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やっと読んだ。異邦人どまりのカミュ読者だとこんな文章の人だったっけと思うけど抑制を効かせつつ後半にかけて感情の昂まりが見事に表された筆致だった。閉鎖された街にはゲットーを思うし、バタバタ人が死んでいく状況を機械的に処理する毎日はナチス強制収容所から着想を得ているのだろう。
ペスト蔓延、毎日の医師の奮闘、友が斃れていく日々、無垢な子供の無意味な苦しみ、その極限状態の果てに見出したもの、得たものがただ「知識と経験」のみだったというのはあまりに不条理で、それを今後も受け入れていくのはまた一種の地獄かもしれない。知らなかった頃には戻れないのだ。
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異邦人が面白かったので。ちょっと趣が違うが中々面白かった。
それにしても最近の本はやはり段落が短くなったものだなと思わざるを得なかった。読者も著者も頭悪くなったんだろか
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「最も救いのない悪徳とは、自らすべてを知っていると信じ、そこで自ら人を殺す権利を認めるような無知の、悪徳にほかならぬものである。殺人者の魂は盲目なのであり、ありうるかぎりの明識なくしては、真の善良さも美しい愛も存在しない」
感情を抑制した語調。淡々としたオラン市での悲惨な災厄の描写。
外界との接触を遮断され、絶対的な力のなすがままに、可能性のない戦いを強いられた人々。
堅固な精神を持つ、医師リウーですら「際限なく続く敗北」と述べ、疲労と無感覚との中で終わりのない忍耐を続ける。
「ペストはすべての者から、恋愛と、さらに友情の能力さえも奪ってしまった。なぜなら愛は幾らかの未来を要求するものであり、しかもわれわれにとってはもはや刻々の瞬間しか存在しなかったからである」
背後にせまる恐怖、単調な毎日の繰り返しに、未来を描く能力を失わざるを得なかった人々は、放心した様相でよどんだ目を宙に泳がす。
人としての尊厳を脅かす、不条理と対面した時に示される、種々の人間の様相を、「神」「愛」「英雄主義」などの側面から描く長編。
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読了してすぐに物凄い小説を読んだという気分になりました。
前半は、まぁ、面白くもないんですよ。
実際、ペストというのは、人間にとって決して面白い物ではないですし。
(後から思えば懊悩や退屈や疲労が表現されていて、
それもまた誠実さという気はするんですけどね)
ただ、後半は圧巻でしたね。
登場人物同士の対話やそれぞれの変化が丁寧に描かれていて、
それがすごくいいんですよ。
誠実で丁寧で、著者の情熱が感じられる良い小説だと思います。
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最初に印象に残るのは、句読点を多用しながら思弁を紡いでいくその特異な文体。読点の多用は思考の逡巡を露わにし、逡巡しながらも先に進もうとする誠実さの表れか。突如発生したペストによって封鎖された街中で生活する人々の描かれ方は、ペストに限らず我々が不条理な世界でどのように生きていけばよいのかを指し示している。「心の平和を得るための方法は、あるね。共感することさ」痛みに対する共感、悲しみに対する共感。それは不条理に引き裂かれた世界に橋を架けようとする意志そのものであり、やがて喜びや誠実さに対する共感への轍となる。
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カミュはアルジェリア人で、フランスに渡り作家として成功した。
彼の中のアラブ人としてのアイデンティティーは、アルジェリア独立運動の最中、フランスとアルジェリアの間で揺れ動いていた。彼は「最初の人間」の中でその複雑な葛藤を描き、どちらの側にもつけないこと、そしてどちらの暴力にも反対することを述べていた。
私は2013年の6月28日から始まったエジプトでの、反ムルシデモおよびその後のクーデターに至る一連の出来事の中にいた。
その中でこの本を思い出し、レビューを少しだけ書きたくなった。
エジプトでの民衆の閉塞感の高まりを感じつつ、日本人である自分にとっては不条理とも呼べるデモや軍、警察の規制の中、カイロで過ごした。まさにペストで描かれるような閉塞的な状況であった。外国人や知り合いは軒並み国外に出ていき、交通量の大幅に減った市内を見渡し、なんとも言えない、どうにもできない不条理を感じた。
ペストではアルジェリアの街を舞台に、じわじわと進行していくペスト、誰もが逆らえないペストの死を通して、絶望感が広がっていく。
エジプトにおける状況も似たようなところがある、インフレによって値上がりする物価、頻発する停電、悪化する治安、その結果として観光客が激減し収入源が減っていく。
民主主義とは、そのプロセスが大事である。
選挙によって必ずしも、良い政権ができるとは限らない。
また、常に反対派や少数派とのコンセンサスを必要とする。
そしてすぐには変わらない。
エジプトにおけるクーデターの成功は、明らかに民主主義プロセスの後退であり、敗北である。
この「ペスト」においても、人々は「敗北」する。
そんな中、医師リウーは以下のように答える。
『しかし、あなたの勝利はつねに一時的なものですね。…』
『…それだからって、戦いをやめる理由にはなりません』
『…しかし、そうなると僕は考えてみたくなるんですがね、このペストがあなたにとってはたしてどういうものになるか』
『ええ、…際限なく続く敗北です』
彼はそういいながらも医師として人を救おうとし続ける。
その姿勢や行為にこそ価値があるのだと思う。
私は外国人であり、安易にエジプトにおける反体制派(反ムルシー)と大統領支持派(ムルシー支持派)の両者のどちらかにつけるわけではないが、暴力の応酬に対しては反対である。
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「神様のカルテ」の夏川草介さんの書いた記事に紹介されていて、興味を持ち、読み始めた。「ペストと戦う唯一の方法は、誠実さということなのです」と言う主人公の姿が印象的。
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簡潔にして美しい文章. 原文で読めたらもっとよかったんだろう. もう無理ではあるけど...
