紙の本
ロシアのウクライナ侵略以前に出版された書籍だが陳腐化していない
2022/07/19 15:06
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投稿者:巴里倫敦塔 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ロシアの軍事・安全保障の研究者が、軍事的にも経済的にも「弱いロシア」が体面と大国意識を保つために、どのような軍事戦略を採っているのかを分析した書。ロシアのウクライナ侵略以前(2021年5月)に出版された書籍だが、さほど陳腐化していない。ウクライナ侵略の現状を理解するのに役立つ指摘もあり、読み応えがある。著者の専門家としての眼は確かで、テレビに引っ張りだこになっている理由がよく分かる。ウクライナ侵略の背景を知る上で必読の書だろう。
筆者はロシアの軍事・安全保障戦略の中核を「ハイブリッド戦争」と位置づける。直接軍事力を行使するクラシカルな戦略だけではなく、非軍事的手段を組み合わせる。すなわち、サイバースペースでの攻撃、電磁波を用いた電子機器への攻撃、人の認識を操作し侵略を正当化する情報戦(プロパガンダ)を織り交ぜて、NATOや米国と対峙する訳だ。
一方の欧米(NATO)もハイブリッド戦争を前提に戦略を組み立てる。実際クライナの現状を見ると、クリミア占拠(2014年)とシリアへの軍事介入(2015年)におけるロシアのハイブリッド戦争を参考に、NATOや米国が対応している様子もうかがえる。
戦術核兵器使用に関する分析も注目に値する。いわゆる「エスカレーション抑止」である。限定的な核使用によって敵に「加減された被害」を与え、戦闘の停止を強要したり、域外国の参戦を思いとどまらせるというものである。
紙の本
ロシアの軍事力
2021/06/13 09:02
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投稿者:なつめ - この投稿者のレビュー一覧を見る
現代ロシアの軍事力について、いろいろな角度から分析されていて、よかったです。日本との関係も、興味深かったです。
紙の本
今読むべき本のひとつ
2022/05/28 14:45
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投稿者:ぷー - この投稿者のレビュー一覧を見る
サントリー学芸賞を受賞しているイズムィコ先生の新書。このタイミングで読まねばいつ読むのだ、と思って購入したが、しばらく寝かせてしまった。
自らを半ば卑下するようにも聞こえる「軍事オタク」と称するその文章は、確かに膨大な情報量をとめどなくアウトプットするオタク的要素も含みながらも、その構成はクリアで明快、読んでいて気持ちいい。著者の語り口そのもののように思える。
ウクライナ侵攻が始まって、早くも3ヶ月が経過した。その背景を手っ取り早く知ることができる良書。
電子書籍
現在のウクライナ戦争下のロシアの軍事思考を知ることが出来る。
2022/05/09 12:52
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投稿者:いけたろう - この投稿者のレビュー一覧を見る
どちらかと言うと、2022年5月9日においてはロシア軍の時代遅れさをとらえたものが多いが、この本を読めばその行動は納得出来る。
しかし、実際は概してそのようにならないことのオンパレードだ。
戦術核の使用をちらつかせながら恫喝する行動など、事前に決められた方針に則っており、追い詰められているという様には思えなくなった。
ただ、初期の軍事行動はまさにクリミア半島制圧通りの行動であった様に思われ、裏をかかれて失敗した様に思われる。
その失敗に鑑み、長期化はロシアの方針通りの行動だがいかにこれを挫折させるかが平和に至るプロセスなのだろうと思った。
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twitterでおなじみイズムィコ同士の本だからと数か月前に買ったのですが、読み始めた途端にプーチンが書いてある通りのことを始めるという、唖然とすることが起きました。
