紙の本
爽やかな後味
2019/10/04 15:24
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:hid - この投稿者のレビュー一覧を見る
虚実織り交ぜながらなんでしょうか、それとも事実のみに基づいて書かれたのでしょうか。
御一新後の生産戦争を舞台に、官軍側の一兵士となった青年の観点で描かれた物語。
爽やかな読後感でした。
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西南戦争というと、やはり西郷隆盛や大久保利通、あるいは抜刀隊を初めとするエピソードが圧倒的多数を占める中で「またも負けたか八連隊」という民謡で有名な大阪鎮台を舞台として西南戦争を描いている。
主人公の志方練一郎も、彼を取り巻く登場人物達も題名通りの「へぼ侍」である。武張ったエピソードは正直無い。
だが、この「へぼ侍」という言葉がいろいろな意味を含んでいる。
相手には腰抜けとして、自分達を揶揄して自嘲する為、そして「強かに生きる」為の言葉として。
戦場という土壇場をくぐりながら、武功を挙げようとする主人公が様々な歴史の偉人達と出会いながらも、最終的には敵方であったはずの西郷軍に対する敵愾心や憎しみを持てず、相手を理解しようとしていく姿は明治から大正、そして激動の昭和に至る中で生きていく上での原動力となり「へぼ侍」と揶揄され、自重しながらも強かに生き抜く為の信念になっていく。
大阪人の意地を教えて貰いました。
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松本清張賞受賞のデビュー作というのだが、文章もこなれているし、キャラクターは良く書けているし、実在の人物をうまく絡めているし、テンポよく読めるしで、何も言うことはない。
次回作も構想中とのことなので、楽しみだ。
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なんか最近の時代物は軽い感じがするのは私だけだろうか?申し訳ないが表紙の絵を見た時点でもう何となく軽い感じがした。読み始めて・・・やっぱりであった。幕末モノは好きではないのに、新聞の書評に負けて読んだ。もう書評に流されまいと固く誓った私であった。
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手塚治虫の曽祖父までさらっと登場してて面白かった。
維新後の西南戦争へ官軍として向かう青年士族。軽いと言えば軽いけど、人間臭さというか素直な青年の気持ちが描かれていて爽やか。
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タイトルで魅せられる。西南戦争を官軍側から語る小説は初めてだし。主人公の錬一郎が17歳とあまりに若く、「へぼ」という以前に世間知らずで未熟なのだ。それでも、薬問屋の丁稚奉公をよほど熱心に勤めたのか、天分を備えていたのか、随所で大坂商人としての才を発揮し、戦を切り抜ける。なにせ、一芸あれど兵としては「へぼ」なる年輩集団の長となり、彼らをどうにか率いてみせるのだから。戦いの緊迫感をもう少し望みたい気もするが、愉快に終始するのもありかな。ゆとり世代の著者だもんね。
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虚実入り乱れての西南戦争。官軍の下っ端兵士のあれこれを描くことで、少し違った視点で眺められ、興味深く読んだ。語り口は軽妙で面白いが、内容は深いものがあった。
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主人公は大阪で与力の跡取りとして生まれながら、家が明治維新で没落したため幼いころより商家に丁稚奉公に出された錬一郎。周囲の人間から「へぼ侍」と揶揄されても、士族の誇りを失わず棒きれを使って剣術の真似事などをして心身を鍛えていた。1877年、西南戦争が勃発すると官軍は元士族を「壮兵」として徴募、武功をたてれば仕官の道も開けると考えた錬一郎は意気込んでそれに参加する。しかし、彼を待っていたのは、料理の達人、元銀行員、博打好きの荒くれなど、賊軍出身者や異色の経歴の持ち主ばかりの落ちこぼれ部隊だった――。
【感想】
