紙の本
高齢者が元気いっぱいの児童書
2023/10/20 07:04
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
読書の普及の推進で文化の向上と社会の進展に寄与する目的で結成されたのが
「読書推進運動協議会」という組織で、
そこから成人の日に合わせて「若い人に贈る読書のすすめ」、
敬老の日に合わせて「敬老の日読書のすすめ」という
リーフレットが作成されている。
小さな冊子ながら、それでも24冊のおすすめ本が紹介されていて、
今年の「敬老の日読書のすすめ」の一冊に、
この村中李衣さんの『奉還町ラプソディ』がはいっていた。
挿絵を石川えりこさんが描いていて、シニア向けのおすすめ本ながら、
これはれっきとした児童文学なのだ。
岡山にひっこしてきた「ぼく」には、「奉還町商店街」でまんじゅう屋をしている
あつしという友達ができる。
この二人の小学生が主人公だが、
二人以上に活躍するのが「奉還町商店街」の老人たち。
そもそもこの商店街は、「大政奉還」の際に配られた奉還金でもとに始まった
歴史のあるところだが、
多くの店の主人たちはみな年をとっている。
商店街も寂れつつあるが、それでもみんなへこたれていない。
こわい顔をいた洋服屋のおじさんも、
年取った理髪店のいのうえさんも接骨院の先生も苗屋のおばさんも
みんな元気だ。
小学生の二人はそんな老人の元気にふりまわされる。
でも、そんなことを「ぼく」たちは嫌っていない。
むしろ、一緒に楽しんでいる。
そうやって読んでいくと、
この物語は児童書ではあるが、老人向けでもある
そんな贅沢なつくりになっている。
この本を読んだ子どもたちがおじいちゃんやおばあちゃんの笑顔を見たいと
言い出すかもしれない。
紙の本
からっとしていて読みやすい
2023/12/05 19:32
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:とりまる - この投稿者のレビュー一覧を見る
山口から母の仕事の都合で岡山に越してきた小学生のさとし。
家の近くにある奉還町商店街の人たちとの交流を描く。
特に困った問題が起こったりはせず、おばあちゃんの博多行きにつきそったり、散髪屋で髪を切ってぜんざいをごちそうになったりと平穏な日々が綴られていますが、さとしの友達のあつしの明るいキャラクターもあいまって読みやすいです。
主人公と友達のあつし以外の登場人物はお年寄りが多い印象。しかも皆濃い。
商店街の古株と新参者?の橋渡しをしてると言うあつしはえらい。ちょっぴり大人に見えました。
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★ええなぁ、こんな朝はええなぁ(p.64)
(一)古い商店街の古い人たちと少年たちのどこか懐かしいゆったりとした交流。そしてどことなくせつなくもあります。
(二)元は大政奉還のときにもらったお金で武士たちが始めた商店街だったようで武家の商法、偉そうだったり値引きなんてしなかったりというふうだったそうです。
(三)岡山市出身です。ぼくがいたのは半世紀前ですが奉還町といえばちょっと特別な感じです。「街に行く」といえば天満屋周辺から岡山駅周辺あたりに行くこと。その中に奉還町もあったわけで都会のイメージでいくらか高級感も。これは名称のせいかな? 今はマイナになっているのでしょうか。商店街そのものは実在のものがモデルでしょうが店や人は当然ながらフィクションでしょう。
■奉還町についての簡単なメモ■
【一行目】ぼくんちは、去年の秋に、山口県から岡山県に引っこしてきた。
【あつし】転校してきた「ぼく」に最初に声をかけてきて友人になった。奉還町商店街のまんじゅうやの息子。
【アルタンさん】商店街にいる外国人。なんらかの店を開いているのかもしれない。お祈りしてるようだからイスラム教徒かと。