ロシアは他国より弱くなったことを前提にハイブリッドな戦い方を身に着けたようですが、同じような準備を日本はしているのか、気になるところです(準備をしても、先に攻撃を開始してはいかん)
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課って積んだまま読んだつもりでいたことに気づいて読み始めたのがウクライナ侵略開始後。ウクライナがなくなるのが咲か、読み終わるのが咲かと思っていたが、ウクライナが予想以上に善戦し、まだ健在である。(NATOからの情報・物資両面の援助があるとはいえ)
さて、本書であるがクリミア電撃占領二代表されるハイブリッド戦略その他のロシアの軍事戦略についての「先行研究」である。問題は、あれだけ大規模な演習を繰り返していたのに、なぜ、勧進能くらいな本格侵略ではウマ空位化なかったのかについてだが(そもそも、侵略側の将官が次々と敵弾に倒れていくとか21世紀とは思えない)、是非とも紺地戦争の「戦後」に、続編を小泉先生にはお願いしたい。
何が違ったのかと。
ウクライナの泥濘にはまったロシア軍の明日はどっちだ?(エスカレーション戦略をとる前に諦めてくれるとよいのだが…
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戦争とは人間同士の意思のせめぎ合い(マクマスター)
サントペテルブルグから150kmにNATOのエストニア国境
バルト海、黒海もNATO加盟国が半数以上
ロシア軍
ドローン2000機
電磁波妨害兵器
サイバー攻撃 兵士の私物スマホへ偽情報 真冬に電力会社へのマルウェア
行政機関やインフラの占領下、政治的に独立や併合が成立
NATO 360度同盟
領域防衛部隊WOT(ポーランド)
サイバー空間作戦指令センター(指令本部内)
欧州ハイブリッド脅威研究拠点(フィンランド)
ハイブリッド戦争
支持を人民から得る。紛争地域化し、勝たないように戦う。
プーチンの恐れるもの
原油価格停滞による経済停滞、西側経済制裁、新型コロナウイルス
シリア紛争への介入「限定行動戦略」
ローテク無誘導弾による空爆が主
GLONASSによる長距離巡航ミサイルや偵察衛星も
旧式爆弾+照準装置のみ最新鋭=ロシア式には精密攻撃
民間の犠牲の残虐性をメディア抑制で覆い隠す
航空宇宙軍指揮による現地統制+特殊作戦部隊+民間軍事会社
アルメニア・アゼルバイジャンの ナゴルノ・カラバフ紛争
ロシアが、脱出を図るアルメニアを支援せず、アゼルバイジャンも勢力圏としたい
トルコが味方に付くことを アゼルバイジャンが読む
停戦と同時にロシア軍が平和維持軍を派遣
NATOとの「第6世代」大規模戦争
PGMによる「非接触戦争」には技術的に不利、
大規模師団を解体、地上部隊の機動性で迎え撃つ +核兵器
インフラに依存する航空機や艦艇はPGMの標的になる
広大な戦域に分散隠蔽され動き回りながらNATOの中枢を打撃しうる長距離PGM
地域紛争や非合法武力勢力の背後に大国
中露
一枚岩の軍事同盟にはならない「協商」へ
ロシアの全面は欧州と中東、中国は台湾から南シナ海 関心領域は重ならない
対衛星攻撃
ロシアの宇宙劣勢
対衛星攻撃用ミよりも 通信妨害、偽電波 レーザー兵器 衛星スパイ衛星
光学式宇宙状況監視SSA タジキスタン
大気園内極超音速兵器
非核弾頭の破壊力の弱さを運動エネルギーでカバーするエスカレーション抑止
従来より低高度で飛行軌道を変化し迎撃されにくい
弱いロシアの大規模戦争戦略
物理空間からサイバー空間まで、核兵器からレーザー兵器まで、
あらゆる手段で敗北を回避しながら戦う
西側との対立=永続戦争
日本が西側にいる限り、安全保障、領土の歩み寄りは期待できない
権威主義的な中国とは同じ価値を認めあえる友好国
「西側の一員」としての立場を固め直す戦略
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著者のロシア製兵器へのオタク愛により、ありがちな兵器スペックと配備数のみでの軍事力比較が足元にも及ばない、意図と運用を踏まえた圧倒的な分析力、また東側からの視点による軍事戦略の解説により、西側から見ると理解不能なロシアの動きがドクトリンによるものであることなど、マスコミの解説がいかに表面的かも強烈に感じさせる内容。