でも, 今更ながら自分もこういう文章が美しいと感じられるようになったんだな, と思うとうれしくなった.
ところで, 「神を信じる者」と「神を信じない者」が極限の中で見いだす答えが全く同じであることを描くことで, この作品は最も反キリスト教的であるとカミュは考えていたそうである. この辺りは自分の抱える疑問ともかなり相通じるところがある. もちろん, 自分自身については別に反キリスト教的だと思ってはいないが, 人生もそう短いものでもなさそうなので, ゆっくりと時間をかけて, そういった問題に対峙していきたい. 年を取ることでわかることもたくさんありそうな気がする.
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アルジェリア出身のフランス人作家カミュの代表作。アルジェリアの小さな街が突如としてペストに襲われ、瞬く間に数多くの市民が死んでゆく。そんな不条理に立ち向かう人間たちの物語。
「不条理」というのはカミュの主要なテーマなんだけど、この作品には不条理に対抗するものとして「連帯」が強調されている。必死にペストと闘う医師リウーを中心に、それぞれに事情を抱える人間たちが彼らなりの方法でペストに立ちむかってゆく。
けっこう長い話で、分かりにくいところもあるけど、なかなか読みごたえが
あるし、考えさせられる一冊。
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現在は何でも人間でコントロールできる、と思ってしまいがちだ。コントロール出来ない天災や不条理はあるということを、まず、受け入れるところから難しいような気がする。不条理を受け入れられずに、誰かを非難し続ける人、楽観主義で乗り切ろうとする人、あらゆる手段をとって抵抗し続ける人。不条理を受け入れて、祈り続ける人、チャンスとばかりに自分の利益となるように行動する人、犠牲者と共に在りひたすら職務を全うし続ける人。これまで、不条理がある時には、それを受け入れて、祈り、大きな力に身を任せ、流されることが、最善の対処法かもしれない、と私は考えていた。だが、私は、医師リウーの生き方に感銘をうけた。「ペストと戦う唯一の方法は、誠実さということです」「僕の場合には、つまり自分の職務を果すことだと心得ています」
ー 誠実さで戦うということ。
それは、不条理を受け入れた上で、犠牲者と共にいて、犠牲者にとって今、本当に必要なことを、ひたすら行い続けるということ。それも、戦い、なのだと。
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ペストに襲われた町。死を、特に悲惨な死を、身近に感ぜざるを得ない状態。
そこに置かれた人々を描くことによって、普遍的な「死」を考える。のかな。
はっきりとは言えないんだけど、2つのテーマが語られているような。
関係しているようでもあり。でもけっこう遠いような気もする2つ。
ひとつは、ここで描かれている死は病気によるもの。天災。
神の意志?「我々に与えられた罰です。試練です」教会は言う。
主人公の医師リウーは献身的に治療にあたるが、さしたることはできずどんどん死んでいく。
この「天災」がキーワード。
タルーという登場人物がいます。死刑反対運動に一生を捧げてきた。
彼曰く、自分自身が天災になるようなことがあったとしても、少なくとも自分でそれに同意はしない。罪なき殺害者たらん。
いつか原文で確認したいなあと思うんだけど、この訳で理解しようとすると、
ここで「自分自身が天災になる」とは、死刑によって人を殺すこと。反対はしていても実際死刑制度は続いている。そんな社会に生きている自分は天災。
リウーの独白。
悪はほとんど常に無知に由来する。
最も救いのない悪徳とは、自らすべて知っていると信じ、自ら人を殺す権利を認める無知。
2つ目のテーマのように読めるのが死刑反対。こっちが本筋なのか??
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7年ぶりに読んだ。ガツンとやられた。
作品のパワーに圧倒されてうまく言葉が出て来ないけど、人生で何回も読んでいきたい作品。人間のあらゆる側面が詰め込まれていて、中でも誠実さの力を絶対に信じているところに惹かれる。
大好き。
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西欧の、特にフランスの文学は「構築美」であるなと思う。加えて本作は、長編ながら一分の無駄もない文章が驚異的。さながら、鍛えられた競走馬の筋肉のよう。一文を書き出す上で、どれだけの言葉が捨てられたのだろうか。
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町がペストに侵されて行く様子、町がふたたび開かれるまでの人々の様子を緻密に淡々と綴られる文章は意外にも不思議と心地良く感じた。訳の古さはけっこう読みづらくもあったが、読み応えたっぷりの一冊だった。読んで良かった。素晴らしい傑作だと思う。異邦人よりも面白いかもしれない。
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この小説は、架空の話です。
アルジェリアのオラン市でペスト(黒死病)が流行した。その市内で超人的努力する医師「リウー」や牧師などいろんな個人が登場しますが、最初のうちはそれぞれの意見がぶつかり合いますが、それでも協力し合います。その結果ペストは終息しますが、これに関わった人物のその後が多少書かれています。