【いのうえ理容店】店長はいのうえさんで老人とは思えない軽やかなステップ。壊れて倒れたままの椅子と倒れなくなった椅子を併用して作業を進める。天井の蛍光灯のカバーは落ちてなくなっている。なぜか、美味しいぜんざいを出してくれる(子どもだけ?)。動物由来の道具が多く、動物全般が苦手なさとしにとってはちょっとイヤな感じ。
【馬の腹の皮】床屋にあった。シャープナーのようで剃刀をその上にシャッシャッと滑らせて研いでいた。昔はどこの床屋にもあったが最近は見かけない。いのうえ理容店はいまだに使っている。革のようだとは思っていたけど馬の皮だとは知らなかった。
【沖原直之】整骨院をやってるじいちゃん先生。
【國神社/くにじんじゃ】長い階段をものともせずお年寄りたちが毎日ラジオ体操をしている。
【さとし】主人公の「ぼく」。動物全般が苦手。たねやのノダのおばあちゃんによると草に近いにおいがするらしい。
【ショーさん】古着屋。路上ライブもやってる。みのるの後輩でもあるようだ。
【たねやのノダ】種苗店。商店街でも最も古い店のひとつ。種のために店内は薄暗くなっている。
【ナミさん】雑貨屋。あつしは「ナミばあ」と呼ぶ。かわいがってもらっていたらしい。連れ合いのゲンじいちゃんが亡くなって気落ちしていた。「だまされたらいかんぞ」が口ぐせらしい。
【べにや】奉還町のレディースファッションの店。店の前に立っているおっちゃんが怖い。ズラッとマネキンが並んでいる。おっちゃんの名前は「紅滝鉄男/こうだき・てつお」。「風のころあいを見はからって、飛ぶ」p.38
【満州むすめ】みつさんが歌っていた歌。ぼくの友人もよく歌ってました。「わ~たし十六満州むすめ は~るよさ~んがつ雪解けの~」
【みつさん】たねやのノダのおばあちゃんのお母さん。コーデリアスコート三〇七号室で暮らしている。毎日曜日は決まって散歩するがなんせお年寄りなんで一人ではあぶない。お嬢さまっぽい丁寧な言葉でしゃべる。《みつさんは、不思議世界と、ふつう世界を、気まぐれに行き来しているみたいだ。》p.102。《みつさんが生きている場所とぼくの場所がおんなじだなんて、とても思えない。》p.104
【みのる】あつしの兄。神戸で働いているらしい。職を転々として今はブライダルアドバイザーなんだとか。最終章の仮想結婚式を企画した。
【ミツマメ】みつさんちの小犬。
【野犬】國神社の裏道あたりには野犬がいて恐ろしい。
【ラブだねぇ~】《年寄りの心の中って、がらーんとしてて干からびてるのかと思ってたけど、しわしわの皮ふのあいだに、ラブラブが、まだ残ってるんだな。》p.137
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図書館においてあって、装丁の雰囲気からただ何となく借りたが面白かった。
田舎、味のある商店街、年寄りの空気感がとても良く伝わってくる物語。
文体がとても優しいので、都会暮らしに疲れた方におすすめです。
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岡山県にある奉還町商店街、そこで商売をする年寄りと子どもたちとの交流の物語。山口県から引っ越してきた"さとし"と、商店街のまんじゅう屋の息子"あつし"が、年齢のわりには元気なおじいさん、おばあさんのさまざまな手伝いをしていく。ほんわかした作品だった。
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山口から岡山に引っ越してたさとしが、学校で友だちになったあつしを通じ、奉還町商店街のクセはさ良いが温かい人たちと交流していく様子が描かれた児童書。
さとしやあつしと大人、特に、おじいちゃん、おばあちゃんたちとのやり取りに、クスっと笑ったり、心がふっと温かくなるのを感じたりする話が多く、期待していた以上に面白かった。
個人的には、特に次の二つの章がよかった。
・亡くなったご主人との思い出の明太子を買うために、わざわざ博多まで出かけるナミばあに、さとしとあつしが同行し、初めは面倒だと思いつつも、ナミばあを思いやる二人の様子を描いた"ナミばあ、いく"。
