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電子書籍
ああドストエフスキーを読んだ、とまた思えて良い
2024/03/11 12:07
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投稿者:象太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
ドストエフスキーの長編小説群が「五大長編小説」という括りで呼ばれることがあるなんて、恥ずかしながらこの小説に出会って初めて知った。『罪と罰』『カラマーゾフの兄弟』は自分の読書経験の中でも最高峰に入り、『白痴』『悪霊』も非常に好きな作品だが、ほかに長編があるとは知らなかった。残り一つがこの『未成年』である。順番で言うと『未成年』に始まり『白痴』『悪霊』『未成年』『カラマーゾフの兄弟』となる。『悪霊』と『カラマーゾフの兄弟』の間の作品ということであれば、これを読まずに死ぬわけにいかない。しかも、こなれた日本語を操る亀山郁夫氏の翻訳である。
この作品は、世に「失敗作」と言われているらしい。しかし、読後感想を率直に言えば、非常に面白かった。他の四つの長編小説の登場人物を彷彿とさせるキャラクターが出てくる。例えば主人公は私には『罪と罰』のラスコーリニコフを感じさせる。若い時分に特有の妄想に近いような独自の社会正義感に基づき行動するからだ。主人公の父も、なぜか『カラマーゾフ』の父を思い出さずにはいられない。いつまでも青年の心を抱える知識人ではあるのだが、その行動を見れば無節操に母親の違う子どもを相次ぎつくるような過去を持つからだろう。さらにドストエフスキーらしいというべきか、当時の賭博場の場面が生き生きと描かれているのも感心した。
とにかく主人公が忙しい。朝起きて夜寝るまでに、いったい何軒の家を訪問するのだろうと思う。今なら路上でタクシーを拾う感覚で橇に乗って駆け回る。それを毎日繰り返す。訳者が解説するように、物語が複雑で一人称で語るという小説の形をとっているため、あちらこちらで起きている事件の節目に主人公が顔を出さないと、読者に話を紹介できないためだと思われる。
盗み聞きの場面も目立つ。高視聴率だったNHKの朝ドラ『あさが来た』(主演:波瑠)も、盗み聞きが多かった。制作担当者がその理由について何かの番組で「短い時間で話を進めなければならないから」というようなことを話していたのを思い出す。例えば、語り手がそこにいない話は、語り手が誰かから報告を受ける場面が必要となる。盗み聞きは、そうした報告の場面を省ける効果を持つ。
とにかく、みんなよくしゃべる。そして、くどいくらい言葉も豊かだ。各々の性格がぶっ壊れているのもいい。ああ、ロシア文学を読んだ、ドストエフスキーを読んだ、という気になる。先のドフトエフスキー「四大小説」を既に読んでいて、またこの読後感覚を再び味わいたいなと考えている人には、最後の贈り物となる作品なのだと思う。
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