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素敵な本ですが、ずっと3パターンくらいの展開と感覚が繰り返されている印象があり、どこから読んでも読まなくても差し支えない感じ
ラジオでいうなら三四郎のなかやまきんに君回
装丁が好き
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昔勤めていた会社の周り。高校のときの通学路。夏休みにいつも従姉妹たちに遊んでもらった父の実家。そんな思い出の場所から、本に出てくる地名やよく使う路線にあるのに一度も降りたことのない駅など、今まで縁遠かった場所まで。時に記憶のなかを彷徨いながら続いていく、〈小さな旅〉の記録。
一番はじめに置かれた「赤坂見附」。岸本さんが翻訳者になる前に勤めていた会社の周りを当時の自分の幽霊と一緒に歩いていくのだが、これが無性に泣ける。『気になる部分』などで語られていた岸本さんのOL時代のエピソードが蘇り、最後に本屋で辞書を手に取り翻訳者になるための一歩を踏み出した瞬間の岸本さんを今の岸本さんが見つめているという構図にグッときてしまった。
取り上げられている場所の1/3くらいが小田急沿線と横浜・横須賀方面なのでだいたいの感じがわかり、余計に感情移入してしまったのかもしれない。世代が違うし読んでる漫画も違うので、岸本さんが現在の景色のなかに重ね見ている記憶の風景を実際に知っているわけじゃないんだけど。過去の岸本さんのレイヤーの上に重ねられた今の岸本さんのレイヤーの、さらに上に自分のレイヤーをそっと重ねさせてもらっているような感覚。多摩川のボート屋のところで撮った幼少期の写真がいい写真なんだよな。
いつも通り岸本さんらしいユーモアで笑えるところもたくさんあるけれど、夕暮れのなかで色褪せたアルバムをぱたぱたとめくって目を伏せながら静かに語る声を聞いているような、懐かしくひっそりと寂しい空気が全体を包んでいる。特に父方の丹波篠山の家のお話と、実家の飼い猫がいなくなり亡骸で見つかったときのお話は、やわらかい場所に触れさせてもらっているような気持ちになった。いつも幽体離脱しているかのように生身の〈私〉から一歩引いて面白がりながら書いている岸本さんが、生身の手のぬくもりを教えてくれたような、今までと違う没入感のある一冊だった。
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人生も半ばを過ぎると失くしたものはたくさんある。身近な人が亡くなる。懐かしい場所が消えてしまう。かつて毎日くだらないことで笑いあっていた友達ともいつの間にか連絡をとらなくなり、どうしているかさえわからなくなる。自分の記憶さえ失われていく。
そういう寂しさは一つ一つはそんなに大きくないから、適当に心のどこかにしまっていたのに、この本を読むうちに、しまっていたところの蓋が開いて、中のものがどんどん出てきた。
たとえ同じ場所がほとんど変わらずにあったとしても、その時代の空気、その頃の自分は消えている。
海芝浦行きの電車に乗っていると、高度成長期のコマーシャルを次々に思い出すシーンは泣けた。
上海やバリの記憶も、バブルの頃の雰囲気と分かちがたく結びついている。
今までの岸本さんのエッセイとは雰囲気が違うけれど、私は岸本さんがもっと好きになった。
最後のは、小説だった。小説家岸本佐知子の短編集を読んでみたい。
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「ねにもつタイプ」とはまた違った印象。背筋がぞくっとするような話もあり、読み終わったあとはいい意味で爽快感がない。海芝浦の話がすきだな、失礼ながらここほんとにあるのか?とGoogleマップを開いてびっくりした。
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「なんだかサボテンに脳をやられている気がした。危なかった。」という一文に夜寝る前に笑う、みたいな夜寝る前に読み続けた本です。バリの話は寝る前怖くなりました。海芝浦の話は、私も偶然行ったところだったり、篠山も親戚の家の近くだったり、親近感持ちつつ、その時その場所での感じ方が読んでておもしろかった。とりあえず伊豆シャボテン公園とあの丘に私も猛烈に行きたい。
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著者が出かけていいて、見聞きしたことを書いたエッセイ。とはいえ出かける場所は海外もあるけど、近所だったりもする。自分の記憶に残る街を探索したり、長いこと行けず妄想をふくらませた未知の場所に訪れたりしていた。人の記憶と場所のつながりを感じさせた。終わりのほうはホラーっぽい。見聞きしたことを前半ずっと書いていると思っているので、そこに怖い現象がふっと書かれるとほんとに怖い。
