紙の本
「歴史学からみて ナチスに評価できる点はあるか?」帯より。
2024/03/08 23:37
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投稿者:やまだち - この投稿者のレビュー一覧を見る
2024年紀伊國屋じんぶん大賞第1位になった話題の書ということで手に取りました。
ネタバレがあります。
コンテンツは以下の通りです。
1.はじめに
2.第一章 ナチズムとは?
3.第二章 ヒトラーはいかにして権力を握ったのか?
4.第三章 ドイツ人は熱狂的にナチ体制を支持していたのか?
5.第四章 経済回復はナチスのおかげ?
6.第五章 ナチスは労働者の味方だったのか?
7.第六章 手厚い家族支援?
8.第七章 先進的な環境保護者政策?
9.第八章 健康帝国ナチス?
10.おわりに
11.ブックガイド
「『ナチスは良いこともした』などという主張がいかに不正確で一画的であるかがよく理解できる」、ナチズム研究の入門書です。
ナチスが行ったとされる「良いこと」の事例を取り上げひとつひとつ検証し、「これは正しくない」と間違いを指摘しています。このような本が出ること自体、残念な世の中になっているのだと悲観的になりました。
そしてなぜ「ナチスは良いこともした」という主張がなされるのか。そんな根本的なことにも言及していて興味深かったです。
「おわりに」にこんな一文があります。
P.112「『反ポリコレ』の欲求に呑み込まれた者を説得するのは無理だとしても、しっかりとした知識をもつ第三者の数を増やしていけば、それは歴史修正主義的な風潮に対する社会の免疫を強化することにつながるだろう。」と。
悲しいかな、これだけ説明を尽くしても理解されない現実と、それでも研究者としての使命を果たさんとした思いが読み取れました。
「はじめに」で述べている「トンネル視線」に陥ってはいないか。そう自分に問いかけ、多角的な視点の大切さを痛感した一冊でした。
紙の本
歴史の連なりから事項を評価する
2023/12/27 17:21
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投稿者:BB - この投稿者のレビュー一覧を見る
最近、「ナチスも良いことをした」「悪い面だけでなく良い面も見るべきだ」といった言説が近年、SNSや本、ネット上に散見される。
一見、妥当に思えるこうした主張は、本当にそうなのだろうか?
本書は二人のドイツ史研究者が、経済、労働、家族支援、環境保護などなど各論と総論で、ナチスの政策を丁寧に解説し、そうした言説を否定していく。
「両面を見る」「良いところは評価する」といった視点は、気をつけなければ、もう一方の悪い面(ナチスの場合は数あるが、ホロコーストなど加害の側面)を見落としてしまうことにもつながる。
過去の犯罪に目を背ける歴史修正にもつながりかねない。
「良いこと」とされる事柄を表面で捉えるのではなく、その目的や文脈を踏まえて評価しなければ、過去に目をつぶることになりますよ、ということを訴えた本だと思った。
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メモ→ https://x.com/nobushiromasaki/status/1691377153252950017?s=46&t=z75bb9jRqQkzTbvnO6hSdw
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施策はオリジナルではないし、戦争目的や人種差別的な意図で実施され、結局戦争で徹底しきれなかったからダメ、みたいな
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巷にはナチスやヒトラーを擁護・支持し、他の戦争犯罪や政治的弾圧・暴力を相対化せんとする主張がかなり蔓延っている。本書ではそのような主張を妄言と即座に否定せず、ナチズムやナチ体制下の各種政策について一つずつ検証を行っている。
本書にて何より興味深い箇所は、「はじめに」で述べられる歴史学における姿勢--<事実><解釈><意見>の三層に分けて検討することである。筆者によると歴史学では<事実>レヴェルで片付けられる問題は少なく、2番目の<解釈>の層が最重要であるという。たとえ<事実>としては素晴らしく映る事象でも、歴史研究が積み重ねてきた厖大な知見=<解釈>を経て<意見>に辿り着かなければ、全体像や文脈が見えぬまま誤った判断を下すおそれがある。この歴史的事実を扱う際の姿勢はどのような問題においても当て嵌まるであろうし、今後も決して忘れるべきではないだろう。本書はナチス/ヒトラー研究の分野としても歴史学の分野としても適切な入門書と言える。
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簡素なナチ・ドイツの入門書。
100ページちょっとで終わるのはありがたい。
まず目次から。
第一章 ナチズムとは?
第二章 ヒトラーはいかにして権力を握ったのか?
第三章 ドイツ人は熱狂的にナチ体制を支持していたのか?
第四章 経済回復はナチスのおかげ?
第五章 ナチスは労働者の味方だったのか?
第六章 手厚い家族支援?
第七章 先進的な環境保護政策?
第八章 健康帝国ナチス?
