紙の本
「国境なき医師団」の実像に迫るノンフィクション
2022/05/27 14:13
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投稿者:YK - この投稿者のレビュー一覧を見る
災害や紛争地で医療を提供する「国境なき医師団」という団体の名前は、報道でもよく耳にする名前です。しかしその団体がどのように運営され、現地ではどのような活動を行っているのかというのは、あまり詳しく紹介されて来なかったように思います。本書は2016年、2017年当時に国境なき医師団が活動していた地域で、取材許可が下りた4か所(ハイチ、ギリシャ、フィリピン、ウガンダ)について、現地スタッフへのインタビューを中心にその活動内容を紹介したものです。国境なき医師団という組織全体について述べるよりも、そこで活動しているスタッフの人たちはどのような考え、気持ちで活動しているのかという点に軸足を置いた内容です。
「なぜ、国境なき医師団に入ろうと思ったのか」との問いに対し、「国境なき医師団に入りたかったから看護師になった」と答えるスタッフが印象的でした。
欧米と日本ではこの様なNGOへの参加に対する考え方や、難民に対する理解やイメージが大きく異なることが述べられています。休職してNGOに参加しても復職が容易な欧米のNGOに対する寛容な社会背景(日本ではNGOに参加した後の復職が困難)、命の瀬戸際を潜り抜けて来た事に対する一種の敬意をスタッフが共有している様子など。そして国を追われる立場の難民に、もしかすると自分自身がいつそうなっても不思議ではないと考え、支援する相手が、”たまたま彼らであった自分自身”と捉えるなど、スタッフの方々の心根が伝わってきます。
内容としては今まで知り得なかった情報が紹介されていて、星4つをつけたいのですが、私がちょっと引っかかったのが本書を通じての文体です。基本的に著者の一人称が「俺」になっており、「俺は~感じた」、「俺には~と思えた」等々の書き方が私にはどうも読んでいて心地よくなかったです。著者のスタイルだと思いますし、このスタイルの方がスッと読めるという読者もおられると思いますが、私としては硬派な内容のノンフィクションだけに、その点はちょっと残念な気がしました。
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投稿者:七無齋 - この投稿者のレビュー一覧を見る
問題意識の向上にはあまり繋がらないが著者が体験したことが綴られている本。荒削りの文章のようだ。現場での出来事は垣間見ることはできる。
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国境なき医師団日本に寄付すること十数年。
彼らの活動内容や実態をもっと知りたいと思ってこの本を手にした。
日本で生活してると想像し難い、世界の現実をリポートしてあり、またそうした場で国境なき医師団日本がどんな活動をしているのかを知れる貴重な情報が所々綴られていた。
一方で、これは私の期待が大きすぎただけだったかもしれないが、著者が貴重な現場に何度も足を運ばせてもらってるにも関わらず、事前のリサーチ不足感、各国の理解度、医療制度などに関する知識不足感が終始見られ、読み進めながら苛立ちを感じてしまった。
あまりに無知な状態で現場に行き、呆れられてしまっていたり。全体的に体験談としても内容が薄く、どちらかというと旅行記のようなテイスト。
折角各国のスタッフより貴重な知識や体験談を聞いたであろうに、”親戚のおばさんから難しい話を聞いているようだった”など失礼極まりない発言が記されており、医師団の皆様のご好意を無下にしてる態度に憤りを感じた。
世界で何が起きてるのか全く知らない人が読むにはよいエントリー本かもしれないが、正直あまりおすすめできない。
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いとうせいこう(1961年~)氏は、早大法学部卒、ラッパー、タレント、小説家、作詞家等として幅広く活動するマルチ・クリエイター。『ボタニカル・ライフ 植物生活』で講談社エッセイ賞(1999年)、『想像ラジオ』で野間文芸新人賞(2013年)を受賞。近畿大学国際人文科学研究所客員教授。
著者は、2016年から、「国境なき医師団」の取材をライフワークの一つとしており、これまで、ハイチ、ギリシャ、フィリピン、ウガンダの現地取材を記した『「国境なき医師団」を見に行く』(2017年出版、2020年文庫化)、「国境なき医師団」の組織と日本人のメンバーへのインタビュー、及び前著の4ヶ国に南スーダンを加えた現地ルポをコンパクトにまとめた『「国境なき医師団」になろう!』(2019年出版)、パレスチナとヨルダンの現地取材を記した『ガザ、西岸地区、アンマン「国境なき医師団」を見に行く』(2021年出版)の3冊を出している。
私は従前より、国際紛争や内戦、難民問題、貧困問題等に強い関心を持っており、これまで、(フォト)ジャーナリストや専門家が書いた多数の本を読んできた。著者の本も、2冊目の『~なろう!』を既に読んでいるが、本書は偶々新古書店で目にして購入した。
本書の初出は、取材の度に「Yahoo!ニュース」に掲載(不定期)されたもので、その内容は、『~なろう!』の約半分を割いた現地ルポと少なからず重複する。
個人的には、現場の状況や問題の深刻さに比して、著者の取材時のスタンス・言動、及び本書における表現のノリの軽さが少々引っ掛かるのだが、こうした問題を、「Yahoo!ニュース」のような媒体を使って、普段あまり関心を持たない層に読んでもらうためには、それなりに有効なのかも知れない。
そのような中で、最も気に留まったのは、ギリシャで、中東から逃れてきた難民のためのキャンプを取材した件に出て来た、「たまたま彼らだった私」と「たまたま私だった彼ら」という言葉である。これは、今は、平和な先進国(日本を含む)に生まれた私と、紛争の絶えない国に生まれた彼らではあるのだが、これは正に「たまたま」なのであり、それが逆であってもおかしくなかったということである。そうした想像力を持てることこそが重要なのであり、持ちさえすれば、その瞬間に、我々の考え方も行動の仕方も変わらざるを得ないということだ。
世界の紛争地域・貧困地域で(主に医療に関わる視点から)どのようなことが起こっているのかを、まずは知りたいという向きにはお奨めの一冊かも知れない。
(2024年1月了)