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友人に勧められて読みました。エッセイと幻想小説の中間のような不思議なてざわり。最初はピンと来なかったのですが、途中からどんどんよくなりました。何がいいって、締めの一文がものすごくうまい。エッセイのよしあしってほとんど締めで決まるような気がしています。最後の一章は次のページがあると思いきやホラーで終わってしまって泣きそうになった(笑)。
―手すりにもたれて海を見ていると、ベルが鳴って電車のドアが閉まる音がした。背後で東芝の工場がぼおおっと太い汽笛を鳴らし、海芝浦のホームは私を乗せたまま、ゆっくりと海に向かって滑りだした。(54P)
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鬼がつくほどの出不精である翻訳家が、どこかに出かけて見たままを書いた連載記事を纏めたもの。
誰かに言及されることもなく忘れられていくであろう場所や記憶たちがつらつらと綴られていた。
酒合宿の会場である「三崎」の話と、筆者が心身の調子が悪かったときを過ごした「初台」、父の生家がある「丹波篠山」の話が、ノスタルジックでよかった。
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岸本さん。岸本さんなのだけれど、これまで読んだエッセイとは違って、コツンと硬いところがあり、ちょっと意外だったけれど、それがまた素晴らしい。せつないような、怖いような、岸本さんの文章でしか味わえない感覚。何度も読み返したくなる本だった。
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超がつくほどの、鬼がつくほどの出不精だと言う著者が、行った場所。
近くで思い出の詰まったところであったり、旅…
のような遠いところだったり。
全22篇にぎっしりと濃い思いが詰まっている。
確かに随分と前に行ったところだと、その時の自分の気持ちや想いまでもが、蘇ってくる。
特に子どもの頃だとその想いは、強く残っている。
夏のころの陽炎や蝉の声、砂埃、剥がれたトタン。
まるでタイムスリップしたように。
同世代だからこそ、共感できる思いもあった。
今日からGWスタート、合間に勤務日も2日あるがちょっと出かけてみたい気分だ。
とりあえずは、近くで。
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岸本佐知子さんのエッセイはいつも読むものをニマニマさせてくれる、どちらかといえば「おもしろ」に軸足があるイメージだった(そして、書かれていることは大抵家や脳内で起きていること)。
今作は近所から海外まで気になっていた場所に出向いたり、旅の思い出について書かれている点ではこれまでとは全く違うけれど、ただの旅行記や古い記憶の出来事についての本では全くなかった。
いくつかの章では読むうち、気づくと薄暗い靄の中で迷子になっているような、意識が遠くへ飛ばされるような、ちょっと怖くもある不思議な気持ちになってしまった。
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シュールさについていけなくなってしばらく岸本さんのエッセイから離れていたが読売の書評を見てからずっと気になっていた。P88この世に生きたすべての人の~その人の退場とともに失われてしまうということが、私には苦しくて仕方がない。というくだりに惹かれて手に入れた次第。全編に死の影をまとっているような雰囲気がある。読んでよかった。
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気の向くままに出かけた先々で出会う風景と脳裏をよぎる記憶の交差。とっても味わい深くてとってもおもしろい。この本かなり好き。
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妄想旅行エッセイ、と思ったら意外と実在する場所も
思い出の地、再訪という内容が多い、四ツ谷や初台、経堂、サラリーマン時代の赤坂見附
父親の墓がある丹波篠山
バリ島、上海、伊豆シャボテン動物公園
千葉県の鋸南町の日本寺で地獄覗き
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絶対に覗いてはいけないと言われた穴があったら覗いちゃう人、何があっても開けてはいけない扉を開けちゃう人、そういう人はぜひ読んでほしい。現実と虚構を織り交ぜながら著者が描く世界はその”冷たいところ”を描写し、私たちが生きる世の中にはふとしたところに闇があることを示す。もちろんそれができるのは翻訳で培った多彩な言語能力と鋭い観察眼からくる筆者の卓越した技量によるもの。”岸本ワールド”というのはそういうことだと思う。