パッと読んで感じるのは、文章はそれなりに難しいこと。
第一章のナチスを国民社会主義と呼ぶ理由の下りは、
慣れてれば問題ないが読書初心者には難しそう。
他方、「はじめに」が非常に読みやすくまとまっているので、ここで読者が脱落しないのは好印象。
100ページの範囲にナチ関連の入門書をきれいに落とし込んでいるのは非常に有意義な試み。
第四章の経済周り、「ナチスが経済回復させた」という話はネット上で未だに根強いし、
第五章のフォルクスワーゲンやアウトバーンのお話も定番だ。
しかし、今までこうしたナチスの噂の裏を取ろうとすると入門書を通読する必要があり、多少手間がかかった。
本書ではこの辺の情報へのアクセスが楽になっていて、
自分が調べるのはもちろん、他人に勧めやすいのも大きな利点。
第一章が気持ち難しいぐらいで、他の章は割合くだけた文章なのも好印象。
もし読書初心者が読むなら章のはじめ、
つまり「世間ではこう言われている」の所は読み飛ばすのも手。
おそらくみなが気になっているのはその次、
「本当はどうだろうか」の部分だからだ。
この部分は実にワクワクさせられる読書体験だった。
巻末にはブックガイドもあり、この本でナチ研究に興味を持った人は続けて石田勇治、ウルリヒ・ヘルベルト、リチャード・ベッセル等の定番入門書まで手を伸ばしてもいいだろう。
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私たちが学ぶ対象としての「歴史」が、研究者たちの手によってどのように構築されてきたのか、それを知る入門書として最適の本。ナチスがやった「良いこと」とされる施策の裏にある民族共同体や反ユダヤの思想、施策がもらたした真の結果など、事実に対する「解釈」の重要性と、それをすっ飛ばした「意見」の危険性を十分に理解できる。高校の「歴史総合」の副読本として、たっぷりと時間をかけて精読すべきだと思う。
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「ナチスは良いこともした」という逆張り その根底にある二つの欲求
朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASQ5S4HFPQ5SUPQJ001.html
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悪者だが良いこともしたという論は世の中にありふれているが、そんな中でも際立つのがナチスは良いこともしたという主張だと思う。そうした主張が正しくないということを確かめるために本書を読んだ。ナチスの政策は欺瞞に満ち、歪んだ価値観に基づくものであり、結局のところ一切擁護することなど到底できないことが改めてわかった。
筆者は本書の冒頭で、歴史的思考力「〈事実〉〈解釈〉〈意見〉」の三層構造の重要性を説き、事実から意見へ飛躍する危険性を指摘した。意見を持つ前に解釈を押さえるべきであるという筆者の主張はとても印象に残っている。本書はそうした筆者の主張を前提に、各章においてナチスの行った政策の事実とそれに対する解釈を紹介することで、ナチスは良いこともしたという主張がいかに誤りであるか指摘していくため、非常にわかりやすかった。
また、環境保護政策について論じている第7章の最後に提示された「戦争は「究極の自然破壊」にほかならない」から始まる記述は、筆者が、第2章からナチスの政策を多方向から検討していたことを振り返るとなかなか面白い箇所だった。ナチスは良いこともしたという飛躍した意見に筆者がとどめを刺しに行ったと感じた。
最後に、筆者は本書の中で現在を意識して執筆したと語っている。ナチスのしたことを、ただ過去にあった悪い出来事として捉えるのではなく、その延長線上に現在があるということを意識しておかなければならないと思った。本書で学んだことを、今現在の多々ある政治的な問題を考える時に振り返ることができたらいいと思う。
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日本人の多くはこの本を「ナチスのポリコレ」としか感じないだろう。
日本人の大半は「国のためにならない人は、国の受益者になるべきではない」と考えてる/諦めてる/それ以外があるとは思ってない/愛する自民党と同じスタンスのなので何を批判してるのか理解できないだろう。
その上で何が「国のため」なのかを政府に白紙委任してるので、ナチスの政策は許容するべきものです。
つまり、ナチスの政策への批判は、自らへの批判になるため、正面からは受け止めることはできない。
悲しいですが。
多分、読んだ後でも、シレっと「戦争に負けたのが/ユダヤ人を殺しすぎたのが悪かったんだね」と言うでしょう。
この本を読んで、自民党は、思った以上にナチスに学んだんだなぁと思いました。
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面白い。文章も理路整然としていて読みやすい。
全体を通して、数あるナチスの政策は、民族共同体という構築と戦争をするための国づくりが前提だった、というところに終始されていたと思う。価値あるドイツ民族/不要なユダヤ人や障害者と分断させ、後者は容赦なく切り捨てる有様に身震いした。「良いこと」とされている政策も、そういった切り捨てられた存在の犠牲によって成り立っていた(結局満足した成果は上がらなかったが)という話がおぞましい。一見革新的に見える政策も、プロパガンダ的なアピールばかりで実態を用していないあたり、現代日本政治を考える上でも必要な見識だと思った。
歴史を学ぶということについて、冒頭に述べられているのが史学科出身としては参考になり、高校生ぐらいの学生にも読んでほしい本だなって思った。
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小さな政党からのし上がっていくところや、前任からの引き継ぎでやった政策をいかにも自分たちのオリジナルでやったよう言うとか、成果もたいしたことがないのに、詭弁で成果があるように見せかけたりだとか、ほんま「維新」にそっくり。いやいやいや、維新がナチスにそっくりか。いまもとんでもないことを大阪で繰り広げてるけど、後年にどんな評価されるんやろうと思うわ。で、このブクレットは多くの人が読むべき。ナチスには三分の理もない。
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最新の研究成果と併せてナチの本質を理解できる入門書にして啓蒙書。ナチを「国民社会主義」と「民族共同体」の観点で理解するのがが現代の定説。
また、歴史問題を〈事実〉〈解釈〉〈意見〉の三層に分けて考察するプロセスは重要な指摘である。
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あたり前と思われていることを、本当にそうなのかと適宜見直すことはとても大事。ただしあたり前を旧弊、悪いこととして短絡的に考えるのはよろしくない。そんな当たり前のことをあらためて考えさせてくれる良企画。
もちろん内容もわかりやすく整理され、決して結論ありきにらしておらず、腹落ちよし。
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感想
ナチスは何をしたのか。どう位置づけられるか。何を考えるか。歴史とは物語である前に事実の列挙である。忘れず謙虚に立ち向かいたい。