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ナチズムの芸術と美学を考える 偶像破壊を超えて みんなのレビュー
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紙の本
「ヒトラーの馬を奪還せよ」レビューを書いていて気になったことへの回答
2023/12/12 09:39
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投稿者:kapa - この投稿者のレビュー一覧を見る
国の所有となった総統官邸の馬のブロンズ像「駆ける馬」は公開予定となっていた。事実ネットでしらべたところ、美術館で公開されている。ドイツでは第三帝国時代の美術品も公開できるようになったのか?ヒトラーの風景画とか「大ドイツ芸術展」絵画は美術館の奥深くに退蔵されているのではなかったのか?
「ナチ美術」は芸術ではないというのが大方の見方であり、そこにはナチス伴奏者となった芸術家をナチ犯罪共犯者と倫理的に非難する傾向も強い。それを展示することが迫害された多くの人々を傷つけ侮蔑することになるかもしれない、という配慮と恐れにあるだろう。
著者は、「血と土」イデオロギーばかりが強調され、「後退的」「前近代的」というイメージが影響し、ナチズム芸術v.退廃芸術=モダニズムという二項対立図式は戦後政治の言説によって強く規定されてきたのではないか、と問い、イデオロギーからのみ語ろうとする単純化された議論を超えて、ナチズムの芸術表象について踏み込んで分析し、ナチズム芸術の多層性と同時代性、さらには現代性を明らかにし、脱神話化をしようとする。
第一章は、ナチズム芸術を理解するうえで前提であり、障害となった二項対立図式の政治的背景をエミール・ノルデ(1867-1956)を素材に論じる。表現主義画家ノルデは「退廃芸術」とされたが、後に撤回された。表現主義はドイツで生まれた芸術運動であり、ナチス内部でも美学的にノルデをドイツ的と評価する声もあった。しかし戦後彼の反ユダヤ的発言も明らかになる。冷戦下の東西対立を背景に、美術分野の西側の方針は、モダニズム美術の規範化であり、東側のわかりやすい具象的リアリズムに対抗して、「抽象」を旗印に掲げることであった(音楽での同様の動きはジョン・マウチェリ 著『二十世紀のクラシック音楽を取り戻す』白水社)。ノルデ-表現主義=「良きドイツ」v.ナチズム美術=「悪いドイツ」という断絶によりナチズムから切り離されたノルデは、西側価値観の象徴となって、抽象v.具象、自由主義v.全体主義二項対立によって深められる。
第二章「戦争絵画」は、米英戦争画と比較し、その同時代性を明らかにする。多くは戦場の何気ない風景や兵士の日常を描いたもので、格別に「ナチ的」特徴は示されていない。「男らしさ」の強調、「死」の描写はみられるものの、それは戦争画の一般的な傾向であり、他国でも同様である。一部の「ナチ的」作品が強調されてステレオタイプ的な見方をされている、と指摘する
第三章はナチズム建築の創始者パウル・トローストでナチズム建築を論じる。ナチス建築というと、「ゲルマニア計画」のようなメガロマニアックな建築という印象論で片付けられるが、内装ではモダンな「豪華客船スタイル」が引用されている。ナチ建築ではモダニズムは保守主義で抑制されてはいるものの、大衆的なブルジョワ的虚栄が表現された保守的なモダニズム「現代性」があることを明らかにしている。また別の日本人研究家によると、ゴシック・バロック・新古典等様々な建築様式の勃興がナチス期に折衷した形で決着させたという「多層性」も見出せる。
後半二つの章はナチス芸術の美学思想の考察。ヒトラーは、未来のナチ芸術鑑賞者が現在と同じ印象を持つようにするため、未来の鑑賞者の身体管理として人種的遺伝的形質を守る必要があると考えていたという。シュペーアのは廃墟美学に反映され、また「民族共同体」と芸術をつなぐ思想として興味深い。最終章はナチズムの「政治の美学化」を「崇高」概念から考察。「崇高」概念の変遷により「民族共同体」理念に行き着くところがナチ芸術の複雑なところか。
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