投稿元:
レビューを見る
日本近現代文学に特化した、卒業論文執筆のマニュアル本。
芥川龍之介「あばばばば」を対象とした卒業論文執筆のプロセスを追体験しながら、心構え、スケジュール管理、問いの設定、先行研究の収集、調査、文章構成、などについて学ぶことができる。
平易な言葉を用い、です、ます調で書かれているのでとても読みやすい。
先行研究に対する意識など、ためになる部分も多かった。本格的に卒業論文を書き始める時期になったら、もう一度読み直そうと思う。
本文引用
p60
同時代評を探す際には、ゆまに書房から出版されている『文藝時評大系』(ゆまに書房、2005〜2010,4)を活用しましょう。明治から昭和までの文芸時評が網羅されており、これに勝るデータベースは存在しません。
p61
批判(critique)とは、どんなに正しいと思えることでも、本当に正しいと言えるのかと疑ってみて、その結果、疑うことのできないことに行き着いたら、それは正しいと認めようとする態度のことです。
p62
先行研究を精読し、批判的検討を行い、史的展開やその論文の研究史における重要性だけでなく、自分の研究との関連性を整理する。言い換えるならば、それは自分の卒論のための「先行研究史」をまとめる作業です。
p75
作者だって、自分の作品の理想の読者にはなれません。解説できないようなこと、既成の何かの枠組の中では書けないようなことを小説にして書いているわけだから、作者が自分の作品の解説をしようとしたって(略)立場は批評家とあまり変わりません。せっかく、既成の何かを小説に転換してしまっているのに、解説するとなると、もとの既成の枠の中の立場にもどってしまってる。(筒井康隆『文学部唯野教授』1990)
p85
田山花袋「少女病」には「をりからの博覧会で電車は殆ど満員」という記述があります。吉見俊哉『博覧会の政治学』(1992)には、近代日本における博覧会の開催、百貨店の誕生が、まなざしの発生、見ることの消費を促したと指摘されています。また川崎賢子『宝塚』(1999)には、そうした視線か、対象を支配し性的な存在に変えるイメージの消費につながることが指摘されています。
p93
先行研究は余裕のあるときに再読しましょう。読み手が変われば、論文からくみ取れる内容も変わってきます。多くの学生は、四月と十月では、異なる解像度で先行研究の内容を捉えられます。
さらに、先行研究を再読する際には、簡単な構造分析を試みてみましょう。どのような論理で論述を進めているか、骨組みを考えてみるということです。
p101中間報告会などでの発表資料
最低限、問いとまとめ(暫定的な結論)は、資料をパッと眺めただけでと、どこに書いてあるのかくらいはわかるように工夫するべきです。
p107物語の年譜をつくってみよう
では、まず、物語全体を整理し、物語の骨格を考察してみましょう。
→年譜を作成して、物語の時間の流れや場面転換を整理する。
p164
わかりやすい一文とは四十字くらいまで、と言われています。
p171
論文の中で同じ言��方を避けたいと思った場合、あるいはもっと適切な言葉はないかを探したいという場合、「類語辞典」を使うことをお勧めします。検索サイトの窓で、ある単語+スペース+類語、で調べるのがもっとも簡単です。例えば「Weblio辞書類語辞典」で「主張する」を見ると「唱える」「意見を述べる」といった言葉がヒットします。
p173
本文ばかりでなく、先行研究や参考文献といった二次資料においてもそうですが、引用の際には引用元と自分の原稿の引用と照らし合わせ、正確な引用になっているか、必ずチェックを行いましょう。
p176引用に語らせていないか
引用をする場合、その前後に、なぜその箇所を引用するか、引用した箇所を卒論の筆者はどのように捉えているか、そうしたことを明示するよう心がけてください。極端なことを言うと、引用部分を飛ばし読みしても卒論の論旨が捉えられるくらいに、引用部分からキーワードを再度引きつつ、自分の言葉、見解を書き込むべきです。
p178自分の考察を世界に向けて価値づける
例えば、その作品全体の評価に、どう関わるかを記すということです。「今までこう読まれていたが、実はこうした側面があった。ゆえにこの作品の評価もまた変わる」といった具合です。
先行研究がまったくないような作品でしたら「これまで注目されてこなかった作品だが、以上の考察からわかるように、実は極めて問題提起的な作品であったのだ」など、その作品の重要性や、その作品から考察したことの意義までも言及してほしいところです。
p194
ある作品がどのように読まれているか、読みがどのように変化していくか、そうした流れを追究することで、当時の作品観のみならず、作者のイメージ形成や、文壇の状況、その時代に特有の価値観が明らかにされます。あるいは現在の私たちが当たり前に抱いている発想や価値観がどこで生まれたのかということも、同時代評の研究をすることで浮き彫りになることがあります。
p196
直筆原稿が写真版なども含めて閲覧できるかどうかは『近代文学草稿・原稿研究事典』(八木書店、2015)を参照してください。
p203卒論を極限まで簡潔にしてみよう
卒論の内容をいったん解体し、再構築して説明することになります。大事なことは、そのふり返りのプロセスを通じて、自分の卒論の物足りないところや、修正するべき点も見えてくることです。
p203
学会誌をひらくことも効果的です。『日本近代文学』や『昭和文学研究』といった大きな学会の研究誌の最新号には、いかなる特集が組まれ、どのような論文が掲載されているでしょうか。目次、タイトル、キーワード、要旨だけでもよいので、読んでみましょう。
p205
最後に、お世話になった先行研究の再読もお勧めします。まがりなりにも卒論(の草稿)を書いた後には、先行研究は違う形で見えてきます。早い段階であっさりと批判して顧みなかった論の中に、この一行を書くためにはどれほどの調査や考察が必要だったか……といった背景がうかがえるかもしれません。
p235
谷崎潤一郎は自著の装幀に凝った作家として知られています。その谷崎が「装幀漫談」(『読売新聞』1933.6.16)で「私は自分の作品を単��本の形にして出した時に始めてほんたうの自分のもの、真に「創作」が出来上がつたと云ふ気がする。単に内容のみならず形式と体裁、たとへば装幀、本文の紙質、活字乃組み方等、すべてが渾然と融合してひとつの作品を成すのだと考へてゐる」と述べています。