投稿元:![ブクログ](//image.honto.jp/library/img/pc/logo_booklog.png)
レビューを見る
頑なまでのひとすじの道、愚か者だと笑いますか
かれこれ40年近く前になるのかな、年末時代劇「白虎隊」の挿入歌「愛しき日々」の歌詞が読了後に浮かんだ。
歴史は変えられない。武田が滅んだことは誰もが知っている。その武田の一武将として、運命を共にした主人公の短い生涯も悲劇には違いない。
でもこの清冽さはなんなんだ!
主人公は山県昌満。設楽ヶ原の戦い(長篠の合戦)で武田方の武将の父のもとで初陣を迎えるが、織田・徳川連合軍の前に総崩れ。撤退時に赤備え衆を率い、猛将として名を轟かせた父だけでなく、長兄までも失ってしまい、わずか14歳にして赤備え衆を率いる運命を背負わされてしまう。
失意と重圧により精神を病み、行く末を案じられる若者として物語の始めは描かれる。悩み苦しみ、殻に閉じこもる。
しかし、ある人との出会いをきっかけとして、赤備え衆の未来を託された若武者は自らの使命を自覚し、臥竜のごとく雄々しく立ち上がる。
若者が成長する姿は清々しい。そこには打算がない。見返りなど欲しない。父と兄から受け継いだ最強「赤備え」衆としての誇りしかない。
対して、若かりし頃は信玄の信頼も厚く猛将として活躍した穴山梅雪。信玄亡きあと頭領となった勝頼に従うのが癪に障るのか、家康と秘かに通じ、武田家を滅ぼすべく動き出す。まさに獅子身中の虫。
設楽ヶ原も梅雪が勝手に戦線離脱しなければ、あと一歩まで破壊した馬防柵を乗り越えて、武田が勝ち、父も兄も死なずに済んだかもしれない。そんな思いが昌満にはある。
そんな鬱憤があるとき弾け、あろうことか勝頼の御前で昌満は梅雪を詰った。半沢直樹か!ってくらい痛快に。
もうこのシーンで一気に心を奪われてしまった。
誠心の若者は強い。美しい。
赤備え衆は再び昌満のもとで団結し、戦国最強となる!
このあとストーリーはもっと面白くなる。
これがデビュー作って、この作者、凄いな。