薩摩生まれなので、西南戦争を題材にした小説となれば読まずにはいられない。しかも26回松本清張賞受賞だったら尚更だ。
官軍側から書かれてあるが実際は「勝てば官軍、負ければ賊軍」の世界だった。「壮兵」には同郷の薩摩や、旧幕府方で戦った元武士ら。それに西南戦争最中に西郷が解散令を下した直後、壮兵に加わった者もいる。戦(たたかい)視点より、戦場となった熊本や宮崎の村民が官軍と西郷軍の板挟みに苦しみ被害を被ったことが紙面を割いていたように思えた。
本作は、そんな中で16歳の錬一郎が武の虚しさを知り次へと進む道を探していくビルドゥングスロマン(成長物語)だろう。
錬一郎は年上の30歳代の沢良木、三木、傭兵稼業の松岡らを統率する分隊長に指名される。錬一郎はひと回り上の彼らと共に九州の地を踏む。新政府ができ侍の時代が終わっても刀と威光を捨てられず武功を挙げようともがく彼らは、官軍と賊軍の名前は違っても同じ穴の狢に思える。糊口をしのぐために壮兵となる人たちもいた。
沢良木は料理人だった腕を生かし、畑に実る見慣れない九州の野菜を取り入れ隊員たちの食事を賄う。三木は隊の帳簿を任される。一方で兄貴分の気の良い松岡は結局戦い無くしては生きていけない。
一夜の西郷との邂逅エピソードが印象深かった。
自身の身分を隠して現れた西郷は錬一郎を見て「おはん、良か目をしちょっど」と云う。若い頃に竹馬の友と己の夢を追って、鹿児島から京都、大阪、江戸と駆けずり回ったと振り返る。「何事か為さん、何者かにならんと泳ぐようにとあがいていた」と若い記憶を思い出して焼酎を錬一郎に注ぐ。たぶん史実にはない挿話だろうが、本文に語られた西郷の心境を言い当てているように思えた。西郷さんに関する本を幾冊か読んで私も同じように推察していたから。
西南の役が終わると、錬一郎は道場を引き継がずに除隊し学問を目指す。進学資金の工面に西郷とのエピソードが関わっている。錬一郎が薬問屋で10年間丁稚奉公をしていたノウハウが生かされている。彼はなかなか商才に長けた人物だった。
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意外な、って言ったら失礼だけど、まったく期待してなかっただけに、あれ、面白いよこれ、ってなりました。幕末ものは苦手だけど、これは西南戦争のことが下手な歴史書よりもよくわかるのではないでしょうか。その実態のルポのような側面もありつつ、メインキャストたちのやり取りが楽しくも、辛くもある。正直最後は少し余談ぽかったけど、それにしてもオススメしたい作品でした。
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急遽徴兵された一般市民の視点から描く西南戦争。
バタバタした内幕が描かれて興味深い。
没落士族を主人公にしたのが良かったかな。
廻りを固める脇役も色とりどりで面白い。
西郷隆盛が主人公と絡むのがご愛敬。
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武家の出身ながら時代の変遷により薬問屋の丁稚奉公をしている志方錬一郎は、西南戦争で官軍に入ることを志願する。
本来なら軍に入る資格のない錬一郎は商人らしい手練手管で官軍に潜り込んだものの、軍歴などないのに小隊長に任命されて…。
周囲から『へぼ侍』とバカにされてきたのが悔しくて、本来の自分を取り戻すべく西南戦争に官軍として参戦する錬一郎。
しかし彼に試練を与えるかのように様々な事件が起こる。
小隊員の脱走、夜鷹との出会い、西郷札を巡る混乱、小隊員それぞれの事情、後に軍神と言われる乃木希典や当時記者だった犬養毅との出会い、密偵として宮崎を巡る旅、そして遂に…。
半年ほどの戦いが一介の兵士の視点で丁寧に描かれていた。
最初は地味に感じてなかなか物語に入り込めなかったが、時に有名人たちを登場させ、時に悲喜こもごもな事件を交え、青いだけだった錬一郎の変化を少しずつ感じて、段々と物語にも引き込まれていった。
実際、戦争とはこういう小さな存在が必死で足掻きながら、時に逃げながら展開していくものなのかも知れない。
薩摩軍側から描けば傲慢で強引で強大な官軍だが、官軍の内側もまた薩長が牛耳る世界だったり、薩摩軍もまた住民たちを蹂躙し、紙切れ同然の西郷札で騙したりとやりたい放題に見える。