この分析の延長線上には、【執筆時には起きていない】ウクライナ紛争も有り得ると確信させる分析。
情報資料の量的な面では及ばないが、小泉氏のロシア軍事戦略に対する分析力は、防衛省をも上回っているのではないかと。
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「軍事」とでも言えば、火器や車輛、艦船、航空機というようなモノを好む好事家が関心を向ける分野とか、平和に反するとか、何か「ネガティブなイメージ?」なのかもしれない。が、「“国益”を叶える」ということの「数多在る“手段”の一つ」という観方も在り得るのが「軍事」だ。巨大な戦力を誇ったソ連軍の後裔たるロシア軍や、ロシア軍を動かすロシアの政府ということに関して、近年の動向等を詳しく説く本書は非常に興味深い。
比較的近年の問題意識ということになると見受けられるが、「“国益”を叶える」ということの「数多在る“手段”の一つ」ということで「ハイブリッド戦争」というような概念が説かれている。「ハイブリッド」?これは正規の軍隊、非正規の戦力、その他の情報技術や宣伝や心理戦というような何らかの方策や、「可能な限りの様々なモノの混淆=ハイブリッド」によって「“国益”を叶える」というのが「ハイブリッド戦争」の概念だ。
この「ハイブリッド戦争」の概念というモノは、或いは「近年の“軍事”の要素も絡めたロシアの動向」を形容する手段として登場し、説かれて来た一面が在る。そういうような事柄について、近年の“事件”も題材にし、加えて“理論家”とされる軍の高官等が説いている事柄にも眼を向けて解説しているのが本書である。
「ハイブリッド戦争」の概念だが、如何に「平和!!」な国に住んでいるのであっても多分、「憶えておくべき…」なのかもしれない。所謂“サイバー戦”や“情報戦”というのが「ハイブリッド戦争」なるモノの大きな要素となるが、それを効果的に動かすためには、「精鋭部隊による実力行使」も在り得るのだ。実際、長くソ連軍は基幹的な将校や下士官は職業軍人が担って、兵員は徴兵で賄うような具合で大規模部隊を擁するような傾向を帯びていたが、近年は志願兵の職業軍人で賄うより小規模な部隊を各地に配して迅速に展開し、着実に目的を果たすことを目指す傾向になっているようだ。
「軍事」というのは「好事家が関心を向ける分野」ということに留めておいて構わない訳でもない筈だ。本書は「巨大の“ソ連軍”の後裔の今日?」という角度で「今日の“軍事”?」を考える切っ掛けを与えてくれる。広く御薦めしたい一冊だ。
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タイトル通り、現代ロシアの軍事戦略を解説した本。ソ連崩壊、西側への「戦略縦深」の喪失、兵力の劣勢、近代化の遅れ等、軍事バランスで劣勢にあるはずのロシアがなぜウクライナ、シリア等で成果を収めることができたのか、戦略の観点で考察されている。この理由として、近年注目されている「ハイブリッド戦」、「限定行動戦略」について言及されている。特に「限定行動戦略」について詳細に解説された本はなかなかないので大変参考になった。
ロシアは「ハイブリッド戦」を実施しているものの、それでもやっぱり1番重要なのは古典的な軍事力であると認識している点が大変興味深かった。
軍事戦略の本は、読むのが大変なものが多いのだが、本書の著者の文章は大変読みやすく、お気に入りである。
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国力的にはそれほどでもないロシアが、なぜ軍事的影響力を保持できているのか。
テロや国内騒乱の背後に西側の影を見て、小規模、あるいは地域的な武力紛争も国家間の大規模紛争に繋がりうるとの認識の下、軍事力を中心に据えつつも非軍事的な影響力も行使したハイブリッドな戦争を行う。そして、軍事力を、勝利のためではなく、特定の状況を作り出すために行使するところに、ロシアの軍事戦略の特徴がある。
