れているため半導体電極とチップをつなぐ配線に使用(スマートフォン1台に30mg使用)
・ナノ粒子は有害物質分解、プラスチック素材製造の触媒機能がある
◯陶磁器:ファインセラミックスは高強度・高耐熱により、スペースシャトルにも用いられる。
◯コラーゲン:三重らせんの長い繊維として存在する得意なタンパク質。
・再生医療に不可欠な材料
◯鉄:安く大量に生産される材料。他の金属と合金にすることでさらに優れた性質を発揮すること、磁石になるうること。
・錆びない鉄、ステンレス
◯紙(セルロース):
・ブドウ糖のセルロース、アミロースの配列の違い
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時代は一人の天才による発明や思想、戦争のような外圧などにより大きく変転する。イノベーションにより歴史が変わり、青銅器文明、鉄器文明など象徴的技術で時代を区切る。まさに、初期の世界史は、素材の歴史だったのだ。
雑学では無い、テーマ毎にきちんと整理された知識が学べる。初耳な事も多いし、確かにと合点する論拠も多い。一口に素材と言っても金属類だけでは無い。寒冷期を生き延びる為に毛皮が重要。毛皮はなめす必要があり、加工には唾液から、柿渋などのタンニンを用いるなど、ここでも技術の発展があった。死活問題として、毛皮を扱えた者だけが生存できたという超重要なターニングポイントでもあったのだ。
これだけではないが、もう一つ面白いなと思ったのは紙の話。これが東西の芸術作品の歴史にも影響したのだという。先に紙を使いこなした東洋では、書道や水墨画など紙を画材とする芸術が発展。ヨーロッパにおける紙の大量生産は木材からのパルプ製造法を発明を待つ必要があり、西洋の芸術は彫刻が重要な位置を占めた。
斯様に社会には技術との因果関係があり、それにより随分様相が異なってくる。現代で言えば、インターネットやスマホだろうか。スマホ以前とスマホ以降では、道でヒヤリとする頻度や電車の乗客の首の角度が違う。あらゆる情報が表に出されるせいで、検索に引っかからない店は無きものにされてしまう。これが続くとどういう世界を迎えていくのか。まさに時代の転換点にいるのかも知れないし、いつの時代もその過渡期だとも言えるかも知れない。
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金、鉄、紙、炭酸カルシウム、ゴム、磁石、アルミニウム、プラスチック、シリコンなど、人類の進化の歴史を変えた素材たちについての読み物。
それぞれの素材の歴史や人類に与えた影響を難しすぎない範囲とレベルでエピソード紹介してくれるので楽しく読める。
炭酸カルシウムに一見違和感があったが、セメント・肥料・石灰など幅広い活躍ぶり。ゴムタイヤの商業戦争のトピックがおもしろい。
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NDC501.4
「金、鉄、紙、プラスチック、シリコン……新素材が文明を動かす。「材料科学」の視点から、人類史を描き直すポピュラー・サイエンス。「材料科学」の視点で描く驚異のグローバル・ヒストリー! 金、鉄、紙、絹、陶磁器、コラーゲン、ゴム、プラスチック、アルミニウム、シリコン……「材料科学」の視点から、文明に革新を起こしてきた12の新素材の物語を描く。「鉄器時代」から「メタマテリアル時代」へと進化を遂げた人類を待ち受ける未来とは――ベストセラー『炭素文明論』に続く大興奮のポピュラー・サイエンス。」
目次
人類史を駆動した黄金の輝き―金
一万年を生きた材料―陶磁器
動物が生み出した最高傑作―コラーゲン
文明を作った材料の王―鉄
文化を伝播するメディアの王者―紙(セルロース)
多彩な顔を持つ千両役者―炭酸カルシウム
帝国を紡ぎ出した材料―絹(フィブロイン)
世界を縮めた物質―ゴム(ポリイソプレン)
イノベーションを加速させる材料―磁石
「軽い金属」の奇跡―アルミニウム
変幻自在の万能材料―プラスチック
無機世界の旗頭―シリコン
AIが左右する「材料科学」競争のゆくえ
著者等紹介
佐藤健太郎[サトウケンタロウ]
1970年、兵庫県生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。医薬品メーカーの研究職、東京大学大学院理学系研究科広報担当特任助教等を経て、現在はサイエンスライター。2010年、『医薬品クライシス』(新潮新書)で科学ジャーナリスト賞。2011年、化学コミュニケーション賞
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買ってからようやく読了
好きな著者のひとりで、特に化学について楽しく伝えてくれる。
今回は炭素文明論から有機・無機関わらず素材全般を取り上げた一冊。
歴史的な出来事や、現在まで生きる様々な事象を材料と結びつけ、色々な知識を得ることが出来る。
やや硬い表現も多く、言葉を調べながらとなったが、とても楽しめた。