ミステリは複雑に見えたものが、最後でスッキリするのがいいわけで、複雑なものがそのまま解決っていうのはちょっとね。でも、妙に気取った英語をぽつぽつ使われるよりはいいかな・・・
2011/11/16 20:27
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投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
最近、読み残しにチャレンジ中の北森鴻作品ですが、今回は『闇色のソプラノ』です。まず全体の色合いが紫というのが希少です。で、相変わらず装画の藤田新策の仕事がいいです。藤田の絵は文庫よりは単行本、大きなもののほうがしっくりすることが多いのですが、今回は対象物のせいもあるのか、実にすっきりしています。デザインの石川絢士との組み合わせがよかったのかも。
で、内容です。帯の言葉は
*
その詩に魅せられた
者は不幸になる――
神無き地・遠誉野で戦慄の殺人事件が幕を開ける
驚愕の結末をあなたは見破れるか?
*
カバー後の内容案内は
*
夭折した童話詩人・樹来たか子の
「秋ノ聲」に書かれた〈しゃぼろん、
しゃぼろん〉という不思議な擬音
の正体は? たか子の詩に魅せら
れた女子大生、郷土史家、刑事、
末期癌に冒された男、医師、そし
てたか子の遺児・静弥が神無き地・
遠誉野に集まり、戦慄の事件が幕
を開ける。驚愕の長篇本格ミステ
リー。 解説・西上心太
*
となっています。解説で西上が書いているように、複雑な話で、それを文学的ととるか、不器用ととるかは見解が分かれるところでしょう。ただし、他の作品でも文章はいいのに、分かりにくいものもあるので、北森の場合、短編は概して鮮やかな切れ口をみせ、長編は凝らした技巧が理解の足を引っ張る、といっていいでしょう。多分、ご当人はこんなにスッキリさせているのに、と思っているのではないか、そんな気がします。
でも、この作品では明らかに複雑さが、興を殺いでいる感が否めません。構造の複雑さもありますが、登場人物の魅力になさというのもマイナス要素です。真夜子、殿村、弓沢、洲内といった好奇心が強くて詮索好き、しかも他人のプライバシーを侵害することになんの後ろめたさも覚えない連中ばかり登場すると、私などは閉口してしまいます。
おまけに、西上心太の解説にも引っかかってしまうのです。私は西上を全く知らず、鮎川哲也賞の予選委員を務めていた、と解説の中で書いていたり、文末にミステリ評論家とあったりするので、それなりの方なのでしょう。へえ、で、どんな著作があるんだろうとは思ったものの、それ以上は調べることもなく解説を読み終えたのですが、442頁から3頁冒頭にかけての文章の中に
・この作品のモデルとなった詩人にもリスペクトが払われている何よりの証拠であると思う。
・お得意の民俗学的なガジェットを以って作り上げ、登場人物たちの〈因果律〉に支配される背景を補強しようと試みている。
・先に挙げた『凶笑面』で全面的にフィーチャーされるので、こちらの作品も一読をお薦めする。
と、全体で9頁の解説文の一頁に、リスペクト、ガジェット、フィーチャー、という最近洋楽のタレントが尊敬するアーティストについて語るときや、外国かぶれした人が偶に使う、聞いているほうが恥ずかしくなるような英語が出てくるわけですが、これがむかつく。何で〈敬意を払う〉〈小物〉〈取りあげられる〉でダメなんでしょう。文庫が出たのが2002年ですから、その頃は流行っていたのかもしれませんが、それから10年経った今でも聞いていて歯が浮くような言葉の域を出ていません。文章を書く人のスタイルというのは確かにありますが、英語は違和感を抱かれないような使い方をしてほしいところ。
ちなみに、北森鴻の文章には、こういう英語は登場しません。ただ、お話の筋が複雑なだけです。安心してお読みください・・・。最後は目次のコピー
『私見 遠誉野市沿革』より
プロローグ
第一章 生キモノノ謡
風景 1
第二章 無関係な死
風景 2
第三章 伝説の交差点
風景 3
第四章 広がる輪と狭まる輪
風景 4
第五章 崩壊
エピローグ
解説 西上心太
民俗学が紡ぐ偶然の必然性。
2010/10/17 02:03
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投稿者:惠。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
