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エッセイの部類に入ると思うけど、「謎解き私小説」と銘打っているだけあって、本を読んで浮かんだ謎とその謎解きを巡る物語で面白かった。
「円紫さんと私」シリーズの「六の宮の姫君」や「太宰治の辞書」みたいな感じだ。
そもそも北村さんの小説はそういう、日常に潜む謎を解くのが特徴で、それが北村さん自身の話そのままという設定に変わっただけとも言えるかもしれない。
中に安藤対馬守信友というのが出てきて、吉宗の代に老中を務めたとあるから「大奥」に出てきたかな、と思ったけれど、出てませんでした(^_^;)(少なくとも主要登場人物では)。
この安藤信友、「雪の日や あれも人の子 樽拾い」という有名な(今ではそうでもないかと思うけど)句の作者、ということになっていて、でも実はそれは違うようだ、という話。
ググったら本当に安藤信友の句として知られまくってるんですな。ネット上でこうなら、この後も真相は広まらなさそう。
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北村薫さんの御著書は『空飛ぶ馬』の円紫さんシリーズ、『鷺と雪』のベッキーさんのシリーズ、『詩歌の待ち伏せ』『ミステリは万華鏡』『北村薫の創作理論講義』他を拝読、御本人の、創作理論講座なども拝聴させていただきましたが、「なんでこんなにご存知なの?」と思うほど博識な方です。
この本はその中でもかなりマニアックな文芸のエッセイ集で、話題が高級すぎるせいか私には正直よくわからないところもありました。
よむ/つき/ゆめ/ゆき/ことば/はな
の章にわかれていて、一番興味深かったのは「よむ」の詩のCDについてのお話。
詩の朗読をCDで聴かれるそうなのですが、いろいろなこだわりが興味深かったです。
萩原朔太郎の『天景』という詩に出てくる「四輪馬車」を何と読むか、読み手によって違うそうです。
<しりんばしゃ>と読むか<よりんばしゃ>か。
井川比佐志さんは<しりんばしゃ>と読まれ、岸田今日子さんと谷川俊太郎さんは<よりんばしゃ>と読んでいるそうで、正解は<よりんばしゃ>。
朔太郎の『遺伝』の例も。
「のをあある とをあある のをあある やわああ」
では読み手の個性がかなり出るとのことです。
文字とは不思議な楽譜だと結ばれています。
「つき」の芥川龍之介が『にんじん』の作者ジュール・ルナールに魅かれていたという話も初耳で面白かったです。
「ゆき」では太宰と清張が同い年という話題に触れられていて、この話はどこかで読んだ記憶もありますが、不思議な気がします。
太宰は文豪で、清張は現代作家というイメージがあります。
その他にも話は尽きないのですが、この本は私の文学史の知識では太刀打ちできない話も多く、星をひとつ減らしたのは自分が理解が届かない高級すぎる話があったためとご理解ください。
北村薫さんの本は図書館より買うことが多いのですが、フォロワーさんの方々のレビューを再度拝見したら、この作品より『ユーカリの木の陰で』を買えばよかったかなと思いました。
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この作者の文章とはどうもテンポが合わないようだ。組子式になっているせいか、どれが誰の行動なのかが一読で理解できないせいだろう。
時間と心に余裕があるときにじっくり読むべき本という感じ。
円紫さんシリーズは好きだったのに。自分のほうに忍耐力がなくなってきたのかも。
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謎解き私小説。さまざまな文学に関するちょっとした謎を突き詰めていく、しかし小説というよりはエッセイに近い気もします。こういうのを読むと、自分の知識の浅さが悔やまれますが。それでも国語の授業を受けているような気になって、楽しく読めました。
ミステリ好きとしてはやはり、「ゆめ」の章が一番興味深く読めました。「三十棺桶島」、たしかに禍々しい書名ですよねえ。それに惹かれて読みましたよポプラ社の全集。そして押し入れの中にうずくまる乱歩……いや、それは普通にあり得るだろうと思ってしまいました(笑)。
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この人の本は、“時と人”三部作と『鷺と雪』(直木賞受賞作だがシリーズもので、さっぱり良さがわからなかった)しか読んだことがないのに、なぜか衝動的に図書館で借りた本。本を巡るエッセイ集だが、なるほど私小説ともいえるか。古今東西の知識がてんこ盛りで、すごいなあとただただ感心してしまう。
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好きな人にはたまらない著者独特の世界。
「謎解き私小説」とあるが、創作が入っているということか。
読んだ感触はまるきり随筆なのだが。
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読んだ本の一文、あるいは翻訳の一語…ふと目に留まった著者にとっての違和感や不思議は、それを追うことによって深くなり広がっていく。乱歩、三島、芥川。同じものを同じように見ても、北村さんは私とは目のつけ方や思うところから違うのだろう。彼がひきつけられる人であり呼ばれたことがわかる人であることも良くわかる。紙袋3つに本を抱えているところなど微笑ましかったが、勿論どれだけたくさん本を持っていても、積読なんて一冊もないに違いない。彼と対等に渡りあう新潮社の編集者さんも凄い。どの謎解きも、オチも、とても面白かった。
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きっと書いている魅力の半分も理解できずに読んでいるかもしれない。
言葉遊びの軽妙さや奥深さもところどころ感じる。しかし根っこのことを理解していないだろうとも感じるもどかしさ。
版画のような装画・挿絵が味わい深い。
北村薫さんの小説ではない私小説は、もやもやとした読後感が残ってしまいました。
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人生初のサイン本。しかも大好きで大好きで仕方ない北村先生。
私が死んだら一緒に燃やしてほしい。天国に持っていきたい一冊になりました。
第一章の「よむ」が特に好きである。
曰く、同じものを読んでも違う感想になり、
それが「よむ」側の中に生まれる作品となる、と。
すなわち、我々も創作をしている!