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表題のとおり現代、すなわち冷戦後のロシアの軍事戦略の発展について具体的に論じている。
ロシアはとかく中国の影に隠れがちであり、その行動様式や考え方も中々理解が進まないなかで、本書はそのニッチな部分を分かりやすく読者に提示した本。巷間言われるようにロシア人の発想のほとんどが軍事/安全保障(残りが経済)とすれば、本書の内容がロシアの行動様式全般を基本的に解説していると言っても過言ではないと思う。
全体的に面白かったが、一番良かったのはハイブリッド戦についての考察。ゲラシモフ参謀総長の演説が良く引き合いに出されるが、その演説全体を見ても、近年のロシアの大演習を見てもハイブリッド戦は、全体を有利にするための味付けであって主眼はPGMを中心とした古典的軍事力にあるということ。
また、中東での限定行動戦略についても、戦力投射能力などの限界を踏まえた上で、ロシアがハイエンドの航空宇宙軍の能力と地上戦指揮官を派遣して、頭数はロシア式にトレーニングした現地部隊で戦わせるという方法も中々練られたものと思った。
最後に、日本は結局西側であり、中露分断は幻想、安保と経済・社会を分けて付き合うべしとの提言もその通りだと思う。
全般的に分かりやすくまとまって、ロシアの安保観、戦い方がよくわかる良書。
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いつか読もうと思っていたのだが、ロシアのウクライナ侵攻が起こったため、急遽前倒しで読むことに。
戦略縦深(内藤先生がバッファーと言っていた)という考え方や、ハイブリッドな戦争(あくまで軍事力が中心)など、今まで知らなかったロシアの軍事思想を知ることができた。
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ロシアによるウクライナの侵攻(2022年2月25日現在)を受けて改めて、ロシアが何をしたいのか、何を目指しているのかを知るために購入。ロシアのハイブリッド戦を含む戦争戦略が整理されていて、非常に勉強になった。2021年の出版だったが、本当に適切なタイミングな出版だったと思う。同著者による『「帝国」ロシアの地政学 「勢力圏」で読むユーラシア戦略』も改めて読み直したい。
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現時点で、ウクライナ危機や第二次ナゴルノ紛争以降に出た、これら最近の国際紛争の分析を含む数少ない新書だ。仕事が早くて驚くばかりである。ロシア・ウクライナ戦争が始まり、タイムリーということで手に取った。
ウクライナ危機の当時、「ハイブリッド戦争」という用語が多く用いられたのを記憶しているが、筆者はこれを「ハイブリッドな戦争」と呼ぶ。
ロシアでは非軍事手段の研究や実践化が盛んであるが、安全保障(非軍事的脅威に対するものを含む)の根底にあるものはクラウゼヴィッツ的な古典的戦争(軍事手段)であり、非軍事手段はそれを補うものとして位置づけられるということである。ウクライナやシリアの「成功」事例では、端的に言えば「結局最も効果あった・不可欠だった要素は軍事力だった」ということだ。
※個人的には、筆者も述べているが、ウクライナ危機を説明する上でしばしば用いられる呼称「ハイブリッド戦争」の定義が多様であるように思われる。宣戦布告をせず体裁上戦争という形を取らず他国に隠密に浸透していく・・・という特徴をもつ国際紛争について、そのように呼称する場合もあるのかなと思う。
筆者は、ロシアはNATO・中国に対し軍事劣勢であると述べる。特に、西側の非軍事的戦争手段(民主化運動など)に晒されており「永続戦争」状態であるという認識が強まっている。優勢な軍事力に対抗するために、軍事手段と非軍事手段を結び付けたうえ、防空、ミサイル、電子戦、情報戦、対宇宙、戦術核により敵戦力(非軍事含む)を妨害する構想であり、最終的にはエスカレーション抑止で戦闘停止・他国参戦停止を狙うという戦略であるという。