北森さんは好きだけれど、トリッキーな北森作品は好きではない。『メビウス・レター』なんてどんでん返しの詰め込みすぎで嫌気がさしたくらいだ。
本書は、北森作品の中でもトリッキーな部類に入るだろう。そしてその「トリッキー」を可能とすべく色々な「偶然」が重なる。偶然に偶然が重なれば必然?!なんて…現実世界ではできるかもしれないけれど、そもそもが紙の上での空想世界。あまりに多用される偶然は、「ご都合主義」と揶揄される。
先にも書いたように本書には様々な偶然が登場する。しかし…不思議なことにその偶然の連続に違和感を覚えない。これぞ北森マジックっ!!!と言いたいところだけれど、その種はとってもシンプル。本書に登場する重要なあるエッセンスが、偶然の不自然性を中和してくれているのだ。
そのエッセンスとは、民俗学である。民俗学といえば、北森作品の代表的シリーズである連丈シリーズが挙げられるが、ノンシリーズでも民俗学的考察を用いたストーリーを度々見かける。もともと、歴史や民俗学といった方面に興味があられたのだろう。
東京都遠誉野市。変遷に関する公的資料が残らないこの市で、何の接点もなさそうな女子大生や刑事、医師、郷土史家らを繋ぐ夭逝した童謡詩人・樹来たか子の魅力。たか子の生前の姿を求める彼らの前に現れたのは、たか子の死に隠された秘密だった…。
著者が作った架空の街・遠誉野。この街の言われが謎に満ちている。そしてその「謎」がまた作品に、不思議な雰囲気をもたらす。こういうぼんやりした「謎」の使い方がとても巧い、と思う。冬狐堂シリーズの骨董品の価値にしても、連丈那智シリーズの民俗学にしても、そこに明確な答えはない。もっとも無理や矛盾のない仮説が「ニアリーイコール」真実、あるいは真価であると判断される。そういう答えがあるようでない、ないようである、非常に不安定な題材やテーマが十二分に生かされている。
入り組んだプロットも詰め込まれた知識も偶然の必然性も哀しい結末も、すごく好き。だから、やっぱりちょっと悲しくって淋しくなった。
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作者が好きで購入。
グルメ話かと思いきや、普通のミステリでびっくりしてみました。
最初から最後までだまされた気がします。
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夭折した童話詩人・樹来たか子の「秋ノ聲」に書かれた「しゃぼろん、しゃぼろん」という不思議な擬音の正体は?たか子の詩に魅せられた女子大生、郷土史家、刑事、末期癌に冒された男、医師、そしてたか子の遺児・静弥が神無き地・遠誉野に集まり、戦慄の事件が幕を開ける。驚愕の長篇本格ミステリー。
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夭折した童謡詩人・樹来たか子の作品を偶然手にした桂城真夜子は卒論のテーマにたか子を選ぶ。資料収集の途中で殿村三味に出会った真夜子は殿村とたか子について語り会っていた。その最中、二人の前に現れた弓沢征吾もまた、たか子に引き寄せられた一人だった。
“秋ノ聲”の中に出てくる「しゃぼろん しゃぼろん」というフレーズの正体を求める為、余命いくばくも無い弓沢は山口へ赴く。そこで彼はたか子の伯父と会い、たか子に関する資料を手にする。その資料を真夜子に手渡したその日の夜、彼は殺害された。
「しゃぼろん しゃぼろん」というフレーズを見た瞬間、コレ以外にありえないッ!と思っていたワリには事件の確信までたどり着かなかった……。
まぁ、この正体の読みは当たってたので、とりあえず満足(笑)
たか子の一件は結構、翻弄される。というかミスリードを推奨、見たいなところはありますね。
奥が深いんだか浅いんだか……余りにも全てが絡みすぎてて、奥深さがぼやけてしまう感じは受ける。
○○を臭いと思い続けていたワタシはきっと素直な読み手ではありませんね。
題材の樹来たか子がどうしても金子みすゞとダブって仕方なかったが、本当にそうだった……。最近妙に金子みすゞ付いてるのだが、これはちゃんと本人の作品に触れろという天啓なのかしら。。。。
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夭折した童謡詩人のなぞ中心に、民俗学、都市伝説等等盛りだくさんの内容。
