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2023年刊。
来年私自身が開催する作曲個展コンサートをオンラインでリアルタイム配信するかどうかを考えあぐねていて、その点で何か参考になるかと思い、本書を手に取った。
本書は2020年のコロナ禍において、三輪真弘さんの個展コンサートを完全無観客、一度きりのリアルタイム配信という形で実施した、そのことの、芸術作品の配信ならぬ配信という芸術としての価値を巡って論考が寄せられている。ほとんどは関係者の論考と思われる。
一度きりの配信はモノ性から脱して、幽霊的な、名指し得ない何物かとしてネットを漂う。その辺が音楽史的に画期的な新しさなのだと、本書の論者たちは言う。しかし、彼らがいかに神話めかして語ろうとも、その配信そのものを視聴していない私たちには、それをどうにも判断できないのである。
本書に登場する論者たちは国際的レベルの哲学者等でもなく、その論理はしばしば怪しげだし、ことさらに神秘めかしているのもうさんくさい。本人は大真面目に、熱く語っているのだけれども。
画期的だとかなんとか当事者たちがいかに情熱的に語ろうとも、20世紀以降はその事象が「複製」されない限りは、多くの人が享受することはできないのだ。
せめて当の配信について、全くの部外者からの声を集めてくれていたら、幾らか信用できたのだが。