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ナチ親衛隊〈SS〉 「政治的エリート」たちの歴史と犯罪 みんなのレビュー
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紙の本
突撃隊SAよりは書くことが多いSS親衛隊の概説書
2024/04/28 15:04
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投稿者:kapa - この投稿者のレビュー一覧を見る
ヒトラーの単なる身辺護衛のための小さな組織にすぎなかったが、ナチ政権発足後、党や全国の警察組織を支配下におさめ、強制収容所による敵対勢力の弾圧。第2次世界大戦後は東部占領地域でのアインザッツ・グルッペ行動部隊、アウシュヴィッツなどの絶滅収容所によるユダヤ人の大量殺戮を主導、80万人の巨大な軍事組織・武装親衛隊もあったいわば第三帝国内の「第二の国家」SS親衛隊の通史である。ドイツのいわば入門編新書シリーズの一冊のようだが、これまでの研究書など二次文献に依拠して要領よくまとめている。これまでヒトラーの伝記、第三帝国通史のなかで、重要なアクターとして登場する存在であったが、本書では反転させて親衛隊を通してヒトラー伝・第三帝国通史を見るような構成となっている。とくに、草創期からの主要人物が多く紹介されており、さながら親衛隊人名録の性格を併せ持っている。
すでに親衛隊に関する多くの研究書がある現在本書が新たな発見とか新解釈を提示しているわけではない。トンデモ本に記載されるようなことについては、きちんとした情報を示している。そしていくつか本書各所では、例えば次のような先行研究からのキーワードを引用しつつ、現在の研究の蓄積との関係を示す記述を目にすることが多い。
「ダイナミックな集団力学の横溢」(スヴェン・ライヒャルト)「非現実的な妄想と合理的な支配術の二重性」(ヨアヒム・フェスト)「大権国家」(エルンスト・フレンケル)「根絶を目指す反ユダヤ主義」(ゴールドハーゲン)「重要なナチ裁判として最後」(ハインリッヒ・ヴェーフィング)「沈黙のコミュニケーション」(ヘルマン・リュッベ)…
二次文献関連情報は註で示されるが、紙幅の都合からかややおざなりの内容。しかも引用された研究者の著作が参考文献に掲載されていないものもあり、やや不親切。著者の公的機関の教育関連の経歴から推測されるのだが、教育/啓蒙普及的なパンフレット、という内容の感は否めない。また訳者は、これまでナチス・第三帝国・ヒトラーに関する訳書が多い(『ヒトラーと映画 総統の秘められた情熱』ビル・ニーヴン 著2020 白水社を読んでいた)し、個別の研究論文も発表しているが、今回はあくまで研究の一環として「翻訳」という仕事に徹している。そのためか内容的に、概略的で「薄い」ところがある。最後に現在我が国でこの分野の著作も多く研究の第一人者である芝健介氏の「解題」が用意されており、これも親衛隊の概説書である。訳本の補足として、歴史的な背景を踏まえてどのように読んで理解を深めていくか、を示しており、いわば「二部構成」的なつくりとなっているようだ。
「ヒトラーの馬を奪還せよ」(アルテュール・ブラント 筑摩書房)で登場した「ナチの王女」、「聖女」と呼ばれ、父とナチの支持者であり続け、ナチ戦犯支援団体「静かなる助力」協力者で知られるヒムラーの娘グドルン・ブルヴィッツの話などがあればよかったのだが。
本棚を見たところ、これまでに12冊のナチス・ヒトラー・第三帝国関連の中公新書があった。古くはナチズムの発生と興隆を特異な現象としてではなく、ドイツの保守主義の流れの中に位置づけた村瀬興雄『ナチズム ドイツ保守主義の一系譜154』(1968、改版1993)とか、本書とも関連するナチ・エリートと伝統的保守派の既成エリートとの関係を明らかにした山口定『ナチ・エリート: 第三帝国の権力構造446』(1976)など。戦争・ホロコーストとい鉄板テーマに加え、『ヒトラーと映画』とか『ヒトラーの演説』といった、ユニークなものもある。
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