ラストで、群盲象をなでる的に彼方此方に視点が切り替わって二転三転するあたりは、おもしろくて、一気に読めます。
よく読むと、ややすっきりしないところも残るけど、最後はよくまとめたなという感じ。
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なんか、妙にはまってしまった北森鴻なのであった。
ホント、面白いよ。この調子でいくと、出てるの全部買ってしまいそうだww
夭折した童謡詩人のことを卒業論文にしようとした女子大生。そしてその詩にみせられた郷土史家、末期がんに侵された男、医師、刑事、そして詩人の遺児が、地方都市に集まり事件が始まる。
ものすごいプロット。
全く無駄のない構成で、ぐいぐいとひっぱっていかれてしまいます。最後のほうは、あれはあれで、これはこれで、なんて予想はつくんだけど、結局本当に面白いものは、予想通りであっても面白いんだよね。つか、そうじゃないと本物じゃないと思います。
にしても、あんまり救いのない話ではある。
だけど、へんに暗くないというか、一種の清涼感があるのは北森鴻の特徴なのかもしれない。
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大学生・桂城真夜子は卒論のテーマに夭折した童謡詩人・樹来たか子を選んだ。
男友達のアパートで見つけた同人誌に掲載されていた詩に衝撃をうけたためだ。
しかし西條八十の再来とまで言われたたか子についての資料は驚くほど少ない。
たか子が若くして死んだせいなのか。その死は自殺なのか、他殺なのか。
その細い糸をたどるうち、真夜子のまわりにはたか子によって結ばれた縁が絡みつき始め、やがて新たな殺人が起こる・・・。
これまで北森作品をまとめて読んできましたが、こういうじっくりとひとつの事件について書かれた作品って珍しいかも。
短編集や連作短編のような長編が多かった気がします。
今回、真夜子が調査する過程で非常に多くの偶然が重なります。
それをその土地、遠誉野市という歴史から抹殺されたとされる土地のもつ磁場によるものとされていたのですが、それがイマイチでした。
郷土史研究家・殿村三味に作中で民俗学的なアプローチをさせていますが、その推論にある程度の結論がでていたらまだ納得できたかなぁ。
あと登場人物の誰もが切り札を隠し持っているところもいまいちスッキリとしなかった理由かな。
とはいえ、眩暈がするような緻密なプロットは圧巻です。
特にラストの情景は凄惨。
ほんとに容赦ないなぁ。。。
たか子のモデルが金子みすゞだそうで。
このたび初めて知りましたが、みすゞは結婚後しばらくしてから夫に詩作を禁じられ、病と離婚問題のトラブルによる疲れからか、昭和5年に26歳の若さで命を絶った。と解説にありました。
教育TVの「にほんごであそぼ」に詩がでてきていて、いい詩だなぁ、と思っていたのですが、活躍したのは短い期間だったのですね。
それを知ることができたことも収穫でした。
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非常に複雑なミステリーなので、じっくり読みたい本です。
昨年まだ48歳という若さで亡くなったのが、残念でなりません。
裏京都シリーズに登場する「大悲閣千光寺」は実在のお寺です。北森ファンなら是非一度訪れてみて下さい。
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全体的には暗い雰囲気で伝奇やホラーの匂いが漂うし心理的にもくる。実はこういうものには弱い。基本的に怖がりなので、なかなか先に進めなくなってしまう。(あるいは逆に筋追いでかっとばしてラストまで読んでしまうか。でもそれはもったいない。)
北森氏の長編は狐シリーズにしろこの作品にしろそういうものが多いのがつらいといえばつらい。伏線がきちんと張られているし、読み応えがあるので、言葉を大切に読んでいきたいのだけれども…怖い。
冒頭は一人の青年が登場する。影があり何らかの事情を抱えていそうなのだがはっきりしない。彼が主人公なのかと思えば場面は変わり、基本的には卒論に取り組む女子大生・真夜子を中心に物語は進む。彼女が選んだ卒論のテーマ、夭折した天才詩人・樹来たか子が謎の中心となる。彼女の詩にひきよせられるように、謎に近づいていく者たちに悲劇が訪れる。どこか影のある登場人物たちもいい。