そんな中で戦とは何なのか、剣や槍の時代とは違う、軍と軍が戦う戦争とは何なのか、勝つとは負けるとは何なのか、武士としての誉れや武士として生きるとは何なのかを錬一郎にこれでもかこれでもかと問いかけていく。
しかし戦争に毒されない錬一郎や、同じ小隊の沢良木や三木にホッとする。
こういうまともな思考や精神を戦争という異常世界で保つのは大変だと思う。
そして戦争後、錬一郎が下した新たな一歩も予想は出来るものの、嬉しかった。出来ればもう少しその後をきちんと読みたかった。
一方で生き方を選べなかった西郷にも改めて切ない思いが沸き上がる。
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期待以上に面白かった。幕末ものは個人的にはあまり興味がないのだが、官軍側を舞台に据えているものを初めて読んだ気がする。かつての賊軍側から集められた、一癖も二癖もあるおっさん部隊の分隊長にいきなり据えられる若者という設定は、会社あるある設定でもあり、そう思って読むと教訓となるエッセンスがそこかしこにちりばめられている。それぞれに専門領域を持つ年長者たちを権力でも知識でもなくアイデアと機転と率直さで徐々に認めさせていく様は痛快である。
戦いからパアスエイド(Persuade)へ。武人も公家も百姓も、世の中みんなが商人になるのかもしれない、という時代の変化の兆しをとらえきれず、戦いで暴れるしかメソッドを持たずコンフリクトを起こしていたどこか気のいい古兵は、戦場でこつぜんと姿を消し、平穏な世になっても消息不明という結末もクールでいい。
いまでいえば、役人も勤人も商人も職人も、世の中みんな芸人になるのかもしれない、といったところだろうか。
セコい大隊長との間に入り中間管理職として渋い味を出している上長の堀、けなげで可憐、ではないさっぱりした気性の夜鷹、そして幻だったかもしれない大西郷・・など人物がみんな魅力的。かつ、著者は歴史学者とのことでフィクションと史実との絡め方も丁寧だと思った。
それにしても面白いものである。脇役や風景は頭の中でイメージが浮かんでくるのに、17歳の聡明な軍服姿の剣達、だがしかし、シリアスなセリフも「でおま。」「わてほんまに~でんな。」とコッテコテの浪花商人ことばで語る主人公は、とうとう最後まで像を結べなかったのだ・・・。以前、役割語に関する本を読んだことがあるが、役割語が与えるステロタイプというのがいかに根深いものかと気づく。
P125 「なあ志方の。恐れを知って、手柄も上げ、そして生き残ったんだ。初陣にしては上々だ」
P271 誰も君のことを分隊長と認めていなかったところを、君は道理をもって説き伏せ、己の行動で自らを分隊長と認めさせたってね。
P310 わしはパアスエイドで戦うのや。これがへぼ侍の武士道や。
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大坂士族でありながら商家の丁稚奉公にならざるをえなかった「へぼ侍」青年が、一旗あげてお家再興目的で参戦した西南役での体験と見聞から大きく成長する痛快物語。本当に有り得たかもしれない同時代人との出会いを軸に、徴兵制を機に武士という職業が成立しなくなる環境変化を、商才と柔軟な思考力を新たな武器として犬養毅に感化されたであろう「persuade」を人生の拠り所としていく様を、メリハリのある明瞭な文体で活劇風に描いた秀作。「インビジブル」を先に読み、本作を読んで著者がただならぬ作家であることを確信しました。次回作も楽しみ。
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★きちんとした時代エンタメ★登場人物のキャラを立て、明治初期の匂いを伝え、誰でもが知る後の著名人の若かりしころとも絡ませる。エンタメの作法をしっかりと踏まえつつ、時代物をきちんと書けるのは強い。
時代にもまれた博打好きの荒くれ者の行方は分からないままなのは、ここだけ予定調和を外しているのがいい。「パアスエイド」と、賭ける未来をしっかりと示しているのが青春小説としても爽快感がある。
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このあとの作品では、ミステリーに進む作者。このまま、この方向でも良かったのではないか。新人とは思えないくらいに、話も人物も、自然に動いていた。
犬養や西郷どんといった実在の人物に。ややリアリティが欠けるかもしれないが。