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クッツェーの短編集。3つの短編を収録。文章が端正で無駄がなくて心地良い。相変わらず上手いなあと思う。
スペインの家、家を恋人に見立ててカタルーニャ地方への移住を語る。訳者のくぼたさんによれば、クッツェー自身のオーストラリア移住と重ね合わされているよう。
ニートフェルローレン、古き良き南アフリカの農村が失われてしまったという思いが強く出ている作品。もちろん直接的ではないのだけれど、その思いは隠しきれない。南アフリカは世界で最も治安の悪い国になってしまっていて、作者の悲しみも頷ける。
彼とその従者、ノーベル賞受賞記念公演。3つの中では最も詩的でわかりにくい。デフォーもしくはロビンソン・クルーソーに重ねて自分自身の体験を投影している。無人島を経て国に帰ることによる違和感、イギリスに移住したときの差別体験がベースになっている様子。二艘の船で船出したところで終わるので前向きな小説なのかもしれない
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スペイン語で書かれているらしい、15年もアメリカで暮らしたのに? 昔に有った麦畑、アパルトヘイトで住んでいた場所も確かに追いやられ人たちもいる。 それは致し方無い、彼の文章はすべてのどうしようも無い事を 嘲笑う様に軽やか。彼は南アフリカで生まれたのだ。
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表紙はクッツェーの文字(J.M.Coetzee)でできたクッツェーの顔。カッコいい。
三つの短編が入っている。
開いたら、余白の多いこと!これで1500円、白水社uブックスだから安さは期待してないけど、これで1500円は高いんじゃないか、さすがに、と思った。
しかし読み終わったら、1500円は妥当な値段であると納得した。
小説は、はじめの2つはそんなにすごいとは思わなかったのだが、最後の「彼とその従者」はとても良かった。この作品はノーベル文学賞講演だそうで、これ、耳で聴いても面白いとは思うが、やっぱり読んで、読み返して反芻してこそ味わえる作品なので、本になって良かったと思う。
できればもとの本のように布張りハードカバーで箔押ししてある小振りな本として手にいれたかった気もするが、そうしたら倍以上の値段になるだろうし、それが売れるかというと、現実的ではないかなと思う。
そしてお値段納得の最大の理由は、訳者くぼたさんの解説が素晴らしいということ。
三つともすごく難しい話ではないのだが、くぼたさんの解説でより深い部分が理解できた。そんなにすごいとは思わなかったはじめの2つに対しても、改めて読み直す気持ちになった。これは、自力では不可能だった。素晴らしい外国文学は、素晴らしい翻訳者いてこそ。本当にありがたい。
今年出る新作も楽しみ。
いい本だった。
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短編だけど、著者の背景がわからないと、哲学的で難しい。スペインの家は、古い別荘に対する思いが伝わってきた。
ニートフェルローレンは南アの歴史を思い起こさせた。
草も生えない丸いスペースは、先祖代々穀物の収穫に使われていた。
悲しい歴史。
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ノーベル文学賞作家の短編二編と講演を収録した作品集。
著者のJ・M・クッツェーさんは南アフリカ出身の作家。収録されている作品はストーリーを楽しむというよりも、説明されていない部分を自分で補いながら、各作品の思索的な文章を味わうように読んでいくのが、いい読み方なのかな、と個人的には思います。
ストーリーや語り口にあまり起伏がなく(特に表題作『スペインの家』なんて、語り手が家を修理しながら、あれこれと考えをめぐらすだけの話!)ぼーっと読んでいると、何も感じることのないまま、読み終えてしまいそうになりました。
でも少し集中して読むと、文中の思索が、奔放にそして豊かに広がっていくのを感じる。
たぶん傍から家を直しているこの小説の語り手を見たら、こんないろいろな、ある意味では突拍子もないことを考えてるなんて、人は気づかないだろうな、と思います。自分も単純作業をしているときなんて、思考があらぬ方向に行くし……
そうした人間の内なるとめどない思考を言葉にして、リズムよく描いているのが、この『スペインの家』のすごいところなのかと思います。
二編目の『ニートフェルローレン』は、日本人ではなかなか描き切れない作品なのではないかと思います。ちょうどこの間、南アフリカの大統領のネルソン・マンデラの評伝を読んだ直後だったのもよかったかもしれない。
植民地支配や人種差別政策「アパルトヘイト」を乗り越えたはずの南アフリカの別の一面を、個人の感情から描き切られた作品だったと感じました。
改革や自由といった理想と現実のギャップを、場面や象徴を通して、シニカルに描いた考えさせられる一編です。
作品は総じて静かな語り口と、思索的だったり寓意的だったりするので、理解するのが難しく感じました。
特に最後に収録されているノーベル文学賞受賞記念講演の「彼とその従者」に関しては、自分は「表現はなんだかいいなあ」と思ったのですが、何の話をしているのかは解説を読んで、なんとか想像がつくかどうか、という有様でした……
こういう話をぱっと読み解けると、ものすごく教養のある人になれるんだろうな、と思ったり。そういう意味では訳者のくぼたのぞみさんの翻訳と、最後に収録されている解説も素晴らしかった。
くぼたさんは以前読んだ他の作品の翻訳が作品世界と相まって素晴らしいと感じ、この本もくぼたさんが訳されてるということが、手に取ったきっかけでした。
くぼたさんでなければ、この三編の世界観や語り口はなかったような気もするし、理解も深まらなかった気がします。
3編ともthe・海外文学といった感じの作品でした。内容とは関係ないですが、いずれこういう作品も味わい深くたのしんでいけるといいな、と読み終えて思いました。