語り手が(つまり視点が)二転三転し、(多少混乱はさせられるが)謎が部分的に解けていき、それが絡み合って遂には意味をなす。その面白さはミステリファンにはこたえられない。 伝奇的な雰囲気を漂わせつつ、骨格はしっかりとした本格推理小説で、その辺りが好感。
ただし、若干気になったのは、いくら伝奇的な雰囲気を盛り上げてそこが不思議な町だと言われても、そう都合よく事件の関係者が十何年後にご近所さんに集まってくるかね…というのが正直なところ。 ついでにいうと、樹来たか子さんの詩が私の心には響いてくれなかったので、事件の吸引力としてはふーんという感じ。そんなに夢中になるほど魅力的かしら…というのは野暮な話だけれど。
最後に明らかになる事実は、実は途中で登場人物の頭数を考えてもしかしたらそうかな…と思ってたんだけど、その後すっかり忘れていたらやっぱりそうだった…という。謎解きとしてはそれほど意味はないんだけど、物語の発端としてそれは必然だったんだな、というところか。(2006-03-07)
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北森の作品は総じてハズレがないと思っていたけど、 はじめてハズれた。 いたずらにプロットが複雑で焦点が定まらない感じ。真相も「は?」という感じ。 奇想とペダンティズム。これが北森作品の魅力だと思うので、 本作はダメだ。
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3
読み終えてから表紙を見てなるほどと思った。良い表紙である。ただ、背表紙にあるような「戦慄の」や「驚愕の」などといった枕詞が似つかわしい作品ではない。謎を引っ張りすぎて読み手に想像の余地・時間を多分に与えすぎ、その結果、どのような結末であれ「思った通り」と思われては驚きようもないだろう。そんな浅はかな予想予測を裏切るような結末が来るのだろうと期待してもいたのだが。妙な煽りがなければ不要な期待感を持つこともなく、結末にも、なるほどそう来たかとすんなり受け入れられたような気もするが、責任の擦り付けだろうか。
民族学的蘊蓄は相変わらず面白い。
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北森作品は多分、数点読んだことがある、はず。
面白いものもあった、はず。
とにかく記憶にない。
メイン・ディッシュは面白かったはずなんだけど。
なんで蓮丈那智シリーズ、やめちゃったんだっけ?
でも、この作品を読んで、なーんとなく思い出したぞ。
(多分)
なんかこの人の作品は、記録を読んでいるみたいなんだった。
フィールドワークをたどっているように、まるで論文を読まされているよう。
今回は女子大生(といってもえらく古い、おばさんのような人なのだ)が、
卒論を書くと言うテーマで進むからなおさら?
とにかく作品に伸びを感じず、ひたすら道を這っているように起伏がなく、
はぁ〜〜疲れたぁ。
ごめんなさい、これはダメだ。
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終盤、事件の謎解きが終わり物語が終わるかと思いきや、予想外の
因縁めいた繋がりがあり、北森氏の作品作りの細やかさに改めて
驚くばかりでした。
北森氏の作品の間に、他の作家の小説を読むと、他の作家のストーリ
展開の荒さがよくわかる。
こんな細かな小説をかける作家が若くして亡くなられたのがなんとも
残念である。
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私、北森氏のファンなんです。
特に異端の民俗学者・蓮丈那智(女性ですよ)と旗師・冬狐堂の。
なので初めてノンシリーズを読んだじゃないかな~もしかして。
本書もそうでしたが、北森氏のすごいところは、なんといっても複雑に絡み合うプロット!
読んでいて先が見えないのよ、ホント。
それと、本書にも民俗学的な部分も織り込まれているし。
あと、ラストの驚愕な真実には、お~~となってしまいました。
過去と現在、それから手記などをうま~くミスデレクションへと導いていたり。
やられた~っていう感じがします(笑)。
ますます北森氏ファンになったことは言うまでもありません。
まだ北森氏作品を読んでいない方には是非おすすめしたい作家です。