読書好きにはなんとも嬉しい解釈だった。
「それぞれの位置から向かい、それぞれの収穫をする。それこそが、読むことの面白さだ。」
先生の博覧強記ぶりはものすごく、理系であり古文も現代文もとっていなかった私にはちんぷんかんぷんな箇所も多い。
けれど先生の物事の捉え方がとにかく好きなので、例えば送られてきたアジサイの写真。
そこに宇宙を見出す送り主と、それもまた「よむ」ことだととらえる先生。
「これを読んでそこと結びつけるんだ!」とか「ここにそういう感想を持たれるのか!」という視点に性善的というか、温かみを感じ、泣きたいくらいほっとして幸せな気持ちになるのです。
私は、この章を読んで金子みすゞさんの詩「蜂と神様」を思い出しました。
「さうして、さうして、神さまは、
小ちやな蜂のなかに。」
人の「よみ」の可能性は無限大だ。
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私小説=長いエッセイ?
いまいち、「私小説」の定義が分からなかったけれど、
さすが北村先生、
あいかわらずの博識、
独特の視点。
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私小説というよりエッセイ。博学な筆者が、ゆき、つき、はな等の言葉をテーマに徒然に記した時空を超えた思索の旅。
筆者の古今の文学に関する博識には感嘆する。ふと思い出した言葉や句について、探求する。新潮社の編集者や県立図書館などに聞きつつふとした疑問を探っていく。生産性が全くないところが逆に素晴らしい。読書、調べ物、古書の魅力を再認識できる。
なんとも不思議な魅力の一冊。
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年またぎの一冊。書き手にして当代一流の読み手でもある北村薫先生の、本に関する連作エッセイである。
一冊の本から別の本、作家へと、北村先生の連想は止めどなく広がり、読者をめくるめく本の世界へと誘ってくれる。まこと、本好きにとってはたまらない。そのうえ、先生の日常も垣間見え、ファン垂涎の一冊となっている。
本好きならば誰もが、思いがけない偶然で欲しかった本に巡り会えたり、現実世界と読みかけの本が不思議にリンクしていたりすることを経験しているだろう。北村薫の周辺では、そうした出会いが頻繁に起こっているようだ。でも本当は私たちが見落としているだけで、確かな目があれば、いくらでも出会いはあるのかも知れない。
もちろん、そこはミステリ作家の北村薫である。ただ本のおもしろさを伝えるエッセイでは終わらない。一つの誤植や記載内容をめぐる謎がいくつも提示され、それらを名探偵よろしく、北村先生が解き明かしていく。あっと思わせる謎解きは、ミステリファンも唸らせるに違いない。
ちなみに、パソコンを使われない先生は、安楽椅子探偵にはなれず、地道に図書館や版元に通い、原著にあたって調べておられる。先生は言う。「本は、単に情報を乗せる器ではない。手に取り、慈しむものだ」
そんな先生の想いが込められた本書の表紙は、おなじみ大野隆司さんの味わい深い版画。本書にも登場する谷崎潤一郎の『瘋癲老人日記』にインスパイアされたもので、紙質にも拘っているという。一冊で二度も三度も美味しいお得な一冊。
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本に纏わる調べ物に挑む著者の行動を克明に描写した面白いエッセイ集だ.シャーロックホームズの相棒であるワトソンのミドルネームHamishを辿った「よむ」.博覧強記の木村毅(き)の活動を記す「つき」、1000年前道長が見たのと同じ満月が出てくるの良い.平井隆太郎の足跡を書いた「ゆめ」.雪の日やあれも人の子樽拾いの句の背景を探る「ゆき」."何ひと"の語句の由来を突き止める「ことば」.中村真一郎を探る「はな」.どの話にもキーマンというべき素晴らしい人にめぐり合えているのは、著者のネットワークの広さと深さから来ているのだろう.
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私小説も北村さんの手にかかるとこうなるのか。新潮社へのよいしょエッセイでもある。
本を読むのが仕事になるっていいな。
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溺書家のふと思う疑問を追っていく話。新潮社の「波」掲載したもの。なかなか味わいある。こんな風に本の旅をしたいものだ。