・認知症ながら昔の満州での記憶はあるみつさんが、中国人が営むカフェで、"まんとう"を食べ、意識が満州時代に飛んで中国語で感想を話すエピソードを描いた、"ツァイツェン"。
奉還町は昔、同級生が住んでいた地域で、そのタイトルに惹かれて読んだが、その地名の由来(大政奉還のときに、大名が武士たちが新たな仕事を始められるように奉還金を配ったことでできた商店街だから)は初めて知った。
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「山口から岡山に引っ越してきたぼくは、奉還町商店街のまんじゅう屋の息子、あつしと仲良くなった。奉還町は、大政奉還で配られた奉還金をもとに、武士が商売を始めたという歴史のある町だ。そこには、毎日金髪のマネキンたちといっしょにおっかない顔で店の前につったってる「レディースファッションべにや」のおっちゃんや、店であつかうすべての種を育てて観察し、記録をつけている「たねやのノダ」のおばあちゃん、若い懲りミュージシャンを夢見ていた「沖原整骨院」のじいちゃん先生など、個性的な人だらけで……。
子どもたちの目をとおして、お年寄りや彼らの人生を温かく描いた児童文学作品。」
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岡山県人のこころの故郷的な商店街、奉還町商店街が舞台の児童文学である。岡山駅の裏玄関、西口を出ると奉還町商店街がある。地元の人しか歩いてはないけど、県人ならば美味いラーメンやお好み焼きを求めて、学生の頃一度は訪れたはずである。古いとは思っていたけど、その始まりは「奉還」つまり大政奉還時まで遡るとは知らなかった。
たくさんのお店が登場するけど、名前もキャラも作者の創作には違いない。古いたね屋さんは岡山後楽園近くにはあっても、此処にはない。現代に生き残りを模索する、古い商店街(お年寄りが多く登場)のあれやこれが描かれる。主人公は、福岡からの転校生さとしくんと、新参のまんじゅう屋さんのあつしくん。著者も山口から岡山に移り住んだノートルダム清心女子大学教授だから、さとしくんの目線で奉還町の行末を見守っている。
村中さんは坪田譲治文学賞受賞者だ。坪田譲治は、奉還町のちょっと側に住んでいた有名な児童文学者であるけど、その風土があるせいか、さとしくんとあつしくんは、なんとなく少年として生き生きとしている。もう一つ、実在の場所も出てくる。理容店のおじちゃんがやっているラジオ体操の会場を國神社に設定しているのだ。実際には、商店街からかなり離れたところにあるし、文中言及しているけど、かなり急で長い階段があるので、ちょっと無理な設定なのでは?と訝しがったのではある。実は此処は、戦中永井荷風が疎開中に何度か登り、灰燼に帰した岡山市街を眺めた場所なので、いつかは登らなくては、と思っているところだ。本の中に溶け込む、石川えりこさんの絵、絵本じゃなくて、小説でもない。児童文学をつくっている。こんな本を久しぶりに紐解いた気がする。
最後は、あつしくんお兄さんの企画で、おじいちゃんおばあちゃん主役の商店街「擬似」結婚式が開かれた。沢山の人がやって来る。今や明治以来の老舗店舗のおっちゃんだけじゃなく、あつしくん家のような新参者、外国向け店舗や外国人労働者、学生仕立てのウエディングドレス、若者の音響、山岳救助隊の演奏、小学生の合唱、正に雑多な地元の人々が集まってゆく。実際彼らが奉還町商店街を担っている。いろんな想いを乗せて、奉還町商店街、ずっと続いて欲しい。
借買無 乱読さんのレビューで本書に気がついた。感謝。
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奉還町商店街の人たちの、いろんなお話。さとし目線の、サラッと読める優しい文章。
ところどころカラーのページがあって、幼年童話みたいで読みやすい。